表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/121

お見合いの恋(8)

 エディに言われて、俺は影路が遠藤と入っていった救護室の前へやって来た。

「何を話していたか分からないけどさ、耳打ちしちゃったりして、アダルティな雰囲気だったんだよ」

「だったら何で止めないんだよ」

「だって影路ちゃん、大丈夫って合図したままだったし。でもドアを閉められちゃったから中が確認できなくなっちゃったんだよね。だから佐久間を探した次第さ。影路ちゃんに付けてもらった無関心の能力がどこまで効くのか分からなかったし、救護室に防犯カメラもないしさ」

 影路が大丈夫と言ったのか。

 そうだとしたら、いきなりドアを開けるのは不味いかもしれない。もしも何か影路が何か作戦を立てていたのに、突然俺が乱入したら、思いっきり迷惑だ。

 とりあえず中の声が聞こえないかと、俺はドアに耳を当てた。


『影路ちゃんは、体が柔らかいねぇ。ほらこんなに足が開くなんて』

 足が開く?

 一体どんな状況なんだ?そもそも、影路は今日、ワンピースではなかっただろうか。それなのに、足を開くって……。

『あっ……痛っ』

『ごめん痛かったかい?』

 痛い?

 しかし、影路は痛いといいつつ、嫌がるそぶりを見せない。何をやっているんだろう?

『でも大丈夫。そのうち気持ちよくなるから』

 って、ちょっと待てっ!!

 影路に限って。いや、そんな。

 俺の中が焦りとか色んなもので、ぐちゃぐちゃになる。だって、今日であったばかりの男だぞ?でも、だったらこの中で何が行われているというのか。

 俺は確かに影路に手伝って欲しいとは頼んだけれど、そんな自分を大切にしない方法なんて頼んでいない。

 俺は反射的に、ドアノブをひねった。

 

 ガチャガチャッ。

 どうやら中から鍵がかけられているらしい。ドアは上手く開けられなかった。念入りな事で。でも、鍵なんて俺の前では無力だ。

「佐久間?!」

「うっせぇ。黙って下がってろ」

 俺は【風使い】の能力を使って、一気にドアに向かって風をぶち当てた。

 ばきっという音と主に、蝶番が壊れる音がする。そして、ドアが倒れた。

「影路っ?!」

「佐久間?」

 中に入ると、影路はベッドの上に横になっていた。その足元には、遠藤の姿。カッと頭に血の気が上る。

「影路に何してやがるっ!!」

「何って、マッサージだけど?」

「こんなことしてタダですむと――……マッサージ?」

 

 ん?

 

 もう一度影路の姿を見ると、影路は先ほどまで着ていたワンピースではなく、ジャージ姿をしていた。

「遠藤さん、もしかしてこれは有料?」

「まさか。そこまで俺はケチじゃないよ。勿論、今日は無料さ。足のリンパをマッサージすると、足が細くなるからね。自分でもできるし、今度から寝る前にやってみるといいよ。今やった股関節のストレッチもいいし」

 足のリンパのマッサージ? ストレッチ?

 服装と雰囲気、それと言葉から、俺は思いっきり勘違いをしていたのだと気が付く。

 な、なんだ。ただのマッサージか。は、ははは。

「佐久間、やらしぃ~。何を想像したんだい?」

「エディィィっ!! お前知っていて!!」

 俺の脇腹を突っ突いてくるエディの首を俺は絞めた。とはいえ、着ぐるみなので、上手く絞め技がキメられない。

「ははは。知らないよぉ。ただこういう勘違いオチは二次元では付きものさ」

「ここは二次元じゃないっての!!」

 俺は首を絞めても腹を抱えて笑っているエディを怒鳴りつける。


「佐久間? 何か勘違いをした?」

「えっと。いやその――」

 言えるわけないだろ。好きな子が寝とられたかもだなんて思って、そう言うシーンを想像したなんて。影路に軽蔑の目で見られるのはできたら避けたい。

「そ、そうだ。遠藤さん。アンタ、組織の1F勤めだろ」

「なんだ。やっと気が付いたのか。遅いぞ、シンデレラ王子」

 そう言って、黒髪のカツラを外し、遠藤は口の周りの髭を取り除き、眼鏡を外した。……やっぱり。すべての変装を取り除いた遠藤は、救護室で何度かお世話になった事のある近藤だった。やっぱりか。

「やっぱり近藤さんかよ。おかしいと思ったんだ。普通ならこの手の仕事は【能力解析】の能力者に回されるはずなのに、俺とエディに回って来るなんて」

 と言っても気が付いたのはついさっきだけど。でも折角なのでそれについては黙っておく。失敗続きなので、少し位は影路の前で格好をつけたい。

「まあ、及第点だな。頭を使うのが苦手な割に頑張ったし、お前が協力者に選んだ影路ちゃんは上手く俺に近づいてきた上に、エディに頼んでおいた揺さぶりにも反応せず、お前を裏切らなかった。とりあえず、佐久間は残留だ。おめでとう」

「もうそんな時期かよ」

 はぁぁぁと、俺は大きなため息をついた。本当に心臓に悪いというか。

 

「そんな時期?」

「組織の査定だよ。毎年このぐらいの時期にあるんだけど、あんまり成績が悪いと、正職から協力者に逆戻りなんだ」

 不思議そうにする影路に俺はそう説明した。

 まあ落とされるだけではなく、逆に協力者から正職になる場合もある。俺も、そうやって正職になった口だ。

「一度働ければ、そのまま組織で働けるのではないの?」

「まさか。警察とかがお手上げしたような事件を解決しなくちゃいけないんだから、いつだってふるいにかけられるさ」

 意外に一般には知られてないけどな。Aクラスだったら、仕事は安泰とか思っている人も多いが、結構AクラスはAクラスでシビアなのだ。それだけ求められているのが大きいという事もある。

「というわけなんだ。折角一生懸命協力してくれたのに騙していたみたいでごめんね。ただ、佐久間。お前、今回の任務としての答えは出せたのか? 果たして俺は【手当て】の能力で間違いないのか、どうなのか。言えないと、任務は失敗という事で減点だからな」

 うぐっ。

 一応残留は決定したけれど、その答えは分からない。……減点かぁ。査定での減点は、今後の任務の成績によっては、来年落とされる可能性がある。まあ、残留できただけ良かったとするか。

「それとエディはどうなんだ?」

「えっ? 僕?!」

 自分は関係ないような雰囲気を出していたエディが驚いたような声を上げた。

「佐久間がこれが嘘の任務だと気が付けるかどうかの為の協力は頼んだが、この仕事は本当の仕事だと思ってやれとちゃんと言ったよな。というわけで、分からない場合、エディは今年も協力者のままだ。それとお前はパソコンに頼りすぎだ。仕事ではどうしても知り合い以外と話さないといけない場面もあるんだから、今のままじゃ正職にはできないな」

「ええっ。僕も査定対象だったの?! 酷いよぉ」

 どうやら、今回は俺だけではなく、エディの査定も含まれていたらしい。

 エディの場合は、俺の査定だと思わせて油断をさせた状態で、どう仕事に取り組むかを見られていたのだろう。

 

「待って。遠藤さん……ではなくて、えっと近藤さん?は、能力詐称をしている。ただそれが本当に奥さんの死と保険金の取得に関わるかは分からないけれど、保険会社に能力説明が不足していたのは間違いない」

 俺とエディが調べきれなくて困っていると、影路がそう言った。

「そして、私は佐久間の協力者。だから――」

「ああ。影路ちゃんは佐久間が今回の会場で選んだ協力者だからね。君が答えても問題はない。それで、俺のどこが能力詐称にあたるのかな?」

「私が手を怪我したから【手当て】の能力を使って欲しいと言った時、近藤さんは絆創膏を貰うように言った。でも私はその時、手を後ろで組んでいて傷はみせていなかった。手を怪我したなら、切り傷とは限らない。打撲やねん挫などもあり得る。だから、近藤さんは、【手当て】の能力は持っているかもしれないけれど、【相手の病気や負傷を知る能力】があると思う」

 流石影路。

 いつの間に、そんな事をしていたのか。あれか。俺が女の子に囲まれて、影路と離れてしまった間か?!

「それが主体となれば、【病視】の能力となり、そうでなければ【手当て】の中の能力の一部となる。どちらかという答えは出せないけれど、病気や負傷を見る事ができる能力があれば、中々保険に入るのは難しいと思う。それによって死期も見えてしまう可能性があるから」

「正解だ。凄いな影路ちゃんは。怪我をしたというのは、俺に近づくためかと思ったけれど、そこまで考えていたのか。ま、今回は影路ちゃんを協力者と選べたシンデレラ王子が解決をさせたという事にしておくか。ただ、エディはやぱっぱり力不足だ。佐久間がいなかったら協力者も見つけられなかっただろ」

「うぅ。折角佐久間を引きずり落とす協力したのにぃ」

「落とすなっ!!」

 エディは着ぐるみを着たまましゃがみこむと、のの字を書いていじけた。

「とりあえず、佐久間。影路ちゃんに感謝するんだな」

 言われなくても分かってるよ。

 俺は影路の方を向き直った。さっき怒ってしまったのに、影路は大人だ。それはそれと切り離して考えて俺の仕事を手伝ってくれた。

「影路、さっきは怒鳴ってごめん。そんでもって、ありがとう」

「ううん。大丈夫。……それと、どういたしまして」

 そう言って、影路はかすかに微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ