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遊園地の恋(5)

「綾っ!!良かった、無事でっ!!」


 観覧車から千春ちゃんと影路を背負って降りた俺は、地面に着地してすぐ、勢いよく後ろから押された。

「って、明日香! 危ないだろうがっ!! 何するんだよ?!」

 俺は千春ちゃんを落とさないように気を付けながら、何とか踏みとどまる。

「何するのは、こっちのセリフよ。あんな無茶をして。綾が落っこちたらどうするつもりよ?!」

「ちゃんと、落ちないかどうか確認してたってーの。手が使えないから下から風で支えていたし」

 というか、ある意味それで良かった気がする。

 もしも手が使えた場合は、影路をおんぶする形になるという事で。……その、影路の尻辺りに手を置くというのは、とても俺的に美味しいような困るような状況だ。

 いや。まあ。ちょっと背中に影路が当たる表面積が大きいかったのも色々マズかった気がするけれど。影路が離れたことで少し残念な気分になっった俺は、慌てて頭を切り替える。


「ん? というか。何で明日香がこの状況知ってるんだ?」

「今回のパレード、動画サイトにばっちり流れてるわよ」

 明日香が俺に向けた携帯からは、今も園内に鳴り響くパレードの音楽が流れていた。……確かにここの園内の様子のようだ。

「これのおかげで佐久間達が、千春ちゃんを助け出したって確認できたから、とりあえず壁を乗り越えてここに入ってみたんだけど。これ、綾の作戦?」

「えっ? マジでそうなのか? というか、俺の作戦とは思わないのかよ」

「思うわけないでしょ。佐久間は脳筋だもの。そもそも今驚いているアンタは、違うって言ってるみたいなものよ」

 まあ、実際全部影路の作戦だけどさ。俺は影路の作戦に乗っかって、パレードを導いたに過ぎない。

「動画に関しては作戦というほどじゃない。学生が多いから特別パレードを動画でとってくれそうだし、そうなればいいという願望があった程度。その動画に、明日香たちが気が付いてくれるかどうかも分からなかったし」

「マジで? 俺、そこまで聞いていないんだけど」

「作戦じゃなく願望だから」

 相変わらずクールだな。そこにシビれる!あこがれるゥ――とまではいかないけれど、本気で凄いな、影路。本当に無傷で千春ちゃんも奪還してしまうし。

 

「そう言えば、爆弾は大丈夫なの? 犯人も、千春ちゃんをとられていきり立っているんじゃない? まだイベントの一環っだと思って気が付いてないかもだけど」

 そう言って明日香は観覧車を見上げる。

 ここからでは、赤色の観覧車しか見えないが、きっとあの中にいる犯人もこちらを見ているのだろう。

「爆弾はないって、影路が……。でも、だったら、どうやって犯人はこの遊園地の中の人を人質にする気だったんんだ?」

「たぶんこの遊園地を爆破するって言う気だったんだと思う」

「は?」

 爆弾はなかったんだよな?

 なのに遊園地が爆発……爆発?!

「はぁぁぁぁ?!」

「待って。だったって、過去形なの?」

 俺が叫ぶ横で、明日香が影路に確認をする。


「うん。もう犯人の手の中に千春ちゃんはいないから」

「へ? 千春ちゃん?」

「そう。犯人の爆弾は彼女だから」

 俺は手の中にいる子供へ目を向ける。

 何が起こっているか分からないのだろう。千春ちゃんは、きょとんとした顔で俺達を見上げていた。

「何で? もしかして千春ちゃんって【爆弾】の能力者?!」

「違うわよ。ちゃんと私が送った資料読まなかったの? 千春ちゃんの能力は【気化】よ」

「いや。読んだけどさ」

 だってそうでないと、影路の話と繋がらない。

 【気化】の能力は、湿度を操る能力だ。範囲の広さによって、クラスが変わるタイプの能力だが、爆発はしないはずだ。

「どのレベルまで起こせるかかは分からないけれど、たぶん擬似的な蒸気爆発を起こして混乱させる気だったんだと思う。小さいものでも、一度起これば、これだけ人がいるとかなり大混乱になるから。その為に遊園地内で何度か、千春ちゃんに能力を使わせて、有効範囲などを確認していたんだと思うし」

「能力を使って?」

「予想でしかないけれど。でもここで季節外れのインフルエンザが流行ったのは、建物内の湿度が減らされて乾燥したから。もしも爆発を起こしてもヒーローショーの合間なら、音を隠すこともできる」

 ……えっと。ええっと。

「あのさ。ごめん。蒸気爆発って何?」

「ちょっとは勉強しなさいよ」

 バシッっと後頭部を明日香に叩かれた。

 いや、その通りなんだけど。でも日常じゃ使わない単語だし。それに――。

「だったら明日香は分かるのかよ?!」

「……言葉ぐらいは、分かるわよ!」

「なら意味を言ってみろよ」

「い、意味?意味はね……とにかく爆発するのよ」

「俺だって、それぐらい分かるからな」

 やっぱり分かってないじゃないか。

 

「私もそれほど詳しくはない。学者様じゃないし。ただ、一気に気化する事で起こるって本を読んだ事があっただけで」

 影路がいつもより少しだけ困ったような顔をしているように見える。……もしかして馬鹿だと思われただろうか。ふっ。蒸気爆発を知らなくったって、生きていけるんだ。

「ねえ、おーじさま」

「ん?」

 ちょっといじけていると、手の中にいた千春ちゃんが声をかけてきた。

 一瞬なんで、おーじ?と思ったけれど、そういえば、今の俺はシンデレラの王子役だった。

「どうかしましたか? お姫様」

「パパのところにもどりたいの」

「パパ?」

 ……パパって親父の事だよな?

 って、どう言う事だよ。


「明日香。千春ちゃんと犯人の関係性はなに?」

 俺が聞く前に、影路が明日香に訊ねた。確か影路は、観覧車で犯人たちと一緒になった時から、2人に関係性を疑問に思っていた。

「今聞いた通り、親子よ。DNA的にも間違いなくね」

「じゃあ、誘拐じゃないじゃん?」

「先日離婚が成立して、母親側に千春ちゃんの親権が渡ったわ。それに4月からは、Aクラスの保護機関である寮に入ってもらう事になるから、親権がある母親以外の面会が禁止になるのよ。だから今回誘拐をしたみたい。離婚の原因も能力に対しての考え方の違いからだったようだし」

 そう言えば、千春ちゃんは暫定Aクラスと言っていたもんな。

「Aクラスの保護機関?」

 Dクラスである影路には全く関わりがなかったので知らなかったようだ。影路にも分からないことがあるのだと思うとちょっとだけ嬉しくて、俺は説明をした。

「ああ。Aクラスは、悪用されると危険だからな。15歳までは1ヶ所に集められて、そこで能力の使い方を学んだりするんだよ。暫定なら、1年間能力調査が行われて、正式にAクラスとなればそのまま残るし、違うと分かれば普通の小学校に転入する事になると思う」

 実際俺の周りはそんな感じだった。小学校のころはメンツがコロコロ変わって、中学校辺りからはほぼ変わらなくなった気がする。

 年をとって能力が高くなる事もあれば低くなる事もあるので、こればかりはどうしようもない。


「あー、パパ!!」

 千春ちゃんが元気よく大きな声を出した。

 ようやく犯人も観覧車から地面に降りれたようだ。駆け寄ろうとジタバタする千春ちゃんを、俺は離さず抱きしめる。

「おーじさま、はなしてー。パパー!」

 まるで俺の方が悪人のようだ。泣き出した千春ちゃんは可哀想だが、この手を緩める事はできない。

 そんな俺の前に明日香が立った。

「手塚明人。幼女誘拐および、Aクラス能力者略取で、逮捕します」

「……はい」

 何か騒ぐかと思ったが、犯人は大人しかった。まるで捕まるのは、最初から覚悟していたかのようだ。逃げようという素振りもしない。

「ですが、千春はAクラスなんかじゃありません。確認しましたが、千春が【気化】できる範囲は、せいぜい8畳程度でした。だから――」

「それを決めるのは私たちではありません。それに【気化】の能力は、範囲だけではなく、気化できる量、物質の種類、どれだけ離れた場所で可能かなども関係してくるので」

 犯人に対し、明日香はきっぱりと言った。

「ただ最後の貴方の姿が手錠に繋がれた姿だと後々のトラウマに繋がりかねません。なのでこのまま大人しく警察まで来てもらえるなら、千春ちゃんに能力封じをした状態で、一緒に車で送りますがどうしますか?」

 もしもこれを飲まなかった場合、明日香のかかと落としの犠牲になるという事か。

 ダンと明日香が足で地面踏み鳴らすと、綺麗にタイルで舗装されいた地面にひびが入った。それを見て、犯人も俺も若干青ざめる。

 ……明日香の本気の蹴りを受けたら、Aクラスだろうとなんだろうと、意識が吹っ飛ぶ。

「その温情で十分です。……よろしくお願いします」

 犯人は俺達に頭を下げた。この人はちゃんとした父親だったのだろう。

 ただAクラスの保護機関に関しては賛否両論で、そこから逃げる家族もいると聞く。俺自身通った場所なので、それほど辛い場所とは思わない。しかし外部から中が見えない場所なので、不安に思うのだろう。

「千春ちゃん。このペンダントを着けてくれれば、お父さんのところへ行ってもいいわ」

「……うん」

 【能力封じ】の能力者が作ったペンダントを明日香が千春ちゃんの首にかけたのを見て、俺は手の力を緩めた。すると千春ちゃんは泣いたまま脱兎のごとく父親の方へ走っていった。

 そして更にやって来た刑事に連れられ、父親と一緒に遊園地の外へ歩いていく。父親の手を握りながら歩く姿を見ると、何とも言えない気持ちになった。あの父親とは、下手すると15歳まで会えないのだ。……まあ、俺がそれを考えたところで、どうにかできるわけでもないが。


「そうだ、影路。これで仕事は終わったんだよな」

 ヒーローショーも終わったし、組織の仕事も終わった。

 影路もまだここの清掃員の格好はしてるが、仕事は終わっているはずだ。

「ええ。終った」

「なら、遊園地で遊べるんだよな?」

 とうとうキター!!

 影路との遊園地デート。嬉し恥ずかし、初デートだ。もう遊園地も終わりかけだけど、まだまだ夜は長いし、光のパレードもある。

「園長にも、フリーパス券もらったから。これが佐久間の分」

 影路に手渡されたチケットに俺は感動する。ああ、労働の後の休暇って、何て素晴らしいんだろうと。

「あと、明日香もよかったら一緒に遊ぼう? ペアでチケット貰ったから」

「……ん?」

「えっ? いいの?」

「うん。本当は、もっと早く誘う予定だったんだけど、事件が起こってしまって伝えれなかったから。急で申し訳ないのだけど」

 断れ。

 断れぇぇぇ。

 マジで断れぇぇぇ。

 俺は力の限り念じた。通じろ、俺の想いと。

「綾が誘ってくれたなら仕方ないわよね。ね、佐久間」

「ういーす」

 ですよね。

 明日香は、かなり影路を気にいっている。影路が誘ってくれたとあれば、仕事をそっちのけで優先させるだろう。チクショウ。

「よかった。じゃあ、一度着替えて来るから」

 そう言って、影路はスタスタと行ってしまう。……影路がクールすぎて辛いです。


「それにしても、……凄い恰好ね、それ」

「ああ……。シンデレラの王子の衣裳だからな」

 笑いをこらえたような顔で明日香に言われて、俺は自分も着替えてこなければ恥ずかしい恰好だったのを思い出す。

「明日からしばらく、面白い事になるわよ」

「はあ?」

「とにかく、着替えてきてよ。一緒に回る私の方が恥ずかしいから」

「へーい」

 恥ずかしいと言うな。

 俺の趣味じゃないんだよ。そう思いつつ、俺も着替える為に移動した。


 後日、俺の姿が動画で流されたことにより、【シンデレラ王子、お姫様奪還】の見出しで大きく新聞に載った。その為しばらくの間、シンデレラ王子と半笑いで周りから呼ばれるようになることを、この時の俺はまだ知らなかった。

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