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学校の恋(3)

「シンデレラ王子先生、おはよう!」

「あ、シンデレラ王子先生よ」

「カッコいいよね、シンデレラ王子先生」

 廊下を明日香と一緒に歩いていると生徒達に声をかけられたり、噂されたりした。どうやら教育実習生というのは、めったに学校へ外部の人間が入ってこない為、生徒にとってはいいイベントの一環らしい。

 ……でもな、ちょっと待て。

「俺はシンデレラ王子じゃない! 【の】を抜くな【の】を! そしてそれは名前じゃないから!!」

 俺がそう叫ぶと、生徒達がケラケラと笑い廊下を走っていく。畜生。全然先生扱いされないんだけど何でだ。俺は確かにアイツらより年上のはずなのに。

「佐久間ったら、すでに人気者じゃない」

「遊ばれているだけだろ。あー、畜生。俺は学校の先生ってい柄じゃないんだけどなぁ」

 普通教師といったら真面目で勉強が好きな奴の仕事だ。授業は睡眠時間だと思って過ごしていた俺には若干荷が重い。

「でも、女子高校生にキャーキャー言われて悪い気はしてないんでしょ?」

「仕事で来てるんだから、そんな事考えてないっての」

 そりゃ、嬉しくないと言えば嘘だけど、むしろ俺は影路に女子高生の恰好をしてもらって、キャーキャー言われたかった。……いや、影路がキャーキャー言う姿がまったくもって想像できないというのはおいておくとしてだ。


「ふーん。まあいいけど。とりあえず、それとなく聞いていくしかないわね。この学校の中に、絶対あのホームページを作った人物はいるんだから。人気者なんだし、ちゃんと聞き出しなさいよ」

 誰もいない視聴覚室に入った俺に、明日香はそう言った。

 確かにその通りだ。あのホームページを作っているのがこの学校に出入りできる誰かだという事しか分かっていないので手探りで進むしかない。可能性としては、生徒だけではなく教師という事も十分考えられる。その為俺達が調査に入っている事を知っているのは、既に犯人ではないと判断されたこの学校の校長だけだ。

 この学校にパソコンがある場所は、パソコン室と職員室、それと保健室の3ヶ所。

 パソコン室はカードキーで入れるようになっており、生徒は自由に使い放題。職員室は各教師に1台づつあり、保健室は保健医と保健委員が使えるようになっていた。

 ただし、カフェテリアや各教室にもLANケーブルというインターネットに繋ぐための配線が通っていて、パソコンさえ持ち込めば使えるのだとエディが説明していた。ただエディが言うには、自分の家でパソコンを使えるならば、特定されないように偽装する事もできるそうで、エディと同じタイプの能力者の可能性は低いという事だ。頭が回って、それすら偽装という可能性は捨てられないけれど。


「とりあえず、生徒用のパソコンにはエディ特性ウイルスをばら撒けたけど、職員室はいつやるよ」

 エディが言うには、生徒用パソコンと教師用のパソコンは回線が分けられているそうで、エディのような【電脳空間掌握】系の能力者が教師のパソコンの中の答案を盗まないように厳重体勢になっていた。

 エディ特製ウイルスは、一度感染したら相手の情報を随時エディのパソコンに送り、エディーが乗っ取る事も可能だ。しかし外部からウイルスを送るのが難しいようになっているらしく、直接USBメモリを差し込んで感染させる必要があった。幸い教師の中には、【電脳空間掌握】の能力者がいないそうなので感染させてしまえばこちらのものだ。

 ただし、1年生の主任が【読み取り】と呼ばれる物を介して過去を読み取る能力を持っているので、その先生のパソコンだけは間違っても触ってはいけない。

「たぶんそれは私達じゃなくて、綾の方が良いかもね」

「そうなんだけどさ。影路はただの協力者なのに、いつも一番危険な場所にいる気がして……」

 影路の能力は【無関心】。その力を使って、犯人に近づきその情報を得る。今のところ失敗した姿を俺は見た事がないが、とても危険なのではないだろうか。

「攻撃力はないから心配は心配なのよね。拳銃を人に向ければ能力が消えてしまうというし。どうにか影路の護衛ができるといいのだけど……」

 明日香がそう言った所で、視聴覚室の扉がノックされたので、明日香と俺は今日のレクリエーションの予定が書かれた紙を鞄から出してお互いに目くばせをした。

「はい。どうぞ」

「失礼します」

 入ってきたのは、実習生担当の女教師だった。ただ今日は、更に一人の男子学生が一緒だ。


「おはようございます。今日はこの学校の生徒会の様子も見ていただきたいと思います。こちらは生徒会長をやっている天野です」

「初めまして、3年2組、天野慶介あまのけいすけです。能力はBクラスです」

 天野は爽やかに笑うとお辞儀をした。

「俺はAクラスの佐久間龍だ。よろしく」

「私はBクラスの瀬戸明日香よ。こちらこそよろしく」

「ではお互いに自己紹介がすみましたので、放課後は生徒会室に直接行って見学して下さい。天野君、ありがとございました。授業が始まってしまいますので、教室に戻って下さい」

 どうやら今日はみっちり放課後まで実習をやらされるらしい。

 潜入調査に入ったものの、流石学校と言おうか、実習生の時間割がきっちり決まっていて、中々そこから抜け出せなかった。

 この間査定があったばかりだから、査定用の仕事ではないとは思う。でも本当にこれは俺向きなのかと思いつつ、レクリエーションを始めた教師の話に俺は耳を傾けた。






◇◆◇◆◇◆◇◆






「エディ。お前、今日も保健室かよ」

「わおっ。明日香先生! 佐久間先生が登校拒否児なか弱い生徒を虐待するよ!」

「待てこら。パンダの着ぐるみを着て保健室でグータラしているお前に、か弱いなんて言葉が似合うか」

 ったく。

 休み時間に保健室の先生が外出したと聞いて、明日香と一緒にエディに会いにきたのだが、エディの着ぐるみ姿を見ると、ガクッと力が抜けた。やる気があるのかないのか良く分からない格好だ。

「しかもパソコンでゲームをやって楽しんでいたみたいね」

 パソコンの画面にはソリティアが表示されていた。これはまさしくここで遊んでいたに違いない。

「でも、違法な事をしなくても全部僕が勝っちゃうから、こういうゲームはつまらないんだよね」

「そもそも違法な事をするなっての。それで、生徒用のパソコンは監視できているのかよ」

「今のところ、授業以外での活用履歴があまりないけどねー。この分だと放課後に使用している生徒も限られるんじゃないかなと思って、ここのカードキーの使用履歴を確認して、ざっと生徒名簿と合わせておいたよ」

 パンダから手をはやした状態で、エディーがキーボードを叩くと表が現れた。どうやらここ最近、放課後の時間にパソコン室を使っている生徒の名前のようだ。

「ちなみに、赤色でマーカーしておいたのは、パソコン部員。活動日は月、水、金の放課後。パソコン室でも特定のパソコンを使っているみたいだね。ただ今のところ、それらしき動きはないかな」

 流石だな。

 着ぐるみを着て登校拒否をするなどやっている事はデタラメだが、ちゃんと仕事はやっている。


「後、この保健室のパソコンも白だねー。パソコンで遊ばせてって言って触らせてもらったけど、特にそれらしきデータは見つからなかったし」

「そうだとすると、後は職員室か、個人のパソコンからという事ね」

「まだ3日目だから、そう言いきるには早いけどねー。職員室は影路ちゃん待ちだし。とりあえず今日の放課後にもう一度、今分かっていることをおさらいしてみる? 直接確認してほしい生徒をまとめておくからさー」

 どうやらすでにエディの方で、影路に教師のパソコンにウイルスを流すのは任せてあるらしい。

「あ、でも。今日の放課後は俺ら生徒会室に呼ばれてるんだよ」

「ふーん。生徒会室かぁ。あそこにもランケーブルがあるから役員がパソコンを使っているか確認してきてねー。余裕があれば、影路ちゃんに潜入してもらって、個人のパソコンにもウイルスをばらまいてもらうから」

 これって、一歩間違えば犯罪だよな。

 学校はまだしも、個人パソコンはどうなんだろう。最終的にちゃんとウイルスは駆除するんだよな……。エディがやっている事が正攻法には思えないので、組織の方に報告をすると、後で文句を言われるかもしれない。かと言って、パソコンのことなんて俺にはさっぱり分からないし。

 この間の信号機もやっぱり、警察の交通課から文句が出たしなぁ。

 俺は後から書く始末書を思い、せめて何かいいことが起こらないかなと遠い眼差しをした。

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