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遊園地の恋(2)

 騙された。

 そうとしか言えない。


「くぅぅぅ。影路の小悪魔っ!!」

「シンデレラ王子。時給分はしっかり働けよ」

「俺はシンデレラ王子という名前じゃなくて、佐久間だから」

 というか、シンデレラの王子役であって、そこで【の】をとってはいけないんじゃないだろうか。いや、確かに現在【影路】に会うために頑張って働いていて、健気さからいうとシンデレラ王子と言われても間違いない気がする。

 魔法使いはいないけどな。


 事の起こりは、俺の携帯電話に1つのメールが届いた事に始まる。

 メール相手が影路だと分かった瞬間、俺は小躍りした。影路からメールなんて奇跡に近いぐらいないからだ。そして遊園地に来て欲しいと書かれたその単語を見た瞬間、俺はポケットに財布だけ入れて、バイクを走らせていた。

 脳内にラブソングを流しながら。

 でも実際は、影路からの仕事のお願いで、今からステージで戦う王子様を演じる事になっている。俺がちゃんとメールを読んでいなかったのが悪いのだけど、どうしてこうなった。

 でも仕事が終わればデートができるわけだし、今日の影路の恰好は、かなり女の子っぽくて可愛い。影路が俺を頼ってくれたというのもなんかいい。


「にしても、どうして季節外れのインフルエンザが流行っているんだよ」

「知るわけないだろ。2,3日前から突然流行り始めたんだから」

「悪いもの食べたわけじゃないんだけどね」

「あれ?インフルエンザって、食中毒だっけ?」

 俺は楽屋で一緒に出演する王子たちと話していた。しかしここに居るのはA~Bの能力者のようだが、馬鹿ばかりらしい。役者志望なのに、馬鹿でいいのだろうか。

 いやセリフは覚えられるのだから、興味がないと覚えられないという奴か。

「違うだろ。インフルエンザって……えっと、ほら。冬にわっと感染する病気だろ?」

 だったよな。

 俺の記憶では、気が付くと周りがインフルエンザで休んでいる。

「でもノロウイルスも冬になんかなってなかったっけ?」

「えっ? ノロウイルス?」

 ……あれ?どうだったっけ?でも確かにテレビのニュースで聞いた事がある単語だ。

 ただ残念な事に俺が通っている大学は医学部ではない。だから俺が病気の名前を知っているわけがないのだ。


「そろそろ時間です」

 ステージ準備をしていたスタッフに言われて俺は、話を止めて立ち上がった。服は何というか凄いとしか表現できない恰好だ。まさに王子様。真紅のマントが余計に辛い。なんというか……これは戦隊ものの新たな進化なのだろうか。

「佐久間君は折角【風使い】なんだし、空を飛んだりして客を大いに楽しませてくれ」

「はい」

 一番年上の白雪姫の王子に背中を叩かれ、返事はしたもののシンデレラの王子は空を飛んでいいのだろうか。あれ? 空を飛ぶのはまた別の童話じゃなかったっけ? なんかちっちゃい妖精と一緒に子供をさらっちゃうような感じの――。

 どうやらこのステージに立つ王子は結構なんでもアリらしい。魔女の放った悪者を倒すというストーリーを保ち、ある程度王子の個性を残っていれば。ちなみにシンデレラの王子は、結構軽いタイプだ。

 これからやる俺が言うのもなんだけど、いいのかソレで。まあ、でもバイトの俺が言える事でもなくて、俺は皆に続いてステージに向かった。





◇◆◇◆◇◆◇





「スゲーな……」

 何とかヒーローショーを終えた俺は汗を拭きながら、先ほどまでのショーを思い返す。客は勿論ちびっ子が多かったが、それよりも女性が多かった。

 子供連れの母親という人以外に、明らかに母親ではないよねと思われる女子高校生っぽい皆さんまで。役を演じながら、まるでアイドルになったみたいだなと思う。俺が風を使って少し滞空したりすると、それだけで黄色い歓声が上がった。

 歓声は敵を倒す時じゃないのかよと思ったが、どうやらマントをひらひらさせるのがいいらしい。……良く分からない。

『チャチャチャチャ、チャタララチャチャ~』

「あ、悪い」

 自分の携帯が鳴りだして俺は携帯を握って控室を出た。

 この着メロは、明日香からのものだ。一体、何のだろう。

「はい、もしも――」

『やっと出たわねっ!! 携帯は手元に置いておきなさいっていつも言ってるでしょうがっ!!』

 携帯電話から聞こえる凄い怒鳴り声に、俺は携帯を耳から離した。どうやら明日香は大層ご立腹らしい。目の前にいたら、突然かかと落としされそうな勢いだ。……いなくて良かった。

「悪い。ちょっと、用事があって離れてたんだよ。それで何?」

『私からの電話が、デートの誘いだと思う?』

「……思いません。えっと、組織からの依頼?」

『そうよ。佐久間、メルヘンランドに居るわよね』

「そうだけど……」

 何で知っている。

 俺は自分の行動を知られている事にビビった。もしかして影路と一緒というのもバレているのだろうか。


『今、組織にBクラスの【電波感受】の能力者が来てるから分かっただけよ。で、話を戻すけど、実は3日前に誘拐事件が発生していて、今日警察から正式に応援要請が出たわ。誘拐されたのは5歳の女の子。名前は池崎千春。電話の電波から、犯人はメルヘンランドにいる事は分かっているわ』

「えっと、つまり俺に、何百人いるか分からないこの場所で、1人の女の子を探せと」

『そうよ』

 簡単に言ってくれる。

 でも全然簡単な事じゃないぞ。

『私たちも向かうつもりだけど、犯人がこっちが電波の出どころ調べてるのに気が付いたみたいで、今中に入って捕まえようとする奴がいたら、この遊園地内にいる人を人質にするって言ってるのよ。だから園内の入園は今規制がかけられているわ。出ていくのはできるんだけどね』

「人質って、犯人の能力は何だよ」

『【能力解析】よ。犯行が初犯だから情報が少ないけど。どこまで分かるのかは分からないけど、この能力で相手の能力が何かを知る事ができるみたいね。能力ランクはCクラスよ。連れ去られた千春ちゃんは【気化】の能力。湿度に関与ができるけれど、年齢が5歳だから暫定Aクラス。もう少し成長したら、再度クラス分けするそうよ』

 この園内の人を人質という事は、爆弾を仕掛けたということか。

 厄介だな……。爆弾処理の能力なんて俺にはない。

「明日香。人質のデーターと、犯人のデーター、わかる範囲でいいからファックスして。後、【能力解析】の能力についての資料も」

「うわっ。影路?!」

 突然顔の隣で喋った影路に驚いて俺は慌てた。多分自分の能力を発動させて近くで話を聞いていたのだろう。にしても、顔が近い。

『えっ?! 綾もいるの?!』

「抜けがけごめん。理由は後で説明するから」

『……いいわ。どちらにしろ、顔写真は送るつもりだったから』

 抜けがけって、もしかして明日香もここの遊園地に行きたがっていたのだろうか。……うわっ。似合わねぇ。

『佐久間、今、私と遊園地が似合わないと思ったなら、後で殺す』

「って、何も言ってないだろうが」

 勝手に想像で俺を殺すな。まあ、思ったけどさ。

『綾。今なら外に逃げられるはずだから、貴方は外に逃げてよ。よく手伝って貰っておいてなんだけど、Dクラスの貴方は組織の仕事をする義務はない一般市民なんだから』

「おーい。俺は無視かー」

「ありがとう、明日香。でも大丈夫。【無関心】を発動させて動くようにするから」

 うん。すがすがしいぐらいに無視だな。

 俺は小さくため息をついた。でも、明日香が言うとおり、影路が危険な事に巻きこまれる必要はない。でも影路がここで大人しく逃げ出すとは思えないんだよな。

 むしろ排除したら、勝手に【無関心】の能力を使って動き回りそうだ。この能力を使われると、俺も影路に気がつけないので、余計に危険である。

「影路の事は任せろ。俺が守るから」

『綾。私も早く中に入れるよう頑張るから、くれぐれも無茶しないでね』

「だから、なんで無視?!」

『佐久間が一般人の綾を守るのは当たり前だからよ。綾に何かあったら、回し蹴りするから』

 あ、そう。

 手厳しい事で。しかも殺すよりも具体的で怖いんですけど。

「じゃあ。また後で」

 そう言って、影路が俺から離れて移動し始めた。

「影路? どこに行くんだよ」

 待て待て。俺を置いていこうとするな。

「まずは遊園地の事務室に。そこにファックスがあるはずだから」

 ああ。そういえばそうだったな。

 俺はすぐにいなくなる影路の後ろを追いかけた。

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