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反逆者の恋(2)

『エディへ。影路の事が知りたいなら、連絡してこい』


 俺はそれだけメールして、組織の方へ向かう。交通網は、怪盗見たさで出歩いている人で混雑している為、明日香に言われた通り空を飛ぶ事にする。

 一度自宅へ戻り、バイクを持って来たので、バイクに乗っての空の旅だ。バイクなしで空も飛べるのだが、何となく落ち着かないので風の上をバイクで走るという方法をとる事が多い。それにバイクがあれば道路も走れるから便利なのだ。

「皆暇だよなぁ」

 こっちは寝不足な上に、一日中動き回っているっていうのに。


「ふぁっ……眠っ――うおっ」

 居眠り運転ではないが、あくびをしながらぼんやり空の旅をしていると、突然携帯電話がけたたましくなり、俺はバランスを崩しかける。

「もしもし?!エ――っと」

 エディかもしれないと思い慌てて出たが、明日香や、別の人の可能性もあるわけで、俺は咄嗟に誤魔化す。

『佐久間さんですね。春日井です。今、電話は大丈夫かしら』

「ぶ、部長?!」

 今度はバランスを崩して横転しかける事はなかったが、声が裏返える。危なかったぁ。明日香ならまだしも、春日井部長にエディだなんて声をかけたら、根掘り葉掘り聞かれるところだった。

『はい、そうですが。今は電話は問題かしら』

「あっ、いえ。大丈夫です」

 運転しながら電話をすると警察が煩いが、幸いここは警察も通りかからない上空だ。違反で切符を切られる事もない。

『先ほど瀬戸さんから、佐久間さんが影路さんの親にあったと聞きましたが、何か言われましたか?』

 春日井部長はいつも通りのクールな口調を崩さず、俺に問いかけてきた。……本当に影路の親なんだよな?

 あまりに普通すぎて、実は同姓同名の無関係という可能性はないかと思えてくる。でも、わざわざ電話をかけてくるぐらいだから、特別扱いはしている……よな?

「いや。えっと。組織で働くかどうかは、影路の意志に任せるとしか」

『そうですか』

 やっぱり、声のトーンに変化はない。

『影路さんはどう言っていますか? 今は近くに居ますか?』

「いや。俺一人ですけど……」

 そう言うと、舌打ちが聞こえた。その音にビクッとする。


 えっと。でもとっと待て。春日井部長が……舌打ち?

 あの冷静冷徹氷の女王的な【雪女】の能力を持つ春日井部長が? 本当に、今の部長は冷静なのか?

「あ、あの……部長?」

『今すぐ影路さんに会いに行きなさい』

「何故ですか?」

『先ほど明日香さんから連絡があったと思いますが、今大変な事になっています。彼女の力を借りたいと思います』

 おかしくはない……よな?

 影路は一度怪盗から王冠を守り切った事があるぐらいだし、色々役に立つと思う。でも、ちょっと待て。何で俺が影路との連絡手段になっているんだ?

 春日井部長が慌てていて、人員集めを俺たちに任せてるとか? ……いや、だったら、明日香の方に先に影路に連絡をとるように言わないか?


 考えれば考えるほど、訳が分からなくなる。

「……あの、影路の親の話を聞きました」

 考えをまとめる為の時間が欲しくて、違う話をあえてぶつけてみた。もしも本当に親なら、少し位動揺するだろう。

『それが、何か?』

 ……動揺を感じられないんですけど。

 でもこの冷静さ、影路と似ていると言えば似ているかもしれない。影路もこういう時、俺よりも度胸がある。

「影路の産みの親は、育ての親とは違う人なんですけど……影路の事で相談するなら生みの親にも連絡した方が……」

『彼女の戸籍では、現在影路家の養子となっています。生みの親の意見は関係ありません』

 だよなぁ。

 赤ん坊のころしか会った事ない親など関係ないと言ってしまえばそれまでだろう。うーん。こうまどろっこしく聞くのが不味かったか?

 春日井部長が産みの親じゃないんですか? とスパッと聞くべきだったのか?


『ですが、貴方は生みの親と話がしたいのですね』

「えっ。あ、はい」

『では、何が聞きたいのです?』

 ……本当に、本当にこの人影路の親なんだよな。

 堂々と尋ねられて、言っていいものかどうかを悩む。でもすぐに、聞いてしまえと考えを切り替えた。ここで聞いたところで、困った事にはならないはずだ。

「影路を里子に出した理由が聞きたいです。何か【予言】が関わっているらしいですが」

 影路と別れなければならないほどの予言とは何だろう。

 電話からの声が途絶え、俺のバイクのエンジン音だけがやけに大きく聞こえる。……もしかしてタイミングよく電波が届きにくい場所に来てしまったとか?

 続く沈黙に俺は慌てた。折角勇気を出したのに。

「あの。もしもー―」

『滅びの予言です』

「えっ?」

 滅び?

『生まれた時に一方の子供がこの世界を壊すという予言が読まれ、力が強い子の方がその予言の対象だと考えられました。だから関係ないと思われた子供を養子に出して遠ざけました。そうすればもしも、もう一方の子供が予言の子と思った人がいたとしても、すぐには探せないでしょうから。私と彼女の繋がりは既に切れています。ちなみに里子と、養子は色々意味合いが違いますが、法律的な説明もしましょうか?』

「あ、それはいいです」

 俺の頭はそれほど良くないので、たぶん法律なんかは理解できない気がする――ん?

「あれ? 今、私って……」

『生みの親に聞きたいと言ったので答えましたが』

「えっあ……ええっ?」

『名前を伺わなかったんですか?』

「いや、聞きましたけど。えっと、いや……あっさり返事が返って来ると思わなくて」

 ドキドキと心臓が鳴る。不意打ちが多いというか、ワザとやっているのだろうか。

「――本当に親なんですよね?」

『血のつながりだけで言えば』

「遠ざけたかったんじゃないんですか?」

 そう。

 影路を預けて遠ざけたかったのではないだろうか。でも今やっている事は遠ざけるとは反対の事だ。


『私は組織の人間であり、Aクラスの人間です。国の為に、彼女の能力が必要ならば、致し方がありません』

 ピシャリと春日井部長は言い切る。

 Aクラスだからって……組織の人間だからって、それはいくらなんでも冷たすぎるんじゃないか?

『とにかく、影路さんに会いに行きなさい。いいですね』

「ちょ、春日井部長?……切れてる」

 画面には通話終了の文字が浮かんでいて、俺は肩を落とす。確かに、冷静冷徹氷の女王な人だけど、親だったら、もう少し何かあってもいいんじゃないか?

 ……いや。でも、親なんてそんなものなのか?

 ふと自分自身の親に当てはめて、俺の親が俺の為にどこまで動いてくれるか分からなかった。Aクラスは幼い時から施設で育ち、親と一緒に生活する時間は制限される。その為どうにも組織で一緒に過ごした仲間の方が親よりずっと気易かったりするのだ。

 でも影路の親子を見て……俺たちがおかしいんじゃないかとも思えて……Aクラスはまともな家庭なんか築けない気がしてきた。

「でも、……子供だろ?」

 子供より、組織や国の方が大切なのかよ。

 俺は……どうなんだ? 何かあった時、俺は何を選ぶ?


 どこへ行くべきなのか分からず、途方に暮れてバイクで適当なビルの屋上に降りた。影路の所へ行けと言ったって、今影路がどこに居るのかもわからない。春日井部長だってこうなる事は分からなかっただろうと思っても、もっと早く言ってくれと思ってしまう。影路の所へ向かえって、今俺だって探している最中なのに――。

「あれ?」

 元々俺は影路を探していたんじゃなかったか?

 そう。千春ちゃんに手紙をもらって、急いで連絡をとって――でも、影路は電話に出なくて。千春ちゃんが居た時、確か春日部部長はいて――。

 そう言えば、最初から春日井部長は影路の事を気にしていたじゃないか。

 本当に春日井部長は、国とか組織とかそういう建前を考えて影路を連れて来いと言っているのか? そうじゃなくて、影路を俺に保護しろって言ってるんじゃないか?

 俺がいいように解釈しすぎなのかもしれない。

 でももしかしたらと思ってしまう。千春ちゃんにあの手紙を書かせたのは、春日井部長じゃないかと。


 パンッ。


 俺は自分の頬を叩いた。そもそも俺は頭が悪い。これは悲しい事に誰もが認める事実だ。そして、俺は無性に眠い。寝不足な上にたらふく食べたおかげで、腹の皮が張ったぶん、目の皮がたるんでいる。

 そんな俺が考えたって仕方ないだろ。

 だったら馬鹿なりに考えた、いい解釈で動けばいい。どうせこれ以外の事なんて思いつきもしないんだから。

「できない事は頑張るんじゃなくて、補いあえばいいんだよな。うんうん」

 いや、多少は脳みそ使うべきかもだけど。まあ、そこは置いておこう。

 まずは頭脳派の影路かエディを仲間に引き入れるべきだ。明日香は……俺と50歩100歩だと思うので置いておいて。

「とにかく、エディ。いい加減連絡よこしやがれってんだよ」

 俺は苛立ちながら、電話をかける。

「どうせ2ちゃんねるで釣り師ぐらいしか、やる事ないだろうが」

『失礼きわまりないなー。エディさんも、そんな風に言われたら、激おこスティックファイナリティぷんぷんドリームだよ』

「へ?」

 いつも通りこの電話は電波が――というお姉さんのアナウンスが入るかと思えば、エディの声がして俺は戸惑った。

 いや、いい加減電話に出ろと思ったけど――えっ?

『だから、激おこスティックファイナリティぷんぷんドリームだよ』

「そんな話は聞いてねぇ」

『だったら、2ちゃんねる以外での僕の活躍かい? まず飛べない鳥の2次ファンサイトを巡るだろ――』

「それも聞いてない……ってか、何で出るんだよ」

『メールして、電話かけてきたのはそっちだろ?』

 いや、そうなんだけど。

 何か、釈然としない。


『それより、今、どこに居るんだい?』

「それは俺のセリフだっての。お前、どこに居るんだよ?!」

『んー。そうだなぁ。とりあえず、質問を質問で返すなー!』

「は?」

『なんだい。佐久間、ジョークが分からないとモテないんだぞ』

 この野郎。

 どこまでもいつものエディ過ぎて、俺は何だか笑えた。笑っている場合じゃないと分かっているが、ほっとする。

『とりあえず、あまりに落ち着いてるからさー、どこに居るのか気になったんだけど』

「落ち着いてないし。……今、俺はえーっと、どこかのビルの屋上? えっとちょっと待てよ。なんか目印は――」

 そう言えばここは何処だ?

 俺はフェンスの方へ向かう。それにしても、ここはすごく暗いな。屋上だから街灯はないのは当たり前だけど。でも下を見たら知っている建物があるかもと思い舌を見下ろして……固まった。

「――何だよこれ。何で真っ暗なんだ?!」

 俺は畑や田んぼばかりの農村なんかに来てないはずだぞ?

 そう思うが、ビルの下は真っ暗で、車のライトしか光がない。


『ばーか』

 電話の向こうで飽きれたようにエディが暴言を吐く。

 でも馬鹿と言われても仕方ないかもしれない。こんな異常事態に気が付かなかっただなんて。

『怪盗Dが、まずこの国の光を盗んだんだよ』

 エディの言葉を、俺は呆然と聞いた。

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