表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

序章

 ある吟遊詩人の物語 序章

 

「父さん・・・行って来る。」

 娘は私の頬にキスをする。いつもの挨拶だ。もう何年だろう。そしてこの家出この挨拶をするのは・・・何世代もの間、この行われた日課・・・。この家・・・アパート・・・このアパートに住んでもう・・・何世代になるのか。走って学校に向かう娘の姿を見ながらこの古ぼけたアパートを見つめる。自分の書斎へとあるくと、忙しそうな妻の様子を見ながら・・・気がぎしぎしとなる足音を聞きながらいつものように聞いていた。このような光景を我が家は何百年続けて来たのだろうか。何百年も一家が住み続けたこのアパートはある意味・・・我が家の誇りである。又この町で仕事がある私にとってこの町もまた・・・誇りではある。自分の書斎を明け、本が壁一面の本棚に詰まった書斎を見つめる。このアパートに住んでこの部屋が私にとって・・・誇らしいが・・・その本棚を見つめる。私も買っているが・・・父さんや爺さんほどではない・・・。部屋の真ん中にどっしりと置かれた昔ならではの机を見つめる・・・。

「あ・・・。」

 よみかけの小説が・・・見当たらない。今日は休みでせっかくよみかけの小説が読みたかったのに・・・。こげ茶にすすけた机に引きだしを開けてみる。ここは・・・あれ?・・・ここか?・・・あれ?・・・ここか?あるとは思えないが・・・あれ?

「これは?」

 まるで突然現れたように古ぼけた・・・いや・・・妙に立派な装丁の古そうな本を見つめる。かなりの手垢もある。誰かが熱心に読んだだろうが。気になって本を取り出してみる。この本・・・。表題が無い・・・。埃の多く積もった本で、手で払うと汚れが手に付くが・・・本を開けてみると手書きで書かれた・・・メモなのか?数多くの文章がある。古い字体ではあるが・・・。めくって一ページを見つめると・・・自分の苗字と同じなのが・・・。これは爺さんのか?いやこの名前は・・・もっと古いのか?もう一ページをめくり、その力強く書かれた最所の一ページ目を読んでみる。

「私はこの家に来るにさまざまな地域を渡り歩く物語の伝承者・・・吟遊詩人である。だがその役目の終りを感じ、この地に落ち着いた。そして今、ここで夕暮れを迎える。だがその中において、いや妻や子供たちに残せるものとしてここに、私が今まで方って来た物語やその背景について記すものとする。もしかしたらこの物語のいくつかは私が語ったり、他の吟遊詩人が語り、もう周知のものがあるかもしれないが、これらはずっと人気がある話であり、これらは財産になるであろう。これを子孫のために残し、家族への愛とする。愛するべき子供たちへ。」

 その言葉を読み、その太い本をパラパラめくる。紙も厚く、ページ数も多い。父さんや爺さんはどう思っていたのだろうか・・・。本を閉じると、キッチンに私は向かって逝った。この本を読むべく飲み物を用意するためだ。・・・この本を読む自分こそが今必要とされると思って・・・。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ