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能力者の恋(5)

 近藤さんがよくボランティアに行っていた孤児院は駅から少し離れた場所にあった。

 奥さんに教えて貰った場所へ、日にちを改め俺と明日香、それにエディは来たのだったが――。

「……何だこれ」

 孤児院がぼろかったとか立派だったとか、そうではない部分で俺は驚いた。孤児院を囲むフェンスに色んな張り紙がしてあったからだ。

 『悪魔の子』、『人間のクズ』、『死ね』……色々口にするのも結構ためらうような、悪意の塊のような張り紙。

「酷い事をするわね」

 そう言いながら明日香が張り紙を破るようにはがすのを見て、俺も慌てて一緒にはがす。

「エディもはがせよ」

 のんびりと俺らの後ろで立っているエディに俺はやるように言う。こんな物貼ってあるのを見たら、ここに住んでいる子供はすごくショックだろう。

「というかさ、僕は無駄だと思うなー」

「無駄?」

「だって、今回はがした所で、また貼られるだけだよ。逆に張ってあれば、わざわざ何重にも貼ったりはしないだろうけどー」

 エディの言葉に俺と明日香は手を止めた。


「でも、こんな紙見たら気分悪いでしょ。また貼られたら、何度でもはがせばいいのよ」

 明日香はそう言い、再び張り紙をはがし始めた。そしてはがしながら、酷い言葉の数々に、眉をひそめる。

「誰がこんな事するのかしら」

「コンプレックスたっぷりな、明日香姉さんと同じBクラスやCクラスに決まってるじゃん。佐久間みたいなAクラスはいい子ちゃんだから、こういう事は逆にしないだろうけど―。あ、今は元Bとか、元Cクラスだっけ」

「お前だって元Bクラスだろうが」

 Bクラスである明日香への八つ当たりのような言葉に、ペシッとエディの頭を叩くと俺も明日香と一緒に紙をはがした。

「暴力反対! 今ので僕の賢いシナプスがいくつ犠牲になったと思うんだい? 人類の損失だよー」

「お前のシナチクが何で人類の損失なんだよ。とにかく、DクラスだからとかBクラスだからとか、そういうのって俺も違うと思う。それに明日香はBクラスだけど、でも明日香だろ? 今だってこうやってはがしているんだし、貼ってる奴とは違うんだよ」

 そういうクラスだけで人を分けるってやっぱり違うだろ。


「いい事言っている気がするのに、何で馬鹿なんだろうねー」

「……それが佐久間って事じゃないかしら」

 何で俺は今馬鹿にされているのだろう。

 何か釈然としないけれど、エディもしぶしぶと言った様子で張り紙をはがし始めたので、今回の俺に対する暴言は聞かなかった事にしておいてやる。

 それにしても張り紙とかする奴らは相当暇なのか、カッターの刃みたいなモノをつけてはがす時に怪我をするような仕掛けがしてあるものもあった。確かにこんな張り紙を毎回貼られていたら、はがす気も失せるだろう。


「僕は肉体労働派じゃないのにー」

 ブチブチと文句をエディがぼやいた瞬間だった。

「エディィィィィィッ!!」

 地獄の底から這い上がるようなそんな低い女性の声で、エディの名前が叫ばれたのは。

「やばっ」

 エディの名前は建物の中から聞こえてきていた。しばらくするとそこからものすごい勢いで、黒髪の少女が俺達の方へ走って来る。

 今にでも殺されそうなぐらいの鬼気迫る様子に、俺は身構えた。

 しかし俺を通り過ぎ、そのまま若干逃げかけていたエディに彼女は飛び蹴りをくらわせる。

「ふざけんじゃないよ!!」

「うぎゃっ!!」

「「エディ?!」」

 普通の蹴りだったので、明日香のような【超脚力】の能力はなさそうだが、ドスッと響いた音が地味に痛そうだ。そして、そのまま地面に倒れたエディの前で少女は仁王立ちし睨みつけた。

「よくここにのこのこと顔を出せたね。僕の邪魔をして、今度こそもう許さないんだから」

「……返事がない。ただの屍のようだ」

「本当に屍にしてあげようか?」

 少女とエディはどうやら知り合いのようだ。だが、少女が倒れているエディを踏みつけようとしたところで、俺は慌てて羽交い絞めにする。

「待った待った。エディがむかつくのは分かるけど、怪我をさせたら暴行罪で捕まるから」

「佐久間ぁー。そこは僕の心配をしようよ」

 蹴られはしたものの元気らしく、エディは地面に寝そべったまま俺への文句をぼやく。

「エディ、アンタだよね?! お兄ちゃんと僕の繋がりを切ったのは?!」

 俺が羽交い絞めにしているにも関わらず、少女は暴れてエディを怒鳴りつける。よっぽどこの子を怒らせることをエディはしたようだ。


「ちょっと、とりあえず落ち着けって」

 いくら女だとしても、いや、逆に女だからこそ、羽交い絞めも男にやるのとは勝手が違ってやりにくい。

「僕はエディを一生を許さないっ!!」

「……別にいいよ。許さなくて」

 エディは起き上がると、地面に座ったまま顔を背けて異常なぐらい冷静に堪えた。怒り心頭の少女とは真逆状態だ。先ほどまでのお道化た感もない。

「ふざけないでっ!!」

「ふざけてないよ。別に、僕は夢美に許されたいなんて思ってないから」

「おいっ。エディ、お前もなぁ……」

 目を合わせずに喋るエディはなんだか子供が喧嘩をしているようにみえた。謝らないにしてもこの状況を何とかする為の言葉をかけろよと伝えようとしたが、その前にゴチンと明日香の拳がエディの頭にふった。


「いったぁぁぁぁい!! 酷いよ、明日香姉さん」

「何があったかは知らないけれど、馬鹿やってないで、ちゃんと向き合って話なさい。それと、貴方はここに住んでいる子なのよね? 申し訳ないけれど、ここでボランティアをしている近藤という人の事で話を伺いたい事があるから、責任者の方に取り次いでもらえないかしら。私達が責任者の方と話している間は、エディを椅子に縛り付けてとことん話し合ってくれて構わないから」

「構うよ! 僕みたいな頭脳派を責任者との話し合いの場に参加させなくてどうする――」

「参加したいなら、この状況をどうにかしてから言ってちょうだい」

 そう言って明日香は失礼するわねと門を潜り抜けて中へ向かう。

「放して……くれませんか。案内しますから」

「あ、おう」

 俺は少女を使っていた力を緩める。

 すると少女は小走りに明日香を追い抜くと孤児院の中に入っていった。


「エディ、俺らも行くか」

「……僕はここで待ってるよ。明日香姉さんにも戦力外通告されちゃったしー。ほら、折角はがしたんだし、また張り紙貼られないように監視しておかないと」

 どうせエディの事だから明日香の言葉なんて全く堪えていないと思う。あえて行くのを渋るのは、やはりあの少女が関係するのだろう。

「お前が強いのはパソコンの中だけだろ。張り紙貼っている奴を止められるのか?」

 人見知りも酷いくせに。

 今日は珍しく着ぐるみを着ていないけれど。

「まあ、腕力じゃ叶わないし、その場では何もできないよ。僕にできるのは写真撮ってー、ネットにアップロードしてー、名前特定してー、社会的に抹消して二度とできないようにするぐらいだし」

「よし、お前は中に入れ」

 俺はエディの襟首を摑まえれ引っ張る。

「ぐえっ。首がしーまーるー」

「なら歩け。何だよその、物騒で根暗な解決方法は。そもそも、明日香にもちゃんと話し合えって言われただろ。何があったか知らないけれどさ」

「だってー、話し合ったって、絶対平行線だしー。交わらないしー。解決しないしー」

 エディはとりあえずと言った様子で立ち上がると歩き出す。でもお前は何処の女子高生だというような、ダラダラと語尾をのばした話し方で、凄く不本意だと俺に伝えてくる。よっぽど、あの子にトンデモない事をしたのだろう。


「それはお前の中だけの答えで、話し合えば本当に平行線かどうか分かるだろ」

「平行線だったら、無駄じゃないか。そもそも、僕は間違った事をしたとは思ってない。夢美が望まない事をしただけで」

「無駄じゃないだろ。あの子……夢美ちゃんって言うんだっけ? その子もお前の考えを知れるんだし」

 話さないと分からないことなんて沢山ある。

 それは俺も同じで、だから影路を探しているんだ。

「おらっ。とりあえず行くぞ」

 俺は本当に平行線だと知りたくないと思っているだろう、臆病者の背を叩いた。

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