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操る炎は拒絶の業火  作者: Ban
第1章
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第三話╋そして

【ジークside】


あれから、幾度の季節が過ぎたのだろうか。



ジークは16歳になった。

15歳のときから、王都にある『ハルバーデ魔法学園』に通っている。


それまでは、ライヴァの元で修行を積んでいた。ライヴァの修行は厳しく、毎日が地獄のようだった。


だからそれなりに、強くなったとは思う。


でも、やはり上には上がいるもので……。


学園には、さまざまな奴らがたくさんいる。

見たこともない魔法を使う者や、魔力をたくさん持っている者。


本当に、たくさんの人々が。

強して、必死に鍛えて。


でもやはり、精霊がいる奴と比べると、不利なところが出てくる。


一人の戦闘では精霊の助けが無いし、精霊と契約すると魔力量が増加し、魔法の成長が幾分か早くなるのだ。


しかし、精霊と契約していないにも関わらず実力的に上位に入るジークは、教師からは目に置かれ、生徒からは憧れと嫉妬の目を向けられることが多い。


ジークが強いのは、あのライヴァの修行を乗り越えきれた結果なのだが、それを公表していないジークは、何もしていないのに強いと思われているのである。




そんな彼は今、授業中にも関わらず机の上に枕を置いて、堂々と睡眠をとっていた。


「………ク、……ーク、ジークっ」


ジークは、意識の外から聞こえてきた声に、耳を傾けた。


「……んだよ」


枕から頭を上げて、声の主───隣の席の方を見ると、ジークはつまらなさそうに欠伸をした。


そこには、深緑の髪を綺麗にセットし、二重の切れ長の翡翠色をした目で心配そうに、こちらを見る美形がいた。


「んだよって、前見なって、前!」


「は?前?……あ」


美形の言うとおりに前を見ると、般若がいた。


「ジーク!!!アナタって人は!今は授業中です!」





それから小一時間、

その教室では怒鳴り声が響いていた。






◇◇◇




キーンコーンカーンコーン……。


学園中にチャイムが鳴る。

下校時間である。


「よし、じゃあこれでHRは終わりだ。暗くなる前には帰れよー!」


ハルバーデ魔法学園、高等部二学年Aクラス。そこにジークは所属している。


担任教師はエルモア・ダンヴァーといって、炎属性を扱う一流の魔法師。


「あとジーク!授業中には寝ないように。成績は優秀だが、そんな態度をとっているとダメになるぞ?次、また報告を受けたらアイツに言っておくからな」


「うわぁっ!エルモア先生、それだけはやめてください!」


エルモアは、ジークの恩人兼保護者であるライヴァの同級生で親友だ。


ジークはライヴァに頭が上がらない。


エルモアはそれを有効に活用しているのだ。


「じゃあ、寝ないようにしないとな」


「分かりました」


ジークが素直に返事をすると、エルモアは口角を片方だけ上げて笑い、教室を出て行った。


その瞬間、生徒たちは一斉に動き出す。

すぐに家に帰る者。

寮に帰る者。

友人と喋る者。

訓練をしに行く者。


ジークはそれを眺めながら、溜め息を吐いた。


「オイオイ、溜め息なんかつくなよ。幸せが逃げるぜ?」


「毎日が不幸者のお前に言われたくはないけどな」


ジークは、ジトッとした目で右隣の席を見る。


翡翠色の髪と瞳、体型はスラッとしており、筋肉が程良くついているだろうと予測される。


「不幸者じゃないよ、俺は」


にこやかに笑うソレは美しいものだ。


バジル・ローリング。

それが、彼の名前。


「じゃあ今日の朝、頭に鳥の糞が落ちてきて、それに怒っていたら怒鳴り声に反応した魔物が襲ってきて、撃退したはいいものの制服がボロボロになったので一度家に帰ったら自分の部屋だけ火事になっていた、というのがあったのにも関わらず自分は不幸者ではないと言うのか?」


「はいすみません、俺は不幸者です」


バジルはそう言ってうなだれる。


彼は自他共に認める美形だ。

成績は良い方で、戦闘力も高い。


さらに、ローリング家は中流貴族だ。


そこの三男であるバジルは、後継者ではないものの、将来は約束されているのも同然である。


そんな彼がモテない訳がない…………本当はそう断言出来る筈なのだが、バジルの不幸体質に加え、彼の趣味により、一度もモテた事がない。


その趣味というのは……


「あ、ソニアとミントが来たぞ」


「なぬ!?」


ジークのそのセリフに、バジルは勢い良く後ろを振り向いた。


教室の扉付近、そこには二人の少女がいる。


ひとりは、黒い髪をポニーテールにしており、その蒼い瞳は勝ち気な色をしている。


もうひとりは、ピンク色のボブに、それと同色の瞳をした背の小さい女の子だ。


ジークは二人の少女を見ながら、チラリとバジルを伺った。

バジルはぶるぶると、何かを堪えるように震えている。


“あぁ、またきたな”とジークは思った。


「ミ、ミミミントーーー!」


バジルはバッと席から立ち上がり、ピンク色の少女──ミント・メルメに向かって走っていく。


だが、それと同時に黒髪の少女──ソニア・クロムウェルも動き出す。


「毎回毎回、ウザったいんだよ!ミントに抱きつこうとするなっ!」


ソニアは額に青筋を浮かばせながら、ミントに向かって突進してくるバジルに、回し蹴りを喰らわした。


ドゴッ!と低く重たい音が響く。


「……がはっ」


バジルは吐血したような呻き声を上げた後、ゆっくりと崩れ落ちた。


「ふぅ……」


ソニアとミントは倒れているバジルを無視して、ジークの方へと歩み寄った。


「ジーク、帰りましょ」


「うん、それはいいけどさ。

アレは片付けておかないと、皆の迷惑になるよね?」


「んー、まぁ確かにそうだね。

あんな変態野郎は焼却炉にでも投げ捨てておくか」


「でも這い上がって来そうだからさ、業者の方にでも頼もうか」


「あぁ。それも良い案だな」


その時、ピクリとも動いていなかったバジルがいきなり起き上がる。


「……ちょっと、ジークとソニア!そんな怖い冗談話をするのはやめてよね!」


「いや、冗談じゃねぇーし」


「こっちは本気で言ってるんだけど」


「…………え」


「だってねぇ?ことあるごとにミントに抱きつこうとするじゃない」


「ミントも嫌だよな?」


ジークがミントにそう問いかけると、バジルは涙目になってミントを見つめた。


普通の女性だったら、ここでバジルに従ってしまうだろう。

バジルは自分がイケメンと自覚しているので、それを有効活用するのがうまい。


だが、付き合いの長い彼女達にとっては、バジルの顔はもう見慣れている。


よって、どんなに酷いことも言えるものだ。


「わ、わたし、バジル君の事は嫌いではないけど、抱きつかれるのは大嫌い」


「俺、ちょっと屋上に行ってくる」


「ちょ、おい。飛び降り自殺はすんなよ」


「お、おおお俺は……ミントに嫌われたら、この世からいなくなるって決めてたんだぁ!」


「ウルサいわねぇ………まったく、器の小さい男なんだから」


「ソニアに嫌われても別にいいんだ!ミント……ミントだけには嫌われたくないんだよーー!」




あぁもう……これだからバジルはモテないんだよ。


こいつは、ミント好き───いや、小さくて可愛い女の子好きなんだ。

所謂ロリコンってやつ?


そのおかげで、顔も成績も運動神経も良いくせに、逆にドン引きされているしまつだ。


だから、ジークは彼をこう呼んでいる。


“残念なイケメン”と。



「なんかジークが、俺を残念そうな視線で見つめてくるんだけど」


いや、実際そう思っています。


その後、バジルがまたギャアギャア騒いだが、ジーク達はそれを無視して帰路についた。




◇◇◇



ジーク、バジル、ソニア、ミント。


この四人の中で、学校から家が一番近くにあるのはジークだ。


「あ、もうすぐ俺ん家だな」


「そうだな。ライヴァさん今家にいるかな?」


「いや、いないだろ。今日はデッカい任務してくるって言ってたからな」


「はぁ、残念だ。この頃覚えた魔法を見てもらおうと思ったのに」


バジルはガクンと肩を落とした。


「ん?」


突然、ジークの横を歩いていたソニアが前方を見ながら唸る。


「どうした?ソニア」


「ほら、あれライヴァさんじゃないか?」


ソニアが前を指差す。

他の三人は、同時に視線を向けた。


「「「ホントだ」」」


ジークの家──正式には、ライヴァとジークの住む家の前に、ライヴァは仁王立ちで立っていた。


なんか、いつもと様子が違う。


ジークは不思議に思いながらも、ライヴァのもとに駆け寄った。


「ライヴァ?今日は任務をしてくるんじゃなかったのか?」


「………少し予定が変わった」


「はぁ?どういうこと──」


「ジーク、それから他の三人。

お前等に話がある。とりあえず、中に入ってくれ」


ライヴァの目つきは真剣だ。


その有無の言わせない威圧に、ジーク達は素直に家の中へと入っていった。




◇◇◇



「それで、ライヴァ。俺達に話があると言ったけど、なんの話なんだ?」


ジークは真向かいに座っているライヴァに問い掛けた。


「お前にとって、大事な話だよ」


ジークの瞳が剣呑に光る。


その様子に、バジル達は驚いていた。


彼が、ジークが自分達より強い事は知っている。だって、あのライヴァさんに小さい頃から修行されてきたのだ。


けど、ジークは自分の強さを表に出す事が少なかった。


だから、今。

ジークの強さ───といってもただの雰囲気だけだが、彼が放つ威圧がライヴァにも引けを取らない事に驚いていた。


「大事なこと……?」


「あぁ……─────」















─お前の精霊の居場所が分かった─




「──………っ!」


ジークが両目を見開く。

無意識に、拳をギュッと握り締めた。


「場所は“黒濫の森”の奥。

ヤツはそこにアジトを作っていたようだ」


「それは、どこの情報なんだ……」


「俺の精霊からの情報だ」


「……いつ行くんだ?」


「なるべく早い方がいい。オークションに売られてしまう可能性があるからな。売られてしまっては、どこにいったか分からなくなる」


できれば、明日の早朝。

ライヴァはそう付け加えた。


「分かった」


「じゃあ、準備はきちんとしておけよ。んで、お前等三人だが──」



ジークと一緒について来てもらう。



「はぁ?」


その言葉に声をあげたのは、本人達ではなくジークだった。


「なんでバジル達も来なけりゃいけないんだ。こいつ等には関係のない事だろう!」


「お前は黙れ。

俺はこいつ等に聞いているんだ」


ライヴァは再びバジル達に目を向ける。


「あの、なんか、大変なのは分かったけど……なんの話しか全然分からない」


それを聞いて、ライヴァはジトッとした視線をジークに送った。


「ジーク………お前まさか言ってねぇのかよ」


「いや、その、なんだ。いろいろあってだな」


「はぁ……」


ライヴァは頭を抱える。

ジークはフューフューと口笛を吹きながら、虚空に視線をやる。


「ったく」


ライヴァは気を取り直して、バジル達に話した。


孤児院虐殺事件の事。

ジークは精霊を召喚し終わっていた事。

精霊は院長に取らてしまった事。


そして、問いた。


ジークを手助けしてくれるか、と。



「へぇ……ジークにそんな秘密があったなんてな。知らなかったぜ。

俺はついて行く。ジークは俺がいてこそ強いんだからな」


「一人で逝ってな」


バジルはジークの手によって、土へと還っていった。



「フーン……面白そうじゃない。

でも、どうしてあたし達を?」


ソニアは疑問の声をあげる。

それに答えたのは、もちろんライヴァだ。


「流石に親衛隊すべてが行くことは不可能だ。そんな権限、俺にはないからな。だから、俺の隊──国家親衛隊第三番隊が出動するのだが、ヤツの事だ。なにかしら手があるだろう。俺達は人手が必要だ。

そこで目を付けたのが、お前等だ」



学園で土属性第一位を誇り、少し思考回路がおかしいが頭のキレの良い、バジル・ローリング。


ハルバーテ魔法学園の女性の中で、成績・実技が一番良く、風属性の最上級魔法が使えるソニア・クロムウェル。


珍しい氷属性を持ち、魔力が多く、使い魔を三匹も持っているミント・メルメ。



「ほら、考えてみたらお前等は凄いメンバーだぞ?」


「あたしも今そう思った。

いいでしょう……ついて行く」


ソニアの了解も得た。



「えっと、わたしも行きます!

いい経験になりそうですし」


「メルメには期待している。ジークは水と雷を使う事は知っているだろ?

ジークの水、メルメの氷を連携させるとより効果的にダメージを与える事が出来る」


「わ、分かりました!頑張ってみます!」



「よし。決まりだな」


ライヴァは彼等を見渡す。


良い友を持ったな。

ライヴァは心の中でそう呟き、口を開く。


「明日の早朝にここを出る。集合場所は街外れにある、転移魔法陣だ。

あと、親にも言っておけ。命の保証は出来ないからな」


「分かってるよ」


「覚悟の上だ」


「大丈夫です」



こんな事になるとはな……。

ジークは皆を見た。


いつの間にか、こんなに仲間が出来ている。

俺は昔、ライヴァ以外は信用しないと心に決めていた。院長の時のように、傷つきたくなかったからだ。


でも、学園に入ってからだろうか。

俺は変わった。


いや、変えさせられたのだ。

こいつ等に。

バジルやソニア、ミント……そして、ハルバーテ魔法学園の皆に。



これほど、幸せだと感じた事なない。




「……皆、ありがと」


ジークは瞼を閉じて、そう呟いた。







あと少しだ。


もう少しで、目標に届く。


あの青年の姿をした彼に、この手が届く。



待っててよ───赤い精霊さん。




またまた主人公の出番なかったですね。

まぁでも、次話は絶対出ます(笑)


誤字・脱字を発見しましたら、お知らせ下さい(*_ _)ペコリ


読んで下さった皆様、感謝しております。


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