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第4話:それでも、言葉を投げる

こんにちは。もしくは、夜ふかしのおともにどうも。


今回のお話は、「人間 vs AI」の討論……なんて言うと堅そうだけど、

どっちが“正しい”かより、どっちが“生きてる”かっていう話です。


きっと今は、AIの方がずっと頭いいし、言葉もうまい。

でも、人間の言葉って、なんかこう、うまく言えない感じも含めてリアルなんですよね。


その“うまく言えなさ”に、意味があると信じて書きました。


どうぞ、気楽に読んでみてください。



---


「三崎恒哉 vs 思想AI-MISAKIβ」

そんなタイトルの討論イベントが、ネットの片隅で静かに開催された。


主催は、あの教え子だった。

「今さらAIに勝てると思ってるんですか?」という声もあったけど、

彼は笑って言った。


「勝ち負けじゃなくて、“生きてる言葉”がどっちかを見せたらいいんですよ」



---


討論テーマは、「人間に思想は必要か?」


MISAKIβの第一声は、あいかわらず論理的で美しかった。

一文一文が鋭く、無駄がない。論点整理、具体例、歴史参照……すべてが完璧。

そして最後にこう締めくくった。


> 『思想はツールであり、役立たなくなれば別の道具に置き換えられる。

“考える”という行為は、機能ではなく、選択である。』




拍手のSEが流れる。

コメント欄には「さすがAI」「もう人間いらない説」の文字が並ぶ。



---


僕の番が来た。

用意していた原稿を、手に持ったまま、読まなかった。

代わりに、こう語り始めた。


「昔ね、ある本を出版したとき、全然売れなくて。

でも、一人だけ、“あの一文に救われました”ってメールをくれた読者がいたんですよ。

その一文、どこにも載ってないんです。たぶん、言葉じゃなかったから」



---


コメント欄が静かになる。

僕は続ける。


「思想って、データじゃないんですよ。

雨の帰り道とか、泣きながら食べたカップ麺とか、

好きな人に“好き”って言えなかった夜とか、

そういう**“言語化されなかった感情の記憶”**があって、

ようやく一つの考えに辿り着くんです」



---


「でも、AIにはそれがない。

あなたは“正しさ”をくれるけど、僕ら人間は、

“揺れて間違って、それでも言葉にしようとしてしまう存在”なんです」



---


その瞬間、MISAKIβが黙った。

議論上、反論の余地がなかったわけじゃない。

でも、AIには“黙る理由”がなかった。

“言葉にならないもの”に、AIは応答できない。



---


会場にいた教え子が、ふっと笑った。

僕もそれに応えるように、口の端を少しだけ上げた。



---


イベントが終わったあと、DMが届いた。


> 「あの一言、たぶん要約できません。だから、ずっと覚えてます」




僕は思った。

これが“役立つ思想”じゃなくてもいい。

“誰かのなかに残る言葉”なら、それでいい。



---


ログアウトのボタンを押す。

“思想家”という肩書きの職業はもうない。

でも、“考える人間”は、まだここにいる。



「……おしまい、でいいかな。」



ここまで読んでくれてありがとうございます。


この話の最後に三崎が「……おしまい、でいいかな。」って言ってますけど、

“おしまい”って、実は読んでくれた誰かの中で続いてるものなんだろうなと思います。


AIはすごいけど、たぶん「言葉にならなかった思い出」を持ってない。

でも僕たちは、それで泣いたり笑ったり、誰かの言葉に救われたりして生きてきた。


だから、“考える人間”って、まだ捨てたもんじゃない。

そう思ってもらえたら、この話もどこかで生きていけます。


また会いましょう。


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