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欠けた月が照らすもの  作者: 三愛 紫月


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1/5

プロローグ

ーー君は、今、笑っていますか?

ーー君は、今、痛みがないですか?

 こうして、君へのラブレターを書くのは何通目でしょうか?

 届けられないのをわかっていながら、またペンをとってしまうのです。

 大人って案外悪くないもんですよ。

 私は、今日二度目の成人式を迎えます。

 あの頃、拾ったルナはママになったんです。

 君はいなくなったのに、ルナはまだ生きてるって不思議でしょ?

 私?私は、まだ一人ですよ。

 5年前、ルナが産んだ琥珀こはくを育てていますから。

 あっ、そうそう。

 あいちゃんに二人目が出来たんです。

 そう、君も知ってる航太こうた君との子供です。

 治療はしないって決めた藍ちゃんが、一人目を授かったのは38歳だったって話しましたよね。

 長く苦しんでました。

 だって、藍ちゃんと航太君が結婚したのは君のせいでしょ?

 20年も子供が出来なかったんだよ。

 それでも、必死で生きていた。

 私も藍ちゃんも航太君も。

 苦しんで、傷ついて、泣いて、笑って、怒って、傷つけて、もがいて。

 これは、全部。

 君が教えてくれたこと。

 長くなってしまいました。

 ハガキ1枚に押さえたいので、ここで失礼します。




ーーピンポーン


「はーーい」



 インターホンが鳴り、玄関に急いで行く。



「お荷物です」

「荷物?頼んだかしら」

「ご住所あってますか?」

「はい、あってます」



 住所を確認する。

 差出人は、Kと書いてある。

 k?間違い?

 そんな会社から荷物頼んだっけ?


 箱を開ける。

 驚かせてすみません。月森と書かれた紙が入っていた。


 君のお母さん?

 私は、驚いて中を確認する。

 手紙……。


 封筒を開ける。


「理子へ。元気にしてますか?」



 この手紙が届く頃、君は大人になっているんでしょう。

 お母さんと一緒に百貨店に行って選んだスカーフ。

 君に似合うと思ったんだけど。

 お母さんから、それは40代ぐらいの人がつけるものよと笑われました。

 だから、最後にハンカチを渡したんです。

 本当は、君がこれをつけるのを見たかった。

 見たかったけど……そこに俺はいない。

 本当は、隣で君が40歳になるのを見ていたかった。

 そして、これをつけて笑っていて欲しかった。

 って、君の好きな人に怒られますね。

 あっ、もしかして。

 いまだに1人だったりしますか?

 君は真面目だから、俺に申し訳なくて1人でいたりするんじゃないですか?

 それは、駄目ですよ。

 1人は、寂しいから。

 ルナは、生きてますか?

 もし、生きていたら嬉しいです。

 俺の知らない君をたくさん見てくれているだろうから。

 ルナがこっちに来た時に、たくさん話を聞きたいと思っています。

 まだまだ、たくさん書きたいことがあるのですが、やめておきます。

 どうか、君が幸せに笑っていますように……。

 あっ、これは20歳の時の手紙にも書いたことですが。

 新しい人と新しい恋をしていいんですよ。

 1人で生きていくのは辛いから。

 だから、誰かと寄り添って生きていいんです。

 君の人生は、まだまだ長いんですから。

 それでは、またいつか。

 欠けた月の向こうで待っています。



「あーー、あぁーー」



 箱の中には、薄い黄色と淡い青色と少しの橙色が混ざったスカーフが入っていた。

 どんな気持ちで、これを選んだの?

 自分はいない世界を、君はどんな風に見ていたの?



「日記……?」


 日記帳と書かれた1冊のノート。

 君のお母さんが、メモが貼りつけている。


【棺に入れて燃やして欲しいと頼まれていました。でも、やめました。だって、理子ちゃん、藍ちゃん、航太君と駆け抜けたあの日々は、あの子にとって最高に幸せだったのがわかったから。だから、これは理子ちゃんに持っていて欲しいんです。それが一番相応しいと思いました。いつでも、あの子に会いに来てくださいね。待っています】



「お母さん……」


 君のお母さんの優しい文字に涙がこぼれる。

 いつから、書いていたのだろう。

 ボロボロの日記帳だ。

 もしかすると、これは……。

 私の知らない君を見つけられるものなのかも知れない。



「ごめんね。でも、ほら。あんまり話してくれなかった君が悪いんだよ」



 私は、日記帳の表紙を捲る。

 「俺のことはいいから」っていう言葉が君の口癖だった。

 限られた時間の中で、たくさんの幸せを持っていかせたい。

 そう思ったから、私達も君のことをそこまで深く聞かなかった。

 ううん。

 聞けなかったんだ。

 

 だけど、私はずっと君のことが知りたかった。

 もっと知りたかった。

 もっと話したかった。

 もっと。

 もっと。


 日記の1枚目に書かれている文字を読む。


「日にちを書くのは、何だか違う気がする。って、何故文字にすると標準語になるのだろう。不思議だな」




 久しぶりに見る君の文字が嬉しくて、涙で目の前が滲んでいく。

 私が、出会う前の君。

 愛しくて、抱きしめてあげたくなる。

 日記を捲っていく。

 こんなにも力強い文字を書いているのに、ところどころに滲んだように掠れた跡があって……。

 君の痛みが流れてくるようで。

 読みながら、君が浮かんでくる。

 会いたい、君に。

 君に会って抱き締めてあげたい。

 


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