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反逆者の恋(3)

 ピロピロピロ――。


「んー……」

 何やら自己主張の激しい音に、私は目を擦る。

 目覚ましだろうか。でも私の目覚ましはこんな音ではないはず。

 そう思いつつ、私はベッドから起き上がった。そして、見知らぬ部屋に少しビクリとしてすぐに、ここがエディの家だった事を思出だす。

「電話?」

 フラフラと起き上がって薄暗い部屋を歩き回って、点滅しながら鳴るそれを見つけて、私は受話器をとった。

「はい」

 ……出てみたものの、これがエディ宛の電話だった場合、非常に問題な行動をしてるのではないかと後から思う。

 エディの親だったら、彼女か何かと勘違いするかもしれないし、もしもエディの好きな子からとかだったら目も当てられない事態だ……。ハウスキーパーのふりでもしてみればいいだろうか。

 いや、こんな時間に何でハウスキーパーがいるんだとツッコまれるか?


『もしもし、影路ちゃん? 良かった、出てくれて』

 電話の向こうから聞こえたのは、エディの声だった。

 知った声にほっと息を吐く。

「何?」

『ちょっと暗いけど、移動しようと思うんだ』

「移動?」

『たぶん、今が一番動きやすいタイミングだからねー』

 動きやすいタイミング? この真っ暗な中が?

 時計がないので、現在の時刻が分からないけれど、普通はあまり出歩かないような時間だろうなと思う。

『泥棒は夜中に動くものだよー』

「……怪盗Dの所へ行くの?」

『そう言う事。だから、今から移動する準備をして』

 とても急な気がしたが、怪盗Dを解き放つ計画を練っていたのはエディであり、私ではない。だから、このタイミングも予め決まっていたのだろう。


 私はエディに促されるまま、寝る前にハンガーにかけておいた自分の服を着こむ。そして、鏡を鞄の中に入れてスタンバイした。特に鞄の中身は鏡以外出していないので忘れ物はないはず。

「……えっと」

 部屋の中にいればいいのか、それとも外へ出た方が良いのか。

 悩んでいると、チャイムが鳴った。

「お待たせ……」

「ごめんね。こんな時間に」

「大丈夫」

 ドアの向こうに金髪の少年がそこに立っていて一瞬誰だっけと思ったが、声でエディの本当の姿だった事を思い出す。

 いつもはパンダの着ぐるみを着た姿で会う上に、違う姿かと思えばハンバーガーの袋を頭からかぶっていたので、最初から素のエディと顔を合わせる事は少ない。それこそ、水分補給など、どうしても取らなければいけない時ぐらいのものだ。

「パンダさんじゃないんだね」

「どう? 美少年でしょ」

「あ、うん」

「惚れちゃダメだよー」

 悪戯っ子のように青い瞳を細めて笑うエディは確かに美少年なんだと思う。暗い所から明るいところに出たため余計にエディの金色の髪がまぶしく見える。

「惚れないけど、その姿は珍しい気がして」

「今日は逃げも隠れもできないからねー。よーし、出発っ!」


 エディはそう大きな声を出してエレベータへ向かう。いつものエディよりテンションが高い為、何か恐怖的なものから自分自身を誤魔化そうとしているかのように見えた。

「今、何時なの?」

「植物も眠てるウシさん三つの時さー」

 丑三つ時という事は夜の2時ぐらい……。

 エレベータを降り、外に出ればまだ月や星がきれいに輝いていた。

「影路ちゃん、お願いがあるんだけど」

「何?」

「ちょっとだけ、力を貸して欲しいんだ……その、血をつけて欲しいというか……」

「いいよ」

 私は鞄をあさってカッターを取り出すと、自分の手の親指にその刃を押し付けた。相変わらず自傷行為は嫌な感覚だなぁと思いながら刃を少し移動させればピリッとした傷みと共に血が出てきた。

「ちょっと気持ち悪いけどごめんね」

 その血をエディのおでこに付ける。


「謝らなくちゃいけないのは僕の方だからさ。だからそう言う申し訳なさそうな顔するの止めてくれる?」

 そう言って、エディはポケットから絆創膏を取り出した。そのままくれるのかと思えば、そのパッケージをエディが破る。

「手を出して」

「あ、うん」

 少しだけいつもの軽い口調と違う気がしたが、私は血が出ている方の手を出す。

「……僕がやらせたんだけどさ、影路ちゃんはもう少し自分を大切にしてね」

 くるりと絆創膏を親指に巻き付けながら、エディが囁く。

 私は――という事は、エディは誰かと私を比べているのだろう。考えられるのは――。

「エディの幼馴染は自己犠牲をする子なの?」

 そう言えば、自分の体を怪盗Dに貸していると言っていたっけ。自分の体を自分じゃない人が使う……確かによほど信頼していないとかなり不安だ。

 ちゃんと奪い返せるとしても、自分を消されている気分になる。


「佐久間なら、こんなに鋭くないのになぁ……」

「へ?」

「影路ちゃんはやっぱりすごいって事さー。さあ、移動しよう。悪いけど、今日一日【無関心】の能力を発動し続けてもらっていい?」

「うん。でも、食事中とかは、匂いとかで効力が薄まるから」

 臭いなどは、破られる切っ掛けになりやすい。また、大きな音を立てたりしても同じ。喋るぐらいの多少の音なら問題はないけれど、どうしても私の能力は意識を逸らさせるだけのものなので、一度気が付かれたら終わりだ。

「食事をとる時は個室に移動して、あまり匂いがつきにくいものにすればいいんだよねー」

 えへっと笑いながら歩くエディの後ろを私はついていく。……まあでも、エディなら私の能力のあやうさも分かった上で話していると思う。エディは人一倍怖がりだから、勝算がなければ動かないはずだ。

 ……協力すると決めたのだからやるしかないのだと、私も覚悟を決めた。

 



 

◇◆◇◆◇◆◇◆






「ここって……」

 エディが車を止めた場所は、私が知っている場所だった。

 このまま道路をまっすぐ進み、右に曲がれば組織がある場所に繋がる。

「組織にある能力者管理部に鍵があるから、まずはそれをとってこないとなんだよね。この後、Aクラスの施設に行くから結構ハードになるよ」

「能力者管理部?」

 佐久間に以前組織の中を聞いた時はそんな部署はなかった気がする。

「色々問題がある能力者の監視、管理、必要があれば拘束する部署だよ。5階は情報管理中心で、6階が実務的な部署かなー。組織は行政とは分権されているけれど、この能力者管理部は繋がっている変わった場所だよ」

 5階……。たしか佐久間は、国家機密に関わるエリートが働いているらしいとだけ言って、具体的にどんな部署かは知らない様子だった。

 佐久間が人の話を聞いていない為に知らないのではなくて、たぶんエディの情報収集能力が高いのだと思う……たぶん。うん、たぶん、きっと。

「あ、もちろんこれは機密情報だからね。組織に所属している人も大半は知らないよー」

「そうなんだ」

「それに別の部署とかけもちしている人もいるから、誰が所属しているのか正確にはなかなか判断つけにくいんだよねー。少なくとも、佐久間みたいな確実に監視がつくオーソドックスなAクラスは、それこそ裏切る事ができないぐらい深くかかわっている部長ぐらいまで昇進しない限り知ることはないだろうね」

 もしかしたら佐久間が知らないのは馬鹿だからかもしれないと疑ったのが、エディにはばれているようだ。佐久間、疑ってごめんなさいと心の中で謝る。

 

「さてと。そろそろ来るはずなんだけど……、あっ、いたいた」

 エディはキョロキョロと見回すと、ニコリと笑って手を振った。誰だとそちらを見れば――。

「佐久間?」

 黒色のフードを被っている上に薄暗いのでちょっと顔が見えにくいが、ポケットに手を入れながら歩いてくる男は間違いなく佐久間だ。

「流石、影路ちゃん。この距離で良く分かったね。でも、あっちは愛が足りないなぁ。全然僕たちに気が付かないなんてさー」

「それは私が、能力を発動してるから」

 【無関心】の能力は完璧ではないけれど、きっかけがなければ解ける事もない。その状態でこちらに気が付けと言う方が無茶だ。

「いや。佐久間には、愛が足りないね。だからヘタレなんだよ。おっと、なんか悪口を言われたような気がしたのかな?」

 佐久間が私たちの近くでキョロキョロと見渡し、釈然としないような感じで首をかしげている。

「敵意だけじゃなくて、悪意でも能力が薄れるかも……。強い感情が弱点だから」

 殺意などは確実に駄目だが、どのあたりまで大丈夫というのは基準が作りにくいので、実験をした事はない。その為具体的に、これはしては駄目というのが上手く説明できなかった。

「じゃあ、愛が足りないのはこっちって事かなー」

 エディに言われて、私はドキリとする。私は佐久間が好きだ。でもまるでそれほどでもないと言われたような気がした。

「よし、じゃあ突撃!」

 しかし私の動揺に気づく前にエディは佐久間にタックルをかまし、佐久間の悲鳴が暗い闇の中に響いた。

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