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お見合いの恋(1)

 ピーンポーン。

 玄関のチャイムが鳴って、私は立ち上がった。今日は明日香と遊ぶ約束はしていないし、郵便か何かだろうか。

 もしくは新聞の勧誘という可能性もある。なので【無関心】の能力を発動させて玄関へ向かう。新聞は今の所買う気はないというか、買うお金がないので対処するのは面倒だ。玄関の様子が見れるというカメラがついていると便利なのだが、ここは格安アパート。そんなものはない。

 ゆっくりとドアを開け相手を確認した私は、能力の発動を止めた。

「お姉ちゃん?」

「うわっ。びっくりしたぁ。能力発動してたのね」


 ドアの外に居たのは、私の姉である、愛だった。

 私より5つ年上で去年結婚をしており、お腹には子供もいて、リア充真っ盛りだ。まだあまりお腹が目立ってきてはいないが、何だか少し雰囲気が変わった気がする。

「どうしたの。連絡もなしに」

「お姉さまちぇーく、に決まってるじゃない。連絡したら、色々片づけられちゃうし。じゃあ、入るわね」

「えっ? お姉ちゃん?」

 ポイポイとブーツを脱ぎ捨てて、姉が勝手にアパートの中に入っていく。そして、リビングを通り過ぎて、すぐさま洗面台へ行く。

「一応ちゃんと掃除はしているから、そこまで汚くないと思うけど」

「誰が掃除の有無を確認しに来たのよ。綾の事だからその辺りがきっちりしているのは、ちゃんと分かっているわよ」

 そう言って今度はトイレを開け、中に入るのかと思えば閉める。

 掃除をチェックしに来たのではないのなら、何をチェックしに来たのだろう。


「……ない」

「トイレットペーパーは、この前安売りで買い置きしてあるから大丈夫だと思うけど」

「違うわよ! 何で綾は若いのにそんな所帯じみてるのよ。トイレットペーパーなんかじゃなくて、男の影よ。男の影! 歯ブラシは1本。トイレの便座も開いていないなんて」

 姉はそう言って胸をそらし、私を指さした。

 妹の私が言うのもなんだが、姉は美人だ。能力が【花嫁の眼差し】と呼ばれる、結婚に関する予知能力であった為か、人一倍外見の手入れに余念がない。やはりみすぼらしい恋愛から遠そうな恰好の人よりも、綺麗な人に結婚相談は持ち掛けたいものだから。

 そんな美女の姉が鼻息荒く話すのは、結構珍しい。

「彼氏とかいるわけない――」

「私と同じDNAが流れてるんでしょうが。髪の毛もこんなボッサボサに伸ばしっぱなしにして。伸ばすなら少しはパーマをかけるとかしなさいよ」

「えっ。お金ないし」

 私の給料だと、そんなパーマとかかけるお金はない。最近佐久間の仕事の手伝いのおかげで、少し懐が潤ってはいるが、もしもの為の貯金もしなければならないので、削るとしたらそういう所だ。

 ちなみに現在、前髪は自分でカットしている。

「お金がないじゃないわよ。知り合いのところで安くカットしてもらえるように伝えておくから、とにかく少し小ざっぱりしなさい。まったく、お母さん達が心配してたわよ。綾はしっかり者だけど、1人暮らしなんて大丈夫かって」

「うん。何とかやってるよ」

「だったら、たまには顔を見せなさい。きっと綾の事だから、顔を見たら里心ついてしまうかもって心配してるんでしょうけど。別に帰りたくなったら、帰っていいわよ。貴方の実家でしょ」

 流石、私の姉。良く分かっていらっしゃる。

 Dクラスの私は一生独り身になる可能性があった。なので、早めから1人の力で生きていけるように試している所なのだ。

 本当の事を言うと、やっぱり誰もいないアパートに帰るのは寂しい。でもこれになれておかないと後々大変な事になるだろう。


「はい。これお母さんから。ちゃんとお肉食べなさいって、預かってきたわ。どうせ、お肉高いとか言って、中々食べていないでしょ。1人暮らしし始めて、前より痩せたんじゃないの?」

「たまには食べてるよ……でも貰う。牛は買ってないから」

 姉から渡された肉を、私はいそいそと冷蔵庫にしまう。

 やっぱりどうしても、肉を買うとなると、安い鶏や豚、またはひき肉になってしまうのだ。その辺り、良く分かっていらっしゃる。

 ついでに冷蔵庫からお茶をだしてきてコップに注ぎテーブルに置いた。

「にしても、おかしいわね。綾の近くに男の影がありそうな勘が働いたんだけど」

 その言葉に私はドキリとする。……流石お姉ちゃんだ。まさかこんな早く気が付くなんて。

 姉は能力抜きにしても、恋愛関係の勘が鋭い。

「えっと。たぶんそれは……私に好きな人ができたから」

「本当?! 誰よ? 仕事の人?!」

 興味津々な雰囲気で言われると、流石に恥ずかしい。生まれてこの方、そんな好きな人なんてできなかったので、まさに初恋といってもいいのだ。

「片思いだけど」

「そんなのは、どうでもいいわよ。相性占いしてあげようか? 名前と生年月日、あとクラスと能力をいいなさい」

「生年月日は分からない。名前は佐久間龍。クラスはAクラスで【風使い】」

「えっ。Aクラス?」

 流石にAクラスと言う言葉がでてくるとは思わなかったらしい。

 姉はギョッとした顔をしている。


「綾の仕事って、派遣清掃員だったわよね。どこで知り合ったの?」

「仕事場で……。今は清掃の仕事以外に、たまに佐久間の仕事を手伝ってる。佐久間は組織に所属していて、警察で解決が難しい仕事を請け負っていて――」

「綾。今すぐお姉ちゃんの会社でお見合いしなさい」

「何で?」

 何故、見合い?

 未成年で見合いをする人なんてほとんどいないと思う。それに見合いをしようにも、Dクラスだと、中々相手は見つからないと思う。

「綾に好きな人ができたら応援しようと思ったけれど、Aクラスは別よ。論外だわ。しかも仕事を手伝っているって何? 危険な仕事じゃないわよね」

「危険は……まあ、そこそこ」

「綾のそこそこは、かなりって事じゃないの。なんで、そんなのに、ときめいちゃうかなぁ」

 姉は深くため息をついた。

 ……これは、去年の10月に拳銃で撃たれて入院した事は言わない方が良いだろう。もっとも、銃弾飛び交うなんていうデンジャラスな事件は早々起きないのだけど。

「……まさかと思うけど、血をつけたら【無関心】を他者にも使える事は言ってない――わけないかぁ。Aクラスの子の仕事を手伝っているなら」

「えっと、具体的に話したのは、佐久間とBクラスの【超脚力】の能力者の明日香だけ」

「なら、それ以上は話したら駄目よ。これは姉ちゃんとの約束」

「分かった」

 別に話すような相手もいないので、問題はない。

 実のところを言うと、佐久間の仕事も、佐久間から一般人協力者として仕事を回してもらっている状況で、組織に籍を置いているわけではなかった。


「それで、この机の惨状なわけね。何? 血以外で他者に能力を渡す方法を考えているの?」

「そう。昔、お姉ちゃんに偶然使ったからそう言う使い方がある事を知っただけで、他の方法がないかは確認していなかったから」

 机の上には、血以外で能力の付与する方法はないかと書きだした紙が出しっぱなしになっていた。

 この間、佐久間に血を使うのは何とかならないかと言われたので、私なりに考えてみたのだけど、中々これが上手くいかない。

「血→体液?→唾液……ねぇ。量とか色々書いているけど、唾液まみれにされる方はたまったものじゃないわよ」

「うん。書いてて思った。血だったらすごく少量で済んでいるから量は関係なさそうだけど」

「普通にキス位で考えてみたらどう?付ける場所にも関係するかもだし。キスとなると、手の甲は忠誠の証、髪は思慕、額は友情とか祝福、頬が親愛、唇が愛情だったかしら」

「なるほど」

 体液の量とか考えていたが、確かにつける場所とかも関係があるかもしれない。何となく、血判を付ける時は額にしていたけれど、そこまで考えていなかった。

「とにかくお見合いパーティーに出て恋人探しなさい。十代の場合は、結婚相手探しというよりもそんな感じだから。彼氏相手なら、能力が効くかどうかの確認もし放題よ」

「えっ。まだ参加するとは……」

「参加しないなら、強制的に実家に戻るようようにしないとダメだってお父さん達に言うから。綾が男を家に連れ込んでるとか、ある事ない事……聞くけど、その、佐久間って子はまだこの家に入っていないわよね?」

「ううん。一度シャワーを貸してる」

 そう言うと、姉がガシッと私の肩を掴んだ。

「何やってるの?! Aクラスの男と不純異性交遊なんて」

「してないから。硝子まみれで血まみれだったから貸しただけで」

「硝子まみれって……どういう状況よ。まあいいわ。とにかく、もう少し年頃の女の子の自覚持ちなさい。世の中の男はオオカミなんだから」

 そうかなぁ。

 姉ぐらい綺麗な人だったら確かに危ないけど、そうではなくて、更にDクラスなら安全だと思う。特にAクラスの男が手を出してくるとは思えない。

「とりあえず、美容院予約しておくから。今週日曜日は予定を開けといてよね」

「分かった」

 私は今まで姉に口で勝てた試しがない。なので、私は諦めて参加する事に決めた。 

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