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学校の恋(8)

「じゃあ、これから、BクラスVSDクラスのケイドロをしようと思う」

「ケイドロ?」

 俺はBクラスとDクラスの生徒たちの前でそう伝えた。と言っても、Bクラスは3年2組から4組の3クラス分で、合計32名だ。そうでないと、全学年を合わせても12人であるDクラスとの人数差が半端ない事になる為だ。

 【戦闘】の反対は【逃走】という事で、本当は今テレビでやってる、黒服スーツの人がタレントを追いかける番組みたいなのをやりたかったんだけどな。でもイベントをやるだけの人員は裂けないのと、影路が鬼ごっこみたいな、一度は子供の頃やった事のある遊びがいいといった事から、俺が小学校のころやった【ケイドロ】になった。鬼ごっこはタッチすれば鬼になってしまうしチーム戦にならないので、鬼ごっこに似たようなゲームというわけでそれにしたのだ。


「一度はやった事があるだろ? 警察と泥棒に分かれて、泥棒は逃げる、警察は追いかけるというルールで、一度捕まったら牢屋に入る。でも仲間にタッチされれば再び脱獄できるというルールだ。今回は能力を使ってもいいけれど攻撃はしてはいけないというルール追加して行おうと思う。人数バランス的に、泥棒はBクラス。そしてDクラスが追いかけるでどうだ?」

「攻撃はしてはいけないって、不注意で怪我をさせてしまった場合どうなるんですか?」

「最初から攻撃予定でない場合は、失格にはならない。でももしも故意の場合は――」

「私達が直接成敗、退場してもらうつもりよ」

 俺が今回協力を頼んだ明日香を見ると、明日香が説明を続けた。そして、明日香は踵を高く上げるとそのまま地面に振り下ろす。その瞬間、校庭に小さなクレーターができ、揺れた。

 それを見た生徒たちは、BクラスDクラス共に一気に顔を青ざめさせた。

 うん。明日香の蹴りを見た奴は、大抵おかしな気は起こさないんだよな。明日香のあの蹴りを受けたら、Aクラスもひとたまりもない。

「今回は不正が行われないように、先生方達と実習生仲間の、瀬戸明日香先生にも協力してもらう事にした。俺が3分数える間に、Bクラスの生徒は逃げてくれ。逃げる範囲は、学校の校内まで。他の授業中のクラスの迷惑となる行為は禁止だ。時間は、この授業の時間の間だ。他に質問はあるか?」

 見渡すが、とりあえず質問はないようである。ケイドロだったら、やった事がある生徒も多いので、すんなりとルールが分かったのだろう。


「それじゃあ、3分数えるな。よーい、スタート」

 俺はそう言って、ストップウォッチのボタンを押す。

 唐突に始まったゲームに、Bクラスの生徒は顔を見合わせたが、各々に逃げ始めた。ふふふ、逃げろ逃げろ。全力で逃げてくれた時の方が、追い詰めるのは楽しい。

「……佐久間、悪い顔」

「うおっ。影路か……びっくりした」

 予想以上に近い位置に影路がいて驚く。たぶん、無関心の能力をすでに発動してるのだろう。影路にも、Bクラスの生徒が不正をしないよう見張り役を頼んであった。勿論、影路の力では止め切れないので、影路は不正現場を見つけたら、携帯電話で連絡する係だ。

「悪い顔というか、生き生きしてる。でも、佐久間は手を出したら駄目」

「分かってるよ。これは、こいつらが解決させていかなくちゃいけない問題なんだから」

 Dクラスの生徒たちは、各々で考えた作戦を話し合っている。

 最初は無理だと言っていたが、色々自分の能力の使いどころというものに気が付いてから、少し考え方が変わったようだ。


「というかさ。本当は影路もやりたいんだろ?」

「……何で?」

「何でと言われるとアレだけど……勘というか」

 影路が勝負ではなくて遊びのようなものでと言って、俺がケイドロを案に上げた時、影路はその遊びにとても興味があるようだった。そもそも影路自身が上げた鬼ごっこのルールも、影路はあやふやだったように思う。まるで実際にやった事はなくて、それを周りから見ていただけのような……。

 何となくここで過ごして、実際にDクラスの生徒と話すようになって、彼らの学校生活が大変な事は分かった。そして影路はこの授業の後も学校で生活が続くからという事をとても強調していたように思う。まるで自分がかつてとても苦労したかのように。

 だからもしかすると、影路は小さい時に、こう言う遊びができなかったのではないだろうかと感じた。そして同時に、できなかった事を酷く寂しがっているようにも。

 ただし、今は微妙にだけど影路が楽しそうに見えた。俺に対して手を出すなというのも、まるで自分に言い聞かせているようにも感じる。

「やりたくないというと、正直嘘だけど……、こうやって関われるだけでも正直楽しい。実はこういう遊びはやった事がなかったから。佐久間……ありがとう」

 そう言って、影路が小さく笑いかけてきた。しかも、ありがとうって、遠慮がちに囁くように言われて、ドキリとする。

 うわっ。なんか可愛い。

「影路――」

 何か考えなしにまた思ったままの事を口走ろうとしたところで、ストップウォッチが自己主張するかのようにピピピと鳴いた。


 ……危なっ。

 空気に流されすぎだろ、俺。いくらなんでも、授業中に、ノリ告白するのは避けなくちゃ駄目だろ。影路は恥ずかしがりやだし、そんな方法では成功するものも失敗してしてしまいそうだ。

 とにかく、告白するなら、もっと計画性を持たないとだよな。こう、ロマンチックというか……。いや、まあ、それはあとで考えよう。

「えーっと、じゃあ、今までの練習の成果を見せて来い」

「「「「はいっ」」」」

 元気よくDクラスの生徒たちが返事をした。


「えっと、今俺の聞こえる範囲だと、たぶんこの辺りに、運動神経がそれほど良くない、感知能力組が集まってるみたいだ」

 そう言って、【超聴力】の少年は事前に作った学校の見取り図を指さす。事前に体力測定の結果や能力が何かを調べて良しとしたのが、今回のDクラスへのハンデだ。それ以外では、差はつけないようにしている。あまりハンデが大きすぎても、Bクラスは負けた時にそれを理由にするだろうから。

「ふーん、隠れてるのか。じゃあ、俺と一緒にそこに行こうぜ」

「了解。みんなには捕まえやすそうなのを見つけたら電話で連絡するな」

 【超聴力】の少年に声をかけたのは【倍加】の能力の少年だ。【倍加】の能力は、目に見えない、重さや速さなどを倍にする事ができるものだ。ただし目に見える大きさや数などには変化を加えられない。一見使い勝手がよさそうだしCクラスに分類されてもいいような気がするが、自分自身には使えない上に、その人の肩に手を一度置かないと発動しない。更に肩に手を置いてから1分しか倍加はもたないという制限もあり、Dクラスに分類されたようだ。

 ただ、彼と話していて分かったのだが、倍加は2倍だけではなく、肩に手を置いた回数で3倍、4倍と増やせるらしい。しかし時間は3倍になると30秒、4倍になると15秒となり、継続時間は短くなる。ただし10秒以下になる事はないそうで、10秒の中であれば、10倍でも20倍でもできるそうだ。

 ならこれはサポート系の能力かといえば、そうとも言えない。大きな音が鳴っている中で、聴力を10倍20倍にすれば耳が壊れて相手を失神させる事もできる。

 

 こうやって考えると、本当にDクラスというのは使い方1つな能力が多いんだなと思う。Aクラスは目に見えて派手な能力が多いので、色々雰囲気が違う。

「にしても、お前ら楽しそうだな」

 影路も楽しそうだったが、Dクラスの生徒も生き生きしている気がする。最初に話した時は、あまり勝負事が好きには見えなかったのだけど……。

「えっと……それは……」

「ケイドロなんてやった事なかったしね。じゃあ、私達も作戦通り、罠を張った所に行ってきます」

 【開花】の能力の女子生徒と、【位置交換】の能力の女子生徒が一緒に走っていく。

 【開花】の能力は、どんな花でも一瞬でつぼみをつけさせ咲かせることができる能力。【位置交換】は、自分と他者の立っている場所を交換する事ができる能力だ。ただし、見える範囲である事と、対象者と同じポーズをとらなくてはいけないという限定が付く。

「なあ。やったことがないって、どうしてなんだ?」

「だって、先生。俺たちDクラスだし。BとかCクラスの仲間に入れてもらえるわけないじゃん。だけどDクラスだけでやるとなると、校庭の場所とりができないし」

 牢屋を守る生徒が、当たり前のように言う。


 Dクラスだから。……なんだかなぁ。

 不意に今回問題になっているホームページが訴えているAクラスばかりが優遇されている世界を変えないかという文面が頭に浮かぶ。

 Aクラスである俺がそれを肯定するのも変だけど、どうしても影路の事がある所為で、能力のクラス分けだけで優劣が付けられるこの常識は……うまく言えないけれど、おかしい気がして、あのホームページが言っていることが正しいような気がしてくる。きっと【当たり前】が、おかしいと、あの製作者も思ったんじゃないだろうか?

 やり方は間違っていると思うし、Aクラスの事を何も知らないのに勝手な事を言うなともいえるけれど、俺はDクラスの、この不自由な世界も知らない。Aクラスはある意味、隔離された状態で成長するから。

 だからどうしたという話なのだけど……影路の事を知りたいと思うなら、まずはこのAクラス以外の世界を知らなくてはいけないんじゃないだろうかと思った。

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