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コスプレーヤの恋(5)

「爆発って、どこで起こるのかしら?」

「爆発って言ったらガス爆発とかだよな」

 早口言葉でも、バスガス爆発とかあるぐらいだから、ガス爆発はメジャーだと思う。昔影路が、遊園地で何か別の爆発も言っていた気がするけれど、何だっけかなぁ。でも、あまり普段は起こらないものだった気がする。

「ガスって……あの風船を膨らませてるガスは爆発するのかしら」

「ありそうだよな。なんか昔映画で、飛行船が爆発したの見たことあるし。爆発原因が事故だったらあの辺りが危険だよな」

 とはいえ、事故なのか事件なのか分からないので、何とも対処が難しい。

 この分だと、2時までに全員を避難させるという方が早いかもしれないなぁと思う。とりあえず、運営の人に話は通したので、これから先会場に入る人は居ない。折角遊びに来た人には悪いが、入場制限という事にして、外で行われる催しの方へ行ってもらうようにしている。また整理券を配っておき、3時を過ぎても爆発がなかった場合は、中に入場して貰うようにはしておいた。できたら、何も起こらないのが一番だけど……。


「春日井部長には連絡してみたけど、組織の方もなんだか立て込んでいるみたいなのよね。【予言】の能力者による予言と【予知】の能力者数名が予想した事は聞けたけど、もっと細かく、どう言った予言か聞けるのはもう少し時間がかかりそうだし」

「爆発の方が絶対大変だってのに、優先順位がおかしいよな」

 何が組織で起こっているのかは知らないけれど、こっちはかなりの人数の命がかかってるんだぞと思う。そうは言っても、情報が中々入らないというならば、それで頑張るしかない。

「でもあれだけ慌ててるとなると、もっと大きな事件なのかもね」

「事件に大きいも小さいもないだろ!」

 というかこれ、十分大きいだろ。これより大きい事件って何という感じもする。

「事件は会議室で起こってるのかも――あら? 電話?」

 明日香の携帯の着メロが鳴った。

「春日井部長か?」

「違うわ。綾からみたい。もしもし。どうしたの?」


 もしかして何か進展があったのだろうか?

 エディと影路は誰か怪しい人がいないかどうか調べているし、影路があった赤いカラコンした女の子が見つかったのかもしれない。

「へ?……あ、うん。分かったわ。探してみる」

「探す?」

 俺らは外のイベント会場に人を避難させるのではなかっただろうか? それともそっちに、誰か要注意人物がいたのか?

「はい。佐久間。綾からよ」

「えっ? 影路?」

 何だろう。

 もしかして、頑張ってとか言ってくれるのか?

 できたら目の前で言われたいけれど、でも電話でも十分嬉しい。影路に頑張ってと耳元でささやかれたら、今の十倍頑張れる。

「早くして」

「あ、うん。もしもし」

 俺はドキドキしながら、明日香の電話を受け取る。


『もしもし。佐久間。パンダは意外に、繊細で寂しがりやで臆病らしいから、扱いに気を付けて。あと、動画サイトに詳細があるから、明日香と確認してみて』

「あ、うん」

『あまり騒ぎが大きくなると――えっ? エディ?』

『頑張れ佐久間。じゃーねー』

 ブチッ。

 ツーツーツー……。

 違うだろ。俺が欲しいのはお前の応援じゃないっ!!

 最後のエディからのコメントは多分いつもの嫌がらせだ。結局俺は、仕事の鬼モードの影路コメントしかもらえなかった。しかもまったくもって意味が分からない。パンダって何だ? いやパンダは分かるんだけど。


「パンダに気を付けろと動画を見ろだって」

「ああ。さっき、メールでその動画を送るって言ってたわね。削除申請がかなり早いから、早めに見て欲しいそうよ」

 明日香に携帯を渡すと、携帯をいじる。

 俺もその画面を一緒に覗き込んだ。

「ニュース?」

 明日香が動画サイトを開くと、普通の朝のニュースぽかった。でも何でこれが削除申請早いんだ? ……ん?

『本日早朝に、何者かがパンダの檻を壊し、パンダを盗み出したもようです――』

 パンダを盗む? なんで?

 まったくパンダを盗む理由が分からない。そもそもパンダって高いのか?

 動画はそのままパンダがいた檻を映し出した。そこには、ガラスが飴がとけるように溶けて大穴があいた檻が映っている。大胆な犯行だ。

 確かに、何かの能力が使われたっぽい――えっ? まさか。

「どうやら、このパンダ、能力を持っちゃったみたいね。檻の映像で周りが焦げている様子がないから、たぶん触れた物体の温度を上げるか、手の先に炎を灯せるような能力じゃないかってメールに書いてあったわ」

「能力持ちの動物って。それ2Fの管轄じゃん」

「それだけじゃないわよ。パンダっていうのがマズイわね」

「何で?」

 危険な能力だった場合、パンダがマズイというか、どんな動物でもマズイ気がするのだけど。

「能力を持った動物が確認されているのは大和だけでしょ?」

「あー。そう言えば、授業でそんな感じの習ったかも」

 大和は特殊な土地なのか、能力保持者がどの国よりも多い。というか、全人口総能力者の国は大和ぐらいだと聞いている。そして能力持ちの特殊動物が確認されているのも、大和だけだ。

「パンダって、お隣の国の借りものじゃない。大和に来て能力を持ったって知ったら、絶対返せって言って来るし、軍事力強化の為に絶対研究されるわよ。だから組織の方も慌ててるのね。後天的に動物が能力を持つケースが出てしまったから」

「というか、今の話で行くと、もしかしてこの会場に居るのか? あのパンダ」

 自力でここまでやって来てしまったのか。

 というか普通、パンダがいたら怪しまれるだろ……いや、そうでもないか。周りを見渡して、全然違和感なく溶け込めそうだと思う。この会場では、【能力の無駄遣い】で遊んでいる能力者が多数いる。

 人形が動き回っている光景も途中で見たので、パンダに関しても、ぬいぐるみが動いていると思ったのかもしれない。普通に考えたら、ここに本物のパンダがいるとは思わないだろう。


「綾が監視カメラの映像で見つけたそうよ。でも、動いてしまって、どこに行ったか分からなくなってしまったらしいわ。監視カメラの台数も決まっているから」

 エディが画面で確認ができるのは監視カメラがあるところだけだ。そこから外れてしまえば見れないだろうし、これだけの人や物があふれていれば、簡単に隠れてしまいそうだ。

「すみません、どいて下さーい」

 台車で大箱を運ぶ人が四苦八苦しているのを見て、改めてこの会場の人の多さを感じる。入場制限をしてこれって……。この国にはどれだけオタクがいるんだよ。

「とにかく、春日井部長に連絡するわ。もしかしたら、パンダついでに応援をまわしてもらえるかもしれないから」

 携帯電話で組織に連絡を入れるのは明日香に任せて、俺は周りを見渡した。

「なあ、何運んでるんだ?」

 なんとなく中々前に進めない台車を運ぶスタッフに声をかける。

「ああ。今日の3時から行うイベントで使う道具で、この箱は卵が入っているんです。冊子に詳細は載ってますよ」

 爆発が防げたと分からない限り、中止予定になるイベントだ。あまり舞台イベントを確認していなかったが、外でも可能なものなら、最初から外でやってもらった方が良いかもしれない。

 手渡された冊子を見ると、12時からの舞台イベントに【初挑戦!ぐ○と○らのパンケーキ!】と書いてあった……って、パンケーキ?


「って、何? ここでパンケーキを焼くのか? 火を使うのか?」

「いいえ。まさか。【加熱】の能力者が集まって、【巨大化】の能力者が巨大化させたフライパンの熱を上げて焼くんです。火を使うイベントは、紙を多く取り扱っているので禁止されてますから」

 加熱だけならたぶん……安全なんだよな?

「出来上がったパンケーキは先着順に配りますから、是非来て下さい」

 そう言って、イベント関係者は先へ行ってしまった。

 なんとなく、危険なのは今のイベントじゃないかと思う。時間的にも内容的にも。影路に伝えてもう少し具体的に作業を確認してもらっておくべきだろうか。でも、危険かもしれないよなぁ。

「うーん」

 影路だと無茶をしそうだなと腕組をして考える。

 あまり特別扱いして危険な仕事から影路を離すと、影路が怒るかもしれないけれど、毎回なんだかんだで体を張っている影路を見ていると、できるだけ安全な仕事をしてもらいたくなるのだ。その方が、俺の心臓にも優しい。


「かわいい」

「本当だ」

 俺が考え込んでいると、何故か道行く人にそんな言葉をかけられた。……可愛い?誰が?

 きょろきょろと周りを見渡すが、目線は俺な気がする。

「写真撮ってもいいですか?」

「いや、今は忙しいから」

 そういえば、シンデレラの王子のコスプレ中だったなと自分の恰好を思い出す。仕事じゃなければ、別に減るわけではないから、問題なのだけど、今は写真をとっている時間はない。1人撮りはじめると、どんどん撮られそうなのだ。

 俺が断ると女子高校生と思われる子は残念そうな顔をした。

「すごく可愛いのに」

「可愛い?」

 俺が?

 シンデレラの王子は可愛いポジションだったのか? 

「ミャオ」

「……ん?」

 足元から声が聞こえて、目線を下すと、そこには白と黒の物体がいた。

 何だ可愛いのは、パンダか。そうだよな、俺が可愛いはないよなぁ。可愛いというのは影路みたいな子の為にある言葉で――。


「パンダッ?!」

「ミャッ!!」

 俺の言葉に驚いたようにパンダが一目散に逃げていく。そうか、パンダって、猫みたいな泣き声なんだなーって、そうじゃなくて!

「明日香、パンダッ!!俺追いかけるわ!」

「えっ?!」

 俺は明日香の返答を聞く前に、人混みを上手く逃げていくパンダに向かって俺は走った。

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