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青藍の勇者  作者: 無眠
第2部 アルティメット・エボルヴ
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第42話 いざなう昏倒のエンゼルトランペット

 ────その頃、ロストマンは屋敷にいる少女達を全員集めていた。


「ここにみんなを集めたのは他でもにゃい。みんなの気持ちを確かめるためにゃ。みんなはありとあらゆる理由でここに連れてこられた。最終的に王都に特攻させられる運命だけどにゃ?だがたった今、おいらがみんなの洗脳を解除したにゃ。どうやって解除したかは時間がないので省略する。脱線するからにゃ」


 食堂のテーブルに座り、130人の少女の目を一人一人確認する。約2名を除けばみんな落ち着きのない自信のなさそうな怯えた目つきだ。洗脳のメカニズムを解析してみてわかったことはひとつだけ。


「ブルグマンシアは人の弱みに漬け込んでマインドコントロールをし、少女たちを自分なしでは生きていけない身体にさせていた」ことだ。


 なぜそれを解除できたか?理由は2つ。一つめはミントとデルフィニウムがブルグマンシアの注意を引き時間を稼いでくれたこと。二つめはブルグマンシアの幻術の上に自分の結界を仕込んだこと。これでブルグマンシアと少女たちの通信を遮断させたのだ。


 ロストマンはテーブルに手をつき、少女たちに問いかける。


「お前たち、ブルグマンシアが憎いか?」


 少女たちにどよめきが走る。皆思ってることは一緒のはずだ。だが心の奥底ではこの自由な環境の方が楽しかった。もうあんなとこに戻りたくない。と思っている子もいるはず。なかなか答えを出せないのも仕方がない。どう気持ちを伝えればいいのかわからないだけだ。答えがないわけではない。


 こういった集団の心を団結させる方法は、明確な意志を持った人間が声をあげることだ。


「わたしは憎い。わたしの大切な友達を殺したあいつの事が許せない」


 全員が声をする方向を向く。


 声を上げたのは藍色の髪が特徴の少女。名前はミレイと言った。その目つきを見てロストマンはニヤリと笑う。


「ほほぉ、多くは聞かにゃいにゃ。お前の目を見たらわかる。相当ここが嫌であいつが憎かったみたいだにゃ」


「ずっと脱出の機会をうかがってた。でも脱出しようとした人たちはみんなあいつに捕まって、心まで奪われて奴隷にされてきた。だから怖くてできなかった………。アンナちゃんとリーシャちゃんがあの時あいつに毒を盛って勇気づけられたの。まだ自分の心は死んでなかったって思わされたの」


「にゃるほどな」


 ロストマンはアンナとリーシャの方を向く。2人は驚いたようなそんな表情を浮かべていた。無謀な作戦が1人の人間の心を動かしたのだと、そう思った瞬間、少し誇らしくなった。


「わたしもあいつ嫌い!わたしの故郷を最もらしい理由で滅ぼした!その後何度も部屋に呼ばれて、嫌な事をずっとされ続けたの………」


 次に声を上げた少女はリロ。緑色の髪と浅黒い肌が特徴の少女。涙を浮かべ、体を抑えながら訴えるその姿を見てロストマンはなんとなく察する。


 その後も続々と声をあげる。どれも悲痛な怨嗟を込めた叫びだった。あるものは家族を殺され、あるものは生まれた時から屋敷にいて、またあるものは搾取を受け続けた。涙交じりの罵声と怒号が屋敷に響く。


 130人の少女達の心の叫びを一心に受ける。


「みんな………」


 リーシャはその声を聞いてなぜか安心する。自分だけだと思った。今まで頼んでも手伝ってくれなかった。だがみんな奴に怯えていただけなのだ。心の中の憎しみをしまい死を待っているだけだった。救いの手を差し伸べた瞬間爆発した叫びを無駄にはしない。リーシャはそう心に決め───。


「みんな、帰ろう!元の世界へ!もう苦しい思いをしなくていいの!みんな生きたらいいの!失ったものはたくさんあるけれどそれでも前を向いて歩こう!あたしもみんなもこの星に生まれたかけがえのない命なんだから!あいつの支配から逃れてみんなであいつを倒そう!」


 ロストマンはリーシャの演説を満足げに聞いていた。そして隣にいるアンナの頭を撫でて、全員に向かって話し出す。


「お前達が今生きているのはアンニャとリーシャのおかげにゃ。この2人がこの3日間ずっとチャンスを伺い、抗い続けた結果だにゃ。そしてその努力は今から実る。アンニャのおかげでにゃ?」


 そう言ってアンナを見つめるロストマンにアンナは首を傾げる。


「アンナのおかげじゃないよ。ロストマンと、リーシャちゃんと、ジョニーと魔女さんのおかげだよ?来てくれなかったらアンナ死んでたかもしれないから」


「細かいことは置いとくにゃ」


 咳払いをし、テーブルから立ち上がる。一人一人の顔を見る。先ほどとは違って決意がみなぎったいい目だ。


「もう一回問う。ブルグマンシアが憎いか?」


 その言葉に全員が頷く。


「よし、おいらにいいアイデアがある。お前ら自身のけつを拭くいい機会だにゃ。こっちに集まれ。」


 少女達のを集め、ロストマンはヒソヒソと作戦の内容を話し出した。


 ──────


「魔法陣展開………」


 呼吸を整えデルフィニウムが唱える。その瞬間、デルフィニウムの周りを魔法陣が囲む。魔女の領域を作り出し、金色のオーラを身に纏う。


 未熟が故にこの魔法陣は未完成だ。本来ならあらゆる攻撃すら見切る究極の奥義。自然の力を取り込み、吸収し、相手を粉砕する。植物の名を冠する魔女達が使える力だ。それがどこまで目の前にいる化け物に通用するか。


「いい魔法陣だね。でも、一流と比べればまだ物足りない」


 ブルグマンシアはそれを見てなおも笑う。当然だ。2人がかりでもこの魔女には勝てない。たった1人で強国を滅ぼしてきた。奴のライフウェポンの前では不屈の精神など無効。思考を破壊し呼吸を意図も容易く止める事ができる。余裕を見せるのは余裕を見せるに値する力を持っているからだ。力を誇示した方が絶望を植え付ける事ができるからだ。


「いでよ………雷神……」


 静かに詠唱する。その瞬間、雷の音が鳴り、辺り一面が曇り空となる。やがてそれは雨となり、中庭全体を覆い尽くす。


「魔法陣を展開した魔女は複合魔術や天候を操れるみたいだけど、まさか雨を作り出せるとはね………」


 軽口とは裏腹にブルグマンシアの表情は引き締まっていた。


 横にいるミントは驚きの表情を見せていた。


 デルフィニウムにこんな力があるとは思っていなかった。素の実力では自分には及ばない。だが天候をも操れるこの力ではブルグマンシアにすら打ち勝てる。だがこの力も長くは続かないはずだ。刀を構える。病み上がりの自分でも、彼女をサポートすることはできるはずだ。


 ───決着をつける。この一撃に魂を込める。


「嵐───!!」


 暴風が流れる。そこに混ざった衝撃波をブルグマンシアは高速で避ける。衝撃は気を破壊し、壁に傷をつける。


「(魔法陣はそこに留まらねばならない───。なら!)」


 ピンク色の雷を指先から発生し撃ち込む。その攻撃をデルフィニウムは難なく弾いてみせる。


 撃ち終わりにミントがブルグマンシアの懐に入る。


「ちっ!!」


 ミントの繰り出す一撃をステップで避ける。すぐに風の刃を纏わせ応戦する。


「まだ幻術が解け切ってないみたいだね!キレが悪いよジョニー!」


「僕なりのハンデだよ。こっちの方が戦いやすいでしょ?」


 数回ほど斬り合うと、一度距離を取る。ブルグマンシアはすぐに追いかけ横なぎを狙う。


「ふっ!」


 ブルグマンシアの腕を踏み台にして、ミントは奴の後方へ着地する。


「お前こそ動き悪くなってるよ?」


 ミントがブルグマンシアを煽り返す。


「さすがに3発くらってたらそうなるよ。まあそれで五分五分なんだけどね」


 ブルグマンシアは余裕の表情で答え黒いオーラを発生させて雷を纏わせる。


「スパーク」


 その瞬間、雷のバリアーがブルグマンシアを取り囲む。


「簡易だけどこれで闘わせてもらうよ────ミル・アシッド」


 硫酸の水魔法がミントを襲う。壁を蹴り、横回転でかわす。足場がぬかるみ、着地が取りづらくなる。


「流石に雨の中じゃ闘いづらいね!まぁしばらくデルフィニウムを狙わずに君と遊んであげるよ!」


 雷のバリアーから雷撃を放出する。触れたら感電する即死の技だ。潜り抜け、ブルグマンシアに突進する。


「馬鹿なのかなジョニー!攻撃したら感電するって!」


 その突撃に突撃で応戦し、ミントの身体に触れる。


「────!!」


 感電し、身体中が痺れる。以前も経験したこの痛み、デルフィニウムの時と一緒だ。


「ジョニー!これで終わりだね!」


 同時にブルグマンシアはミントの腕に魔力を流し込む。脳を蝕み、鼓膜を破壊する。さっき受けた「慈愛」のライフウェポンだ。


「ぎっ………!!!」


 意識が途切れそうになる。だがまだ手足を動かせる。刀をバリアーに差し込み、自分を掴んでるブルグマンシアの左腕を切り落とす!


「────!!!!」


 虚をつかれた。この状況でも動けるとは。切断された左腕を抑え、思わずバリアーが解かれてしまう。片耳を抑えながら後方へ下がりデルフィニウムに合図する。


「で、デルフィさん……」


「ありがとうございますジョニーさん………。いでよイカズチ!!!」


 その瞬間ブルグマンシアの頭上に雷が落ちる!




 ──────


「はぁ……はぁ…………はぁ…………」


 魔法陣を解き、過呼吸になりながらデルフィニウムは膝をつく。


 まだ未完成だ。3分しか持続させる事ができない。だが奴を倒すには十分の威力だ。


 雨が止み、再び先ほどの夜空に戻る。


「だい……じょうぶ?」


 ミントは耳を抑えながらデルフィニウムに問いかける。鼓膜を破られ、平衡感覚がわからない。グネグネとした景色を見渡す。気持ち悪い。どうにか治すことはできないのか。


「できるかわかりませんが、とりあえずその耳治してみるです。その後ロストマンと………」


「まだ安心するのは早いよ?2人とも」


「…………!!!」


 デルフィニウムは煙のする方を見る。そんな馬鹿な。あの雷をくらって生きているはずが─────。


「はぁ、はぁ、はぁ、ごふっ………。まだまだだね………岩の魔法でなんとか防げた。それも岩を貫通するほどのダメージなんてね………。これはちょっと死ぬかと思ったよ………」


 煙が晴れる。見えた姿は黒焦げになり、頭から血を流した左腕を欠損したブルグマンシアだった。


「ふふふ、ふっふははははは?最後の手段だったよねぇ?でも残念。私には一歩届かなかった。もう手札はないわけだ。じゃあ────」


 一気に懐に入り込み、デルフィニウムを蹴り抜く。一直線に吹っ飛び、デルフィニウムが血を吐く。


「ふたりとも、ひとおもいに殺してあげる!」


 うずくまるデルフィニウムに近づき、一本しかない腕に風の刃を纏わせ、十字に切り刻む。


「うぁ…………」


 小さく息を漏らして、デルフィニウムは倒れる。


「まだだよデルフィニウム。最後は私の能力で殺してあげる」


 仰向けに寝かせ、馬乗りになる。最後の一撃を見舞おうとした時。


「く、くそ!!!」


 おぼつかない足取りでミントが走り出す。真っ二つにせんと刀を縦に振るが風の刃により防がれる。


「ジョニー…………先に寝ててね」


 片目だけでミントを昏倒させる。視界が真っ暗になり、血を吐きながらミントは倒れる。


 邪魔者はいなくなったとブルグマンシアはデルフィニウムの顔面を掴み、魔力を送る。


 その時、ブルグマンシアの背中に突如ナイフが突き刺さる!


「───!?」


 慌てて振り抜く。遠くにいるのは3つの影。察しがついた。このナイフには毒が仕込まれているみたいだった。


「はぁ、毒なんて効かないってば」


 苛立ちを抑えずナイフを引き抜き池に捨てる。まあ残りの3びきはこの後殺せばいい。あらためてデルフィニウムの顔に力を込める。


「ありがとう!楽しかったよ!2人とも!」


 ─────心臓が大きく鳴る。これで終わりだ。デルフィニウムは両眼を閉じる。大きく鳴り響く。鼓動が命の雄叫びを上げている。


 脈が動く、血流を流さんと必死に動く。脳みそが動く。思考を張り巡らさんと必死に動く。眼から黒い血が流れる。顔を真っ黒に染めて、デルフィニウムの顔に滴り落ちる。


 デルフィニウムの───────。


「あれ?」


 デルフィニウムが目を開ける。あたまが痛いが自我は残ってる。眼前の女を見る。その女の姿は──────。














 全身の黒い血管が浮き出て、体は溶け出し、眼から黒い血を流し、歯が抜け落ちた見るも無惨な姿だった。














「───────ああああああああぁぁぁ!!!!!」


「ブルグマンシア」だったものが急に叫び出す。


 デルフィニウムから離れ、ミントを蹴飛ばし、残った両足で走り出す。


「が、ああぁ………あがぁ………」


 喉を掻きむしり、吐瀉物を撒き散らす。やがて黒い血を吐き出して、尻からも汚物を垂れ流す。


「うぅあ…………あっ、あっ………」


 腕を立て腰を上げる。かと思いきや急に膝をつく。そんな様子をデルフィニウムは呆然と眺める。


 この女の身に、一体何が起きたのか?

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