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閑話1-1(湧視点で綾との過去)

元々、拍手お礼として掲載した、湧視点の過去話です。この話がないと、話として見えにくい部分があるので、閑話としてこちらに加えます。無駄話とまでは言いませんが、本編より過去の話なので若干今までの話から脱線しておりますがご了承下さい。こちらの湧視点の話は、次に続きます。

 僕は、始め双子の妹を疎ましく思っていた。



「貴方様には、双子の妹君が居るのですよ」

 そう教えてくれたのは、僕の身の回りの世話をしてくれる巫女の1人だった。

 巫女達はこの世界に居る神に仕える人の事で、神様から特に愛された僕らの世話をしてくれる。この中で僕は王様だ。

 だからどうして巫女が時折悲しそうな顔をするのか分からなかった。

「妹なんていたのかい?」

「はい。箱庭の外の世界で過ごされております」

「へえ。何で外に居るんだい? 双子なんだろう?」

「Dクラスと分けられた瞬間に、母君が別の者に託されたそうです」

 Dクラス。

 それは僕ら神様に愛された者とは真逆に居る人の事だ。神様から碌な能力も与えられなかった加護の薄い人だと僕は聞いていた。

 双子なのに、神様から愛されなかったなんて――。

「可哀想な子なんだね」

 僕は会った事もない双子の妹を憐れんだ。

 生まれながらに神様から愛されず、母さんにも捨てられたなんて。


「いいえ。可哀想ではありません」

「そうなの?」

 俺の言葉を巫女が否定した。

「はい。彼女は貴方様が持ちえない、自由を持っておりますので。むしろ可哀想なのは……貴方様の方であります」

「自由? 僕も自由だけど?」

 この部屋の中で、僕は何をしても咎められない。遊んでも勉強しても、ダラダラと寝ていたって、文句をいう人は居ない。

「いいえ。貴方様はこの部屋の外へは出られません。つまり外の世界を知る事は叶わないのです」

「外の世界なら知っているよ。草原モード」

 僕の声に合わせて部屋の景色が草原の景色に変わる。

 これは遠い外国の映像だと聞いた。この国は島国だから地平線が見えるぐらいの草原なんて存在しないらしい。

「こんな風に、僕はいつでも外の世界を見る事が出来るんだもの。僕に知らないことなんてないよ」

 こんな風に自由に世界中の光景を見る事が出来るのは箱庭だけだと聞いている。特別なものが住む場所だから、作りも特別なのだと。


 しかし巫女は悲しげな顔をした。

「貴方様は自分が不自由である事すら知らないのです」

「僕が?」

「私は明日には排除されるでしょう。私から教えられる事は多くはない。でも、知って下さい。貴方は不自由です。何も知らされずにいます。ですが貴方様は、ここで閉じ込められていていい存在ではないのです」

「排除って何だい? どうしてそんな事を知ってるんだい?」

「私は【予言】の能力を持っています。予言の能力者は【予知】の能力者が見た物と同じものを見る事が出来ます。それを見て口にし、運命を決定させる能力。それが【予言】の能力です。私は明日、排除されると予言しました。でも逆に言えば明日までは排除されません。予言の運命は絶対ですから」

 巫女はそう言って悲しげに笑った。

「ある予言の巫女が未来を見て口にしてしまった為に、貴方達双子の運命を縛ってしまった。だから私はせめてその運命が辛いだけのものではないように伝えられるだけの事を伝えたいのです」

「どうして?」

「それが罪滅ぼしだと思うからです。この世界を作ったのは私達。私は元々はBクラスの【予知】の能力者でした。だから、この世界の歪を知っていて、それを肯定して生きてきました。いた仕方がないと思っていました。間違いを指摘するという事はとても怖い事でしたから」

 巫女は震えていた。

 でも震える理由が分からない。何故間違いを指摘するのが怖い事なのだろう。

「間違えてしまったら、謝ればいいのだと教えてもらったよ?」

「ええ。そうですね。貴方様は許されない怖さも知らないのでした。どこまで伝えられるかは分かりませんが、お伝えします。私は卑怯者のまま死にたくないと思った、卑怯者ですから」

 何だか変な言い回しだ。

 でも僕はそれを否定する言葉も、何も、この時はまだ知らなかった。




◆◇◆◇◆◇




「外はどんなところなんだろう」

 僕は顔見知りの巫女の1人がやってこなくなってからずっと外の世界を思い描いていた。

 外の世界は、とても不自由な世界らしい。大勢の人が住んでいるから、混乱しないように彼らは法律と呼ばれる縛りの中で生きているそうだ。

 でも、法律を破る事もできる。

 それにより咎められ、場合によっては殺されてしまうけれど、破るかどうかを決めるのは自分。彼らの心は自由なのだ。

「僕はここから出る事なんて考えた事もなかった」

 ここは全て満たされるから。

 でも、そんな選択がある事も知らなかった。出るという発想すら、僕は知らなかった。


 また外の世界は、階級制度があるけれど、全ての人が対等なのだ。

 世界で生きているのは僕に仕える巫女と時々会う母さんだけではない。多くの人がいるからこそ、色んな関係がある。家族、兄弟、恋人、友人、ライバル、敵。綺麗な関係だけではない。憎しみ合う関係もある。それは、人それぞれ、色んな考えがあるからだ。

 子供の世界は最初は家族だけだけれど、年を経るごとにどんどん広がる。僕ぐらいの子供は学校というものに通い、僕が巫女に教えてもらっている事を、教師と呼ばれる者から教えてもらうらしい。

 そして同じ年の者同士で関わり合い、色んな考え方に枝分かれする。

 僕は同じ年の人間を見た事がないし、喋った事もない。僕に与えられる情報は一定方向だ。だから迷いはない。いつでも僕は正しと思っていられた。

 でも迷わないという事は、何も考えていないという事と同じだ。


 僕の世界はたった一日で、大きく変わった。

 今まで同じ情報だけしかもらえていなかったのに、違う情報を予言の能力を持つ巫女に教えてもらったから。巫女は考えるという事が大切だと言った。迷う事は間違えではないと言った。

 本当の間違えは、何も考えなくなる事だと。

「でも、分からないんだ」

 何が正しいのか。

 本当に僕はここに留まり続ける事がいい事なのか、今は良く分からない。

 でも他の巫女には聞けない。聞いてはいけないと言われた。聞けば、僕は更に奥深くに拘束されてしまい、母さんにも会えなくなってしまうから。

「何故僕だけここに居るんだろう」

 僕に読まれた予言は、一方の子供が世界を壊すというものだった。能力的に、その予言の子供は僕の方だろうと思われたそうだ。そして僕を殺せば、その瞬間に何かが起こるかもしれないとも。

 そうこの世界を動かしているBクラスが考えた結果、僕は箱庭で管理される事となったそうだ。例えその予言が覆せなかったとしても、被害を最小限に抑える為に。 


「ムカつく」

 同じ条件なのに自由な妹が。

 きっと妹は僕がここでこんな風に悩んでいるとも知らずにのうのうと生きているのだろう。学校というものに通い、自由な世界の中に居る。

 これで妹がただ母さんからも捨てられただけの存在だったら、僕は憐れんで、もう少し心穏やかに居られただろう。

 でも巫女は言った。

 予言が僕の事であると決定づける為に、Bクラスに殺されぬよう妹は、母親が里子に出し隠したのだと。

 つまり僕だけが母さんに愛されているわけではなかった。僕だけが特別な存在ではなかったのだ。


 たったそれだけの事。

 それだけの事なのに、僕は揺らぐ。母さんが本当に愛しているのはどちらなのだろうかと考えてしまう。

 知ってしまった。

 世界はここだけではないのだと。

 巫女から言われた事が全て正しいと思っていたのに、その巫女から違う事を教えられた。僕は自由なんかじゃない。王様なんかじゃない。ただ囚われている、憐れな存在にすぎないのだと。

「でも、どうしろって言うのさ」

 教えてくれた巫女はもういない。

 迷えと、考えろと最期に教えていなくなってしまった。その先にきっと、僅かな幸せがあるのだと言って。



 そんな風に迷う日々が続いたある日の事だった。

 突然いつも使っていた鏡が光ったのは。初めて見る光景に、僕は慌てて鏡に近づいた。この時の僕は、それが危険かどうかを判断するという考えもなかったから。

 ただとにかく知識欲が高まっていた。

 不自由なこの世界で考え続けるには、知識を集め続けるしかないからだ。僕は少しでも色んな情報を欲し、それを元に考えるようになった。

『……鏡?』

「誰、君」

 鏡には普通僕が映るはずなのに、その時映っていたのは違う存在だった。僕にとてもよく似ている。同じ年の……巫女ではない女の子。

『鏡がしゃべった』

 どうやらこの子供は、僕が鏡だと思っているらしい。馬鹿じゃないだろうか。どう考えても、これは別の場所を写す【映写】の能力だ。僕も本でしか読んだ事がないけれど、でも鏡が喋るなんてありえない。

「ねえ、僕は聞いているんだけど。君は誰なんだい?」

 巫女だったらすぐに僕の質問には答えるのに、この少女は答えない。どれだけ愚図なんだろう。

 でも初めて見る、巫女でも母さんでもない人だ。

『私は影路綾』

 綾……。

 その名前に、僕は驚いた。

 これはあの予言の能力の巫女が残してくれた運命なのだろうか? そう思うぐらい、この偶然は出来過ぎたものだった為に。

『貴方は誰?』

 僕は、この日初めて、世界で一番疎ましい妹と出会った。

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