彼女と映画鑑賞なう
とある休日。俺は彼女と薄暗くした部屋で映画鑑賞をしていた。ソファーは広々と幅を取ってあるのだが、俺と彼女はその余裕を無視し、一点に固まった状態で。どういうことなのかと言うと、彼女が俺を背後から抱きかかえるような形で、だ。うん、普通逆だよな。それは俺にも判別つく。だけどもし彼女に逆らったらと考えると、どうしてもその指摘はできない。
「ねぇ、」
彼女が俺の耳元に囁きかけるような体勢で話しかける。その声質からは、彼女がどんな気分なのかは読み取れない。
「何だよ」
俺は内心ビクつきながらも対応する。
「この映画のことだけど」
ぴ、と綺麗な人差し指でテレビ画面を指さす彼女。今日見ているこの映画は俺がレンタルショップで借りてきたものだ。ハリウッド映画でFBIの秘密機関の役人が悪党と戦いを繰り広げる、割とポピュラーで人気の映画だ。
「面白いだろ?」
結構、売れてる作品だしな。
「どこが面白いのよ!?」
吠えた。やばい、これは――
「この私に無駄な時間を費やさせるなんて、いい度胸してる」
彼女は耳に唇をつけてあざ笑うかのようにささやく。完全にスイッチ入った。吸血鬼モードの出来上がり。
さらに彼女は俺の喉に細くて柔らかい指を這わせる。その指が撫でる感覚に俺は身を震わせる。
「っく……」
思わず声を出してしまう。この声によって彼女を加速させてしまうことはすでに既知だ。
「随分と甘い声を出すね。お仕置きが必要? この――」
彼女は密着していた体をさらに密着させ、その体を俺に擦りよせる。む、胸が背中に……。
「こんのバカが!! 今はそれどころじゃないでしょ!? 反省してるの?」
どん、と彼女は俺の背中を突き飛ばし俺は不格好な状態でソファーから転げ落ちる。さすが吸血鬼、怪力だ……。