第8話 ダブルプレゼント
その夜、ミントは今日の出来事を話した。
「へー、ルドさんかー。最近ここら辺で人気者だよその人!ミントの剣に興味持ったんだね!」
アンナは興味深そうに話を聞く。
「こっちからしたら迷惑だよ。剣をかけてもらうなんて言われてさ、なんで罪もないドラゴンを僕が倒さないといけないんだって思うし」
「でもひきうけちゃったんでしょー?嫌だったら断ればいいのになんでひきうけちゃったの?」
アンナの疑問にミントが答える。
「彼の勇者の肩書きに興味を持ったから。かな?」
「肩書き?」
「自分の地位に胡座をかいて他者を見下してる。そんなやつから地位を奪ったらどうなるか見たくなったから。そっから這い上がれるかそのまま落ちていくか、それが楽しみだからかな」
「ミントって結構性格悪いんだね...」
アンナは苦笑いで返す。
────
しばらくするとドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
チロルがドアを開ける。
「ただいまぁ〜。ごめんねぇ遅くなっちゃってぇ」
「母さん!」
声の主にチロルは驚きの声をあげる。
「え、ママ帰ってきたの!?」
アンナが玄関まで走る。
「おかえり!ママ!」
アンナがママと呼ばれた人物に抱きつく。
「ただいまぁ〜。アンナ、チロル。遅くなってごめんねぇ?」
母親は2人を抱きしめる。
「ママ帰ってきて嬉しい!話したいことあるから居間に行こ?」
アンナが母親の袖を引っ張る。
アンナとチロルは母親を居間まで連れていくと地面に座らせる。
すると母親は手前に座っていたミントに気づく。
「あらぁ〜初めましての人〜?アンナとチロルのお友達〜?」
「その人は居候してる人だよ。1週間だけ泊めてあげてるんだ」
「...どうも」
ミントはフードを被りぺこりと頭を下げる。
「あらぁ、フード被らないでちゃんと顔見せて欲しいわぁ〜?」
母親は顔を覗き込む。
ミントは顔を逸らす。
「あらぁ?見られたくないのぉ?」
「お母さん、この人恥ずかしがり屋だからその辺にしといて。」
「あらぁそう?ごめんなさいね?」
ミントは安堵の息をつく。どうじに、このおおらかな女性が少し怖くも感じた。
「この人はアンナ達を助けてくれたからお礼に1週間泊めてあげたんだー!これからママにあげるものも最初泥棒さんにとられちゃったんだけど、この人が取り返してくれたんだよー!」
アンナはそういうと「ちょっと待って!」と言い残し腰をあげる。
「お母さん、ちょっと目をつぶって」
チロルが母親の目を閉じさせる。
「えぇーなにがくるのかしらぁ」
肩をソワソワしながら母は目を閉じる。
アンナが赤い箱を取りだし持ってきたところでチロルは合図を出す。母親が目を開けるとアンナはその箱を母親に差し出す。
「ママ!誕生日おめでとう!」
アンナが母親に箱を渡す。
母親は驚きながらも箱を受け取る。
「開けてみて!」
アンナの言葉に母親が箱を開ける。すると中には赤いネックレスと「HappyBirthday」とおそらくチロルが書いたであろう綺麗な文字が書かれた紙が貼ってあった。
「あらぁ〜。こんな高いものどうやって買ったのぉ〜?」
「ママのお手伝い頑張ってお金ずっと貯めてたんだ〜。ママがいっつも仕事頑張ってるからずっとプレゼントあげたかったの!」
アンナは笑顔でそう答えた。
母親は涙を流しながら赤いネックレスを大切そうに握りしめる。
「ありがとう......アンナ、チロル.......」
ミントは3人の様子を羨ましそうに眺めていたが自分もプレゼントを渡す予定だったのを思い出し自分(母親)の部屋から花束を取り出しアンナにはカンパニュラの花を、チロルにはクロッカスの花を差し出した。
「もうすぐ帰っちゃうから感謝の気持ちを込めて買ってきたんだ。アンナ、チロル。1週間ありがとね!」
花束をもらったアンナとチロルは顔を見合わせる。チロルは複雑そうな表情をするがアンナは笑顔でミントに「ありがとう!」と感謝を伝えた。
チロルは花束をしばらく見つめていた。疑っていたことが申し訳なくなってしまった。目の前のこの人は自分のために花を買ってくれた。なのに自分はまだこの人を認めることが出来ない。
「......」
口を真一文字に縛り、しばらく何も言わなかったチロルに母親が言う。
「チロル、ありがとうって言わないのぉ?」
チロルは眉をしかめ1呼吸つけると
「ありがとう、ジョニーさん」
とボソボソと感謝を伝えた。
ミントは2人が喜んでくれたことが嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまった。その様子に母親が反応する。
「笑顔が可愛いですねぇ」
そうやって笑った。
「お母さんもすごく優しくて、ほんわかしてて、話すのが楽しいです」
ミントは少し困惑しながら言葉を返す。
「さっき聞いたけどぉ、明日帰っちゃうってほんとぉ〜?」
「本当ですよ」
すると母親は目を開き手をパンと叩いて言った。
「まだいてもいいですぉ〜?部屋は作れるし、アンナとチロルも喜んでくれるからぁ〜」
「いえ、悪いですよ」
「いっつも役人の仕事やってて遅くなっちゃうからアンナとチロルに退屈な思いをさせているんですぅ。だからあなたが遊び相手になってくれたら2人も楽しいかなぁ〜って」
「それなら、お言葉に甘えて」
「やったぁ〜」
ミントは掴みどころがなくほんわかしたこの女の人に、手のひらで転がされてる気がした。
─────
次の朝、大きくあくびをしながらミントは目を覚ました。昨日アンナ達が物置部屋を改造してミントの部屋にしてくれたのだ。その後母とずっと話していたため、寝るのが遅くなってしまった。
食事を済ませ、アンナとチロルは学校に行き、母は仕事に行った。
ミントはいつもの調査のために街を歩いていた。
「(昨日は楽しかったな)」
ミントは思い出しては微笑むを繰り返しながら歩いていると、飲食店の前でタバコを吸っている女性を見かけた。
その女性は黒髪のショートボブに丸い目、黒い長ズボンに勾玉のネックレスをつけたスレンダーで整った容姿をしていた。
女性はミントの方を見ると声をかける。
「おーい、そこの人ー。金持ってるー?」
そう言っておもむろにミントに近づく。
「少しだけなら」
ミントは目線をそらしながら女性の問いに答えた。
「よかった〜。ちょっとお金貸してくんない?ずっと腹減っててさ、せっかくだからあんたも一緒に食べようぜ?」
女性はお腹を擦りながら上目遣いでミントにおねだりする。
「いいですよ...」
ミントもちょうどお腹がすいていたのでその話を承諾することにした。
「(それに断ったらなにかされそうで怖いし、すぐ食べ終わろ)」
2人はお店に入ると注文を済ませ席に座る。
女性はメロンソーダにがぶ飲みしていた。そして机に足を置きゲップをする。
下品な子だなぁとミントは思った。女性はアップルジュースをちびちびと飲むミントを舐め回すような視線で見る。
「下向いてフード被って、なにか隠してそうだね」
脚を下に置き、頬杖をついてミントをじっと見る。ミントの心臓の鼓動が早くなる。
「あまり人に顔見られたくないから...」
ミントはそっぽをむく。
「なんで見られたくないんだよ?」
一挙一動を女性は見逃さない。
「...恥ずかしいから。綺麗な女性に見られるの」
綺麗な女性。その言葉に女性は少し頬を赤らめる。
「ば、お前!私が綺麗なのは当たり前だけど不意打ちで言われたら困るじゃんか!」
あたふたしながらそう返す女性にミントは自己肯定感が高い人だなぁと思ってしまった。
そうして注文を待っていたところ、1人の客が怒声をあげた。
「おい店員!このハンバーグ針が入ってるじゃねーか!」
その男は女性の従業員にイチャモンをつけて文句を言っていた。
「す、すぐ取り替えますので...」
「いらねーよ慰謝料出せ慰謝料を!」
慰謝料を請求する男のバッグをミントは凝視していた。男は姑息な手を使う癖に爪が甘くバッグから針が露出していたからだ。ミントは男を注意しようと席から立ち上がろうとしたが女性の方が行動が早かった。
「お兄さん、バッグから針が出てるよ」
女性は男に指摘する。男は慌ててバッグを隠す。
「タダ飯したいならもうちょっと上手くやりなよ。で、私魔女警察なんだけど、お兄さんどうすんの?」
女性はポケットから警察手帳を取り出す。
魔女警察という単語に男はもちろんミントも息を呑む。
「.......ちゃんと金払ってやるよ」
男は横柄な態度は辛うじて貫き、お金を払って店を後にした。
騒動が終わったあと、ミントは魔女に問う。
「魔女警察が、なんでここに?」
「あぁ、バラッド王国で最近事件が多くてさ、色々調査しろって上に言われて来た。今日は非番だけどな」
「......」
先程一瞬だけ見せた鋭い目つきとオーラ、肌合わせなくてもわかるその威圧感にミントは身震いした。
闘う場面を見なくても只者じゃないとわかった。食事を済ませ、2人分のお金を払うと、ミント達は店を出た。
「今日はありがとなー。おかげで腹も脹れたよ」
「いえいえ」
「今気づいたけど、お前多分この前盗賊撃退したやつだよな?妹から聞いたんだよ」
「え?」
「姉妹揃って助けられちまったな。恩として教えてやるよ。私の名前はシオン・フラワーズ。また会おうなー」
そういうとシオンは立ち去った。
「(そういえばフラワーズってあの雷の子の名前だっけ、お姉ちゃんなのかな)」
デルフィニウムの姉に奢らされてしまった。検査結果が出た時デルフィニウムと会うからその時はこの話をしようとミントは思った。