第4話 本当に悪い人?
「いらっしゃいませ......あ!ジョニーさん!また来てくれたんですね!」
あれ以来ジョニーもといミントはキャロルの花屋さんに毎日通うようになった。
「こんにちはキャロル。今日は花束3つ作って欲しいな」
「3つ?兄弟にプレゼントしたりするんですか?」
「そんな感じ、お金も沢山貰ったし、キャロルが良ければ今日も作ってるところ見せてよ」
「ふふ、いつもありがとうございます」
その様子をミントとチロルは草むらに隠れてじっと見ていた。
「最近ミント毎日キャロルのお店に通ってるね」
「キャロルに取り入って利用しようとしてるのかな?」
アンナとチロルは考えを巡らす。
「しかも今日お金いつもよりたくさん欲しいって言ってたよね」
「雑務を10倍こなすことを条件にあげたけど、花で脱出でもするのかな?」
「チロルそれは疑いすぎだよ...」
「逆にアンナは楽観的に考えすぎだよ。昨日も魔女警察と話してたし僕たちが学校行ってる間に何してるかわかんないよ。もしかしたらキャロルを洗脳して手駒にするかもしれないし」
「そんなことしたらアンナ達で通報しちゃおうよ!」
ヒソヒソと話しながらミントの様子をうかがっていると、2人がどこかに行くのが見えた。
「あ、チロル!2人がどこか行こうとしてるよ!」
「追いかけよう!」
2人は忍び足で後について行く。
「すみません、帰ろうとしてたのに時間使わせちゃって」
どうやらキャロルが休憩がてらミントと話そうとしているらしい。
「大丈夫だよ。僕キャロルと話すの好きだし」
「嬉しいです!」
2人が石の上に座る。
「今日も疲れました〜。休日だとたくさんの人が来てくれて、お金とか沢山くれて、私の花でおばあちゃんの病気が治ったとか言ってくれて凄く嬉しいんですよ」
その純粋な笑顔にミントもつられて笑顔になる。
「キャロルの優しさがお客さんの心を救ってるんだね」
「小さい男の子からラブレターを貰った時は少し困りましたけどね」
キャロルは恥ずかしそうに笑う。
「それは困っちゃうね。キャロルは稼いだお金は何に使ってるの?」
キャロルは少し哀しそうな表情をした。
「ごめん、言いたくなかったら大丈夫だよ」
ミントは慌ててそう返す。
「......私実は兄が病気で、外に出ることすら出来ないんです。毎日咳き込んでて、酷い時だと血を吐いちゃうこともあって」
キャロルは手をぎゅっと握りしめる。
「お父さんとお母さんも頑張ってるけど無理させたくなくて、大好きなお兄ちゃんのために少しでも何かしたくて、だからお花屋さんで稼いだお金は兄の治療費にするために溜め込んでます」
心が綺麗だなと思った。何かを成し遂げるためにこんなに小さな子が頑張ってる姿を見て、ミントは思わず泣いてしまった。
そんなミントにキャロルは迷わずハンカチを差し出す。
「ごめんすぐ泣いちゃって......なんでそんなに優しいの...?」
キャロルは愚問だと言わんばかりにキョトンとする。
「私は優しくなんかないですよ?ただ私のお花を買ってくれるお客様を大事にしてるだけです」
この子にとって人に優しくするのは当たり前のことなんだなとミントは思った。
「そろそろお仕事に戻ります。ジョニーさんと話すとなんだか心が暖かくなります。また明日も来てくださいね?」
ミントはマスク越しの笑顔で返答する。
「もちろん!」
「あ、チロル!ミント帰るみたいだよ!」
マスクとサングラスを外し、3本の花束を持ったミントを見て草むらからアンナがチロルに教える。
「なんか花束持ってるね!アンナ達にあげるのかなー?」
違うとは言いきれない、3本買う予定だったならいつもより多くのお金をせびるのも納得出来る。もしかしたらミントは家に泊めてくれた自分たちへのプレゼントとして買ったのではないか。チロルはそう思った。
「(いや仮にそうであっても騙されちゃいけない。ああやって取り入って利用しようとしているのかもしれない。油断したらいけない。相手は指名手配犯なんだからやっぱり用心しないとダメなんだ)」
「チロル?」
「え?あ、あぁ!そうかもね!」
一方のミントはステップを踏みながら笑顔で帰っていた。
「誰かに見られてる気がするけどまあいっか!アンナとチロル喜ぶかなー?」
ご飯を食べ終わるまでに秘密にしておくことにした。そしたらプレゼントもらった時に嬉しいから。
その夜はアンナとチロルの様子がおかしかった。ずっと自分のことを凝視しているのだ。なにか悪いことでもしたのかなと、ミントは疑問を持った。
「2人ともどうしたの?僕のことじっと見てるけど」
「なんでもないよ!今日のミントいつもよりウキウキしてるなぁって!」
「そう...?」
感づかれないようにあえてとぼける。
「そうだよ!なんかいいことでもあった?」
「いや、いつも通り調査してただけだよ?」
バレバレな嘘をついて逃れようとしたところ、突然轟音が響き渡った。
「......きたか」
辺りをつんざくような悲鳴を聞いてもチロルは慌てずうんざりとしたような口調で呟いた。
「これはなんの音?」
ミントの問いにアンナが返答する。
「1週間に1回村に盗賊が来るんだよ。村のお金とか盗んですぐどっか行っちゃうけど。灰の魔女に力を貰ってるみたいでお金を盗んでは献上してるんだって」
そう言ってアンナはため息をつく。
非日常が日常と化していること。それ位自体が異常なのだが、今はこういう紛争や略奪が平凡なものになってる村は珍しくもないらしい。
「ちょっと見てくるよ。」
ミントは立ち上がる。
「僕とアンナもついて行きますよ。ミントさん何するかわかんないし」
「好きにして」
「それと外出するならこの仮面つけてください」
チロルに手渡されたのは葉っぱの刺繍が施された不思議な仮面。これで正体を隠していけということらしい。
ミントは仮面をつけると真夜中の村を飛び出す。
現場に駆けつけるとそこには30名を越える盗賊団と頭目らしき豚の顔をした男がいた。比喩的な意味ではなく本当に豚の顔をしているのだ。奴らは村長と思わしき人物から金を奪っていた。
「他に金持っているやつはいねえかよ!」
頭領が叫ぶ。そしてアクセサリーなどを身につけてる村人から強引にそれを奪う。
「...!」
ミントたちは物陰でその様子を見ていた。だがミントはその様子を見て拳を震わせる。
「ミント、落ち着いて」
アンナがミントを制止する。
「ボス、もう金目のものは奪ったし今日のところはかえりましょうよ」
部下の命令に頭領は帰ろうとする。
その前に少女が立ち塞がったのだ。
「キャロル!?」
ミントは驚く。あの儚げな少女が、屈強な盗賊相手の前に立つなんて無謀すぎる。
「今すぐお金を置いて出ていってください。」
キャロルはそんな盗賊たち相手に臆することなくそう言ったのだ。
「お嬢ちゃん、俺たちのやることに文句でもあんのか?」
「当然です。あなた達がやってる事は迷惑行為です。みんなが頑張って稼いだお金を苦労することなく奪ってくるあなた達なんかみんなが必要ないと思ってます。みんなの思いを踏みにじるあなた達は人として最低です。出ていってください。」
理路整然と答えるキャロルをミントは不安そうな顔で見つめる。
「(ダメだよキャロル、今はそんなこと言っちゃダメなんだ......)」
ミントが予感してたことは的中してしまった。
「おい、こいつさらうぞ」
頭領が部下たちに命令する。部下たちはキャロルの腕を掴む。
「離してください!!」
キャロルは暴れようとする。
「キャロル!」
「あ、ミント!」
キャロルの危機に、ミントはアンナの制止を振り切り飛び出そうとする。
─その時!
キャロルの腕を掴んだものは突如降り注いだ雷によって気絶してしまった。
頭領は慌てて上を見る。
「今のは威嚇射撃です。本気を出せばお前らを灰にすることだってできるです。無駄な抵抗はやめて投降するです」
地上に降りたのは金髪碧眼の魔女、デルフィニウムだった。
「チッ!魔女警察か!」
誰かが魔女警察に通報したのだろう。豚の頭領は苦虫をかみ潰したかのような表情でデルフィニウムを睨む。
「投降なんてするか。俺様は今虫の居所が悪いんだ。魔女ごときにビビるわけねえだろ」
デルフィニウムは深いため息をつく。
「家畜に人間の言葉はわからなかったです。わかったです。お前ら全員倒して詳しいことはサバトで聞くです」
デルフィニウムは小さな杖を手にその青い双眸で盗賊たちを睨みつける。
魔女警察、轟雷の魔女デルフィニウムによる逮捕劇が今、幕を開ける。