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操る炎は拒絶の業火  作者: Ban
第0章
2/7

第一話╋転生の儀式


全然進んでおりません。



◇◇◇


真っ白い空間があった。

白以外、何も無い。

地平線の彼方までもが、白一色だ。


その空間に、人の形をした影が二つあった。


「お、お母様…。ごめんなさい!」


まだ十にも満たない位の外見をした少女は、背を向けて微動だにしない女性に、頭を下げた。


「お兄ちゃ……あの少年を助ける事が出来ませんでした――」


少女は、涙を流していた。それ程までに、悲しい事があったのだ。


背の高い女性は、肩まで伸びた髪を揺らし、顔だけを少女に向ける。

その瞳は、とても冷たかった。


「顔を上げなさい」


「………っ!」


少女は、女性のその瞳を見て大きく肩を揺らす。



「貴方が謝るべき相手はあの少年ではなくて?」


「で、ですが」


「口を慎みなさい。

私達は、世界を均衡に保つ為に生まれた、神なのです。私達が、世界を調和する役目を負っています。それは、ずっと今まで言い聞かせてきたはずでしょう?」


女性は怒鳴ったりはしない。だけど、静かに、威厳を持った声で怒る。

それは、とても怖いものだと少女は知っている。



「私達"神"は、失敗は許されない。あの世界には、地球には、あの少年のような人が必要でした。だから、少年を助けるために、彼が十七歳という若さで死ぬという運命を回避させるために、貴方を送り込んだのです」


女性は一旦口を止め、体を前に向き直す。


「……"妹"という、一番近い関係上に送ったというのに。貴方、途中で自分の任務を忘れかけていたでしょう」


その言葉を聞き、図星とでもいうかのように、少女の体がピクリと反応した。


「彼の強さと優しさに、溺れかけていたようね。

……これは、遊びではないのですよ」


今までも低かった声が、さらに低く、無機質になった。


少女はその声音に、冷や汗をかいた。

この女性が、母親が、こんなにも怒っているのは初めてだ。


「お母様……」


「涙を拭きなさい」


「……ぅん……」

母親の言う通りに、少女はゴシゴシと目を擦って、涙を拭いた。


女性は、チラリと少女を一瞥した後、徐に右手をふわりと上に上げる。


すると、彼女の手の平に、黒く光る、炎のようなものが現れた。


「それは……!」


少女は、それが放つ鼓動を察知し、正体を見極めた。


「そう。これは、あの少年の魂です。天に還る前に、引き留めておきました。……最後があんなのだったので、本来は白い魂が、黒く染まってしまいましたが」


女性は、少女にその魂を渡した。

少女は割れ物を扱うように、そっと両手で包む。


「お兄ちゃん……」


少女が泣くようにそう呟くと、一度だけドクンと、魂が脈打った。


それに、少女は本当に泣きそうになる。

あの少年は、死して尚、自分の声に反応してくれたのだ。彼を救えなかった、この私を。


「………"優奈"。だったかしら?」


「?」


女性の声音は、元に戻っている。でも、まだ許された訳ではない。

それ程に、少女が失敗した任務は大事なものだった。

"あの少年は、地球に良い風を吹き込ませる。"

女性の予言では、そう語っていたのだ。


「少年がつけてくれた、貴方の名前よ」


「はい……"優奈"です」


「…大事になさい」


元々、神には名が無い。

名前を与えられる事は、神にとって、とても喜ばしい事であり、名誉な事でもあった。



「さて……」


女性は、一瞬にして雰囲気を変えた。

とても真剣な眼差しだ。


「優奈。貴方なら、この魂をどうしますか?」


「え?えっとですね……極楽浄土に導きます…」


「……それで、いいのですね?」


「なにか、間違っていますか……?」


女性の、意味ありげな聞き返しに、少女は疑問を浮かべる。

対する女性は、少年の魂を見やり、目を細めた。


「果たして少年は、幸せでしたでしょうか?」


「幸せ……ではありませんでしたよ」


「そうね。それは貴方が一番知っているわ」


周りに疫病神扱いされて、虐げられて。

どれだけの苦痛が、彼を苦しめたのだろう。

それを想像するだけで少女は、優奈は、胸が痛んだ。


優奈の無意識に歪んだ顔を、女性は優しい瞳で見つめた。


「世界の均衡を保つために生まれたのが、私達神です」


女性は、まるで語るように繰り返した。


「そのために生かすべき人を、亡くしてしまいました。それは私達の失敗です。私達は少年に、償わなければなりません」


「ま、まさか」


優奈は、女性が言おうとする事を悟って、驚愕の声を上げた。


「同じ世界には不可能ですが、違う世界には可能ですし……転生させましょうか」


「ちょっ……それは七十年前から禁止になったはずです!!大神様に見つかったら、世界管理職を解任させられるし、それだけでは済まないかもしれませんよ!?」


「……あら、そう言えば言ってなかったかしら」


声を荒げる優奈に対して女性は穏やかだ。

そして、女性は爆弾を投下する。




「大神は私の夫。つまり優奈にとっては父親ね。だから、別に転生くらいさせたってどうって事ないわ」


「…………は?」


「例え、私達を職からおろすと言うのであれば、ちゃーんと私が躾直してあげるから。ね?」


「……もういいです。私はなんにも聞かなかった事にしますから」


「じゃあ、転生の儀式の準備をしましょうか」


優奈は、ニコニコと笑う女性を一瞥して、ため息を吐いた。



◇◇◇



優奈は、少年の黒い魂を持って立っていた。


今から、この魂を転生させる。

優奈が気に入っている、世界『ゼオライト』へ。


「お兄ちゃん……あっちでは元気でね」


優奈は聖書を顕現させ、転生のための詠唱の言葉を紡ぎ始めた。


「#£ΦλδδψЭ#ζжЭΩζΦΦж」


神にしか分からないその言葉は、強い力を宿し、少年の魂を包み込む。


優奈はその様子を感じながら、詠唱を続ける。



数分経った頃、儀式は終盤にさしかかっていた。


「ξρ£ΦΩ£ξδλЭж##ψ#!!!」


最後の詠唱を力を込めて叫ぶと、少年の黒い魂は一瞬赤い光を放った後、すぅっと溶けるように消えていった。


「やった☆成功!」


優奈は、初めての転生の儀式に心置きなくハシャいだ。


しかし………、







「優奈ーーーー!!」


「はい、何でしょうお母様!」




「詠唱が一文字間違えていたわよ!?人間に転生してないわ!」


「うえ?ではなにに…」






「"精霊"よ」



拝啓 お兄ちゃん。


誠に申し訳ありませんでした。

もうアナタは人間では無くなってしまいました。



ああ、でも精霊は人間より神に近い存在だから、私的には嬉し……………ごめんなさい、お母様が凄くお怒りなご様子。


また、修行でしょうか?

私は、耐えきれそうになさそうです。




◇◇◇




「……うっ、」


暗い暗い、真っ黒な暗黒世界に、人の形を象る赤い影があった。


赤黒い、血のような深紅の瞳と短い髪。

左右のサイドだけが、肩口まで伸びている。


だが、人間でいう白目の部分が黒く、大きな尖った耳も漆黒で、彼が人間ではない事を物語っていた。


「優奈は……いないか、ここはどこだ?」


周りを見渡す。

しかし、何も無い。

ただ、暗闇だけがここに存在していた。


……だとしたら、


「……地獄、かな」


疫病神は、天国になど行けるはずもなかろう。



"少年"だった彼は、赤い影を揺らしながら暗闇の中へと歩き出した。

彼が通った後には、小さな炎達が、遊ぶように踊っている。


その事に、彼は気付かないまま闇へと消えていった。




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