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影路綾の恋(1)

「とりあえず、場所を移動した方が良くない? 影路ちゃんの能力を使えばいいかもだけどさー、こんなに大人数が残ると悪目立ちしやすいと思うなー」

 ようやく影路と再会した俺達だったが、エディの言葉にそういえばそうだなと思う。影路の能力を使えばよっぽど大丈夫だが、【無関心】の能力は絶対ではない。能力を使わない状態ならなおさら、いつまでも病院の待合室に居たら変に思われるだろう。

「でも移動って、何処に行くんだよ」

 影路を連れて組織に戻るわけにはいかないし、今回の事があったので、影路の住むアパートや実家は組織の誰かが見張っている可能性が高い。それは俺や明日香、エディにも言える事だ。まあ、エディの場合は上手く組織から逃げる隠れ家を持っていそうな気もするけれど。


「一番安全なのは、僕の家かなとは思うけど。でも影路ちゃんのやりたい事によるかなー。影路ちゃんはどう思う?」

 エディの言葉に影路は難しい顔をした。

「時間が足りないし、これから多くの人に助けを求めなくてはいけない事を考えるとできれば近場がいいけれど……」

「助けを求めるって?」

「まず、私が想像する通りに佐久間と能力の掛け合わせができたとしても、既に能力をかけられた人には効かないという条件は覆せないと思う。だから【無効化】の能力者と【解呪】の能力者に同時に能力を使ってもらった上で、すぐに解除してもらって、できるだけ多くの人が能力を使用してない状態にしてもらいたいの。道具を利用している場合は外してもらえるとありがたいけれど、道具を使用している時点で特殊な立場だから難しいかも……。一応能力の使用率が減る夜に決行できたらとは思っているのだけど」

 多くの人が能力を使わない状態って……。それは、簡単そうにみえて、かなり難しくないだろうか。深夜といえど多くの人が活動している国なのだ。

「それと【予言】の能力の人にも、予言が成就したと政府に宣言してもらう必要があるから事前にお願いしないといけないと思う。その人達がどこまで把握できるのか分からないけれど、私の能力は認識の改変に当たるから、変わった事に気が付かれない可能性もあるし。後は、前に佐久間と明日香が教育実習で行った学校にいる【倍加】の能力の子に助けてもらって、佐久間と私の能力の合わせ技の有効範囲を広げてもらわないといけないと考えてる」

「【予言】の能力者って、つまり影路兄の仲間に頼らないといけないって事だよな? でも影路兄の仲間の話を政府が聞くか?」

 予言の能力者なんて、何処にでもゴロゴロ転がっているわけではない。予知ならまだ数も多いが、予言ともなれば施設の中か影路がこの間まで潜伏していた隠れ家の中だろう。

 影路兄を助けるとなれば、手を貸してくれそうなのは彼の仲間の方だけれど、政府が信用しないのも同じになる。かといって、施設内に残った、この騒動に関わりを持たない【予言】の能力者が手を貸してくれるかどうかははっきりいって謎だ。


「あの。【予言】の人達だけならたぶんほぼ全員が協力してくれると思いますし、施設の中に残っている人なら政府も耳を貸すと思います」

「ほぼ全員って、何でそんな事が分かるの?」

 夢美ちゃんの言葉に、明日香が疑問を投げかけた。Dクラスである夢美ちゃんと、Aクラスで施設の中に閉じこもっている予言の能力者に接点はない。

「【予言】の能力を持っている人達は、そのの能力によってお兄ちゃんや影路お姉ちゃんの人生が狂ってしまった事に対してとても同情的なんです。だからきっと協力してくれます。何なら、成功するように追加で予言を読んでくれると思います」

「どこで知り合った――あっ、【夢渡り】の能力でか」

 まるで知り合いについて話しているかのような夢美ちゃんを不思議に思ったが、すぐに彼女の能力を思い出した。夢の中なら物理的な距離なんて関係ない。彼女が影路兄と知り合いだったのと同様に、予言の能力の人と知り合いになっていてもおかしくはなかった。

「はい。ただし【予言】できるのは、【予知】として読まれるぐらい正確な未来予定でなくてはいけないそうです。なので本当にできる状態にしなければ、【予言】できませんけど」

 そういえば、そうだったな。予言は可能性を決定させる能力だと、以前聞いていた。つまりは、可能性があると判断される状態にまでしなければ予言は行えない。


「それでも十分すぎる。【予言】の能力の人達にお願いする事を、貴方に任せてもいい? その代り、必ず湧は助けるから」

 影路は真剣な顔で夢美ちゃんを見た。彼女もまた真剣な顔で影路を見て頷く。

「分かりました。私も絶対約束します。必ず【予言】の能力の人を味方につけます」

「なら僕は、【無効化】の能力の人と【解呪】の能力の人、後はついでに【能力封じ】の能力の人に協力してもらえるように頑張ろうかなー」

「いや。頑張るって、伝手はあるのか?」

 パンダの着ぐるみは着なくなってはいるけれど、エディは誰とでも気さくに話したりお願いできるようなタイプではない。そもそも、エディはそんなに多くの友人を持っているようには思えない。それなのにどうやって助けを求める気なのか。


「ブーブー。佐久間の顔にオタクには無理だろって書いてあるけど、それはオタクに対する偏見だよー。佐久間の事だから、僕の事を友達がいないコミュ章とか思ってるんだろー。うわー、ひどーい。エディさん泣いちゃうー」

「誰もそこまで言っていないだろ?! なら、聞くけど、【無効化】の能力を持った友達とかいるのかよ」

 勝手に話を盛るな。

 影路と夢美ちゃんのやり取りをぶち壊すような、緊張感のないエディを睨む。緊張してくれとは言わないけれど、真面目な話をしてるんだからな?

「チッチッチ。三次元での僕は確かにただの引きこもりオタクさ。でも、二次元マスターを名乗る僕は、インターネットを通して沢山のオタクの知り合いがいるんだよ。そしてオタク同士の合言葉は、『キャラ愛は階級の垣根を超える』さ」

「……なんだか今、凄く良い言葉に聞こえる残念名言が聞こえてきた気がするぞ」

「どこも残念じゃないさ。佐久間だって、オタクたちが集う同人即売会に行っただろ? 基本、オタクは1にキャラ愛、2にキャラ愛、3、4がなくて、5にキャラ愛なんだよ。階級がどうかなんて気にするだけの容量は脳内にないのさ」

「どう聞いても、残念な発言に聞こえるぞ。でも確かにあの時は皆仲良くて、楽しそうだったよな」

 学校の教育実習中に見た、クラス階級ごとのギスギスは少しも感じなかった。普段ならあまり役立ちそうもない能力も、能力の無駄遣いと銘打って場の盛り上げに上手く使う事で、お互いに尊敬しあう関係を築いているようだった。

「佐久間ってば、何を言っているのさー。争いのない世の中なんてないんだよ」

「えっ。あのわきあいあいした中でも何かあったのか?」

「キャラ愛は時に争いを産むのさ。例え同作品を愛していたとしても、どのキャラクターとどのキャラクターをくっつけるかは重要な内容で、時に到底受け入れられないものもあ――」

「貴方達、何の話をしてるのよ」

 はっ。

 エディの馬鹿話に流されて、いつの間にか全然関係ない話をしていた。呆れた口調で明日香に止められて気が付いたが、特に何も言ってこない、影路や夢美ちゃんの目もなんだか冷たい気がする。……うっ。挽回しなければ。


「とにかく、オタク仲間だったら協力が得られるって事だよな」

「そういう事。例えば、そうだなー。【NO、能力DAY! 実際に能力が使われない時間を作ってみよう】とかイベント的みたいな感じで拡散してくと、結構乗ってくれる人っていると思うんだよねー。オタ仲間に、能力の擬人化萌え絵を作ってもらうとかして、とにかく盛り上げるといいんじゃないかな? 影路ちゃんもすべての能力を停止できるとは思ってないでしょ? だからお祭り騒ぎでやるぐらいがちょうどいいのさ」

 そっちの世界は良く分からないが、確かにちょっとしたイベントのような形だと、夜間に起きている事の多い若者が参加しそうだ。エディの案は意外にいい線をいってる気がする。


「となると、私が実習先にいた【倍加】の能力の子を説得するのね」

「明日香、頼むから脅すなよ」

「私を何だと思ってるのよ」

 いや。だって、明日香の交渉って、基本力技が多いし。

 任務を一緒に何度もこなしたからこそ分かる。明日香は交渉事に向いていないと。

「えっと。その説得は俺がやった方が良くないかと思ってさ。ほら、能力開発でも担当したし」

「馬鹿。アンタは、綾と一緒に能力の特訓に決まってるでしょ。時間がないんだから。大丈夫。能力を使って説得はしないから。ちゃんと頭を使うわ。無理だったら、拳で会話するし」

 ……何でだろう。頭を使うが、頭突きをするという言葉に聞こえてくる。後ろにくっついた拳で会話というのも不穏すぎだ。でも残ったのは明日香だけで、エディとかは絶対無理だろうし……。すまん、【倍加】の少年。強く生きてくれ。


「えっと、となると、俺は――」

「私と一緒に病室に来て」

 ツンツンと影路に服を引っ張られ、俺は今更ながらに事の重大さに気が付いた。

 ……もしかして、これから影路と二人っきりでお泊り特訓?

 浮かれている場合ではない。分かっている。分かっているけれど。今までの散々な状況を覆せるような降ってわいた幸運に、ちょっとだけやったとガッツポーズを取った。

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