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お見合いの恋(3)

 ……目の前にパンダがいる。

 

 何故パンダ。どうして、パンダ。

 私は、お見合いパーティーの会場で、一際異彩を放つパンダの着ぐるみを凝視した。無関心の能力も使えないぐらいのインパクトだ。

 えっと、番号は28番だから……Bクラスの人なんだ。

 胸に付けられた番号と事前に渡された書類を見比べながら、あの人は本気でお見合いに来たのだろうかと心の中でツッコミを入れる。Bクラスなら、女の子達の人だかりができていてもよさそうなのに、皆が目を逸らしている。

 パンダの名前は、エドワード・ウォーカー。どうやらアメリカ人とのハーフらしい。能力は【電脳空間掌握】。あまり聞き覚えはないが、とりあえずパソコンに関する能力者らしい。Bクラスという事は、能力的にかなり優秀なのだろう。

 ……天才と馬鹿は紙一重というが、まさにそれを体現したような格好だ。


 ぼぉっと、誰も寄り付かないパンダを眺めていたため、私は【無関心】の能力を発動しそびれてしまった。ふと気が付けば、パンダが私の方へ向かってずんずんと歩いてくる。

「やあ。こんにちは」

「ど、どうも」

 右手を上げて、パンダが挨拶をしてきたので、私は慌てて【無関心】の能力を再度発動して挨拶をする。一度注目されてしまうと、他の人にまで【無関心】が効かなくなってしまう。

 今日は姉の強い押しで参加はしたが、実際にはお見合いをする気はない。

 というか、Dクラスの私とまともに話してくれる相手がそもそも居ないと思う。同じDクラスがいれば別だが、姉からの事前情報によると、参加率は0らしい。でも何となく私にもそうなる理由は分かる。Dクラスになった人はきっともう結婚なんて諦めてしまっているだろうから。

「突然だけど、夏目ちゃんに似てるって言われたことないかな?」

「ないです」

 ……なんだろう。

 お見合いの常套句というよりは、ナンパの常套句な気がする。ねえねえ、芸能人の○○に似ているって言われない?的な。

 問題は、私は夏目ちゃんという芸能人を知らなところだろう。褒められているのかどうかも良く分からない。

 そしてパンダの恰好でのナンパというのは、なんだか違和感がありすぎて良く分からない。例えばこのパンダの中身が不細工だったとしても、たぶんパンダの着ぐるみを着ているよりはモテると思う。少なくともパンダでいる間は、お見合いの相手としてカウントされていないに違いない。

「そっかぁ。絶対、夏目雪に似てると思うんだよね。是非ともコスプレして欲しいぐらいに」

「コスプレ?……パンダはちょっと」

 【無関心】の能力を使えばパンダの恰好をしても目立つ事はないだろうけれど、能力を止めた時の視線が痛そうだ。そして、姉からも大ブーイングが来るだろう。

「違うよぉ。もしかして深夜番組の【飛べない鳥】も知らないのかな? 後、パンダの中に中の人なんていないんだよ。子供たちの夢を壊したら駄目じゃないか」

「すみません。家にDVDデッキがないので、深夜番組は見れないんです」

 この会場のどこにも子供はいないのだけど、私はそのネタはスルーする事にした。確かに着ぐるみを着ている時は、中の人なんて居ませんよがセオリーである。

 でも中に人がいないのなら、パンダが人間とお見合いをしに来たという事になるのでどうなんだろう。色々謎な設定だ。


「それは残念だなぁ。すごくいい話だから、良かったら貸してあげようと思ったけど」

「気持ちだけで、大丈夫です」

 貸してもらったら返さなければいけない。もしも借りると言ったらどうする気だったんだろう。携帯電話のアドレスを交換したりするのだろうか。

 ……はっ?! 今更だけどもしかして、これが世に言うナンパというものだろうか。相手は何故かパンダだけど、初ナンパだ。

 お見合いパーティーは何があるか分からないものだとしみじみする。確か姉も、若いと結婚目的というより出会い目的だと言っていた。

 そしてこのヒトは、外人さん。もしかしたら書類の見方も良く分かっていないのかもしれない。さらにコスプレが正装と勘違い……はさすがにしていないか。

「あの。パンダさんはBクラスですから、ナンパをするなら、最初に渡された書類のここの欄がAクラスとかBクラスの人の方がいいと思いますよ。胸に着けられたバッチと照らし合わせながら見て下さい」

 パンダさんと呼ぶべきか、中の人の名前で呼ぶべきか迷い、最終的に先ほど中の人なんていないと言ったので、パンダさんと呼んでみた。

「えぇ? もしかして、ナンパだと思った? ごめんね。僕は二次元しか興味なくて。あ、でも2.5次元ならいけるかも。それと、僕の事はエディでいいから」

 中の人は居ない設定じゃなかったんだろうか。それともこのパンダの名前がエディという事なのだろうか。自由すぎて良く分からない。

 そしてここまで堂々としたオタクを見たのも初めてだ。

 Bクラスだし、ハーフだし、色々モテそうな要素はそろっているのに、二次元しか興味がないって、何て残念な人なんだろう。Dクラスの私に憐れまれるのもアレかもしれないけれど。

「私は影路綾。Dクラスで、能力は【無関心】です」

「やっぱり、影路ちゃんかぁ。あ、敬語はいいから。僕の方が年下だし。本当に、見れば見るほど夏目ちゃんに似てるなぁ。あ、そうだ。携帯に確か画像があって……って、この格好だとボタンが押せない?!」

 パンダ設定を頑張る気はないようだ。今、格好って言ったよね……まあ、いいんだけど。

「どうしてパンダの姿を?」

「ほら。この姿だと3次元の子は近づいてこないでしょ? 僕、お見合いとか嫌なんだよね」

 本当にどうしてこの人は、ここに居るんだろう。とてつもなく謎だ。

「影路ちゃん、携帯触って。このボタンを押せば、ロックが解除されるから。今の待ち受けは、乙姫たんだけど」

「……そういえば、先ほど、『やっぱり影路ちゃん』と言わなかった?」

 携帯電話のロックを解除をしながら、ふと先ほど感じた違和感を質問した。日本語の不自由さからくる言葉の間違いかもしれないけれど、これだけペラペラだと言い間違いではない気もする。

「言ったよ。髪型が違うから人違いかと思ったけど、やっぱり本人だったんだなって思ったから。で、ほらほら、ここのボタン押してよ」

 どうして私の事を知っているんだろう?

 このパンダ、本当に良く分からない。


「エディッ!!でめぇ、1人で逃げやがって」

「うわっ、先輩。2次元は任せろ。可愛い3次元の女の子は任せますって言ったのに、何で怒ってるんですか」

「良い時だけ先輩扱いするなって、俺も言ったよな。あんな状態じゃ、対象者にも近づけないだろ。しかもお前に至っては、悪目立ちする格好だし」

「だってー、興味のない3次元に言い寄られてもつまんないしー」

 目の前にやって来た茶髪の男は、パンダの顔を掴むと、ぐいっと引っ張る。エディも顔をとられまいと必死に抵抗しているが……えっと。

「佐久間。何をしているの?」

 とりあえず、2人して悪目立ちしている。


「へ……影路?!」

 【無関心】の能力発動は止めていないが、私から声をかけた事で、佐久間は1テンポ遅れて私の存在に気が付いたようだ。呆けたような顔をギョッとしたものに変えた。

「えっ? 何で、影路がここに?」

「私もお見合いに参加しているから」

 まあ確かに、Dクラスの私が参加するというのは変ではある。

 お見合いなんて、家柄、ルックス、学歴、年収、能力を見て決める。確実に、学歴と年収、能力で劣る私は、相手なんて見つかる気がしない。

「お、お見合い?!」

「お姉ちゃんの会社だから強制的に。佐久間もお見合いするんだ」

 佐久間の場合、選び放題だろうなあ。

 問題点があるとしたら、現在学生でもあるところだが、既に将来が約束されているといってもいい。さぞかし女の子達にモテるだろう。

 佐久間の好きなタイプはどんな子なんだろ。少し気になる。

「影路、ちょっと来い」

「ちょいちょい。僕を置いていかないでおくれよ」

 佐久間に腕を引っ張られて、私は会場の端に移動した。その後ろから、パンダが付いてくる。


 【無関心】の能力を止めたら、訳が分からない組み合わせにみえるだろうなぁと思う。Aクラスと、Dクラスとパンダ。関係性がさっぱりだ。いや、今のAクラスの佐久間がパンダと一緒にいるのも変だけど。

「俺は、お見合いに来たわけじゃないから」

「そうなの?」

 お見合いパーティーにお見合いをしに来なかったら何をするのだろう。

「先輩は、ナンパをしに来たんだよね」

「違うっての。お前は、しょうもない嘘をつくな。組織の仕事だよ。今回は潜入調査で、ここに参加している、ある男の動きを見張ってるんだよ」

「あれ? 守秘義務はいいのかい?」

「影路は口が堅いからいいんだよ。な?」

 ……いや。良くないと思う。

 思うけれど、話を聞けばもしかしたら手伝える内容かもしれない。なので私は内心首をかしげつつも頷いた。

「誰にも話すつもりはないし、話す相手もいない」

 姉を含めた家族は私が危険な事をするのは反対派なので組織の仕事はほぼ黙っているし、私の友人は少ないのでこちらにも話す事はない。


「実はこのお見合いパーティーに参加している男に、2回結婚をして、2回とも妻が先に死んでいる男がいるんだ。妻の死因は病死でおかしな点はない。でもこの男には2回分の多額の保険金が入りこんでいる。だからもしかしたら能力虚偽が行われているのではないかって話になったんだ。それで今回誰か新しい妻をつくるか様子を見て不審な行動をしないか確認しているってわけ」

 なるほど。死因におかしな点がないから、【能力虚偽】を疑っているのか。能力の種類によっては、保険を受ける事ができない場合がある。

 また【能力虚偽】はあまりに悪質な場合、この国では懲役刑に問われたりもする事があった。よくあるのが、Cクラスの能力しかないのにBクラスと偽ったり、Aクラスの能力者が親の判断でBやCの能力と偽るタイプだ。勿論、誤診断をされて本人も気が付かなかった場合は、罪に問われたりはしないが。

「その人の能力は何?」

「Cクラスの能力者で、えっと……」

「Cクラスの能力者で、【手当て】の能力。まあ簡単に言えば、体の悪い所に手を置いて気のようなものを送って良くする能力かな。ただ、この人の能力はそれほど強くなくて、若干よくなった気がする程度。現在、リハビリ療法士をやっていて、マッサージが気持ちいと評判という感じだよ」

 佐久間が情報が書いてある紙をとりだそうとしたところで、エディが先に情報を付け加えた。

「まあ、そんな感じだ。だから、俺は決してお見合いをしに来たんじゃなくて、仕事をしに来たんだからな」

「うん。分かった」

 日曜日も仕事なんて大変だなと思う。

 にしても、そんな必死に説明しなくても、私が組織の人に仕事をサボっていたなんて伝えないのになぁと思う。まあ、若干明日香に情報の横流しはするかもだけど。

「私も手伝う――」

 どうせ私もまともにお見合いをする気はないのだから。

 あ、でも。姉にはバレたら怒られそうだ。美容院を予約して、服まで貸してくれたのだから、力の入れようが違う。

「――ちょっと事情で、こっそりだけど」

 私も今日お見合いに参加する事になった事情を佐久間達に話す事にした。

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