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学校の恋(7)

「か、か、影路?」

「うん。そうだけど」

 そんな、分かりにくい変装はしていないのだけど、どうして疑問形。

「あははは。佐久間、お、驚きすぎー。ウケるー」

 隣でパンダが指をさしながら大笑いしているが、隣にパンダがいる時点で、私しかあり得ない。世の中には同じ顔の人が3人はいるというが、学校に出没するパンダは、たぶんそうそう居ないと思う。


「何で、生徒の制服……いや、むしろ、それ、どうしたんだよ」

「保健室にある、生徒用の予備の制服」

「僕が影路ちゃんにホースで水をかけてさ、濡れちゃったから貸してって保健室の先生にお願いしたら、気軽に貸してくれたんだよね」

「そんな感じ」

 エディは保健室に向かう途中、ちょっとそこに立っててねと言って離れたかと思うと私に水をかけたのだ。

 事前に言ってくれればいいのに、突然だったのでかなり驚いた。ただエディはもっと驚いてくれればいいのにと不満そうだったので、見た目はそれほど驚いたようには見えなかったのかもしれない。

 そして私をそのまま保健室へ連れていくと、保健室の先生に手伝いをして水撒きをしていたら、間違えてかけてしまったとさらっと嘘をついて制服を借りたのだ。……エディのあのしゃべり方は明らかに嘘をつきなれている人だ。やはりエディには気を付けた方が良いかもしれない。

 ただそもそもエディの経歴が嘘だったりするのでただそれだけのことかもしれない。なので、むやみに佐久間を混乱させない方がいいと思い、もうしばらくエディに関しては様子を見ようと思う。

「でも、こういう時は普通、【やーん。水にぬれて服が透けちゃうー】イベントなのに、影路ちゃんの作業服分厚いから、まったくそう言う事がなかったんだよ。流石、パンチラ一つ見せない鉄壁の女神だよねー」

「エディ、お前という奴はっ!」

「うわーん。先生が体罰をするよー」

 エディは佐久間に頭を殴られていたが、着ぐるみがクッションになって、あまりダメージはないようだ。エディはひょうひょうとしている。

 それにエディも本気で私の下着を見たいと思っているようではないし、純粋で仲間思いな佐久間をからかっているだけだろう。本当にこの2人は仲がいいよなぁと思う。


「でも、佐久間、嬉しいでしょ。結構僕の事、グッジョブって思ったんじゃない?」

「なっ。いや、えっ……そりゃ、まあ……」

 佐久間は口の中でごにょごにょと何かを呟くと、私を頭から足の先まで見た。まじまじとみられると、若干恥ずかしい。

 上手く学生に変装できていておかしくはないと思う。それでも何となく、私はスカートを手で押さえた。ここの制服のスカートは短すぎる気がする。

「佐久間、やらしー」

「エディッ!!」

「なんだい。図星だからって怒鳴らないでよー。ほら、他の生徒も驚いちゃってるしさ」

 確かに。

 Dクラスの生徒たちが、私たちのやり取りを固唾を飲んで見守っている。いきなり授業中にこんなやり取りを唐突に始められたら、皆どうしていいか分からないだろう。


「佐久間先生。授業を再開させて下さい」

 私はそう言い、花園さんの隣に向かった。

「隣良い?」

「えっ? あ、はいっ。どうぞっ!」

 そう言われたので、隣に座る。

「影路? どう言う事だよ」

「佐久間が変な事やってるからさー、影路ちゃんが心配して見に来たんじゃないか。でも、用務員だと堂々と授業を見る事が出来ないから、生徒に紛れ込んだ次第さ」

 私の代わりにエディが説明してくれた。

「そうなんですか? あの、ごめんなさい。私が頼んだからですよね」

「ううん。私も気になったから来ただけ」

 仕事をサボって、生徒に紛れ込むなんて馬鹿馬鹿しいエディの作戦に乗ったのは、私自身佐久間の授業姿を見てみたいという思いがあったからだ。

 そうでなければ、普通に佐久間と話せばいいだけの話だ。なにがなんでも自分の目で見なければ答えが出せない話でもない。

 それに中に入るだけなら、別に私の能力を使えば良かったのだ。しかし佐久間が困っている時に手助けできないでしょ?といわれ、影路ちゃんが協力してくれた方が佐久間も元気になるだろうなーとエディに丸め込まれ、今に至る。明らかに、私の欲望が半分以上含まれているので、花園さんが申し訳ないと思う必要はまったくない。


「あー、別に変な事なんてしてないからな。とりあえず、俺が言っているのはただ一つ。打倒、Bクラスだ! その為の方法を皆で考えようと思う」

「もしかして……まさかのノープラン?」

「違うぞ。能力向上を目指した上で、勝つ方法を考えるんだ。そして、勝つ!」

 人はそれをノープランと呼ぶと思う。エディが爆笑しているが、正直笑っている場合ではない。

 Aクラスなので、能力向上に関しては色々知識もあるだろうけれど、勝つ方法をこれから考えるというのは……いや、やるしかないか。

「勝負方法は、佐久間先生がDクラスが少しだけ有利になるように考えてくれるそうなんですけど……」

「やっぱりガチンコバトルだよな」

「却下」

 お願い止めてあげて。

 確かにガチンコバトルで勝てれば凄い自信もつくだろう。でもこの子達はまだ後半年以上この学校の中で生きなければいけないのだ。

 Bクラスの子のプライドをズタズタに引き裂いて、決裂した状態で学校で生活をしていくというのは、とても大変な事だ。

「ありがとうございます。影路先生」

 私が反対すると、花園さんが私にお礼をいい、次々と他の生徒もお礼を言う。……なんだか命の恩人のような雰囲気を醸し出しているが、まだ佐久間を止められたわけでもない。


「却下って。じゃあ、どうしたらいいんだよ」

「あまり攻撃系ではない勝負の方がいいと思う。Bクラスが負けても、Dクラスの能力を認めるだけで、遺恨を残さない形がベスト」

「えっ? 影路先生?! Bクラスに勝つつもりなんですか?!」

「えっと……勝つ為にここでミーティングをしてるんじゃ?」

 凄く驚かれてしまったが、佐久間は勝気満々だ。

 ここで上手な負け方なんて考えてもきっと佐久間が納得しない気がする。かと言って、Bクラスのプライドを砕きすぎてもいけないので難しい話だ。

「そんな、無理ですよ」

「無理だなんて誰が決めたんだ」

 このままだとDクラスの生徒たちが混乱してしまいそうなので、私が通訳に入る。

「えっと。Bクラスといっても万能系の能力ではないから、得意不得意は必ずあると思う。だから、状況に応じてはDクラスでも勝つことが出来ると思う。Dクラスの場合、Bクラスとは能力のダブりがまずないから、純粋な能力勝負にもならないし」

 これがCクラスだと、Bクラスと同系統の能力で、明らかな差が出てしまうが、Dクラスの場合は良い悪いは置いておいて多様性と希少性があり、まず被ることはない。

 

「でも、ただの戦闘勝負だと、圧倒的に不利です。俺、人より聴力がいいだけの【超聴力】で、犬と同じぐらいの聴力があるだけだし」

 一人の男子生徒がそう言った。犬と同じぐらいいいだけとなると、確かに普段はそれほど役立たない能力だ。

「耳がいいのはいいんだぞ。能力によっては、発動する前に、人の音域では聞こえない特殊な高音が出たりするから、いち早く察知できるし」

「えっ? 能力が発動する時の音って、皆聞こえないんですか?」

 佐久間に言われて、それが特殊であることを始めて知ったようだ。Dクラスの能力は放置されがちで、こういうことを教えてくる外部教師もまずやってこない。

「ただ、戦闘勝負は駄目。できるなら、ルールの中に、能力での攻撃はしてはいけないという文言を加えた方がいいと思う」

「えぇぇ。でも、影路。戦闘じゃない勝負だと、スポーツとか勉強になるけどさ、スポーツで能力使うのは普通禁止なわけだし。なんだかなぁって感じなんだけど」

 確かに。

 スポーツに関しては、公式の試合で能力を使うことは禁じられている。というか、使い始めたら、能力の高さを競い合うものになってしまい、まったくスポーツの意味をなさないからだ。公式の試合では【能力封じ】をされるのが当たり前。普段の体育の授業ではそこまでやったりはしないけれど。

「勉強ってテストって事ですよね。でもテストも同じじゃないですか?」

 間違いない。テストの時も、能力封じが使われる。特に入試試験は厳しい。私みたいなタイプの能力なら他人の答案が見放題になってしまい、試験自体が無意味になってしまうからだ。

 予知能力も使えないよう、答案は能力の無効化をするような箱に入れて保管され、当日も予知能力者は能力封じを徹底した場所で試験に臨む。


「それで、影路ちゃんは具体的に何がいいと思うんだい?」

 何が……。スポーツは駄目で、テストも駄目。かといって、戦闘なんて持っての他。Bクラスのプライドを傷つけ過ぎず……それこそ、遊びの範囲でできるものがいい。

「私なら――」

 私は思いついた方法を伝えた。

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