中学三年冬
なぜか、日記というものが書きたくなった。
だから、お小遣いで少し分厚いノートを買った。
6歳で父親が亡くなり、それから9年経ってようやく母の悲しみが癒えたような気がする。
「かけるーー。まだ、宿題しとるん?」
「急に開けんなや」
「ごめん、ごめん。隠したんなに?」
「何もないわ」
「エッチな本やろ?」
「ちゃうわ」
「嘘つけ、みしてみぃぃ」
お母さんの言葉に慌ててノートを引き出しにしまう。
見られたくなかったから。
「何や、参考書か」
「一応、受験生やから」
「へーー。行かへんゆうてたのに、高校行くの決めたん?」
「別に行かへんとはゆうてへんやろ」
「今度は友達出来るとええな!」
お母さんは、俺の頭をくしゃくしゃに掻く。
「やめろや」
「はいはい。じゃあ、お好み焼き食べ」
「わかった。すぐ行く」
お母さんが出て行ったのを見届けてからノートを取り出す。
この日記を書こうと思ったのは、何故か最近胃が痛いからです。
一行書いてから、ノートを閉じる。
保健室の先生は、胃が荒れてるんじゃないかって言ってた。
ただ、心配なら病院に行くように言われたけれど。
まだ、中学生やし。
たいしたことなんてないわ。
どうにかなるなんて、ありえへん。
そんな事よりも、お母さんに心配かける方がアカンのやから。
「もう、駆、遅いなーー。先、食べてんで」
「ごめん、ごめん」
ソースがたっぷりかかってる。
重たいやろなーー。
胃の辺りがキリキリする。
気にしないようにしよう。
大丈夫、大丈夫。
「いっただきまーす」
「どうぞ」
「うまい!やっぱりお母さんのお好み焼きが最高やわ」
「よかった。嬉しいいわーー」
この笑顔を奪いたくない。
だから、少しぐらい大丈夫。
お父さん、どうか見守ってください。
胃の不快感が生まれてからは、ずっと亡くなった祖父母やお父さんに寝る前に祈りを捧げ続けていた。
どうか、明日も元気でいられますようにって。
そのお陰で、中学は無事に卒業できた。
友達?
友達なんてものはいない。
それは、お父さんを亡くしたあの日から。
保育所で仲良くしてくれていた圭ちゃんの耳を引っ張って泣かした。
それで、バイバイした。
お母さんには、何でって何度も聞かれたけれど答えられなかった。
だけど、これは自分だけしか知らない日記。
誰にも読まれることがないのだから、本当のことを書く。
俺が死んだら圭ちゃんが悲しむだろう。
そう考えたら、重たくなる荷物は必要ないって考えた。
あんなに毎日泣いてるお母さんを見ていたら、余計にそう思った。
思い出ってものは、誰かを苦しめるだけのもの。
だったら、最初から思い出なんか作らなければいい。
そしたら、誰かを苦しめることもないのだから。




