第二話「あの頃の母さん」
自慢じゃないが、母さんは美人だった。
これは息子から見た忖度ではなく、きっと他の人が見ても美人だと言ってくれるだろう。
そんな母さんは早くに俺を産んだのち、離婚。
シングルマザーとして俺を育ててくれた。
そんな母さんは、その美貌を生かして夜の仕事をしていた。
俺が物心付かない小さい頃は、寝かしつけてから仕事に行き、それから俺の面倒を見てくれていたそうだ。
小学生の頃になれば、母親がどんな仕事をしているのかはなんとなく理解出来ていたと思う。
しょーもないことには察しが良い子供だったな、と思い出して苦笑する。
ズキンッ…
ズキンッ…
ズキンッ…
頭痛が酷くなる
すると、記憶の彼方に押し込めていたものが蘇ってきた…
「あぁ…。そんな…」
思い出したくないが、無情にも気付いたら最期。
一気に記憶の海が押し寄せてくる。
そうだ。母さんが…
美人で俺なんかの事を大切に育ててくれた母さん
よく寝込んだときには雑炊を作ってくれた母さん
俺が小学生6年生の時に…
母さんという人格が消えてしまったのだ
その日のことを鮮明に思い出した
2000年7月20日。海の日でその日は友達と一緒に近くの海に遊びにいく約束をしていた。
二人暮らしのアパートの一室で俺は寝ていた
だいたい朝の7時に目が覚めるのだが、母さんが帰ってくるのはいつも8時ごろ。
ところがその日は母さんが台所に立って料理をしていた。
「お母さんおはよう」
返事はない。
野菜を切っている音だけが聞こえる
「お母さん?」
ただただ、野菜を切り続けている。
何かがおかしい…
子供ながら異常を感じた俺は、近くに寄って話しかける
「お母さん、おはよう。聞いてる?」
すると…
「ウルサイガキダネ。オトナシクネテイロ」
俺は…
俺は固まってしまった
母さんの発する言葉が、宇宙人が喋ったような、日本語じゃないような、心が拒絶している。
でも意味がわかってしまった。
そんな言葉、今まで聞いたことがなかったのに
…
……
………
俺はここで思い出すのをやめた。
これは、俺にとってのトラウマだったと気付く。
なぜ今になって思い出せたのだろう?
そもそもこの記憶は本当のことなのか、小学生の妄想じゃないのか?
たが、母さんが変わってしまっているのを、俺は知っている。
なぜなら今の母さんは…
あの頃に戻り、あの頃のトラウマを思い出す。
「あぁ…きっと走馬灯って楽しい思い出ばかりじゃないんだろな」
とチクリと痛みを覚えながら、今の母さんに思いを馳せる
つづく…