死ぬんだ
「俺は違うよ、病気だから食べられないだけ」
さらっと流して言おうとした言葉を彼女は拾う。
「病気ってどんな病気?」
「話したくない」
「何で?」
「いいから構わないでくれよ」
「何で、そんなこと言うの」
「俺は、死ぬんだから!!!」
「生きればいいじゃん」
「簡単に言うなよ!そんなの無理に決まってるだろ」
「無理なんて言葉はこの世界にないよ!それに死ぬってまだ決まってないじゃん。現に、月森君は私の前にいるじゃん!生きてるじゃん」
キラキラした太陽が君の姿を照らす。
馬鹿馬鹿しいとか何言ってんのとかいう気がおこらなかったのは、その瞳がいってんの曇りもなく俺を見つめていたからだ。
「月森君が生きたいって思うぐらいのことをしよう!」
「いいよ、そういうの」
「何かしたいことないの?」
「いいって。どうせ荷物になるんだから」
「荷物?」
「思い出って、ただの重い荷物だよ。俺と関わった人間は、死んだらずっしり重い荷物をぶら下げて歩きだけだから」
「そんなことないよ」
「そんなことあるから」
「ない!重いだけの荷物じゃない!一緒に過ごした時間は、キラキラして軽い荷物かもしれないじゃん」
何言ってんの、こいつ。
それが、君の印象だった。
関わりたくなくても、君は隣の席で。
嫌でも、俺の視界に入る存在だ。
「月森君、まずは今日の放課後!カラオケに行こう」
「はぁ?勝手に決め」
「また、あとでね。バイバイ」
君みたいなタイプは初めてだった。
病院で出会って話しかけてきたおばさんには可哀想ね、若いのにって言われる。
だいたい、可哀想って扱われるから、それが嫌で服だってわざと大きめを着てるんだ。
痩せて骨ぼねしくなった体を見られたくなかった。
同情もされたくない。
どうせ、誰かに話してるんだろ。
そう思って教室に戻ったけれど。
誰も何も言ってこないまま、午後の授業が始まった。
本当に変なやつだ。
言わないでなんて口止めしてないんだから、話せばいいのに。
キーンコーンカーンコーン
学校が終わるチャイムが鳴り響く。
何とか今日も生きていたんだ。
ホッとしながら、鞄を持った。
「月森君、ちょっといい?」
「えっ!!あっ……うん」
隣の席の君に呼び止められる。
本当は急いで帰りたい気持ちを我慢して、話を聞くことにした。
「カラオケ行こう」
「えっ?」
「だから、カラオケ」
「行かないよ」
「大丈夫だよ、おごってあげるから」
そんな問題じゃないのに、断れなくて俺はカラオケボックスに来てしまった。
「もうすぐしたら、友達来るから」
「友達……?」
「そう。いっぱいで遊ぶ方が楽しいじゃん」
「いや、お昼の俺の話聞いてました?」
「聞いてたよ!もしも、月森君が本当に死ぬんだとしても。たくさん楽しいことしよう」
「だから、そういうのは俺にとって」
「重い荷物かどうかは、こっちが決めることだから、そっちが勝手に決めないでよ」
「はあ?何で俺に関わるねん」
「関わりたいからに決まってるでしょ!」
「はあ?意味わからんわ」
「わからなくていい」
何やねん、こいつ。
ほんまにわけわからへん。
わからへんけど、何か……。
何か、嫌じゃない。
君とカラオケに行った俺は、少しだけ自分の中の何かが変わり始めたことに気づいていた。
君といると俺は何だか高校生みたいだ。
余命なんてなくて、病気なんてなくて。
ただ、普通に怒って笑って。
ただ、今を生きているだけ。
明日も生きてるって馬鹿みたいに思えて。
誰かに恋をして。
友達と寄り道して遊んで。
俺にはないって思っていた人生を君は与えてくれようとしている。
何かわからないけど、もう少し付き合ってあげようって思わせる力が君にはあった。




