第62話 スーちゃんはちょっと足りない
スー、わるいひとがきらいなの!
スーのたいせつなひとにいじわるをして、スーのこともいじめるようなひとがきらい!
そんなひと、ころしていいでしょ?いきてるかちないから
ミント アンナ デルフィニウム あとはだれだっけ?
スーのたいせつなひとをころしたんだからしんじゃえばいい!
凄まじい爆風とともにガラス片が宙を舞い、ミントは扉に頭を大きくぶつける。2回ほど頭がバウンドし、視界が朧気になる。地べたに倒れ、半目で相手を見る。やられた。そう感じた。
薄れゆく景色の中見たのは、ニタニタと醜悪な笑みを浮かべる灰の魔女───スナバコだった。
子供を盾にしミントの刀を奪ったこの女は卑劣にも子供に爆弾を仕込み、そして起爆した。
ステップを刻みながらミントに近づいてくる。
「だまされちゃったねー!」
ケラケラ笑いながらナイフを回す。その姿を見て、ミントの朧気だった意識はやがて覚醒する。殺意だけで立ち上がる。卑劣な真似でしか自分に勝てないこの愚か者を、自分の手で倒すのだ。
「たったのはえらいけど、けんもないぼろぼろのからだでスーにかてるわけないでしょ!」
回してたナイフを止め、一気にミントへ距離を詰める。
───来る。ボロボロの身体でも、ミントは何とか構える。
スナバコが懐に入る。ミントの腹にナイフが深々と突き刺さる。
「─────ッッ!!」
反応が遅れた。血反吐を吐きながらも腹部に蹴りを入れ距離を取る。
スナバコは吹っ飛んだ距離を利用し列車内を縦横無尽に駆け回る。
「これひつようないしかえしてあげる」
着地と同時に先程奪ったミントの刀を拾い上げ、それを投げ渡す。
腹を抑えながらも片腕で刀をキャッチし、ミントはスナバコをじっと見つめる。奴はミントの足首めがけて刃を振るう。それをジャンプでかわすとミントはスナバコの脳天目掛けて刀を振りかぶる。
「あぶなー!」
スナバコはそれを交わしミント目掛けて唾を吐く。目で追えないそれは、ぺちゃりと小さな音を立ててミントの黒いローブに付着する。
「────!!」
しまったと思った。こいつの能力は触れた物体を爆弾に変える能力。この唾液ももう変換されているに違いない。
「くっ!」
慌ててローブを破り捨てる。危なかった。対処ができていれば大した敵では無い。ミントはそう高を括る。
だが破り捨てたローブは爆散することはなく、バサりと床に落ちる。
「何っ!」
ブラフだと気づいた時にはもう遅かった。眼前のスナバコがもう既に目の前にいる。
「いがいとだまされやすいんだねー」
一瞬だった。決着がつくのは。両足のアキレス腱を切られ、Xの字に切り裂かれる。あまりに壮絶な終わりだった。
「かは.......」
膝から崩れ落ち倒れる。身体から血を流し、荒い息を吐くミントを、スナバコは見下ろす。
「おもったよりたいしたことなかったねー」
ナイフに付着した血液を舐めながら、スナバコはケラケラと笑う。
「スーね、あんさつってゆーだいじなおしごとをまかされてて、いまそれをくりあするために、すっごいがんばってるんだ」
聞いてもいない自分語りを訥々とスナバコは語り始める。
「ひとりめはきみだよ。どこからきたのかもわからないしめーてはいはんだってアイちゃんはいってた」
アイちゃん......ドールズアイの事だろうか?ブルグマンシアも言っていた灰の魔女のリーダー的存在。今回のこともやつが関わっていたのか。
「ふたりめはアンナってこ。めがはーとできゅーとなかわいいこ。おとうさんとおかあさんがいなくてぎりってゆーのかな?ちのつながんないおにいちゃんといっしょにいるの!」
「って、きみはしってるか!」とスナバコは舌を出す。アンナの情報は既に奴らに知れ渡っている。ミントは歯ぎしりをする。なんとしても守らなければ、アンナが危ない。この化け物の毒牙にかける訳には行かない。
「めんどーだから、おにいちゃんもいっしょにころそっかな?」
その言葉はミントの逆鱗に触れた。アンナの義理の兄であるチロルですら、やつは身勝手な理由で殺そうとする。ミントは上体を起こし、スナバコへ啖呵を切る。
「ふざけるな灰の魔女!僕がいる限りあのふたりに手を出させはしない!お前みたいなやつは、僕が絶対倒してやる!」
「うるさいよ。よわむしのくせに」
スナバコはゴミでも見るかのような目で見下ろし、ミントの顔面を蹴る。嗚咽し、鼻血を垂らしながらうつ伏せに倒れたミントの頭を踏みつけ、スナバコはミントを煽る。
「よわむしはなにもできないの。スーはつよいからこうやってわるいひとをやっつけてるけど、おにいさんはよわいからアンナちゃんやアンナちゃんのおにいちゃんをまもれない。じぶんのせいなんだよ?」
「だまれ......」
「スーははいのまじょのみんなのためにがんばるんだ。みんなスーにとってかぞくみたいなものだから。だからスーのかぞくをころしたおにいさんはごめんなさいしてもゆるされないの」
言動とは裏腹にスナバコは下品にも鼻をほじりながら演説をする。列車は既に急停止し、魔女たちが取り囲む中、スナバコは余裕を崩さず演説を続ける。
「こんなにあっけなくまけちゃうなんてつまんなかったな。でもまあいいや。ばいばい。よわむしおにいさん」
足をどけ、ほじくりだした鼻くそをミントに向けて落とす。火薬の匂いがした。こんな奴に負けたくなかった。負ければアンナやチロルが殺されてしまう。だが足が動かない。切る啖呵はあるのに行動に移すことができなかった。
汚い糞の塊が落ちる0.1秒。諦めかけた。
────その時だった。
「ッッ!!」
スナバコの肩にクナイが突き刺さった。
「いたい!もうなんなの!」
スナバコはクナイを抜き、悪態をつきながら後ろへ下がる。合図が遅れたため、爆発はしなかった。気がついたらスナバコの視界にはミントはいなかった。
「スーをけがさせるなんてすごいね!よけれなかった。ないちゃいそう」
そう言って嘘泣きをするスナバコ。やつを他所に、クナイの持ち主はミントを背負い、椅子に座らせる。そしてゆっくりとスナバコの方を見る。
─────その緑の目に憎悪をたぎらせながら。




