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母校の恋(9)

『この電話番号は、電源が入っていないか電波が届かない場所にあるため――』

「やっぱりダメかぁ」

 施設を出てから影路に何度か電話をかけているが、連絡が取れなかった。影路の場合、【無関心】の能力を使っている時は携帯の電源を切っている事が多いので別におかしなことではない。

 しかし、千春ちゃんから貰った手紙を考えると、不安になる。

 俺は少し考えて、電話をする先を変えた。


 数回コール音が鳴った後、今度は繋がり、少しだけほっとする。

『もしもし』

「もしもし、明日香。今、どこにいる?」

『……どこって、家だけど。そういえば、無事に退院できたのね。おめでとう』

「影路と一緒にいたりしないか?」

『綾? いいえ。会ってないし、今日は約束してないけれど……。綾がどうかしたの?』

 やっぱり、都合よく明日香と一緒ということはないか。影路のことを相談したいが……。

「なあ、今から会えないか?」

『は? えっと、私昨日お酒を飲みすぎて――』

「俺が、お前の家に行くから。じゃあな」

『えっ。ちょっと――』

 俺は返事を聞かずに、電話の電源を切り、明日香の家に向かう為に、駅へ向かう。バイクがあれば簡単に行けるが、入院していた為、アパートに置きっぱなしだ。

 色々移動する事を考えると一度とりに帰るべきだろうか。


 そんな事を考えながら駅まで来ると、同時ぐらいに携帯が鳴った。ディスプレイには、明日香と出ている。

「なんだよ。今駅に着いたところだけど」

『さっき、学校の実習先で知り合った花園さんからメールが来ている事に気が付いたんだけど』

「花園? メール交換していたのか?」

『違うわ。部活で担当していた子達とアドレス交換していて、その子達に聞いて連絡してきてくれたみたい』

 たしか、花園はDクラスだから、部活をやっているような子達に連絡をとるだけでも大変だっただろうに。それでもあえて連絡をしてくるなんてどうしたのだろう。

「じゃあ、そっちについたらメールを見る――」

『それだと2度手間になるから、メールを転送するからそこで会うわよ』

「は? 2度手間?」

『アンタが電話してきたのは、綾の事でだったんでしょう?』

「ああ、まあ」

 具体的には言っていなかったが、何かを察したらしい。だけど、明日香に届いたメールとどういう関係があるんだ?

『とにかく、転送するから』

 そう言って、ブツッと電話が切られる。

 さっぱり理由が分からないが、どこへ行けばわいいか分からないので、諦めて駅の入口でメールを待つ。すると、少しして、着メロが鳴った。


【学校でお世話になった花園です】

 届いたのはそんな件名のメールだった。

【突然のメールすみません。以前学校でお世話になった、花園です。メールアドレスは、学校の友人から聞きました。許可も貰わず、申し訳ありません】

 少々堅苦しいぐらい丁寧な謝罪文が最初に綴られる。真面目な性格なのだろう。

【瀬戸先生が影路先生の友人だと聞いて、相談にのってもらおうと思い、メールをしました。実は、今朝、妹を探しに小学校へ行った先で、影路先生に会いました。少しだけお話したのですが、突然影路先生の前に黒色のワンボックスの車が現れて、影路先生を乗せて立ち去ったんです】

 影路を乗せて立ち去った?

 その言葉にドキリとする。千春ちゃんからの手紙は、危険と、影路の所に行けという内容。その危険と黒色のワンボックスが関わっていないとは限らない。

【しっかりと中は見えませんでしたが、運転席にはパンダのぬいぐるみがいたような気がします。影路先生が脅されている様子はなかったのですが、何だか逃げるように車が走り去っていったのが気になって……。どうしたらいいのか分からなくなってメールをしました――】

 パンダ。

 その言葉で思い浮かぶのは、最近音信不通の相手。きっと、明日香も同じことを考えただろう。ただし、着ぐるみはエディでなくても着る事ができるので、絶対エディとは限らない。

 メールには、学校名と住所が書かれていた。明日香はここで落ち合おうと言ってるのだろう。

「一体、何がどういう事なんだよ」

 何で、ここでエディが出てくるんだ。

「訳分かんねぇ」

 俺はぼやきながらも、まずは学校をネットで調べた。




◇◆◇◆◇◆◇◆




「明日香っ!!」

 ナビが示す学校へ着くと、既に明日香は校門の前に居た。その隣に、花園と小学生の子供がいて、花園が頭を下げる。

「すみません。足を運んでいただいて。どうしたらいいか分からなくて」

「遅いっ!!」

「遅いってなぁ」

 遠い場所に居た上に、乗り物が何もなかったんだから仕方ないだろ。電車とバスを使わないといけない場所――といっても、それはいいわけか。

 明日香も昨日はお酒を飲んでいたと言っていただけあって、目が赤い。きっとギリギリまで寝ていたのだろう。急いで準備してここへ駆けつけたに違いない。

「……悪い。それで、影路と花園が会ったのはここでいいのか?」

「はい。偶然ここで会ったんです。楓も実は学校の中で影路先生と会っていたみたいで。ね、楓」

「うん。盗賊……じゃなくて、か、影路お姉ちゃんと、ここで会ったよ」

 ここって、小学校?

 一体、影路はこんな場所になんの用事だったのだろう。しかも、今さりげなく楓……ちゃん? が盗賊という単語を使った。盗賊って、いわゆる泥棒の事だよな。

 どうして影路がそんな風に呼ばれているのだろう。

「綾が何をしていたのか分からないけれど、楓ちゃんが会った時は、野球クラブの友達に、女盗賊って呼ばれていたそうよ」

「小学校で何をしていたんだ?」

 影路は悪い事をしないと思う。でも誰かの為なら、とんでもない行動力のある奴だ。俺もそんな影路に何度か助けられた。

 だから今回も同じ可能性が高い。

「そういえば、エディが現れたって本当か?」

「えっと、ウオーカーさんか分からないんですが、数日間だけ転校してきた時に着てみえたパンダの着ぐるみに似ていた気がして……。それで、あの。影路先生を乗せた後は、連れ去るみたいに凄い勢いで車を走らせて行ったんです。でもウオーカーさんは、まだ免許は取れないと思うので、違うかも……」

「いや、エディなら乗り回していてもおかしくないな」

「私もそう思うわ」

 確かにエディは、年齢からすると、まだ免許が取れる年齢に達していない。でも運転免許所云々でエディが車に乗るのを躊躇するとは思えなかった。「ゲームでは何回か乗ってるから大丈夫さー」とか「アメリカで乗った事があるんだよねー」とか適当な事を言って、乗っている姿が想像できる。


「一応確認するけど、影路は車に連れ込まれたわけじゃないよな」

「はい。影路先生から乗ったように見えました」

 影路が自分から乗り込んだのだとしたら、きっとエディで間違いないだろう。ただ分からないのは、影路が学校の中に何故居て、その後エディの車にどうして乗り込む事になったかだ。

 そもそも、俺は夏以来エディといまだに連絡がとれていない。影路は何も言っていなかったが、もしかしてエディと連絡を取り合っていたのだろうか。だとすると、影路が学校の中に入って何かを盗み出したのも、エディが関係するのだろうか。

 分からないことが多すぎて色々もやもやする。

 千春ちゃんの手紙が、エディとは関係しないといいのだけれど。

「そう言えば、佐久間はどうして綾と連絡をとろうとしていたの? 電話がつながらない事はよくある事だから、そんな事で私にまで電話をしてくる事はないわよね」

 俺はまだ明日香に手紙を見せていない事を思い出し、鞄の中から取りだした。

「以前、遊園地で誘拐に会った子で千春ちゃんって子がいただろ。その子とたまたま会う事があって、私の気持ちだと言って、これを渡されたんだよ」

「私の気持ちって、えっ? ラブレターもらったの?!」

「ち、ちげぇ。俺はロリコンじゃないから。10歳以上年下の女の子に手なんかだしてないからなっ! 俺は、ちゃんと胸があるセクシーダイナマイトなお姉様の方が好みで、つるペタには興味はこれっぽっちも――」

「はいはい。そんなの分かってるわよ。そもそも、あんな小さな子の告白を真に受けて本当に付き合う事になったらキモイわよ。ただ必死に言い訳すると、余計にそれっぽいから止めなさい。花園さんもドン引きしているわよ」

「えっ」

 俺が花園の方を見ると、何故か最初より距離をとられていた。しかも楓を背後にかくす。えっ。何で、否定したのに、どうしてこの扱い?

 えっ。そんな性犯罪者みたいな目で見ないでくれ。

「いや、本当に、無実だから――」

「別に佐久間がロリコンだろうとそうでなかろうと、どうでもいいわよ。それで、この手紙は私が読んでもいいの?」

「ああ。それに対して感想が欲しい」

 どうでもいいって、ひでぇと思いつつ、俺は明日香に手紙を渡した。今は、俺の名誉よりも影路の方が大切だ。


「ふーん……。なるほどね。確かにこれは、すぐに綾と連絡が取りたくなるわね」

「えっ、そんな大告白なんですか」

「ええ。間違いないわ。ちょっと花園さんには見せられないぐらいのものね」

「おいっ」

 嘘つくなと言いたかったが、今もまだ、千春ちゃんが口答ではなく手紙を使った理由が分かっていない為、ラブレターではないとは言えない。

 そして、もしかしたらラブレターと花園さんに思わせておいた方が、色々安全かもしれない。花園さんも、千春ちゃんも……影路も。この会話が聞かれていないとは限らない。

「とりあえず、綾の件はこっちで何とかするから、花園さんと楓ちゃんは、一度帰りなさい」

「すみません。ほら、楓も」

「僕、何も悪い事してないよ」

「別に謝る必要はないわよ。むしろ、感謝しているぐらいだから。ただ、えっと。妹さんじゃなかったかしら?」

 半ズボンにTシャツ姿だったのでどちらか分からないと思っていたが、そう言えばメールには妹と書かれていた気がする。髪は長いわけでも短いわけでもないので、分かりにくいが。

「家族に、女なんですが僕という一人称を使う子がいて。それで、楓も真似してしまって」

「ああ。そうだったのね」

「じゃあ、すみません。失礼します」

「ええ。さようなら。楓ちゃんもバイバイ」

「あっ……バイバイ」

 明日香が手を振ると、楓もおずおずとしながらも手を振り返したので、俺も手を振った。

 その背が曲がり角で見えなくなるまで手を振っていると、ぐいっと明日香が俺の腕を掴んだ。

「佐久間、とりあえず一度組織に行くわよ」

「……そうだな」

 何故と思ったが、組織に行けば盗聴されているかどうかを確認する事ができる事を思いだした。今のままじゃ分からないことだらけだ。とにかく1つずつ片づけるしかないと思い、俺は明日香と共に移動を開始した。

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