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コスプレーヤの恋(7)

「――という作戦でどうかと思うけど。どう思う?」

 怖い。

 とてつもなく怖い。

 足がぶらぶらする。

「影路?」

「えっ? 何?」

 しまった。

 恐怖に打ち勝つ事ができずに、佐久間の話をあまり聞いていなかった。私は地面に下ろされてから、その失態に気が付く。


「とりあえず、俺は赤目の女の話を信じる事にした。きっと、パンダは、ここに現れるはずだ」

 ……えっと。

 最初の話がみえていないので、現在の佐久間の話もあまりよく理解できない。そもそも、パンダがここに現れるって……ここは何処なのだろう。

 改めて落ち着いて周りを見れば、そこは会場のイベントステージがある場所だった。今は休憩時間に入っているようで、ごちゃごちゃと荷物が行き来しているが、先ほどエディに見せてもらった電脳少女が歌って踊っていた場所だろう。

 少女に合わせて踊っていた人達も一時的に途切れている。

「信じるというのはどの辺り?」

「パンダは【繊細で寂しがりやで臆病】なんだろ? という事は、ただやみくもに追いかけても駄目だって気が付いたんだ。きっと寂しがりやなら、追いかけなくなったら、絶対人恋しくなってまた出て来ると思うんだよ。そして、人が一番多いといったら、この場所だと思うんだ」

 確かに。

 あのドリームと名乗った少女は、場を混乱させて楽しむという少々歪んだ嗜好をしているようだったが、パンダの話などに嘘はないだろうと思う。私を【王冠】と呼ぶ理由はまだ正確には分からないが、パンダがいる事を教えてくれた事と早めに逃げるように伝えた事を踏まえれば、嘘を教える必要はない。

 例えあの子が、怪盗という犯罪者の仲間だとしても、情報を全て受け入れないというのは間違っているだろう。ただ今は佐久間に彼女が怪盗だったと伝えれば混乱が生じそうな気がする。

 だとすれば、この事件が終わるまでは、あの少女が何ものだったかは伝えない方が良いだろう。

 エディと彼女を2人きりにしてしまったのが気になるには気になるが、あの様子だとドリームがエディに危害を加える事はないと思い、ひとまず後回しにさせてもらう。


「この次のイベントは何があるの?」

「えーっと、12時から1時までは休憩みたいだな。その後声優のトークショーが入って、次にぐ○と○らのパンケーキ!っていう、巨大パンケーキ作りのイベントだってさ。これが2時からスタートって書いてあるな」

 佐久間はポケットに丸めて突っ込んであったらしい予定表の皺を伸ばしながら読み上げる。どうやら冊子から破りとったらしい。

「佐久間、見せて」

「おう」

 手渡された予定表を見ると、途中途中休憩時間を挟みながらイベントは最後まで決められているようだ。

「この、ぐ○と○らのパンケーキって、ここで焼くの?」

「ああ。俺もそれが爆発の原因かと思って心配したんだけど、温度を操る系の能力者が巨大フライパンを熱する感じだから、比較的安全なんだとさ。ガスを使うわけじゃないからガス爆発もないし、火事にならないように消火器も念のために設置してあるって」

 温度を操るタイプの加熱なら、オール電化のようなものだ。確かに爆発などは起こりにくい。

 でも開始時刻が爆発予定時刻に近いのが気になる。パンダと巨大パンケーキと爆発。パンダは【加熱】か手に火を灯せるような能力を持っていて……。

 どこかで繋がらないかと現在ある情報を片っ端から整理する。


「今、ちょうど荷物の運び入れが行われててさ。さっき卵を運んでいる人にあったけど、結構な量だったぞ」

「そんなに大きいのを作るんだ。卵は小麦粉100gに対して1個ぐらいでいいはずだし」

「あ、もしかして卵が爆発するとか? ほら、よく電子レンジで爆発させるだろ?」

「よくはしないと思うけど……それほどの威力はないし。そもそも条件が揃わないと爆発しないと思う」

 いや、いくらなんでも、卵が爆発しましたというオチはないと思いたい。

 それに実際あったとしたら、それはそれで恐怖だ。卵が爆発するという事は、電子レンジや圧力鍋などの加熱が行われたということで……。そういう調理器具を使って起こるのだったらいいが、そうではない場合、この会場内でそういう能力が使われたということになる。

 人間を電子レンジに入れてはいけないのと同じことで、そういった能力をこんな人が密集する空間で行われると思うとゾッとする。

 でもその場合、多分爆発の予知ではなく、事件的な予知にならないだろうか。ただしそれも、見え方次第では、なんとも言えない。エディが言った予知は曖昧というのが良く分かる。

 そして予知で全てが分かるなら、エディが言う通り、この世界のすべての事故とか事件とか予知すればいい。でもそれができていない現実。


「佐久間。根本的な事を聞いてい良い?」

「いいけど、何だ?」

「【予知】や【予言】で、組織が動く事って多いの?」

「【予言】で極秘に動いて大きな戦争や事件、災害を最小限にとどめたってのは聞いた事があるけどそんなにはないな。【予知】の能力者が一斉に1つの事件を予知するってあまりないし。俺自身は始めてなんだよな」

 そもそも、未来というのは限りない可能性の一つだ。いくつもの選択肢の選び方で何十通りもの未来ができる。【予知】はその中で、一番確立が高いものを見極めれる能力だと私は捕えている。

 ただし確率を見極めていけるだけなので、絶対の未来もまた存在しない。絶対になるのは、現在から過去に行く過程だけだ。

 

 以前予知について調べた事もあったが、そもそも予知はとても曖昧な分野でもあり、人によって見えるものが違う。姉の様に結婚などの未来しか見えない者、対象者の未来を断片的に見る者、ストーリーとして見る者……では、今回はどれに当てはまるのだろう。

 事故や事件を見る事ができる【予知】というものが存在するのだろうか。答えは、否。偶然見えてしまう事はあっても、それだけを見る事ができる能力は今のところ確認されていない。もしくは秘匿とされている可能性も無きにしも非ずだけれど、そうすると、どうして凶悪犯罪や大規模な事故などを回避しないのかという話になる。

「ねえ、佐久間。今回に限ってどうして何人もの人が【予知】しているんだろう」

「えっ? 偶然?」

 能力というのは、大抵が自分の意志で発動させる。姉の場合も同じだ。常に未来を見ているわけではない。

 虫の知らせで、全員がこの場所を【予知】しようと考えた?


 私はある事に気が付いて、急いで携帯を取り出すと、エディに電話をかけた。

 エディは今もドリームと居るのだろうか? コール音を重ねるたびに、少しづつ不安になる。やはりエディとドリームを2人っきりにしてしまったのは不味かっただろうかと。

『もしもし』

 11回目のコール音で、電話が繋がった。

「エディ。答えたくないと思うけど、答えて」

『あれ? ここは普通、『エディ、大丈夫?』とか、『まだドリームと一緒にいるの?』とか、そういう優しい言葉が聞けると期待したんだけどなー』

 電話越しのエディの声は、そこまで暗くはない。エディがドリームとの会話で、どういう結論を出したかは分からないが、精神的に落ち込み過ぎているという事はなさそうだ。

「エディなら私と違って要領がいいから大丈夫だと思ってる」

『なにそれー。影路ちゃん優しくないー』

「私は元々優しくないから。だから、答えて。ドリームの能力は何?」

 

 彼女の能力は【予知】や【予言】ではない。それは彼女自身も言っている。

 では、何故今回の事を彼女は知っていたのだろうか? そもそも彼女の言葉で、今私達はこの良く分からない事件……始まってもいない事象の手がかりを掴めたような気になっている。

 そもそも、彼女は、混乱を楽しむタイプ。私が【王冠】であるから、逃げる事を選択できるように早めに外へ出る事を勧めてきた。でも組織から私を引き離したいと思うのに、あえて組織の手伝いをしようとするだろうか。

 エディは予知に関してはこうも言っていた。【どういう過程を踏んでその未来になるかが分からないからさ。僕らが動く事で、逆にその未来を呼び寄せてしまう事もありそうだし】と。

『……【夢渡り】だよ。Dクラスの能力で、他人の夢を覗き見たり、夢に関与できるだけの能力さ』

「ありがとうエディ」

 たぶん、それを伝えるだけでも、エディの中では何らかの葛藤があったと思う。でも教えてくれた。その事に感謝する。

『それでさ、それと今回の事が関係するのー?』

「たぶん」

『たぶんって?』

「ドリームはそこにいる?」

『もう帰っちゃったよ』

「だとしたら、予測の域を出ないから」

 私の考えた事が正しいかどうかの判断をつけられるのは、彼女だけだ。


「でも、たぶん。エディが言った言葉が正解なのだと思う」

『えっ? 僕、何か言ったけー?』

 エディの恍けたような言葉が聞こえるが、果たしてエディは本当に分かっていないのかどうなのか。エディは表情すら中々見せようとしない。臆病で繊細。でも寂しがりやだから、2次元が好きといいつつ、佐久間や明日香と一緒にいる少年。

「エディがどの立ち位置に今は居るのか分からないけれど……でも教えて。私は……佐久間や明日香はエディの仲間?」

 答え次第では、エディに頼る事はできなくなる。そうなったら、私も他の方法を考えなければいけない。

『違うよ』

 いつもの軽いノリで否定の言葉が聞こえて、私は目を閉じる。

 エディとドリームはかなり深いつながりが合うように見えた。確かにその絆に短期間の付き合いしかない私が勝てるはずはない。佐久間や明日香ならまだと思ったが……駄目だったか。

『影路ちゃんは友達だよ。だから安心して。今回の事件は、影路ちゃんの味方さー。というか、僕はすべての二次元の味方だからね。オタクの祭典を犯罪に利用するだけじゃなく、中止にするなんて、許されない事さ。大体、僕はまだ、嫁を買いあさってないんだよ。このままじゃ、激おこぷんぷん丸さ』

「げきおこ?」

『影路ちゃん、まだ若いんだから、ギャル語ぐらい知っておかないとー。それで、僕に何をやって欲しいの?』

 友達。

 その言葉が予想より嬉しくて、私は取り乱しそうになるが、冷静になれと自分に言い聞かせる。今は喜んでいる場合じゃなく、どうやって【爆発】という未来を完全排除するかだ。


「今回、イベント用に小麦粉がどれだけ買ってるか調べられる?」

『ちょっと待ってねー。えっと……あははは。馬鹿じゃないのって量だね。30kgも買ってる。あと、コーンスターチなんかも買ってるよ』

 ここには、【風使い】の能力者、可燃可能な粉、さらに火を起こすことが可能と思われるパンダが揃っている。そこから導き出される爆発をエディも同じく想像したようだ。コーンスターチもあるとわざわざ言ってきたということは、そういう事だろう。

「実際には見たことはないけど、小麦粉やコーンスターチがあるなら、この会場で条件さえ揃えば、【粉塵爆発】は可能だと思うけど、エディはどう思う?」

『可能だよー。粉塵爆発に必要なのは、乾燥した空気、空気中にある程度の密度で小麦粉が舞っている事、そして火の元があればばっちりさー。夏だから湿度があると思いがちだけど、影路ちゃんがいる会場は、ガンガンに冷房がかかっているから、比較的乾燥しているしねー』

 エディに肯定されて、私は粉塵爆発が起こる可能性に自信を持つ。実際に粉塵爆発がどれぐらいの威力となるのかは見た事がないので何とも言えないが、多少の爆発でも、人の心理に恐怖を植え付ければ大事故になる可能性は高い。それにここは紙などの燃えやすいものが多くあるのだ。それらに引火した瞬間、大惨事になる可能性は十分ある。

「私は佐久間に能力を使わないようにお願いするから、エディは明日香に連絡をとって、一度お客を外に――」

「影路、パンダがいたぞっ!!」


 えっ?!


 電話の途中だったが、佐久間の声に慌ててそちらをみると物陰からこちらを見つめるパンダの姿があった。

「じゃあ、影路。さっきの作戦通りな!」

 作戦?!

 さっきとはいつだと思い、それが低空飛行の旅をしていた、私の恐怖の時間の話だと思い当たる。あの時間、私はひたすら念仏を唱えていたので佐久間の話を聞いていなかった。

「待って、佐久間っ!」

 慌てて呼び止めるが、既に佐久間はパンダの方へ跳躍していた。明日香とは違い【超脚力】の能力はないはずだから、空気を圧縮させて飛んだ感じなのだろう。

「エディごめん、一度切る」

 通話ボタンを切ってポケットに突っ込みながら、私は走る。


「佐久間、駄目っ!!」


 私は必死に叫びながら、どうかこの声が佐久間に届けと願う。

 粉塵爆発の切っ掛け。小麦粉が空気中に舞うような事態を起こすとしたら、佐久間なのだ。

 そう。この爆発事故の予知は初めから、佐久間が関わったらが基盤としてできている。

 予知があったから佐久間がこのパンダとの追いかけっこを始めてしまったのか、それとも佐久間とパンダの追いかけっこは必ず起こる事象だから予知が生まれたのかは分からない。

 でもドリームは、予知が成功する確立を上げる為に近づいてきたのだ。パンダなどのヒントを出したのも、行動派な佐久間が能力をパンダに向けるようにしむける為。

 たぶん今回の予知が多数出たのは、ドリームが夢の中で、【予知】の能力者に何らかの働きかけをして、虫の知らせのようなものを感じさせたのだろう。もしかしたら最初は誰か1人が【予知】又は【予言】したただの可能性の一つだったのかもしれない。でもそれを知ったドリームが、騒ぎを起こす為に利用した。

 そして人為的に、【予知】の確立を上げたのだ。


「能力を使ったら駄目っ!!」


 時間はまだ爆発予定時刻よりも早い。でも、ドリームが強制的に爆破に繋がる選択肢へ導いてきた今、時間より早くすべての条件が満たされてしまうかもしれない。

 佐久間がパンダに手を向ける。

 私は必死に走り、パンダと佐久間の間に入って、パンダを抱きしめた。

「お願いっ!! 能力を使わないでっ!!」

 佐久間に叫んだのか、パンダに叫んだのか。

 自分でも分からない。でも今まで生きてきた人生の中で、一番声を張り上げたと思う。


「影路がそこまで言うならしょうがないな」


 ……ん?

 佐久間なら寸止めしてくれるとは思っていたけれど、何の風も感じなくて私は、内心おやっと首をかしげる。

 寸止めするにしても、もう少し風が吹き荒れていたっていいと思う。

「パンダよ。優しい影路に感謝するんだなっ! 影路に免じて、お前の命まではとらないでおいてやろう!」

 佐久間が劇のような、変な喋りをしてパンダに語り掛ける。

 何が何だか分からないまま、佐久間を見ると、佐久間が私にウインクした。……えっと。

「これからは、影路に助けられた命、大事にするんだな」

 ええっと……。

 もしかして、作戦って、泣いた赤鬼論的な感じ? 

 

 いつの間にパンダとのやり取りが、命の取り合いになっていたのかは分からないけれど、どうやら佐久間はパンダに私が味方であると認識させたいようだ。

 そっか。

 そうだよね。

 佐久間が、無暗に能力を使わなかったことにほっとする。どうやら、佐久間を舐めていたのは私の方だったみたいだ。佐久間は、ちゃんと自分の能力の危険さを知ってる。こんな人が多い場所で、能力を無暗にふるうわけがない。

「ミャァ」

 私が抱きしめたパンダが鳴いて、私は慌てて力を緩める。ちょっと力強く抱きしめてしまったかもしれない。

 でもパンダって、人の言葉を理解するのだろうか?

「そうか。改心するのか。いい心構えだ」

「ミャァ」

 パンダと佐久間が、何故か意思疎通できているのをぼんやりを見つめる。……でもパンダに罪の意識はまったくないと思うので、たぶん話は食い違っているんだろうなと思う。

 でも私が慌てたのが馬鹿馬鹿しいぐらいにあっさりまとまってしまい、気が抜けて、……腰が抜けた。


 動こうとして、全く動けない自分に気が付く。

 パンダを抱えながら、はて、どうしようかと考えていると、とうとつに火災警報器が鳴り響いた。

『火事です、火事です。誘導係に従って、外へ出て下さい。火事です、火事です――』

「皆さん落ち着いて、一度外への移動をお願いします」

 火事?

 スタッフの落ち着いた様子から、少ししてエディと綾が人を外へ出す作業をしてくれているのだと気が付く。

 ただしパンダにはそれが分かるわけではないので、耳をぴくぴくさせて周りを見渡す。この警報機の音が怖いのだろう。

「大丈夫だよ」

 言葉が通じるかは分からないが、パンダに話しかける。佐久間となんだか通じ合っている様な感じはあったので、このパンダは頭が良いのかもしれない。


「きゃっ!」


 パンダをなだめていると、警報機が鳴り響く中小さな叫び声と共に、ぶわっと白いものが舞い上がるのが視界に映った。

 ……嘘っ。

 音に驚いたからなのか、偶然だったのか。誰かが小麦粉がぶちまけられたらしい。果たして小麦粉の量は、どれぐらいで爆発を起こすものなのだろうか。燃えるには酸素が必要だから空気中に舞わなければ大丈夫なはず。……でも本当に?

 知識の上でしか粉塵爆発なんて知らない私は、自分の予想を肯定する材料を持ち合わせていない。

「大丈夫だから、お願い。能力は使わずにじっとしていて」

 音に怯えるパンダを抱きしめながら、目を閉じる。どうか、爆発が起こりませんようにと――。

 

「影路先生、大丈夫ですか?」


「へ?」

 目を開き顔を上げると、目の前に花園さんがいた。

「大丈夫です? 立てますか?」

 状況の変化に頭が上手く働かず、呆然とする。

 ……あれ?

「小麦粉は?」

 白いもやの様に舞い上がりかけていた小麦粉は今はなく……そういえば場所も違う。先ほどまでと違い、気温が高く日差しも強い――屋外だ。

 蝉が鳴く声が聞こえる。

「知恵ちゃんが【位置交換】の能力で影路先生と場所を交換したんです。ほら、ここのテレビ画面、イベントステージを映し出しているんです。知恵ちゃん、見える場所なら、どこでも【位置交換】できるので」

 巨大なパネルには、板井さん、佐久間、そしてスタッフの方が映し出されていた。爆発は起きていないようで、小麦粉をぶちまけてしまったらしい女性がしきりに謝っている。

 良かった。爆発が起こらなくて。


「ミャァ」


「えっ? パンダ?!」

 腕の中にいたパンダが鳴いて花園さんが驚く。

「本物ですか?」

「あ、うん。たぶん」

 いや本物なんだろうけど。でも、本物のパンダなんて、動物園でチラッと見たことしかないので、何とも言えない。

 それにしても持っているものも本人とカウントして、【位置交換】できるのか。そう言えばケイドロの時も素っ裸で移動させられている様子はなかったので、きっとそういう能力なのだろう。

 それにしても【無関心】の能力が、佐久間に叫んだ時に解けていて良かった。そうでなければ、私の姿は中々認識しずらかったはずだ。


「でも、どうして。……もしかして、エディか明日香に頼まれたの?」

「いいえ。赤い目の女の子に、影路先生が困っているから助けてあげてと言われて」

 ドリームが?

 あのまま、私があそこにいて爆発に巻き込まれたら困るからだろうか。それとも――。

 

 ――私は、慌ててエディに電話をかける。

『おかけになった電話は、電波の届かない場所にいらっしゃるか電源が入っていない為かかりません――』

 しかし携帯電話からは無機質な女性の声が流れ、そのままエディに繋がる事はなかった。

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