第7話 青藍の勇者?
家に帰る道中、ミントはデルフィニウムの言葉を思い返していた。
彼女はミントにこう告げた。
「この盗賊団には灰の因子が入っている可能性が高いです。こいつらを檻に入れる前に検査をするです」
灰の因子とは灰の魔女の持ってる物質のひとつ。その物質を体内に入れると常人の使えるパワーの70パーセントを引き出せる他、必ず特殊能力を発現させることが出来る。だが多量に摂取するとそのものの体は灰の因子に乗っ取られただ闘うだけの廃人とかしてしまう。多量に摂取した上で自我を失わないものが灰の魔女になれるのだ。
「その灰の因子について興味があるから教えてもらうことはできる?」
デルフィニウムは少し悩んだ後に眉をしかめてこういった。
「魔女警察の情報は本来なら機密情報ですが、今回は助けてくれた恩として教えるです。検査結果が出たらまた来るです」
そう言ってデルフィニウムは飛び去って行った。
あの盗賊たちは確かに禍々しいオーラを放っていた。一介のゴロツキがあれほどの能力を持っていることに違和感も感じた。
なにか恐ろしいことが起きる予兆かもしれない。ミントはそう思った。
キャロルはその後、ちゃんと親元に帰ることができた。本人の精神状態を考え、明日はお店を休むらしい。キャロルは強い子だしきっとすぐ立ち直ってくれるはず。だからミントはキャロルのことは心配しなかった。
ミントは家に帰るとすぐに寝込んでしまった。強烈な背中の痛みで立ち上がることすらもできないからだ。
ベッドにうつ伏せになっているミントの背中をアンナがさする。
「お疲れ様!急に飛び出した時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね!ミントすごいじゃん!」
アンナはミントに労いの言葉をかける。
ミントはベッドの隣にある刀をアンナに渡そうとする。
「あ、いいよ返さなくて」
「どうして?」
「約束だから!」
アンナは屈託無い笑顔でそう言った。
ミントはどんな約束かと頭を巡らせた。思い出した。たしかに初日でそういう話をしていた。
「アンナの信用、少しは取り戻せたかな?」
ミントはそう呟いた。
アンナは言葉に詰まった。完全に信用出来たかと言われればわからない。でも自分たちが手を出せなかった相手に果敢に挑むミントがかっこよくて、その姿は悪人のそれではなかったから。
「ミントもう寝ちゃう?」
「うん、背中痛くて寝れないけど」
「じゃあ今日はミントが寝るまで歌歌ってあげるよ!」
「逆に寝れなくなるよ......」
ミントは寝返りを打つ。アンナは頬を膨らませる。今日だけは監視目的ではなく、純粋に一緒にいたかっただけなのに。
「むー、仕方ないなぁ!じゃあアンナ自分のお部屋に戻るからね。ゆっくり休んでね!」
アンナはミントの部屋を後にする。
「プレゼント、渡しそびれちゃったな。」
ミントはそうつぶやき、花束をぎゅっと握りしめ、深い眠りに入った。
アンナが居間に戻るとそこにはチロルがいた。アンナはチロルの隣に座る。
「あの人に刀渡して良かったの?」
チロルがたずねる。
「ミントと約束したし、ミントのあの姿みたら無視なんてできないよ」
チロルはフーっと息を吐く。
「でも僕はまだ信用してないよ。まだなにか企んでそうだし、今までの監視を怠る理由にはならないからね。」
「チロルだって本当はわかってるでしょ?ミントは悪い人じゃないって」
「......」
「キャロルのためにあそこまで闘う人が悪人なわけじゃないじゃん。悪い人が人のためにあそこまでするわけないし、本当に悪い人だったら逃げてるはずだよ?」
「でも......!」
うなだれるチロルの手をアンナは握りしめる。
「今はミントのことを信じよ?悪いことなんて絶対にしないはずだから。ね?」
「......わかった」
アンナにそこまで言われてしまっては、チロルは納得するしか無かった。
─────
「ミント起きてー!朝だよー!」
アンナに揺すられてミントは目を覚ます。
「ん、んー?おはよう......」
「アンナ達学校に行くから、いい子にして待っててね!ご飯は机に置いてあるからね!あときつかったら今日の仕事はしなくて大丈夫だよ!」
アンナはそう言い残し家を後にした。
「ん、んー!」
アンナとチロルがいなくなり、1人になってしまったミントはとりあえず伸びをすると、居間に移動し置かれてあった食事を済ませ、歯磨きをすると、ローブを羽織り刀とお面を持って外に出た。
背中の痛みはまだ収まっていないが、1人で歩けるくらいならいける。ミントは灰の魔女調査のためにバラッド王国の王都近辺を歩いていた。
市場の周辺をうろついていると、一際異彩を放つ2人組がこちらに向かって歩いてきた。男の方は目付きが悪く青いマントを羽織っており、腰には西洋剣をさしている。女の方は紫色のロングヘアーに半開きの紫の瞳、黒いローブと見るからに魔女とわかる外見をしていた。
ミントは素通りしようとしたが案の定呼び止められる。
「そこの人!ちょっと聞きたいことがある!」
男が声をかける。ミントは振り返る。
「俺はこの街で勇者をやっているんだが、昨日風の噂で盗賊たちを撃退した仮面の戦士の話を知ってね、もしかして貴公がその仮面の戦士か?」
「違いますけど」
ミントはすぐさま立ち去ろうとする。だが男はなおも引き止める。
「その仮面にその刀、どこからどう見ても貴公が仮面の戦士だろう。俺の名前はルド、こっちは従者の魔女スミレだ。よろしく頼む。」
「よろしく」
聞いてもないのに自己紹介までしてきた男にミントは根負けし、話を聞くことにした。
「なるほど、その盗賊は身体を金属にできる能力を持っていたのか。それで、どんな攻撃も通じなかったと」
ルドは腕と足を組んで、ミントの話を聞いていた。無礼な男だなとミントは思ったが話を続けた。
「それで女の子が助けてくれたんです。あの子の涙が蔦を出して僕を助けてくれたんです。」
「ほうほう」
「それはもしかして特殊能力の進化かしら?」
ミントの話にスミレは割って入る。
「進化?」
「あら知らないの?特殊能力には進化できるものがあって、能力者の悲しみや怒りで能力がもう一段階進化できるのよ!その女の子は手のひらに乗せた種しか成長させることが出来なかったけど、あなたに対する想いが実って、手に乗せるだけじゃなくて自分の体液で成長させることができたってことね!」
「俺も少し特殊な特殊能力を持っていてね、そのおかげで数々の功績を作り出している。皆は俺の事を【青藍の勇者】と呼んでいる。」
自慢げにそういうルドにミントは
「青い要素ないじゃん」
と冷たくあしらった。
「字面がかっこいいからいいんだよ。それにほらみてくれよ!マントは青いじゃないか!」
「マントだけじゃん」
「マントが青ければいいじゃないか!」
「マントが本体ってこと?」
嫌味を返し続けるミントにルドはタジタジになる。
「ま、まあいい。話を続けよう」
──────
「それで、刀を受け取って最後は勝ったってことか」
「うん」
ルドはミントの相槌に嘲笑で答える。
「俺だったらそこまで時間かけず一瞬で倒すけどな」
「そうなんだ」
「君が勝ったのはその刀のおかげであって君のおかげじゃないんだよ」
「君の今までの功績も君の特殊能力のおかげじゃない?」
「ちっ!減らず口を叩くじゃないか...!」
どんな挑発も返すミントに青筋を立てたルドはミントの刀を指さしこう言った。
「よかろう!貴様、その刀を賭けて俺と勝負しろ!」
「どうやって?」
質問するミントにルドは遠くにある山の方を指さす。
「この国の山には、3日後にドラゴンが現れるのだ!そのドラゴンは凶暴で、今までどんな人間も焼き尽くしてきた!3日後だ!3日後にどちらが先にドラゴンを倒せるか勝負をしようじゃないか!」
スミレはもう頭を抱えている。きっとこの男はこういう勝負になったら止まらないのだろう。
「いいよ」
だからこそミントはその勝負を引き受けることにした。
「そのかわり僕が勝ったら僕の言うことも聞いてもらうよ」
「ああいいとも!なんでも聞くさ!」
ミントはルドに静かに言い放った。
「僕が勝ったら君は勇者を辞めろ」
その冷酷な視線を、ルドの心臓に深く突き刺しながら。