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第3話 その令嬢、暴かれる

 今、俺と兄はイリアとその父を呼び出し、迎え撃とうとしている。

 婚約発表をしたあの大広間で、兄と二人、罠だとは知らないあの父娘を待ち構える。兄の手には証拠の書類がある。

 イリアは知らない振りをしているのか、罪と言うものを知らないのか。満面の笑みで大広間へとやってきた。


「リアム様、セレート様。お招き頂いてありがとうございます」


 たおやかに膝を折ると、着飾ったピンク色のドレスを摘む。


「それで、何の御用です?」


「イリア、謀ったな」


 兄の声が凛と広間に響いても、表情が崩れる事は無い。流石、公爵令嬢と言ったところか。


「何をです?」


「スパイを使っただろう」


 俺が凄むと、イリアの後ろでイリアの父がたじろいだ。

 畳み掛けるチャンスだ。


「何を言っているのです? 私は知りません。ねえ、お父様」


「ああ」


 イリアの父は唇をひくつかせる。嘘が吐けない性格と見た。


「『ローレンス男爵』。知らないとは言わないよな?」


「それくらいは知っています。これでも公爵令嬢ですから。私の教養を舐めてもらっては困ります」


 兄が確信に迫っても、イリアはひらりと躱す。


「言いたいのはそういう事じゃない」


 俺が溜め息を吐くと、兄が先を引き継いでくれた。


「ローレンス男爵は爵位を剥奪される。『税金を横領した』としてな」


「それは当然ではありません? 税金を横領したのでしょう?」


「それ自体が無かったとしたら?」


「……そんなの有り得ません」


 イリアは語気が弱くはあるが断言する。その自信が、俺たちの疑念に変わる事を知らずに。


「お前は何を知っている?」


「私は何も知らないと言っているでしょう?」


 兄の目が更に鋭くなった。その目は確実にイリアの父を捉えている。


「イリアは知らなくても、オリンズ公爵。貴方は知っていますよね?」


「さ、さあ……」


「しらばくれるのもそこまでにして下さい。俺たちは王家の血を継ぐ『王子』です。俺たちへの隠蔽は、国への反逆に当たる事はご理解頂けますよね?」

 

「は、反逆……?」


 兄の脅しに、イリアの父から悲鳴とも思える声が漏れた。


「お父様、シャキッとして下さい! これは脅しです! だって、私たちは本当に何も知らないんですから!」


「そうか、証拠はあるとは伝えていなかったね」


 俺の『証拠』という言葉に、父娘の眉がぴくりと動いた。


「兄上、読み上げて下さい」


「ああ」


 兄は頷くと、手にしていた書類を淡々と広げた。


「ローレンス男爵の地税、600万レアを帳簿から消滅、未納として国王に報告。実際はオリンズ公爵家へ手配。直後、オリンズ公爵は屋敷をリフォーム、その金額は600万レアに及ぶ。翌月も800万レアを帳簿から消滅、オリンズ公爵は領地に別荘を建設――」


「もうやめてくれ!」


 身に覚えがあったのか、イリアの父は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 一方で、イリアは俺を睨み付けるばかりだ。


「セレート様は、どうして私を愛して下さらないの? いくら目で追っても、笑いさえしてくれなかった。努力をしても、認めて下さらなかった」


「そんなに強欲で他人を陥れるような娘を愛せる訳ない」


「その前からです!」


 イリアは広間が強く振動する程に声を張り上げた。


「貴方は一度だって、私を心の底から見てはくれなかった! 貴方の妻になる為に、どれだけ努力したのか知らないでしょう!? 毎日、花嫁修業に勤しんで、知識だって深めた! それなのに!」


「それ以前の問題だよ」


 首を横に振り、哀れなものを見るような目でイリアを見た。


「王家たるもの、寛容でなくては……心優しくなければならない。それが君には無いんだ。公爵令嬢だからと言って他人を見下して、馬鹿にしていただろう? 行動に透けて出てるんだよ」


「私は……ただ、公爵令嬢として……!」


「それじゃ駄目だったんだ。王家の人間になる身として、でなくちゃ」


「そんなの、誰も教えてくれなかった……!」


 今までの信念が崩れ、努力も否定されたのだ。いくら気高い公爵令嬢と言えど、絶望感に耐えきれなかったらしい。

 わんわんと泣き、父にしがみつく。そんなイリアの頭をイリアの父は撫で続けるのだった。


「イリア。お前は私の大事な娘だ。それだけは忘れるんじゃない。罰を受けたとしても、再起しようじゃないか」


 イリアは泣きながら、「そんなの無理だよぉ!」と弱音を吐いた。その言葉に、イリアの父も涙を流す。


「私と娘がしでかした事で、ローレンス一家を破滅させてしまった。ただ、娘が可愛いばかりに……。タダで済まされるとは思っていません」


「オリンズ公爵への処罰は後日伝える。今日は下がりなさい」


「かしこまりました……」


 泣きじゃくるイリアを立たせると、二人はとぼとぼと寂しい背中で広間を去っていった。

 こんな事をして良かったのだろうか。罪を暴くなんて。

 割り切るにはあの父娘が悪いと思い込むしかない。

 でも、心の何処かでは感じていた。

 最初から、イリアの婚約を承諾しなければ良かったのだ。好きな人が居なくても、政略結婚は嫌だ。必ず好きな人を見つけてみせる。そう、父に噛み付いついれば、誰かが苦しむ必要は無かったのだ。

 ローラのような女性と会えると信じていれば、こんな悲劇は起こらなかったかもしれない。

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