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学校の恋(1)

『明日香、佐久間、エディ。今、学生がお菓子を鞄に入れた。発信機を彼女達の学生鞄に設置する』

 ヘットホン越しに影路の声が聞こえ、俺と明日香がコンビニ入口で構えた。

『オッケー。影路ちゃん。よしっ。監視カメラでの追跡はばっちりだよー。うーん。この制服は、白樺しらかば高校の制服だねー。私立高校じゃないから顔写真データーは望めないけど、学校に問い合わせれば分かるように綺麗な画像を残しておくね。ただ鞄の中が別の場所に繋がるタイプの能力者の可能性もあるし、顔とかを変えるタイプの能力者も考えられるから、できるだけここで取り押さえてねー』

 続いて、エディーからの連絡が入る。同時に、俺の中にまたか言う言葉が頭に浮かんだ。しかしそれを考えるのは後だ。

『今、レジを通らずにドアの方に学生が向かった』

「了解」

「行くわよ」

 俺と明日香は何食わぬ顔で、コンビニの自動ドアの方へ向かう。普通の買い物客のような雰囲気を装いながら。

 影路の能力で、自分たちの存在感を消してもらうのが一番楽なのだが、その為には影路が怪我をしなくてはいけない。だから、俺と明日香は【無関心】の能力付与を使わせるのは最後の手段としていた。


 チャイム音と共に、3人の女子学生がコンビニの外に出て来る。スカートは短めだが、特に派手な外見もしていない。どちらかというと、真面目そうな子達だ。

『左端の子の鞄の中に商品が入っている』

「少しいいかしら?」

 影路の言葉を聞いた明日香が、左端の女の子の手を掴んだ。

「何ですか?」

「少しそのかばんの中身を見せてくれないかしら?」

 その瞬間残りの女の子達が脱兎のごとく走り出した。

「放せよ! ババアッ!!」

「ツッ!」

 バチッっと大きな音と共に明日香の手と女の子の手の間に火花が散り、明日香が手を離した。


「もっちゃん早く!!」

「うん!」

 先に走り出した女の子が振り向きながら、明日香に手を掴まれた女の子に声をかける。

「佐久間は残り2人を頼むわね。……逃がしたらただじゃおかないから」

「お、おう」

 隣で明日香がメラメラと燃えているのが分かった。『ババア』と言った子はご愁傷様だ。まあ、でも悪いことをしたのだから仕方がない。とりあえず俺も追いかけるか。

 少しだけ離されてしまったが、今の時間帯は人ごみが少ないので、どこに行ったかを目で確認する事ができる。

「エディ援護、よろしく。袋小路に向かわせてくれたら、風で檻をつくるから」

『オッケー。そんじゃ、信号機をハイジャックするよー。明日香姉さんは大丈夫? あの子、静電気を操ってるみたいだけど』

『大丈夫よ。ちょっと油断してしまったけど、目上に対しての口の利き方を教えてあげるわ』

 やっぱり明日香の逆鱗に触れてしまったか。

 後ろで、何かが破壊されるような音と女の子の悲鳴が聞こえた気がするがあえて振り向くのは止めた。逃げるだけにすればいいのに、ババアと言ったあの子が悪い。


 追いかけていると目の前の信号が赤になった。

 女の子達は、諦めて道を左に曲がる。

『とりあえず、影路ちゃんがつけた発信機で追跡は問題なくできてるから安心してねー』

 のんびりとした雰囲気で、エディが喋る。発信機の有効範囲は10kmと聞いているから、車などの乗り物を使われなければ大丈夫だ。

 さらに走っていると、再び目の前の信号が赤に変わった。

「サイアクッ!!」

 偶然信号が赤に変わっていると思っている女の子達が悪態をつく。実際はエディがタイミングを見て、赤に変えているだけだけど、そんなのを彼女達が知るはずものない。

 以前信号機のハイジャックをやりすぎて、警察の交通安全課から文句を言われた事があったが、エディはこたえてないようだ。でも犯人を袋小路に誘導する時は、その方法をとるのが早いのも良く分かる。

『大和の人は本当に真面目だよねー。信号なんて無視すればいいのに。まあ、ありがたいんだけど』

 今度は女の子達が信号機の前にたどり着く前に、赤色に変わった。

 その為、信号がある場所よりも手前の道で2人が曲がる。

『よしっ! 佐久間、その子達が今は曲がった道は道路工事で封鎖されているから、後はよろしくねー』

「任せろ」

 俺も同じ場所を曲がる。

 そして自分の背後に、風の壁をつくった。


「よう。俺の背後には目には見えないと思うけれど、風で壁が作ってある。結構切れ味がいいから、簡単にここから出られると思わない方がいいぞ?」

 女の子達も、この向こうが工事で行きどまりであると気が付いたようだ。

 俺の方を見て顔を青ざめさせた。

「な、何よ」

「女の子を追いかけまわして恥ずかしくないの?」

 それを言うか。

 確かに、状況を知らないと、どっちが悪人だという雰囲気ではある。……女の子というのはやりにくいなぁ。そう思うが、仕方がない。

「窃盗罪は、悪い事なんだ。大人しく、補導されろ。……命が惜しければ」

「は? 命?」

 遠くの方で、また何かが破壊されるような音が鳴った。

『明日香、ストップ! それ以上は駄目。死んじゃうから!!』

 ヘットホンから影路の焦った声が聞こえた。どうやら、無事にもう一人の女の子は確保はできたらしいが、あまり穏便にではないようだ。

「ちなみに、俺はまだ優しいぞ。この音を立てて破壊活動しながらお仲間に再教育している、暴力女よりは」

 再び、まるでダイナマイトでも爆発させたような音が鳴った。……影路がいるし、大丈夫だよな? あまりに大きな音に、若干俺も心配になる。

「な? 悪い事は言わないから」

 俺の言葉に、更に顔色を悪くした女の子達が頷いた。






◇◆◇◆◇◆◇






「これで30人目だな」

「結構酷い事になって来てるねぇー」

 最近学生の犯罪が増えている為、俺らは今回万引する子を補導して欲しいと依頼されたのだが、とんとん拍子で補導数が増えていた。

「全く、一体誰なのかしら。こんな馬鹿馬鹿しいサイトを作ったのは」

「学生なのは間違いないみたいだけど、こんなジョークのようなサイトを信じるなんて軽率だよねぇ」

 エディのパソコンを見ながら俺らは話す。

 

 エディが開いたノートパソコンの画面には【新世界へのカウントダウン】という文字が書かれていた。

 サイトの内容は、、Aクラスばかりが優遇されるこの世界を変えたいと思わないかという問いかけと、もうすぐこの国のあり方が変わるという、新興宗教のようなものだ。そしてAクラスばかりが守られるこの国の法を壊すために、今の法に裁きをと書かれており、これに悪乗りする学生が多発しているのだ。

 Aクラスが悪いことをしても許されるなら、自分たちだって許されてもいいはずだと。

「俺たちだって。悪いことをしたら捕まるっての」

 Aクラスが守られているというのは、器物損壊の時だけだ。どうしても力のさじ加減が難しいAクラスのみ、お咎めなしとなっている。その他、今学生の間で流行っている万引きなどの窃盗罪などはもちろん捕まるし、人に怪我をさせれば傷害罪として捕まるのだ。何でもかんでも優遇されていると思ったら大間違いである。

「まあね。でもBクラスやCクラスの学生達はあまりAクラスと接する事が少ないから知らないんだよねー。ね、影路ちゃんも、Aクラスがどんな人なのかは、佐久間と会うまで知らなかっただろう?」

「うん。私はクラスメイトにAクラスがいなかったから」

 そう話しながら、影路は俺達の前にお茶をおいていく。

「綾ゴメンね。突然押しかけたのに、お茶まで用意してもらっちゃって」

「大丈夫。賑やかなのは私も嬉しいから」

 

 俺達は、万引きを捕まえる仕事を一度休憩し、現場から一番近い影路のアパートに来て、作戦会議を開いていた。どうやら影路はいつの間にか台所へ行きお茶を用意していたらしい。

 ありがとうとお礼を言って俺も受け取る。

「それにしても、ふざけた内容よね。罪を犯しても無罪になるとか、自分達が国の法となっていこうとか。一体何を考えているのかしら」

「本当だよな」

「でも、引っかかる方も引っかかる方だと思うけどねー。最近この手の犯罪に手を出しちゃう子達の、馬鹿発見器みたいな雰囲気になっているし。でももうしばらくは、この軽犯罪祭りは続くかもね。流行りってやつ?」

 嫌な流行りだ。

 しかも皆でやれば怖くないのノリになり、今日みたいに真面目そうな女の子達まで、遊び半分で犯罪を犯しているのだから。

「あっ。今ちょうど組織からメールが来たみたいだよ。えっと……うげっ。これ、佐久間と明日香姉さんでやってよ。僕はパスだなぁ」

「は? パスってなんだよ」

 エディが開いたメールの件名は【高校への潜入捜査について】と書かれていた。

「どうやら、組織も本腰を入れて、このサイト作成者を吊るし上げることにしたみたいだねー。このサイト、どうやら高校生が学校で作っているみたいだからそこに行けって。でも僕は高校なんて行きたくないから、頑張ってねー」

 高校に潜入? どうやって?

 まだ状況を理解していない俺らに、エディは手を振った。

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