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200話記念SS全3話_その3_スタンリーの王様体験

※【改訂版_第2部_2章_166_国GET、そして大陸へ_1】あたりのお話です。

暴力・残酷表現があります。苦手な方はご注意下さい。

「……この光の玉が弾けたとき、あたらしい城が築かれる。あたらしい太陽が2度のぼった後に、アイスラー公国はあたらしい帝国の領地としてうまれかわるだろう」


真っ白の妖精のようなラウプフォーゲル王子がそう言い残して3日後。


ワラと木板で造られた「城」は粉々になって周辺の水場に散らばり、その場所には巨大な石造りの城が現れた。


石材の産出がなく、土地はほとんど湿地で地盤の緩いアイスラー公国では石造りの建物は不可能と言われていた。

技術力の問題もある。

学ぶことを良しとしないこの国では、建築技術などといった高度な学問を受け入れられる土壌が無く、通貨すらろくに機能しない原始人生活だと言われていたのだ。


そこに現れた真っ白な城。


ワラと木板で造られていたものも現地民には「城」と呼ばれていたが、堅牢な石造りを見てしまってはその強度と文明度、その権威は明らかに今までと違う。


石造りの城の周囲はクリーム色の石畳が広がっていて、すこし傾斜のついた石畳の上を清い水が薄く広く流れていた。この機構もまた原始人のアイスラー人にとっては神の所業のように見えるだろう。

水はただ流れて淀むしかないと思われているこの国で、完璧に制御された水循環。


周囲から水を取り込んで、浄化して城の上部から流し続ける。

湿原の城にふさわしく水をふんだんに取り入れた城で、いくつもの貯水槽といくつもの噴水が備え付けられた神の庭のようなデザインだ。


実際に神候補が作ったのだから、事実「神の庭」と称しても構わないかもしれない。



文字のない国なので、延々と要領を得ず冗長な口頭の報告を聞いていたスタンリーは意識を屋外の噴水に向けた。


「……文字が書けない上に話も長い。この国の官僚は無能ばかりだ。出直せ」


スタンリーが短く言うと、報告していた人物は一瞬呆然とし、それからギリリと奥歯を噛んだ。


「お言葉ですが、帝国のやりかたを持ってきてもらってはこちらも困ります」


「お前たちが困ることに何の問題がある? 困ってるのはこっちだ、無能が開き直るんじゃない。全く、獣はムチを与えないと学ばないようだな。この者にムチを100回。次の報告が上手くできなかったらまた100回だ」


スタンリーの言葉に、魔導騎士隊(ミセリコルディア)が報告者を拘束する。


「こ、このようなやり方が続けられると思っているのか!」


「思ってるさ。現に、バルウィンの元では続いたじゃないか。アイスラーの……いや、ガードナー自治区の民は我慢強く無知で従順だ。そうだろう」


スタンリーが真っ白の毛皮に覆われた玉座で軽く足を組み直して水を向けると、傍に控えていた官僚たちが慌てて「仰る通りでございます」と唱和した。


かつてスタンリーの父、バルウィン大公のもとで文官をしていた人物たちだ。

彼らは外交のために文字が書けた。外国の知識もある。

当然、帝国で発行される新聞も読めるし、公国でもごく僅かながら近隣の情勢を正確に把握していた人物たちだ。


だが、正確に把握していても正しい外交、正しい政治をすることは難しかった。


バルウィン大公がそれを許さなかったからだ。


チラリ、と文官の1人が謁見の間に似つかわしくない存在に目を向ける。


ラウプフォーゲル人から見ても充分「美しい、重厚な」内装の謁見の間であるが、高い位置にある素晴らしい窓ガラスの下には8体の惨殺死体が可動式の木の柱にくくりつけられていた。


1人は先王、バルウィンの死体。スタンリーの実の父。

首はなく、後ろ手に縛られたまま直立している。


残りは王子と権力者。バルウィンの家族で、スタンリーの兄や親戚だった者たちだ。

だが、スタンリーにとってはどうでもいい。


かつてアイスラーで過ごした過去で、彼らはスタンリーのことを犬以下に扱った。

いや、生き物以下と言ってもいいかもしれない。憂さ晴らしの拷問の相手であり、何気なく痛めつけたい気分の時にあった「人形」。それが彼らにとってスタンリーだった。


「報告者はオマエでなくても構わない。私の望み通りに報告するのが難しいというなら、首を斬られる前に代理を立てろ。文字が書けるか、あるいは報告の上手い人物をな。もしも何も言わず消えたりしたら、オマエの家族は全て斬首刑だ。いいな?」


スタンリーの言葉に、報告していた人物は青い顔で俯く。


「……返事もできないのか? ムチは100回では足りんようだな」


「し、失礼しました。仰せのようにいたします」


「いきなり首を斬りつける先王からすればまだ優しいだろう? 私はきちんと理由を述べて予告し、それが叶わなかった場合に首を落とす。改善されればよし、そうでなければ要らない。ただそれだけのことだ。そう難しいことではないはずだろう」


小柄なスタンリーから淡々と紡がれる言葉に、謁見の間にいるアイスラー人は皆怯えている。だが、魔導騎士隊(ミセリコルディア)にとっては当然の内容だ。

首を落とすかどうかはさておき、だが。


反抗的だった報告者はすっかり牙を抜かれて威勢をなくし、すごすごと謁見の間を出ていった。


「大公閣下、次なる謁見希望者は、閣下の兄君を名乗る人物にございます」


魔導騎士隊(ミセリコルディア)の報告に、スタンリーが眉根を寄せる。


「名は?」


「クライグ、と名乗っております」


「ああ……上から4番目だか5番目だかの先王の子か。通せ」


のしのしと謁見の間に大柄の男が入ってくるのと同時に、すすす、とヒト型になった水の精霊キュアノエイデスの分霊体がスタンリーの耳元に顔を寄せてきた。


(あの男、反乱組織をまとめ上げようとしてますよ)


「……そうですか。アジトなどはわかりますか」


(ふふ、ぬかりはありません)


構成員、根城、資金源、全てがキュアからもたらされる。

そうとも知らないスタンリーの兄、クレイグは玉座に座る弟をジロジロと眺めて舌打ちしたかと思えば、礼儀正しく頭を下げた。

……獣にも本心を隠すくらいの知恵はあるようだ。


魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員を手招きし、キュアから得た情報を全て伝えて「摘発しろ、証拠は無くても構わない」とだけ伝えると、隊員は他に5人ほどを連れて謁見室を出ていった。


「ヘイゼル……」


スタンリーはそう呼ばれて、ニコリと笑う。

だが、クレイグの後ろにいた隊員が棍で膝裏を激しく打って跪かせると、別の隊員が同じように肩口に棍をかけて押さえつけて無理やり平伏させられた。


「な、なにをさせるんだヘイゼル!」


隊員は、理由も言わずクレイグの顎めがけて棍で激しく打つ。


「……何の役職にもついていないただの兄が、大公閣下の名を馴れ馴れしく呼べば罰される。バルウィンの支配下でも同じだったでしょう? それと、私の名はスタンリーです。次に昔の名で呼んだときは『改革を受け入れなかった者』として罰しますので、お気をつけください」


スタンリーが当たり前のように言うと、クレイグはキッと目を鋭くした。

が、大きく息を吐くと「申し訳ありませんでした。改めます、スタンリー大公閣下」と平伏した。「学びは腕力を衰えさせる」という教えが根強いアイスラーの土地で、小賢しく立ち回れる稀有な性質の兄だ、とスタンリーはオッドアイの目を細めた。


「それで、何の御用です」


「その、立場についてだ……です。先王の次代、私は海岸沿いの漁師衆たちの取りまとめを任されていたのですが」


「ああ、海賊どもの頭領でしたか」


スタンリーの侮蔑的な言葉にも、クレイグはグッとこらえる。


「……現在、急に新しい統治官がやってきて漁師衆が戸惑っています。できれば引き続き統治を私めにお任せいただけないかと、交渉に来た次第です」


「バルウィンの言いなりになって無謀な海賊行為を止めなかった貴方が? 貴方が統治する利点はどこにあるんです? 漁師たちが戸惑わない、という理由以外で」


クレイグが目を泳がせた。


「正直ねえ、漁師が戸惑おうが戸惑うまいがどうでもいいのですよ。改革の波が広がれば誰でも戸惑うのは当たり前です。1ヶ月もすれば落ち着き、半年もすれば慣れ、1年後には戸惑った過去すら忘れる。改革が良いものであれば、そういうものですよ」


スタンリーの言葉に、魔導騎士隊(ミセリコルディア)たちが笑いながら頷く。


正直、アイスラー国の改革は今以上に悪くなりようがないくらい最悪の状況だ。

たしかに今までと違うことはたくさんあるだろうが、それは良い状況に変わるための過程であって結果的に悪くなることはありえない。

あるとしたら「個人にとって」の内容であって、統治する側としては良いことしかないはずなのだ。

この土地には残したい文化も伝統もない。


まず識字率を上げること。

これはなかなか困難だろうが、結果的に識字率が上がれば国全体の経済力が上がるのは間違いない。

それと貨幣経済を完全に導入すること。

これも慣れが必要だが結果的に良い方向になるのは間違いない。今、地方で起こっている小競り合いの多くが物々交換で起こる価値観の違いによる双方の不平が原因だ。

ブリフ(ヤギ)1頭の価値と、小麦の束がどれだけで交換されるのか、共通の認識が短期間でコロコロと変わってしまうことが多いせいで、いつも必ず不平不満が起こる。

それが重なると小競り合いとなり、それが広がると内戦となる。


そうやってアイスラー湿原はいつもどこかで争いや殺し合いが行われていた。


帝国、特にラウプフォーゲルの安定した領地運営を一度目の当たりにすると、アイスラー国がどれだけ正しく「蛮族」なのかよくわかるんだが。


とはいえ領地民の全てにラウプフォーゲルの模範的な社会を見せる事はできない。


「いや……見せるだけなら、できるな」


スタンリーの独り言に、クレイグが反応する。


「わ、私が海岸の漁師衆を統治するにあたり閣下が得られる利点は、閣下の影響力です!私は閣下の兄として彼らを統治します。閣下の威光をこれ以上正確に伝えられる人物はいないと思いませんか!」


別のことを考えていたスタンリーは、そういえばクレイグと漁師衆について話してたんだっけ、と思考をもとに戻した。ええっと、クレイグが漁師を取りまとめる利点だったか。


まあそんな事はどうでもいい。


「わかりましたよ。では一旦こちらで考えましょう。それより、貴方のその服……そんな身なりで私の兄を名乗るつもりですか? あまりにもみすぼらしすぎます。仮にも民を統治する立場を自称するなら、誰が見ても見るだけでそれとわかる身なりをしてもらわないと」


スタンリーの言葉に、クレイグは改めて身につけている服を見回す。


貫頭衣よりはまだマシというレベルの作りで、布は擦り切れて薄くなっている上に汚れているし裾はほつれている所も多い。

先王の時代では、先王以外が立派な衣服を着るといきなり王に斬り殺される可能性があったので皆おびえて粗末な服を着ていた。


「それとわかる……身なり?」


「ご覧ください、ケイトリヒ殿下の直下であるこの魔導騎士隊(ミセリコルディア)の制服を。所属がひと目で理解でき、統率が取れた優秀な軍であることは愚か者が見ても明らかです。こういうことをやってこなかったのが、先王なのですよ」


スタンリーは明らかにクレイグを馬鹿にしていたが、クレイグはそれも気にならない。


「立派な服を着ろ、と仰ってるのですか?」


「そうです。お持ちでないなら差し上げましょう」


「!!」


スタンリーが目配せすると、魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員が立派なジュストコールを持ってきて広げて見せる。


「ラウプフォーゲルでは下級貴族が着るものですが……最低限でもこの程度は身につけていただきませんと、兄と名乗ってもらいたくないですね」


クレイグが目を輝かせてジュストコールを見つめているのを見て、スタンリーは笑う。


(小賢しく立ち回る知恵者ではあるが、虚栄心が強く権威に弱い。そして、中身のない権威を借りて何の戸惑いもなく振りかざすことができる。やはり小賢しいのはほんの一部であとはダメだな。我が血族ながら、見下げるほどに阿呆だよ)


「袖を通して差し上げろ」


隊員がクレイグに丁寧にジュストコールを着せる。

クレイグはおどおどと袖を通し、身体をモゾモゾさせていたがすぐに馴染んだようだ。

ジュストコールは身体にフィットするよう仕立ててあるので、貫頭衣に毛が生えた程度のゴワゴワした衣服とはわけがちがう。

みすぼらしい服の上から立派なジュストコールを着た、なんとも奇妙な出で立ちの男が満面の笑みをスタンリーに向けた。


「シャツや靴がないですね。まあそれはおいおいとしましょう。ではその格好で、漁師衆を取りまとめる手腕をお見せください。統治権の契約を結んできたら、そのときは他の衣服も差し上げましょう」


文字の読めない相手との契約方法は「宣誓」だ。

ただの言葉による宣誓に加え、スタンリーはケイトリヒの映像記録装置(ビデオレコーダ)を駆使して「映像宣誓」という新しいスタイルを確立した。

1分ほどの短い動画を記録できる魔道具を開発し、それを契約の証明にすることにしたのだ。


これがアイスラー国には効果てきめんで、「後からゴネるのは当然」と言われていたアイスラー人が全くゴネてこなくなった。

映像記録に加え、「同一人物が記録と違う事を言いだしたら斬首する」というスタンリーの脅しのほうが怖かったから、なのかもしれない。


クレイグは意気揚々と謁見室を出ていき、それとすれ違いに先程部屋を出ていった隊員が戻ってきた。


「もう捕らえたのですか?」


「はっ。反乱組織は22名の30歳以上の男ばかりでした。根城も身元もすべてわかったうえでの捕物でしたので、かかった時間はほんの10分程度でしたよ。ほとんど無抵抗でしたし。捕縛者は、全員城の庭に繋いであります」


隊員は、完全にスタンリーの思惑を理解していた。


「ご苦労。あの、血縁があると認めたくもない阿呆と捕縛者がきちんと接触したら、証拠不十分で解放してやってください」


「承知しました」


疑われる気配もなく準備していた反乱組織が、ある日突然一斉検挙された。

その後に、そのリーダーが反乱相手であるはずの大公から立派な洋服を与えられていることが分かったら、それは真っ当な疑いになるだろう。


あとはこちら側に鞍替えするのが、反乱組織になるかクレイグになるかの違いだ。

どっちも吸収しても構わない。


「ふう……精霊様の助力で難しいことも簡単に済ませられる部分は多いですが……やはり為政者というのは面倒ですね」


「そうでしょうか? 天真爛漫で情の深いケイトリヒ殿下はユヴァフローテツでは成功されてましたが、もしもアイスラーを統治するとなればきっと苦戦されたと思います。スタンリー様が統治者で良かったと私は思いますよ」


まだ子どもであるスタンリーに対しても丁寧に返答したのは、反乱者を捕縛して戻ってきた魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員。名はなんといったか……。


「私の本分は統治ではありません。ある程度基礎ができたら統治官を置きたいと思っているのですが……貴方、適任を探してはもらえませんか。ええと……」


「ロベールと申します」


「失礼、ロベール卿。もしくは貴方でも構いませんが」


ロベールと名乗った隊員は、豪快に笑った。


「そのような大事な案件を、いち隊員にまかせてよいのですか?」

「貴方は私よりもヒトを見る目がある。それに、もっと言うとこの国は別に発展させる必要はないのですよ。帝国とラウプフォーゲルにとって無害になるだけでいい。もちろん、利益になったらなおのこといいのですが私にはそのような情熱はありません」


「しかしこの土地はスタンリー様の家名を冠した領地ですよ」

「ならばなおのこと発展はゆっくりでいい。あまり家門が力をつけすぎても、面倒事が増えるだけです。とにかく問題をおこさない領地にしてもらいたいというのが第一です」


スタンリーの消極的な方針に、ロベールは興味深いとでも言うようにニヤリと笑った。


「……私は平民ですが、小さな村の村長の三男坊です。分不相応に政治に興味を持っておりましたが、好きにさせてもらえるというお話でしたら調子に乗りますよ?」


「願ってもない適任ですね。まずは首都……首都とよんでいいかもわからないほどの規模ではありますが、この土地を()()()にしてもらえたら、その次を考えましょう」


こうして、スタンリーはアイスラー公国の王位簒奪からわずか2週間ほどで統治のための仕事の多くをロベールに引き継ぎ、本人は逃げるようにケイトリヒ王子の護衛に復帰することになる。


ロベールの手腕が帝国中から注目される結果となるのは、また別の話だ。

今後SSは不定期で更新する予定です。

ご要望がありましたら是非どうぞ!

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