なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
冷徹令嬢は王太子殿下と政略を語る ~婚約破棄されたら殿下を殺してわたくしも死にまする~
夜会の会場の真ん中で、レオン王太子殿下は婚約者に告げた。
「実はオレ、ここで君に婚約破棄を宣言することになっていたのだが」
その声は、いつもと変わらず冷静だった。
婚約者である公爵令嬢サルヴィアも冷静に返した。
「なっていただけなのですか?」
なっていただけですよね!?
しないんですよね!?
そうでなかったら殺します! この場で今すぐすぐ!
「ああ、することになっていただけだ」
ですよね!
殿下はわたくしが大好きなはずですもの! 大好きじゃなくっちゃいや!
ああ、たまに向けられる熱いまなざしに、びくんびくんしちゃいます!
殿下にくっついていたピンク髪の庶子が、
「な、なにをいいだすんですかレオン様! わた――がふ!」
殿下は冷静に、何か言いかけた女のみずおちを一撃して昏倒させた。
それを見た殿下の側近が口角泡を飛ばして
「殿下! 殿下の真実のあいにな――ごふっ!」
殿下は、騒ぎ出した側近をアッパーで沈めた。
素敵! 素敵ですわ殿下!
なんて鋭くて無駄のない一撃!
婚約者もまた冷静に。
「なぜ殿下は、そのような宣言をここでする予定であったのでしょうか?」
ああ。ドキドキしますわ!
殿下が万が一、少しでも婚約破棄しようかと本気で思っていたら。
ツラすぎますわ!
婚約が決まって初顔合わせをした時からずっとずっと好きなんですもの!
「うむ。ここに転がっている女が、我が婚約者、つまり君にいじめられたというのだ」
「しておりません」
「で、あろうな。そしてここに転がっている男が、調査とやらをしてきたのだが、いじめが事実だと言うのだ」
「偽証ですね」
こいつら速攻殺す! この場で殺してもいい!
殿下とわたくしの仲を裂こうなんて万死に値しますわ!
いえ、ひと思いで殺してしまうなんて、生ぬるいですわ!
でも、もしかしてわたくし、殿下に滅茶苦茶信頼されているのでは!?
これは愛されているのと同じとみなしてしまいますわ!
ふたりの会話は淡々と続く。
「ああ。でだ。この男の父親は、我が父の親友。つまりこの偽証には、父である陛下もからんでいるのだろう」
「なるほど。つまり、冤罪で我が公爵家を排除したいという」
「つまりだ。王家の影も信頼できぬ。いくら調べさせたところで、キミがアレをいじめていたということになる」
「調べさせたので?」
「ああ、もちろん。キミがアレをいじめている証拠とやらがゴロゴロでてきた。キミはオレと顔を会わせていた時間にまで、いじめをしていたそうだ」
「所詮は王家の影ですからね」
ああ。殿下は聡明ですわ!
もしかして、わたくしと同じことをお考えなのでは!?
流石殿下ですわ! さす殿!
「というわけで、奴らの提案にとりあえずうなずいた。そうしないと出来の悪い弟のどちらかがオレの代わりにされるだけだからな。その際、ひとつだけ修正を加えた」
「この夜会でするということですね。そんな修正を認めるとは、王家は愚かですわね」
「ああ、この夜会は、キミの派閥の主だったものの夜会。婚約破棄をここですると奴らに言っておきさえすれば、キミとこうして堂々と会話できるわけだ」
「確かに、王家の影も我が家主催の夜会には近づけませんからね」
「そういうことだ。ここ以外のどこでオレが話そうが、王宮に筒抜けだからな」
わたくしと言葉を交わすためだけに、こんな大芝居を!
ああ、あふれんばかりの愛を感じてしまいますわ!
婚約者である公爵令嬢は、少しだけ沈黙し、やはり冷静な口調で。
「ひとつきいてよろしいでしょうか?」
「うむ。なんでも聞いてくれ」
「婚約破棄、することになっていただけですか?」
ああ、やっぱり不安ですわ。
もし本気だったら……。
この場で殿下を殺してわたくしも死にまする!
「ああ、それだけだ。しなくて済むなら重畳だ」
しないほうがいいとおっしゃりますのね!
わたくしもですわ! 絶対にしませんわよ!
「ですが、私は、自分で言うのもなんですが、かなり冷酷です。我が父の娘だけのことはあります。殿下のことを政略の相手としか思っておりませぬ」
せめて嫌われていないことだけは確認したいですわ!
ああ、殿下の前では冷酷になりきれない……乙女なわたくし。
「うむ。オレもそうだ。我々は話が盛り上がったためしがない」
「私もです。正直、殿下との話は退屈です」
だって、王家の影だの、我が家の犬だのが聞き耳を立てているんですもの!
ああ、いつか、いつか、ふたりきりで話してみとうございますわ!
できるなら、こんな場ではなくて、もっと静かな……ふっふたりだけの場所がいいですわ!
「だが、これでも王家の人間、しかも王太子で長男。それに、そちらは把握済みだろうが弟ふたりは王家の血が流れていない。オレは血統的に利用価値があるだろう」
「ありますわね」
血統なんてどうでもいいですわ!
殿下は殿下というだけで尊いんですもの!
でも、こういう冷静でモノが見えているところも大好きぃ。
「でだ。王権復活などという輩にかつがれて、国を割る……といってもキミらが9で王党派が1では乗るのは自殺行為」
「十中八九そうなってしまうかと……なるほど。つまり私たちに利用されたいと?」
「このバカどもを手土産にな。どうかな?」
打てば響くこの会話!
うふふ。これならお父様も、殿下を見直してくれるはずですわ。
少なくとも、すぐ殺すよりは……とお考えになるはず!
「わかりました。私も殿下の有用性だけは認めております」
他の部分だって全部認めてますわ!
ああ、こんな冷たい言い方しか出来ないわたくしを嫌いになっちゃあ嫌ですわ!
「うむ。利害が一致したわけだ。この男を拷問でもすれば、いくらでも歌うだろう。どうせ準備はしているのだろう?」
「ええ。いつでも」
「ならすぐ動いたほうがいいだろう。流れる血は少しの方がいい」
「もちろんですわ。今夜にも王宮は落ちるでしょう」
「オレの身柄は好きにつかいたまえ」
覚悟が完了してる殿下!
格好いいですわ!
身一つで、我が方に乗り込んで来る胆力が素敵!
わたくしが大好きな殿方はこうでなくっては!
「では、当然、私と結婚もするということで?」
するんですわよね!?
そうでなかったら、こ、殺してしまいますわよ!
もちろんわたくし自らの手で!
そしてわたくしも死にまする!
「ああ、もちろん。そうすれば少なくとも、キミがオレとの子を産むまでは生かして貰えるだろう。というかキミと結婚して生き残るには、この方法しかない」
わたくしと結婚前提!?
し、しかもわたくしと子を!
子をなすということは、夜になればあんなことやこんなことを、なんてはしたないんですのぉ!
殿下以外なら絶対にいやですけど、でも殿下となら! 恥ずかしくても喜んで!
「欲が少ないですわね」
「あるだけ無駄だからな」
クールで恰好いいですわ!
いったい、どこまで惚れさせるつもりですの殿下ぁ!
※ ※ ※ ※
側近は拷問され、あっさり全てを吐くどころか、言わされるがままにない事まで吐き。
この冤罪事件を口実に、公爵家は即座に蜂起。
すでに根回しは済んでおり、王太子をかついだ公爵家は、朝にはあっけなく勝利。
王太子以外の王族、ならびに、王党派は処刑。
王太子は即位。
完全な傀儡だったが、子供ができても、すぐ王妃が妊娠したので彼は死ぬこともなく。
政略で結ばれてから5年。ふたりのあいだには4人の子供ができた。
周囲は、あのふたりは子供を機械のように冷静に作成している、と評していた。
今夜も、王と王妃のあいだで、いつもの作成作業が始まろうとしていた……。
※ ※ ※ ※
「もうキミの父上はいない。無理してオレとカラダを重ねる必要はないのだぞ」
「私、まだ子種が欲しうございます」
だってだって、やっと。
誰の目の気にせず、殿下といちゃいちゃできるんですもの!
でも、4人も子供を産んで、少し体の線もゆるんでしまったわたくしに、本当はお引きになっているのでは……。
「5人も作ることはないだろう。出産は女にとって危険なのだからな」
ああん。そんなこと言われてしまったら、愛されていると思っちゃいますわぁ!
「作っているあいだは、父も貴方を殺しませんでしたから」
「手駒が増えるのを、あの人は喜んでいたからな。オレとしてもキミがオレの子を4人も産んでくれて幸せだったよ」
し、しあわせ!?
なんだか無理やり傀儡にしたみたいなのに!?
こんな計算高い女となのに!?
「幸せですか?」
「ああ。こんなに長くキミと結婚してられるとは思っていなかったからな」
な、なんですのその言い方は!?
わたくしと末永く一緒にいられたらいいなぁ、と脳内変換してしまいますわ!
4人も子供を作ったのに、こんなにもまだ殿下……いえ、陛下の事が大好きなわたくし!
「その父は死にました。もう父にご注進する者はいません。この国の支配者は私が引き継ぎました」
「最近、キミが妙に粛正ばかりしてたのは、そのためか」
王妃の父が死んだのは半年前だった。
「我が実家も我が派閥も全て、ようやく私のものとなりました。どんな情報も私に集まります。そして私を監視している者はいません」
王妃は珍しく少しためらい、
「……邪魔者を排除するのに随分と時間がかかってしまいましたが……今ならあなたに言えます」
「なにをだね?」
言うのよ!
ようやく言えるのよ!
ここで言えなければ一生言えないわ!
もしかしたら、気持ち悪がられるかも。
子供を4人も産んだ女が、今さらと嗤われるかも。
ウソだと思われるかも。
計算だと思われるかも。
怖い、怖すぎますわ!
でもでもでもっ。
王妃は、深呼吸をすると、いつもの冷静さで告げた。
「レオン、あなたを愛しています。婚約が決まって顔合わせをした瞬間から」
珍しく王は目を見開き。
そして、深呼吸をすると、いつもの冷静さで告げた。
「実はオレも……サルヴィア、君を愛している。同じ時からずっと」
ふたりは、ひしと抱き合いました!
今、死んでもいいですわ!
だめですわ! わたくしたちのハッピーはこれからですもの!
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
評価や感想をいただけるととても励みになります。
別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




