二人の会話
つなぎの男は不満そうに言った。
「おまえんとこはいいよなぁ、高価なものばかり買ってもらえてさ。俺は安物ばっかりだぜ。そのくせ自分はいい服買ったりしてさ」
その言葉に、帽子の男がぶんぶんと首を振る。
「口うるさいのに比べたら、そっちのほうがうらやましいよ。これはこうしろだの、あれはするなだの、やたらと言いたがってなぁ。この服だって、高いからな。この間もちょっと汚しただけで着替えろって」
そう言って苦々しく自分の服を見る。
白シャツにアーガイルの茶色いニットを重ね着した紳士的なスタイルは、どうも帽子の男の好みではないらしい。男はニットを忌々しげに引っ張った。
その高価そうな生地を確かめるように触りながら、つなぎの男はつぶやく。
「そりゃ大変だな。まあでもよく世話してくれるいい人じゃないか。俺のところなんてほったらかしだぜ、たまには優しくされたいね」
「そりゃね、束縛されたことがないから言えるんだよ」
そう言って、帽子の男はごろんと転がる。
そして仰向けになって天井を見つめながら、さらに言葉を続けた。
「それに服はともかく、料理がなぁ。おまえんとこはちゃんと作るんだろ?それが一番うらやましいな。俺の所はレトルトばっかりだ」
あー、と納得の声をあげたあとで、つなぎの男は苦々しく手を振りながらこう言った。
「まあでも、意外と作るよりレトルトのほうが美味いかもよ。だいたいミネストローネとかチャウダーとか、あんまり家じゃ作らないようなものも食べられるだろ」
「味よりもそういうのは気持ちの問題というかなぁ・・・夕食を作るとか言いながらレトルトの封を切るの見たら、ちょっと幻滅するぜ。そのくせ食べなかったらやたら落ち込むみたいだから、食べるけどさ」
ふてくされたようにあっちを向いた帽子の男の背中を、つなぎの男がポンポンと叩いた。
「同情するよ・・・。まあ、でもうちの料理は味付けはやたらと薄いし、一回作ったら平気で何日も同じもの出すし、正直あんまりいいともいえないけどな」
「作ってくれるだけマシさ」
「たまにレトルトでもいいから美味いもの食べたいとも思うよ」
そこで二人は顔を見合わせる。
「お互い無いものねだりってやつかな」
同じ言葉が出たことがおかしくて、二人はお互いに笑いあった。
・・・そんな会話をしている少し向こうのテーブルで、二人の女が向かい合って喋っている。
ふと片方の女が彼らのほうを見て笑った。
「二人とも、仲がいいわねぇ」
女はそれから時計を見て、あら、と声をあげた。
「もう夕方だし、帰らなきゃ」
「あら、もう?そっか。今日は楽しかったわ、またいつでも遊びに来てね」
そしてつなぎの男と向かい合っていた帽子の男を、軽々と抱き上げて一言。
「さぁーて、帰ったら離乳食作ってあげますからねー」
帽子の男は、「あーん」と悲しそうな声をあげたとか・・・
ベイビートークっていう映画が昔あったよね。と書いてから思い出した。