127 『婚礼』
『人と蛇の道は、種は違えども、即ち絡み合う尾の如し――、』
朗々と声が響く。
『円環にあらずとも蛇は人とともに歩むべきにて、人もまた蛇と寄り添いゆくべき――、』
俺がいるのは祠の最奥の更に先、あの場にあった白い台に隠された階段を降った果てにあった小さな空間だ。
『如何なるときも難事を乗り越え喜びを分かち合い終生の苦楽をともにあれ――、』
数人が入れば窮屈になるような狭いこの場にあるのは、白い社。ただ、それだけが小部屋のようなこの空間の中心に鎮座している。
『栄えるも衰るも二人より始まり、数多の障害も違いより起こるなれば――、』
現在、この場にいるのは三人。
『最も慎むべきは違いを慈しみ、種を超えた二人の仲と知るべきなり――、』
一人目は、勿論俺自身である。
『さすれば人蛇の垣根を越えて神の恩恵を賜ることとなれんことを――』
二人目は、俺と共にここまでやってた白蛇だ。
『ともに助けあい、互いとそして賜りし子を愛で、一族の繁栄をはかろうとするべし――』
そして三人目は、あの着物を着た白い大蛇である。
『ひと世に一度結びし契りは人も蛇もなく、全ての祖たる大神が授けしものなりて――』
社の前で向き合う俺と白蛇。そして、その間に立って言葉を紡ぎゆく着物蛇。
『さすれば眼前に小さきことありても、それをすて家のため動くと心すべし――』
そして、今更ながら俺と白蛇の格好はまた様変わりしていた。着物蛇曰く、この空間の魔力を用いた、ということらしいが。ここまでの格好とは一変している。
『して、ここに二人の繁栄を願い、契りを結ばんとする姿を認めん――』
俺は紋付の黒の羽織袴に。そして白蛇はこれまでの男装から一転、その名に相応しい白一色の俗に言う白無垢という格好である。ご丁寧に化粧までも施されたその姿を見て、もはや今のこいつを男と見間違うとことはないだろう。
『そなたら男と女の、夫と妻の、人蛇の夫婦の誓いを、永劫輪廻をここにあらわせ――』
まぁ現実逃避がてら、この現状をつらつらと考えていたわけだが、つまるところ、この状況を表すのならば、何よりも相応しい言葉がある。
『――さぁ違いし其の身を一つに重ね、くちづけをもって誓いを見せよ』
眼前の白蛇は瞳を閉じて顔を上げ、俺がそこに触れるのを待っている。
はい、どう見ても結婚式ですよね……!
「いや、だから、どうしてこうなった……?」
『む、どうした? ほら、あまり相手を待たせるでないぞ?』
固まる俺をいぶかしみ、着物蛇がその行為を促がす。
けれど、動くことは出来ない。たとえ目の前の白蛇が美少女であっても、俺の頭に浮かぶのはここ数日会えていない少女達。レイアと依織、二人の姿。
「どうした、早くやれ。僕は、もう覚悟は出来ている」
色気もへったくれもない白蛇の言葉。なのにせがんでいるのは口付けというその矛盾。
白蛇からすれば、実際の内容がどうあれ、ここで『認められた』という証があればいいのだから、もう躊躇は無いんだろう。
そして、こいつを助ける、と決めた俺がするべきなのはそのまま彼女の期待に応えその唇に触れることなんだろう。けれど、そんな行為をしてもいいのだろうか?
「俺は……」
二人のことを好きと言っておきながら、答えを保留にしてるというのに、ここで更に彼女達を裏切るような真似をしていいのか?
……相手から不意打ちにやられたことはあるけれど、あれはノーカンだろう。それに、そのときにしたって、こんな心のこもらない行為じゃなかった。
「白蛇、すまん――」
やっぱり、こんなことはできない。そう、言おうとしたときだ。
「ガハッ!?」
鮮血が舞った。
穢れない純白だったこの場に、真っ赤な色がぶちまけられる。
「ちょっ!?」
『なっ、なんじゃ!?』
この惨劇を為した目の前の少女は、先ほどまでの白無垢が嘘のように、鮮やかな赤色をしている。当然のことながら、眼前にいた俺や傍にいた着物蛇まで含めて真っ赤に血塗れである。
「あ、そういえば、手、放したまんまだったな……」
しばらく繋いでいた手だったけれど、流石にこの式の際には放していた。唐突すぎる展開に気をとられて忘れていたが、白蛇の身体は本来千切れたままなのだ。
こうして想定外な婚礼の儀式は、それ以上に予想外な惨劇で幕を閉じたのだった。
……はい、すいません。
過去最高に遅れました、すいません。
なんというか、色々休日に時間が作れなかったうえに、祝詞の部分とか無駄に変なとこにこだわったりしたせいでこんなことに。
月曜更新とはなんだったのか……?orz
そんなわけで、内容。
祝い事には紅白ですよね?
それでは、今回もお読みいただき、そして見捨てないで頂きありがとうございます。遅れたりはしますが、ネタはあるのでエタルことは無いはずですので、どうか今後も生暖かい目でお付き合いいただけると助かります。
次回こそ月曜当たりに更新したい、ですがどうなるか……。
とりあえず、次回もどうかよろしくお願いいたします。