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反逆者の恋(4)

 微妙に組織の休憩室で仮眠してから、エディに指定された場所にきた俺は、突然衝撃を受けて壁に激突した。

「うぐあっ!?」

 何? えっ? 何? 敵襲?!

 本当に何が起こったか分からず、俺は慌ててぶつかってきたものを見て……深くため息をついた。

「エディこの野郎」

「佐久間、おーそーいー。僕と影路ちゃんを待たせるだなんてさ。しかも影路ちゃんは、佐久間の好きな子なんだろー。もっと頑張らないと、隣から掻っ攫われちゃうよ」

「えっ」

「影路ちゃん可愛いしー」

「……冗談だよな。マジで冗談だよな」

 あははははと笑っているエディの肩を俺は掴みぶんぶんとゆする。

 エディはオタクだが、顔の良さと頭の良さだけはある。影路は顔で人を選んだりしないと思うけれど、不安になるのだ。

「もちろん。嘘じゃないよ。ただし、僕の嫁には敵わないけどー」

 なんだ。やっぱりただのオタクか。

「それで、影路はどうしたんだよっ!!」

 あれだけ俺に色々させておいて、まさかコイツ1人って事はないよな。でもコイツなら、あり得る。

「まさか、影路を攫った所から嘘とか――」

「佐久間」

 ツンツンと服の裾を引っ張られ、小さな声で名前を呼ばれた。

 下手したら気づかないぐらいの申し訳なさそうな遠慮がちな声だ。しかもふとした瞬間、存在を忘れてしまいそうな声だと思う。しかし俺はその声の方を慌てて見た。

「影路?!」

「うん」

 えっ?

 影路? えっ? えっ? 本当に……本当に?

「無事で良かった」

 俺の前に立って、俺を上目づかいで見ているのは、どこからどう見ても影路で。

 俺は幻でない事を確かめる為、影路の体を抱きしめる。

 もしかして、これは俺の脳みそが仮眠をとったにもかかわらず、眠さMAXな為に妄想――もとい、夢を見ているわけじゃないよな……。いやいや、そんな馬鹿な。

 でも、こんなあっさり会えるものなのか?

 ぐるぐると思考が迷走するが、腕の中には確かに人の感触がある。ふにふにと柔らかい腕に、細い腰――。

「佐久間の破廉恥ッ!」

 エディの言葉に正気に戻った俺は、慌てて影路の体を離す。

「ご、ごめんっ!」

 慌てて謝るが、心臓がバクバクいっている。影路はというと、俺とは対照的にいつも通りの冷静な――……いや、耳が赤くなってる? 薄暗くて分かりにくいけれど。

「あ、あの。影路、その――」

「はーい。唐突に、ラブコメはじめないで下さーい。通行人の邪魔でーす」

「通行人なんていないだろうがっ!」

 こんな真夜中に通行人なんてほとんどいない。

 百歩譲っていたとしても、狭い路地裏というわけでもないんだから、普通に避ける事ができる。どう考えても、俺と影路の仲を邪魔しようとしているようにしか思えない。

「えっと、影路。本当に心配して。だから、今のはちょっと感情が高ぶったというか……その」

「心配?」

 キョトンという音が似合いそうな、影路の目とぶつかる。

 えっ。何で驚いて――。

「なあ、影路って、エディのパソコンから俺にメールを出したよな?」

「ううん。出してないけど」

「……エディィィィ!!」

 この野郎、マジでネカマかよっ!!

 俺はエディの首を絞めた。

「佐久間、ギブギブッ。だって、影路ちゃんからの助けてメールの方がやる気が出るだろ?」

「やっていい事と悪い事があるんだよっ!!」

 確かに、影路からメールが来たから、頑張った部分もあるけど。

「佐久間、ごめん。私の事で、迷惑をかけてしまって」

 凄い申し訳なさそうな影路の声を聞いて、俺はパッとエディから手を離した。

「いや、大丈夫だから。悪いのは、コイツで、影路は全然悪くないから」

 

「むぅぅぅ、佐久間ってば、乱暴だよー」

「影路を人質にとった奴は乱暴な扱いで十分なんだよ」

「やだなぁ。影路ちゃんの両親とかについて調べてって、お願いしただけじゃないか。それに、僕は感謝されるべきだと思うな。僕が影路ちゃんを一度隔離させなかったら、影路ちゃんは何も知らないままに巻き込まれてていたわけだし」

 確かに怪盗Dが動き出し、徐々にきな臭い雰囲気が漂い始めている。

 特に怪盗Dは現在Dクラスの集まりではないかという見方が世間的に広がってきていた為、確かに影路を一人にしておくのは心配だ。それに影路は怪盗Dと一度話した事があり、その後仲間にならないかと勧誘まで受けている。

「だとしても、もう少しやり方があるだろ。マジで心配したんだからな」

 もちろんエディだけが原因というわけではないが、どうしても恨み言をいうような形になってしまう。特にエディに色々振り回されたのだから。

「それで、俺は調べさせられたことを報告すればいいのか?」

 影路の本当の親について。

 ただそれを聞いた影路がどんな気持ちになるか分からなくて、影路を見てしまう。影路は感情を隠すのが上手い。不安とか悲しいとか気が付いてやりたいけれど、高所恐怖症の事だって中々気が付いてやる事ができなかったのだ。

「影路ちゃん、聞きたくないなら車の中で待っていてくれていいよ。たぶんすぐ終わるから」

 流石にいつでもゴーイングマイウェーなエディも空気を読んだようで、影路にそう声をかける。

「私も聞きたいから、気を使わなくても大丈夫」

 やっぱり影路は強いな。

 俺だったら躊躇してしまいそうだけど、はっきりと聞く事を選択した。


「えっと、なら、まず影路の本当の母親なんだけど……春日井部長だった」

「春日井部長って、佐久間の上司の?」

「ああ。同姓同名かもと思ったけど、本人にも確認したから間違いないはずだ。影路の親は春日井真冬で、Aクラスの【雪女】の能力の持ち主だ」

 2人が並んだ事はないのであれだが、性格は何というか似ている気がする。影路も春日井部長も真面目で、あまり社交的な性格ではない。感情をあまり表に出さないところも似ている。

「あ、でも。春日井部長は自分がAクラスだからとか影路がDクラスだからという理由で影路を養子に出したわけじゃないからな。それに影路の今の父親は春日井部長と兄弟だから、伯父という事だし、お姉様は従姉というわけで、えっと」

 特に影路が何か言ったわけでも、悲しげな表情をしたわけでもないが、俺は上手く考えがまとまらないまま、慌てて付け足す。どうしても誤解されたくなかった。

 影路がいらない子だと思って欲しくない。

「そうなの?」

 対する影路はそんな事言われるとは思っていなかったらしくきょとんと目を丸くしている。

「おう。だから血がつながっていないわけじゃないし、あの人達は確かに影路の家族なんだよ。それに、話してみて思ったけど、家族って血の繋がりだけじゃなくて、一緒に過ごした時間とか、そういうのなんだと思う。だって、ほら。結婚したら家族だけど、でも血がつながっているわけじゃないだろ?」

 実際には血が多少なりとも繋がっていたわけだが、でも家族はそういうものではないと、俺は影路の家族と話して思った。影路は、俺の家族よりずっと、例え血がつながってなくてもちゃんと家族だった。

 

「はいはい。愛の告白は分かったから。それで、クラスが理由じゃないなら、どうして影路ちゃんは伯父さんの家に養子に出されたのさ」

「何か、影路が生まれた時に予言があったんだとさ。それで……ああ、そうだ。影路には双子がいるらしくて、影路がその予言に巻き込まれないように、関係を切ったらしいぞ。双子の片割れの方が予言の対象みたいだから」


 …-予言ってなんなんだろうな。神様がくれた能力の一つなんだから、神様から人間に宛てた伝言みたいなものな気がするけれど、だったら問題がある未来の回避方法を教えてくれた方がずっと親切だと思う。

 もちろん回避方法を全部教えられたら、何も考えなくなってしまうから良くないかもしれないけれど、あの予言は人の生活をより良くする優しいものとはかけ離れている。

「へぇ。じゃあ、春日井部長の子供が影路ちゃんの双子の兄弟なんだ」

 エディは鞄からパソコンをとりだすと、カタカタと何かを打ち込んだ。そして俺の方へ、春日井部長のプロフィールを見せる。

 そこには実子に、春日井湧かすがいゆうと書かれていた。どうやら影路の双子の兄弟は男のようだ。

「予言ってどんなもの?」

 普段はあまり感情を読ませない影路だが、この時はとても緊張しているというのが伝わってきた。

 でも引きはがされるほどの予言なのだから、影路が緊張してしまうのも分かる。それに、あまりいい予言というわけでもないので、俺も伝えるのに少し躊躇った。

 でも隠せばいいというものでもないだろう。

「一方の子供がこの世界を壊す的なものなんだって。いや、でも。予言は覆らないとか言ってたけど、実際にはそうでもないわけだしさ」

 何と言ったら影路が傷つかないのかが分からない。

 この予言のせいで、影路は本当の家族から引きはがされる事になったのだから。

「影路、大丈夫か?」

「えっ。あ、……大丈夫。少し考え事をしていただけだから」

 影路はじっとアスファルトを見つめていた。そりゃ、思いつめるよな。しかも一方がという事は、まずないとは思うけれど、影路がその予言の対象なのかもしれないのだから。

「予言なんて気にするなって。俺は何があっても影路の味方だから」

 例え予言が影路に降りかかっても、影路は何の理由もなく世界を壊そうなんてしないはずだ。そこにはきっと何か理由があるはずで、でもその理由は誰かを傷つけたいからとかそういうものではないと思う。

 だから俺は影路が笑っていられるように動くだけだ。


「ひゅーひゅー佐久間。かっこいいー。流石、シンデレラ王子。ホレちゃうね」

「……エディ。お前は、俺に何か恨みがあるのか?!」

 だから何で俺の決意をぶち壊す。

 しかも口笛が吹けないから、ひゅーひゅーと口で言っているのだろうけど、それが余計に馬鹿にされている様な気分になるのだ。

 しかも言うに事欠いて、シンデレラ王子。

「ちなみに、影路ちゃんは僕のお手伝いをしてくれるそうでー、佐久間はそんな影路ちゃんの味方なんだよね。つまり僕のお手伝いをしてくれるというわけでー」

「って、おい。こら、どういう理屈だっ!」

 何で俺がエディの手助けをしなければいけないんだと怒鳴るが、エディは俺の首の手を回して耳元で囁いだ。

「あのさ、二の腕の柔らかさは、おっぱいの柔らかさと同じなんだって」

「へ?」

 何の話だ?

 耳元に顔を寄せて内緒話をする割に、内容が全然伴っていない気がする。

「影路ちゃんのおっぱいの柔らかさはどうだった?」

「なっ?! 俺は、触っていない」

「またまたぁ。さっき抱きしめた時に、二の腕触ったよね?」

 えっ。ああ。まあ。触ったというか抱きしめた時に触れたというか。いや、触れたというなら――カッと俺の頭に血が上る。

「ちゃんと手伝ってくれたら、明日香姉さんに、まだ付き合ってもないのに佐久間が影路ちゃんのおっぱいの柔らかさを知っているとは言わないであげるよ」

 俺の頭に上った血が、さぁぁぁっと下がる。

 明らかな誤解を生みそうな話だ。いや、でも付き合ってもいないのに抱きしめたのは本当で。何故か頭の中で明日香がコンクリートにかかと落としをしてかち割っているイメージが浮かぶ。

 あの蹴りが俺にあたったら、きっとその日が享年になるだろう。


「じゃあ、よろしく、佐久間。ちゃんと美味しい仕事は回してあげるから」

 パンパンとエディに俺は背中を叩かれた。畜生。

「佐久間、どうしたの?」

「何でもない。何でもない。えっと、頑張ろうな」

「うん」

 影路の素直な返事に、俺はまっすぐと影路の顔を見る事ができなかった。

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