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コスプレーヤの恋(4)

 佐久間達と別れて、エディと一緒にいる事となったのだけど、特にできる事がなくて、私はどうしたものかと内心首を傾げた。

 そもそも、エディの能力と私の能力は協力させられる部分が少ない。なら何でこの組み合わせなんだといえば、結局のところ、佐久間や明日香と組んでも同じことが言えて、今回は佐久間と明日香が組むのがベストだったからに他ならない。

 相変わらず役立たず感にちょっと傷心気味になりつつも、とりあえずエディが不審人物を見つけてくれたら、その人を尾行しようと考える。


「ねえ、影路ちゃん」

「何?」

 私がそんな事を思いつつ、エディのノートパソコンを邪魔にならないように眺めていると声をかけられた。エディは相変わらずのハンバーガー袋フェイスというふざけた格好だが、キーボードを叩く指は真面目に仕事をしている。

「さっき言っていた赤い目のカラーコンタクトをした女の子ってさ、本当に女の子なんだよね?」

「……そう言われると、本人に確認はしていないので、たぶんとしか言えないけれど。エディと同じぐらいの年の子にみえたから、女装では色々苦しいと思う」

 ゴスロリという服は体の線を出しにくいので確かに男性でもできそうだが、私より小柄だった点や声から察するに、男性である可能性は低いと思う。

「そっか。世の中【男の娘】というジャンルもあるからねー。何か特徴的な喋り方とかはしていた?」

「可愛い子だったのだけど、一人称が僕だった。後は、特に変わっているとは思わなかったけれど」

 何かの役柄に沿っているのか、それともそれが口癖なのかも分からない。

「エディの知り合いには、本当に居ないの?」

「僕は神様じゃないからね。会ってみないと分からないよー」

 ……違うと言う言葉をあえて避けた言い回しに、私はエディの頭の中に誰かが思い浮かんでるのではないかと思う。ただ、言わないのは言いたくない相手という事だろうか。

 それは私が踏み込んでいい部分なのかどうなのか。


「でもその子と直接会えば分かると思うから、影路ちゃんも頑張ってこの会場を探してね」

「分かった」

 見つかったら、何か教えてくれるという事だろう。

 だとしたら探すしかない。

「そういえば、影路ちゃんは、明日香姉さんが佐久間の事が好きだっていうのは知ってるんだよね? 2人っきりにして心配にならないの?」

 エディはこの話は止めとばかりに、違う話題をふってきた。

 明日香が佐久間の事を好きなのは、明日香と出会た時から分かっている。突然佐久間の友人となった、ぽとでの私に、明日香はとても警戒していたから。

 その後友人になった後は、佐久間の話で盛り上がったりもする仲ではあるけれど……。

「もしも佐久間と明日香が恋人になったら、悲しくはあるけれど、嬉しい事でもあるから」

 私は佐久間も明日香も好きだし、とても尊敬できる人達だと思っている。だから2人には幸せになってもらいたい。勿論誰かの一番になれたらそれはとても幸せな事なのだろうけれど、それは無理な事だとすでに諦めている部分もある。

「影路ちゃんって無欲というか、潔すぎというか。それなのに、佐久間に尽くすとか、何だかなぁという気分にさせられるんだよねー。佐久間は馬鹿だから、言わないと気が付かないよ?」

 エディに言われて、その言葉を自問するが……果たして自分は気が付かれたいのだろうか?

 実際気が付かれたらと考えると少し困る。佐久間の役立ちたいという気持ちは、佐久間に好意を持ってもらいたいという部分から来ているのだけど、私の想いに気が付かれた瞬間に、今の関係すら壊れてしまいそうで怖くなるのだ。

 また1人で掃除をするだけの日々に戻るのだと思うと……。なんだか自分の事ばかり優先していて、駄目だなとは思うが、勇気が出ない。そしてこんな私では明日香に全く勝てる気がしないので、佐久間と明日香が恋人同士になれたら、せめて友人として祝福をしたいと思うのだ。

「私は潔いわけでも無欲というわけでも――」

「まあ、僕も人のこと言えないしね。影路ちゃんを責める気はないし。ただ傍目に見てると、もったいないなとか色々思ってしまうわけなんだよねー。僕としては」

 私の言葉に被せるようにエディは話す。

 多分、元Dクラスであるエディなら、私のこの情けない保身に走った内面もお見通しだろう。それでも勿体無いと言ってくれるのは、エディの優しさだ。


「そういえば、こういうイベントに影路ちゃんは初参加だったよね。参加してみて、どうだった?」

「面白い世界だなと。【能力の無駄遣い】は若干の興味もある」

 エディが更に話を変えてくれて、私はほっとする。

 実際、このオタクが集まったイベントは、私にとってはとても不思議に感じた。

「【能力の無駄遣い】は僕も好きだな。皆すごくくだらない事に能力を使ってるよね。ほら、監視カメラでも、かなりの数がうつてる」

 エディが防犯カメラをメインステージの演出の方へ向ける。

 舞台では電脳歌姫が3次元で映し出され、歌声が流れるたびに、曲に合わせて歌詞が3次元に現れたり、雪や花が舞ったりしている。どんな能力者たちが協力して演出しているかは分からないが、たぶん日常ではとても無意味な気がする。凄いとは思うが、まさに【能力の無駄遣い】だ。

「真面目にやらないと、怒られるよ?」

「ほら、舞台の上に犯人がいないとも限らないしー」

「そもそも、犯人がいるかどうかも、未定なんだのけど」

 事件でなく、事故の可能性もあり、今回は情報が曖昧なのだ。場所とおおよその時間、そして爆発する事しか情報としてない。

「じゃあ、舞台の上で爆発が起こるかも」

「起こりそうな催しはあるの?」

「室内じゃ火薬系は使わなからねー、特にないかな」

 そうだよね。

 これだけの人がいるから、危険なものは使わないだろう。

「事故でよくありそうなのだと、ガス爆発だけど……」

「爆発しそうなガスは基本使ってなさそうなんだよねー」

 会場で使われているガスといえば、ヘリウムガスの風船だけど、ヘリウムは不活性ガスだから特に問題はない。

 飲食店系は外で、中にはないので、発電用のガソリンが引火という事もないだろうし……。やっぱり、この火の気がない会場だと、爆発は起こりにくい気がする。かと言って最近はテロなども心配されて、持ち込み物はチェックされるから危険物を持ち込むこと難しいと思うけれど。


「そもそも【予知】というのは曖昧だよね。どういう過程を踏んでその未来になるかが分からないからさ。僕らが動く事で、逆にその未来を呼び寄せてしまう事もありそうだしー」

 確かに、【予知】は未来という誰にも見えないものを知る事なので、それが正しいのかどうかも、知った当初は分からなかったりする。

「そういう、あいまいな能力で振り回すのはやめて欲しいよ。本当に起こるかどうか分かんないわけだし。もしも起こらなくてもさ『組織の人が動いたため未来が変わりました』の一言でいいんだもん」

「でも、爆発さえ起こらなければいいわけだし」

「だったらさ、この世界のすべての事故とか事件とか予知すればいいじゃん。でもそれはできないから、今こういう状態なんだよ」

 エディはそう言って肩をすくめる。

 紙袋の所為で顔は見えないが、不満げなのはその姿で分かった。もしかしたら、自分の休日を潰されたのが不満の原因かもしれないが、エディの能力は私とは違い今必要な能力なのだから頑張ってもらうしかない。

「全部予知でき出来てしまったら、きっとつまらないと思う。分からないから、いい未来を目指して頑張れるのだと思うし」

「でもさ。平等に幸せにできないのなら、最初から予知なんてしなければいいのに。まあ、今回は仕事の鬼な影路ちゃんに見張られてるから、真面目にやるけどー」

「鬼って……普通だよ?」

 謙虚堅実を胸にDクラスは真面目に仕事をするが、別にそれは普通の事だと思う。エディが飽きっぽいだけで――。


「エディ、画面。右したの映像をアップできる?」

 画面を見ながら話していて、ふと、画面上に変なものが見え、私は声をかける。画面には何台ものカメラからの映像が映っているが、1つ1つが小さくて、もしかしたら私の見間違えかもしれない。

 でもかなり違和感あふれる映像だった。

「OK。もしかして、例の女の子が見つかった?」

「ううん。違うけど……」

 右下に映っていた映像が、画面中央に移動し、パソコン画面いっぱいに広げられる。そしてその中に、やっぱり違和感の原因の物体があった。

「……たぶん今回とても関係しそうな気がする」

「えー、どれの事?」

「ほら。これ」

 私は会場の中のどこか片隅と思われる場所を指さす。

「パンダのぬいぐるみかと思ったけど……たぶん、これ本物」

 隅っこで座っているパンダが道行く人を見るように、体を動かしていた。

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