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母校の恋(5)

 ピピー。

『ニンショウ。ロックカイジョ』

 指紋認証後に、眼球認証まで行ってようやく門のロックが空き扉が開いた。相変わらず厳重と言うか、面倒だなと思うが、Aクラスの子供を守る為の決まりだから仕方がない。

 Aクラスの子供が生活している場所は高い塀で囲まれ、入口は西門と東門の2ヵ所だけに限定される。更にAクラス以外が入れる門は西門だけ。またAクラスの子供はここから出る事もあまりなく、出るには許可が必要だ。

 これだけ聞くととても狭く、閉鎖的な施設を一般人は想像するようだが、中の敷地は広く、多くのAクラスがここで生活していた。施設とはいうが、1つの町がそこで形成され、特に暮らす上では不自由はない。勿論買い物もできるし、カラオケやゲーセンだってある。本当に、外の世界と遜色のない町だ。


 俺の様に外の世界に出ていき、そこで生活するもいるが、再びこのAクラスの町へ戻ってくるものもいる。能力の種類によっては、この町から一生でない者もいた。それはAクラスを守る為でもあり、他のクラスを守る為でもあると授業で習った。Aクラスの能力は他者を傷つける可能性が高く、それは両者を不幸にするだけだからだと。

「お兄ちゃん、早く!」

 一足先に施設の中に入った千春ちゃんが、手を振りながら俺を呼ぶ。

「はいはい」

 俺が中へ入ると、鉄の扉が自動的にしまった。そしてその隣に警備員が立つ。……まあ、この光景を見れば、誰だって閉鎖的と思うわな。

 ただ最近、今まで関わる事のなかった別のクラスとも喋るようになって、本当にここまでの事が必要なのだろうかと思うようになった。勿論上手く能力が使いこなせていないAクラスは危険以外の何物でもない。でも世の中はAクラスだけでできているわけでもないし、能力を無効化する能力者だっている。ここまでする事が何だか不思議な気がした。

「とりあえず、学校に行けばいいんだよな?」

「うん。外出許可書を返して、後、スタンプカードにハンコもらうの」

「スタンプカード?」

「これだよ。100個ためたら、パパに会えるの」

 千春ちゃんは斜めにかけていた小さなカバンからノートのような物をとりだして俺に渡した。

「……組織の仕事を手伝ったら判子が貰えるのか?」

「そうだよ」

 ノートには2つ判子が押されていた。100個となると、かなり時間もかかるだろう。

「悪者をたくさんたおしたら、おねがいごと聞いてくれるって先生が言っていたの。だからパパに会いたいっておねがいするの」

「叶うといいな」

「うん」

 無邪気に笑う千春ちゃんの頭を撫ぜる。

 本当に父親に会いたいのだなと思う。ただ、まだ6歳の子供が、危険が付きまとう組織の仕事を手伝っているのは若干どうなのだろう。

 それだけ優秀という事なのだろうけれど……何だか急ぎすぎじゃないかとも思う。


「ちょっと切符買うから待ってろ」

 俺は学校へ行くために、モノレールの切符売場へ向かう。

 施設の中の長距離の移動手段は、バスか環状の電車となっている。今から向かう学校は、電車の学園前が最寄りの駅になる為、東門からも近い電車に乗る事にした。

 久々に来たけれどあまり変わっていないなと思いながら切符を買い、千春ちゃんの所へ戻る。

「行くか」

 千春ちゃんは定期を使って電車に乗り込む。電車は15分置きに動いており、ちょうどこの駅に来たところだったので、俺たちはそのまま乗り込んだ。

「お母さんとは会えてるんだよな」

「うん。でも、あまり来てくれないの。仕事がいそがしいから」

 6歳にしては落ち着きがあるのは、早く大人になりたいからなんだろうなと思う。そういえば、俺も昔は家族を恋しがっていたような気がする。とは言え、千春ちゃんほど優秀ではなく制御に時間がかかった俺が初めて施設外へ出れたのは、小学校の高学年と遅かった。

「そう言えば、お兄ちゃんはかのじょはいるの?」

「は?」

 唐突に千春ちゃんに聞かれて、俺は影路を頭に思い浮かべた。告白まではしたけれど……彼女かと言われれば、現在返答待ちで宙ぶらりんの状態だ。

 勿論彼女になって欲しいけれど、それは俺のただの願望だ。

「えっ、あっ。何で、突然?」

「おんなのかん」

 小学生に女の勘を語られるとは思ってもいなかった。しかも足をプラプラさせている様な子供に。

 俺、もしかして今、リア充オーラでも出ている?

「というか、お兄ちゃんわかりやすーい。かのじょはいないけど、好きな人はいるんだ。あーあ。お兄ちゃんが、私のうんめいの人だと思ったのになぁ」

 しかも、もうバレた。OKがもらえていない事まで。

 俺は顔をおさえる。そんなに俺は顔に出やすいだろうか。

「というのは、うそだよ。ほんとうは、さっき、土方お姉ちゃんにおしえてもらったの。お兄ちゃんはすでに好きな人がいるって」

 アイツ、勝手に人の事を教えやがって。

「どうしてそういう嘘をつくんだ」

「土方お姉ちゃんが、ほんねを聞きたい時は、しんらいさせるか、どうようさせるかの2たくだっていってたから。ちなみに土方お姉ちゃんは、どうようさせる方が好きなんだって」

「いや、アイツの性癖はどうでもいい」

 むしろ聞きたくない。どこまでが本当で、どこまでが冗談なのか分かりにくいから。趣味、拷問と言っている様な女はまずもって普通ではない。

「お兄ちゃんの好きな人はどんな人なの?」

「別に、そんなの知ってどうするんだよ」

 小学1年生の子に、恋愛相談をする大学生は、いささか痛い。これも土方が一枚噛んでいるのか、どうなのか。


「私の心をぬすんだんだもの。んと、しゃくめーぎむがあるの」

 釈明義務って、分かって言ってるのだろうか。

 土方の入れ知恵っぽいが、まあ学校につくまでの間なら別にいいかと思う。実際俺には恋愛相談をする相手がいないのだし、ちょうど俺の気持ちも整理させるのにいいだろう。

「俺の好きな人は影路綾って子で、ほら。遊園地の時に清掃員の恰好をしていた女の人だけど……その様子だと覚えてないよな」

「ごめんなさい」

「謝る必要はないさ」

 影路は終始【無関心】の能力を発動していたし、千春ちゃんは千春ちゃんで大変だったのだ。そこまではっきり覚えてはいないだろう。

「Aクラスの人?」

「いや。Dクラス」

「Dクラスなのに好きなの?」

「好きになるのに、クラスなんて関係ないからな。ここはAクラスばっかりだから、よく分かんないだろうけど。Aじゃないから劣ってるとか、そういうのはないからな。逆に俺が影路に助けられてばかりだったりするぐらいだし」

 ここに居た頃は、俺はAクラスだから弱い人達を守らなくてはいけないと思っていた。実際、今でもそうだ。まるで正義のヒーローのようで恥ずかしいが、俺がこの能力なのはきっと誰かを守る為にあるのだと思っている。

 でも影路と出会って、俺の力とは全然違うタイプの能力を見てから、俺は確かに強いけれど、Aクラスでなければ強くないというのは間違っているのだと思うようになった。勿論影路を守りたいけれど、影路は守られなければならないほど弱くはない。むしろ、ずっと強い。


「うーうん。分かるよ。だって、パパは強いもん。いつだって私を守ろうとしてくれるから」

「そういう事。影路はいつも支えてくれて、強くて、優しくて、不器用で、守らなくても大丈夫なんだろうけど、やっぱり守りたくなるんだよ」

 影路は基本1人で何でもできる。でも俺が1人にしたくない。

「かげろお姉ちゃんは、心がつよくて、お兄ちゃんを助けてくれているの?」

「まあ、精神的に強いのは間違っていないけど、頭もいいし、能力だって凄いんだぞ?」

「Dクラスなのに?」

「影路の【無関心】は、影を薄くしてどこにでも入り込めるだけの能力だって言われてるけど、それだけじゃなくてな、他にも――」

 影路の能力は改めて考えると、普通ではない。キスだけでその能力の範囲を広げ、血を使えば他者への能力付与もできる。それは人、物、関係ない。もちろん俺はそんな事できないし、いまだかつてAクラスでは聞いた事がなかった。

 だから影路には、クラスの見直しをするように勧めたのだ。少しでも影路の事を皆が分かるといいと思って。

 もしかしたらDクラスは、同じ能力の持ち主が圧倒的少ないから使い方が分からないだけで、本当は凄い能力者も多いのかもしれない。つい先日の赤ん坊だってDクラスの【夢渡り】の能力だったにも関わらず、あんな事件を引き起こしたのだから。


『次は、学園前。学園前――』

「――っと、もう、降りないとだな」

 喋っていて乗り過ごしてはいけないと、俺は立ち上がりドアの前へ向かう。

「千春ちゃんも」

 声をかけると椅子に座ったまま俺を見上げる千春ちゃんの目が、何故が揺れた。俺が差し出した手を恐る恐ると言う様子でつかみ、立ち上がった。

「……ごめんなさい」

「ん? こういう時は、ありがとうって言っておけよ」

「お兄ちゃんは、かげろお姉ちゃんが好きなんだよね」

「おう」

 気恥ずかしいが、嘘をついても仕方がない。どうせバレているのだしと開き直り、俺は笑顔でそう伝えた。

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