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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第二話 『まるでアニメのような日常……ただし、下を見なければ』
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010 『勤勉な蜘蛛と怠惰な蛇』

「お帰りなさい、彰さん。勉強、お疲れ様です」


 扉を開けると、依織に出迎えられた。着物のおかげで蜘蛛脚[腰から下]は隠れているのだけど、それでも着物姿の美少女に出迎えられるというだけで非日常的な雰囲気だ。


「あぁ、ただいま依織。けど、出迎えてもらってなんだけど、もしかしてずっと待ってたのか?」


「本当なら、そうしたかったのですが、それだとお家のことができませんので。ですから、彰さんが帰ってくるのに合わせてお出迎えしただけですよ」


「そうなのか、けどどうして分かったんだ? 連絡とかも入れてないのに」


 昨日会ったばかりなのだから、俺が高校から帰る時間も分かっていないはずだ。それなのに、ちょうどよいタイミングで出迎える、なんてできるのだろうか?


「それは、少し糸を使いましたので。私の糸をこの辺りに張っておいたんです。留守を預かる以上、何か来てもすぐに分かるように思いまして」


「糸って? あぁ、なるほどな」


 開いた依織の手の間に、よく見ると極細の糸がある。つまりは、この糸を使って俺が帰ってくることを察知したということだろう。流石は女郎蜘蛛といったところだ。単に蜘蛛の身体をしているだけでなく、糸の扱いはお手の物というところか。


「でも、とりあえず喧嘩とかはしてないみたいでよかったぜ」


 二人の諍いで家が荒れることを心配していただけに、大事が無くて一安心だ。むしろ、依織が掃除してくれたおかげで、綺麗になってるぐらいである。


「そういえば、レイアのやつはどうしたんだ?」


「あの人でしたら部屋ですよ。あれだけ大口を開いておきながら本当に何もしないなんて……」


「まぁそういってやるなよ。依織がしっかりやってくれてることは俺が分かってるし、感謝もしてるからさ。レイアにはお前みたいなことはできないだろうしな」


 見たところお嬢様育ちのレイアが、家事万能な依織に叶うはずもない。二人には悪いが、正直レイアは部屋で大人しくしていてくれたほうが安心といえよう。


「彰さんはずるいです。そんなこと言われましたら、反論なんかできないじゃないですか……」


「それだけ信頼してるってことさ。それじゃあ荷物降ろしたら、レイアのやつが部屋でなにやってるか、ちょっと様子を見てくるかな」


「まったく、あの爬虫類は彰さんに手間をかけさせて……」


「あいつも慣れないことで戸惑ってるのかもしれないな。一緒に暮らしていくんだから、少しでも打ち解けておかないといけないだろうさ」


「あっ、夕飯の方も、もう少しでできますので、なるべく早めに戻ってきてくださいね」


「了解。それじゃ、そのときにはレイアもつれてくる。今日もまた美味しい夕飯期待してるぞ」


「もう、彰さんだけでいいですのに……」


 どこか拗ねたような依織の声を聞きながら、自分の部屋へ戻る。そして荷物を降ろし、制服から着替えるとそのままレイアの部屋へ向かう。


「おーい、レイアー」


 呼びかけるが、返事は無い。


 障子越しに音は聞こえるから部屋にはいるようだが、明かりもつけずに何をやってるんだか。もしかしたら、何かあったのかもしれない。


「おーい、大丈夫か? とりあえず、入るぞ」


仕方ないので勝手に入らせもらうことにして戸を開けて、目の前に広がる光景に困惑する。


「えーと、なにやってんだ、お前……?」


 薄暗い部屋で、布団に巻きつき一心不乱に前を見続けるレイア。その視線の先には薄暗い光を部屋に漂わせる四角い画面。


「……もしかして、ずっとアニメ見てたのか?」


 そう、レイアがずっと見つめ続けているのはテレビ、それもアニメだった。貴族がアニメ好きなんて初耳なんだが。


「……ん? あ、帰ってきたんだ」


 ようやく返事が返ってきた、しかしすぐに視線はテレビに戻る。どうやらようやく俺が部屋に入ってきたことに気づいたらしい。


「こりゃ、依織が不機嫌になるのも分かるな……」


 自分が家事をしっかりしているなか、同じような立場の相手が働きもせずひたすらアニメ三昧では、悪態の一つもつきたくなるだろう。


「しかも、一挙放送かよ。おい、夕飯だからその辺で切り上げとけ」


「今いいところなの、終わるまで邪魔しないで」


「いや、いいところって……」


 レイアが見ているのは奈々曰く女性人気が高い、美少年がやたら出てくるスポーツアニメだ。どうやら、ケーブル局で一挙放映しているらしく、まだまだ終わる気配は無い。


「こりゃ、連れて行くのは無理そうだな」


 終わるまでレイアはてこでも動きそうに無い。下手に邪魔したら、それこそ何をされるか分からない。最悪、布団の変わりに俺がその尾で締め付けられることにもなりかねない。


「仕方ないから、もう置いてくぞ。終わったら、また居間にこいよ」


「ん」


 生返事を背中に受けて、呆れながらレイアの部屋を後にする。そして、依織が料理を作って待っているであろう居間に向かっていく。なんだか、とても疲れた気分だ……。


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