第61話 幸せは急に終わる
列車に入るまでの道中、ふたりは一言も会話をしなかった。ミントは何を言えばいいかわからなかったし、ライチはミントに申し訳なく感じていた。座席は隣同士だった。だが、手を繋ぐこともしなければ、話すこともしなかった。
初デート
はほろ苦い結果で終わってしまった。
2人の想いも虚しく、列車は速度を上げ、デルタ地区へ向かう。車掌のアナウンスがこだまする中、ミントは黙って席に立ち上がり、トイレへ向かう。
「どこ行くんですか?」とはライチは聞かなかった。デートの疲れもあってウトウトしていた。
ミントは少し後ろを振り返る。ライチは完全に疲れて眠っていた。
「邪魔しちゃ悪いか……」
列車に揺られながらトイレを探す。そんな中、小さな銀色の硬貨がミントの足元に転がる。
ミントはその硬貨を拾うと奥から現れた持ち主らしき白髪の少女を見つける。
「これ君の?」
「うん!おにいちゃんありがとう!」
硬貨を受け取ると少女はポケットから数個の飴玉を取り出す。
「これ、あたしからのおれい!おいしいから、やさしいおにいちゃんにもたべてほしくって」
そう言ってミントに差し出す。満面の笑みを浮かべる彼女を見て、断るわけにもいかなかった。
「ありがとう」
そう言ってミントは雨を数個もらう。だが妙な違和感があった。その飴玉には独特な臭気があった。火薬を詰め込んだような、そんな焦げ臭い匂い。
少女の方を見る。おぞましい何かを感じたから。赤色の目、白い髪色、歪んだ口元、黒いオーラ。
───まさか!
「すこしおそかったね。おにーさん♪」
指を弾くと同時、ミントの手のひらにある飴玉が光り輝く。
「........!!」
ミントは飴玉を数個、空いた窓へ向かって放り投げる。瞬間、飴玉は爆ぜ、ガラスが爆風によって破壊される。
乗客達が騒然とする中、女は邪悪な笑みを崩さず、ミントに向かって話しかける。
「ふつうだったらいまのでしんでるはずなのに、おにいさんあたまいいんだねー!」
「まあね。で、お前の狙いは僕なの?」
「そ!マンシアちゃんをおにーさんがころしたみたいだからふくしゅう?っていうのをスーがうけおうことになったの!」
飛び跳ねながら女───灰爆の魔女スナバコはまるで幼い少女のように屈託なく笑う。
「それで......きたのはお前だけ?」
ミントは刀を抜き、スナバコに向けて構える。
「うん!おにーさんなんて、スーひとりでたおせるもん!」
ケラケラ笑いながらスナバコは飛び散ったガラスの破片を拾う。おそらくだが、この女は触れた物質を爆弾に変える能力を持つ。あの飴玉は直前まで火薬の匂いはしなかった。あの女が指を弾いた瞬間、火薬の匂いが立ち込めた。そして先程拾ったガラス片も、もう爆弾に変換されている。ミントはそう読んだ。
大きく振りかぶり、スナバコはガラス片をミントの眉間目掛けて投げつける。それをミントは屈んでかわす。
「かわしただけでまんぞくしちゃだめだよ!」
指を弾いたと同時、ドアに突き刺さったガラス片が起爆する。
大きな爆発音が鳴り響き、列車が大きく傾く。煙が立ち込め、それを吸った者がバタバタと倒れる。重力に逆らってたっていられたのはミントとスナバコの2人だけ。
「スーのばくだんにはどくがあるのに、おにーさんはへいきなんだね!」
スナバコは手拍子しながらミントを褒め称える。
揺れが収まった時、乗客全員がパニックに陥った。灰の魔女を名乗る爆弾魔による突然の破壊行為に乗客たちはその場を離れようと逃げ始める。
「スーのすごさにびっくりしてるみたい!」
そんな悲惨な状況を前にしても、スナバコは笑みを崩さなかった。子供のようにキャッキャとはしゃぎ、目の前のミントを見ても反応しないほどに歩き回る。落ち着きがなく、異質だった。
────その瞬間
「!!」
ミントの眼前に、客が落としたであろう水筒が迫ってくる。
慌てて水筒を蹴りあげると、その水筒は大きく水を飛び散らせて、爆発した。
爆風で体が大きく下がる。だがそれに逆らうように、ミントはスタートを切る。
「おお」
スナバコは驚きの声をあげる。前進し横1文字にきりつける。その一撃はスナバコの腹を裂く。
血を吐きながらもなお笑ってみせる。さらに逆袈裟を狙ったがそれはかわされてしまう。
「おにーさんけっこうつよいね!もうちょっとじゅんびしていけばよかった!ちょっとくせんしちゃいそうかも!」
「でも」とスナバコは懐から2つの白いナイフを取り出す。
「スーもちゃんばらごっこはとくいだよ。どっちがつよいかしょうぶしよっか」
ナイフを構え臨戦態勢をとる。にらみあいの末、先に動き出したのはスナバコだった。両腕でナイフをふりかざし、激しく刀と交差する。火花が飛び散る斬り合いに発展し、互角の勝負を演じる。縦横無尽に列車内を駆け回りながら振るう刃に、ミントは徐々に傷ついていく。それでも刀を振るう姿にスナバコは驚く。
「このないふにもどくがあるのに、おにーさんなかなかたおれないね!」
ミントが距離を取るとスナバコは小さな石を取り出し投げつける。ミントは腕で防御を図る。その石は即座に爆発し、あたりは煙に包まれた。
「くっ」
煙がはれ、惨状と化した列車を見渡す。スナバコの姿はない。ミントは先に進みスナバコを追いかける。
3列 2列 と進んで行った先、ミントが目にしたものは─────。
「おそかったね!おにーさん!」
逃げ遅れた4歳の幼い子供を人質にとるスナバコの姿だった。
「.....随分卑怯な真似をするんだね」
歯ぎしりをし、憎々しげにつぶやく。灰の魔女に正々堂々なんて望んでいなかったが、こうも堂々と卑怯なことをされると笑みすらこぼれてくる。
少女は今にも泣き出しそうな顔でミントを見ている。
「で、僕はどうすればいいの?」
「そうだね〜。まずはそのかたなをそっちにわたして!そのあとひざまずいてりょうてをあげて!」
「........」
ミントは刀をさやに収め、スナバコに投げ渡す。
「ひざまずいて」
ミントは跪き、手をうえにあげる。
「うん!えらいえらい!じゃあ、このこはあげるよ!」
そう言って少女を雑に投げ渡す。跪いたまま少女を抱き抱えるミントを見て、スナバコが悪意に満ちた表情を浮かべる。
「まあ、いきてかえすとはいってないけどねー」
その一言とともに指が弾かれる。その瞬間、少女の身体が大きく光り輝き、激しい音と共に大きく爆発した─────!!




