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青藍の勇者  作者: 無眠
第2部 アルティメット・エボルヴ
40/54

第40話 幻惑

 

「虚心坦懐」 八花流の呼吸法の一つ。邪魔な心を振り払い、精神を統一させることで潜在能力を引き出す強化奥義。


 八花の使い手としては未熟なミントが無意識で引き出した奥義、なぶられ続けたことで心の底に眠っていた記憶の欠片がまた新たな力を引き出したのだ。


「ふぅー………」


 息を吐き出す。纏った水色のオーラは木々を切り裂き、地面を抉る。目に捉えたブルグマンシアは感覚を鋭敏にさせ、出方を伺う。


 一歩、足を引き助走をつける。そして高速で空気を切る。


 喉元めがけて、ミントは奴に突きを放つ。


「その攻撃はもう見たよ!」


 ブルグマンシアは横にかわし、カウンターで風の刃を放つ。


 鉄すら切り裂く風の魔法が、ミントの皮膚を抉る。


「───!!」


 痛みでテンポが少し遅れる。まだこの奥義を使いこなせてない証拠だ。極めれば痛みなど感じずに無我の境地で相手を圧倒できる。───だがブルグマンシアは見抜いていた。即席ゆえの粗を、攻撃に入った時にコンマ1秒僅かな隙があることを。


「ミル・アシッド───」


 呪文を唱えたと同時、ブルグマンシアの指先からピンクの塊が撃ち込まれる。その塊は広がり、液体となってミントに襲いかかる。


 立ち止まり、考えることもなくミントは身体を回す。水色の残像が液体を斬り裂く。


 液体は飛び散り、飛沫となってミントの髪や服に張り付く。僅かに音を立てて溶けていくがそんなものは意に返さない。


 纏っていたローブをブルグマンシアに投げつける。そのローブを風で切り裂き、なおも硫酸の弾丸を撃ち続ける。


 斬り裂くと危険だ。それを学習し、無数の弾丸を掻い潜りやつの懐へ潜入する。


 刀を突き上げ、逆袈裟を狙う。その一撃をブルグマンシアは紙一重でかわす。


「さっきと違って攻撃が早くなってるねー。さすがジョニー!」


 まだ軽口を叩く余裕があるようだ。カウンターを入れられまいと後方へ回転し距離を取る。


「まあわたしもその芸当はできるんだけどね!」


 ブルグマンシアが一気に距離を潰す。あっという間に懐に入り、刃を纏わせた突きを繰り出す。


 その手を払い、ミントは蹴りで反撃する。その蹴りをブルグマンシアは屈んでかわす。足を刈り取らんと風の刃で攻勢に出る。


 ミントはブルグマンシアの背中を踏み台にし、その手を飛び越え着地する。刀を地面につき先、大きく飛び上がって、頭めがけて刃を振り下ろす。


「うわぁ!」


 声をあげてギリギリでかわすブルグマンシア。だがミントは次に繋げる。二撃目の横凪、三撃目の逆袈裟、そして四撃目────。


「(縦の攻撃か、突きか……。まあ、ここは無難に縦だろうね)」


 素早く分析し回避に態勢に入る。だが───。


「あら……?」


 右足が少しふらつく、尻餅をつきかけるのをなんとか抑える。


 ───その一瞬の隙を、ミントは見逃さなかった……。


「くらえ!」


 ミントの唐竹割りが、ブルグマンシアの顔面を捉える………!!!


 ──────


 血飛沫をあげ、ブルグマンシアが尻餅をつく。血が飛び散り、水色の刀が赤く染まる。


「……………!」


 ミントは力が抜け、膝をつく。すぐに空気を吸い込み、肺を整える。酸欠にならんと呼吸を繰り返す。


 すでに身体は限界だった。無我の境地で挑むのも精一杯だった。こうでもしないと一撃与えるのもやっとな相手だ。まだ油断はできない。ミントはブルグマンシアを見る。


「いてて………。左目がやられちゃった。もうこっちの視力は使い物にならないかも」


 左目を抑えながら髪を白く染め、ブルグマンシアが腰をあげる。過呼吸のミントを見つめるとねっとりとした笑みで見つめる。


「そんな....」


ミントは愕然とする。必死に刀をふるってやっと傷をおわせることができた。だがやつは失明しながらもケロッとしている。いやでも力の差を肌で感じる。


首の骨を鳴らすとブルグマンシアはいつものように軽口を叩く。


「無敵時間が切れちゃったみたいだね〜。でもすごいよジョニー!わたしに傷つけることができたんだから!じゃあ約束通り、私たちの情報について話してあげる」


 次の瞬間、ブルグマンシアはミントの腹を蹴り上げる!身体が宙を舞い上昇する。風の抵抗を受けながらも重力に逆らえず上に上がる。


「わたしたちはバラッド王国、そして魔女警察が統治する周辺の国を征服するために秘密裏に行動をしている。それは無垢な民に灰の魔女を布教したり、政治に介入したり、果ては首都圏にテロを起こしたり有力な貴族を処刑したり、本当に様々だよ。だけど」


 ブルグマンシアは地面を蹴り抜き、上昇しているミントに追いつく。


「わたしはそんなことには興味ない。わたしが灰の魔女に協力しているのは自分の強さをこの国に知らしめるため。その格好の標的がバラッド王国。無能な王を殺し、私がここを統治する血の契約を主君ドールズアイに交わしたの」


 上空で仰向けになっているミントの顔面を掴み、そのまま地面に投げ落とす。大きな地鳴りが響き、地面にクレーターができる。


「わたしたちは三つ契約を交わしている。ひとつ。バラッド王国の征服。ふたつ。隣国の強国フランデール王国の征服。もうひとつは………」


 ミントの額に人差し指を突き立て、魔力を流し込む。


「魔女警察の本部を壊滅させること………」


 ミントの心臓が大きく鳴り響く。頭から激痛が走る。口からは吐瀉物が溢れ、身体が痙攣し、瞳孔が広がっていく。


「これは私の能力、慈愛のライフウェポン「エンゼルトランペット」相手の脳を破壊させ、思考すら停止させる幻術。他にも用途はあるけどジョニーにはわたしの最高の能力を見せたいの」


「あ、あぁ……」


 声すら出せない。金縛りにあって身体が動けない。なされるがままに脳内に流される魔力。やがて酩酊し、ぼやけていくその奥でミントの瞳に映ったのは、泣きながら自分を刺す女と、薄ら笑いを浮かべる金髪の女。刺してる女の口からは謝罪の声が聞こえる。


「……………!!」


 その情景がやがて真っ黒になる。痙攣も止まり力無く腕が下がる。


「ふふっ!お疲れ様!まあよく頑張った方だと思うよ!あとは────」


 ブルグマンシアはミントを一瞥し後ろを振り返る。青い目と金色の長髪が特徴の三角帽を被った女ににこやかに微笑む。


「そこの魔女のお姉さんに、いろいろ話そうかな!」

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