第三話「あの頃と今①」
突如思い出してしまった母さんの過去。
どうも現実感はないのだが、今の母さんを思うと腑に落ちてしまう。
中学生になる頃には、母さんと一緒に暮らしていない。
母さんは突如いなくなってしまったのだ。
俺はどうしたらいいかわからなくて、ただただ、ずっとずっと、泣いていたそうだ。
いつも良くしてくれていた隣人のおばさんが様子を見に来てくれたらしく、警察まで連絡してくれたそうだ。
その後は母さんは見つからなかった。
他に身寄りがないため、児童養護施設に預けられた。
その時の記憶はほとんど残っていない。空っぽだったんだろう。
それでも周りの人に助けてもらい、成人し、社会人となった。
こんな俺が今みたいな生き方が出来ているのには感謝しかない。
今はなんの変哲もない人生だと思ったりする。
ただ、母さんが突然居なくなってしまった事以外は。
ところが急に事態は動き始める。
仕事から帰ってきたある日。
仕事中に知らない番号から電話が入っていた。
今どきは知らない番号からなんて電話には出ないものだ。
だいたい太陽光やインターネットの営業だったり、変なアンケートだったり。
とりあえず調べてみると、とある地域にある警察署からだった。
これは無視できないなと思いつつ、折り返しかけてみる。
トゥルルルル
トゥルルルル
ガチャ
「はい、旭ヶ丘警察署です」
2コールでちゃんと出るんだな。としょーもない事を考えながら返答する。
「生活安全課の担当者へお繋ぎします」
生活安全課?
普段あまり聞き慣れないが、まあ私たちの生活に関わるなんかだろう。
己の知識不足に苦笑する。
「いや待てよ…もしかして…?」
落ち着かずに家の中をウロウロする。
すると電話が繋がった。
「もしもし。変わりました。生活安全課の佐藤です」
声の主は落ち着いた男性の声でベテランだろうか。
緊張気味だったが少し和らいできた。
「実はですね。お母さまが見つかりましてお電話差し上げたんです」
ドクン…。
一気に心音が高まり冷や汗が出てきた。
「母さんが…!?」
「それで、どこに?」
「ひだまりの丘という保護施設にいましてね。」
「ただ…」
ただ?
一体なんなんだ?
少しの余白があり、相手が話を続ける。
「いやね。どうやら先日、急に名前を思い出したみたいで。ただどうも様子が気になるとのことで…と、施設から連絡がありましてね。よろしければ一度直接お会いになっていただけないかと」
「分かりました。その連絡先を教えてください」
その後は何か話したような気がするが、内容は覚えていない。
書き殴ったメモには施設の名前と連絡先が書いてある。
ちょうど明日は土曜日で休みだ。
俺は朝から出かけれるよう、施設について調べた後、早々に準備をする。
まだ心臓の音が聞こえるような感覚がある。
不安からなのか期待からなのか、もうぐしゃぐしゃで分からない。
そんな胸騒ぎがあったが、布団に入ると意識を失うように眠りについた。