第35話 楽しい楽しい灰の魔女退治
予定より早く聞き込みが終わり3人は宿の前で集合する。
「それで、お2人は何か情報を得られたです?」
デルフィニウムはそうたずねるとロストマンは馴れ馴れしくミントの方を組んで得意げに話す。
「聞かん坊な店員をジョニーがわからせてくれたにゃ。パチンコで20万当てたら言うこと聞いて情報提供してくれたにゃ〜」
「遊んでたですか……こっちは苦労しながら聞き込みしてたのに。まあいいです。どのような情報を得られたです?」
デルフィニウムの問いかけにロストマンはミントから離れ、メモ帳を確認しながら答える。
「えーっと、まずブルグマンシアはあの賭博場の店主を脅してギャンブル中毒者を自分のアジトで護衛させてたみたいにゃ。どこかはわからにゃいんだけど会員制ってことだけは知ってるらしいにゃ。場所も建物のわからにゃいみたいだ。デルフィは何かわかったかにゃ?」
「ええ、さっきロストマンがおっしゃっていた建物の情報をホームレスの方が教えてくれたです。ブルグマンシアが貧困街にいるホームレス達を洗脳していたと、あるものが後を追うとそこは大きなホテルだったみたいです。だけどそのホテルは霧に囲まれていて、全貌までは見えなかったみたいです。入り口にいたのは顔のパーツがない青白い肌のスーツの集団。そして縛られてる女の子達。そしてその子達がどうなってるかはわからない。と」
かなり詳細な情報だった。場所はともかくとして、建物の構造、ブルグの仲間達、そして奴が女の子以外にも警備のためこの町の人間達を洗脳していること。その全てが正確だった。ミントは疑問を浮かべる。この町にもそんな情報通の人間がいたのか?
「ジョニー、疑問に思うよにゃ?おいらもだにゃ。デルフィが会ったそのホームレス。どんな奴だったにゃ?」
ロストマンがデルフィニウムに問う。だがデルフィニウムが返した言葉は思いがけない言葉だった。
「黒いフードを被ってて、仮面をつけててよくわかんなかったです。でも彼は情報屋みたいで、特に怪しい様子はなかったです。その発言に嘘もなかった」
「嘘はなかった」と自信を込めて言うデルフィニウムにミントは疑いの目を向ける。話を聞いている限り、そこまで言い切れるほど信用ある人間に思えないのだが。
だがロストマンはその言葉を信じると言ったのだ。
「こいつ一応他人を見る目はあるからにゃ。おいらも巧妙に姿を隠してたのに素性がバレちゃったし」
「それはロストマンの目が泳いでたからです。まあ私は他人の目を見るだけでその人がどういう人かある程度判断できるです。視力、細かな予備動作、そしてその目に宿る真偽。それをすぐに判断できるのが私の能力です」
合点がいった。初めて会った時もデルフィニウムはミントが訳ありの存在であることを見抜いていた。洞察力に長けているのだろう。多くを見ずとも物事を判断できる。ライフウェポンの中でも応用が効く能力だろう。そう思うと少し羨ましく感じた。
「まあデルフィの場合油断したりわかっててもなかなか口に出せないから宝の持ち腐れにゃんだけどね〜」
揶揄うように笑うとロストマンはミルモタウンの街並みを見渡す。
「こんな狭い町に巧みにアジトを隠すなんて、ブルグマンシアも頭を使ったにゃ〜。まあそういうこともあろうかと少し仕掛けを施したんだけどね〜」
ニヤリと笑うロストマンにミントが質問する。
「仕掛けってなに?」
「わかってからのお楽しみだにゃ」
適当にはぐらかすと一番乗りで宿に入る。
「飯でも食いながら楽しい作戦会議でもするにゃ。今日中に全ての情報をまとめるにゃ」
と、何故かリーダー面して部屋に入っていった。
─────
「と思ったんだけどババアの飯不味すぎて腹壊したにゃ。もう2人で作戦立てて〜」
食あたりになったロストマンがうずくまりながらミントとデルフィニウムにそう告げる。
「そんな、さっきまでの頼もしさはどこいったの?ほらお水飲んで」
「じょ、ジョニー、ありがとにゃ……」
ミントから渡された水筒を飲み干し、ロストマンは地べたに座る。
「ふぅー生き返った〜。さて奴のアジトについてにゃんだが、まず場所がわからにゃいと解析も記録もできにゃい!だから伝手を使って何かしらの痕跡を見つける必要がある」
ロストマンはどこからか持ってきたホワイトボードに文字を書く。
「どこから持ってきたのそれ」
「細かいことは気にするにゃ。まず毒牙にかかったホームレスかギャン中そいつらをとっ捕まえて洗脳して場所を割り出す。そいつの脳みそにオイラの作った結界石を入れて結界を混乱させ、記録を改竄し筒抜けにさせて侵入。これを思いついたけどどうかにゃ?」
ロストマンの提案にデルフィニウムは顔を顰める。
「その方法、いいとは思うです。でもやってることブルグマンシアと変わらないような気が………」
デルフィニウムは他人を意のままに操る幻術などの類があまり好きではない。ミントはそう思った。灰の魔女を取り締まる以上手段は選べないこともわかっていた。正攻法で行きたいのだろう。だがどこか甘さを感じるその発言にミントは少し困惑した。こうしている間にも危険は近づいているというのに。
だからこそ自分の口でこう言った。
「その役目、僕がやっていい?」
殺しはしない。ただ少し自分たちの計画に付き合ってもらうだけ。そう思えば少しは気持ちが楽になるのだ。
「お、ジョニーいいのかにゃ?でもデルフィがいないとダメだにゃ。灰の魔女の関係者かどうか。そもそも灰の魔女は関係者含め一般人は愚か、魔女でも視認できないようになってる。人を見抜く目を持ってるデルフィに任せた方が────」
「いや、問題ないよ。なんとなくだけど、誰がつながっているのかわかる気がするんだ」
根拠はない。だが疑問はある。魔女や一般人が視認できないのに何故自分はあの時、盗賊やバラドンガが発する黒いオーラを視認できたのか、きっとその関係者とやらに灰の因子が組み込まれていたのなら、あのオーラでわかるはずなのだ。
「ふーむ、ジョニーの覚悟はわかったけど、念のためデルフィと一緒に行動してもらおうかにゃ」
ロストマンは念には念を込めてそう命令する。納得はした。突然こんなことを言っても信じてはもらえないだろうから。むしろ自分の意見も聞き入れてくれたロストマンの懐の深さに感動した。
「ありがとうロストマン」
窓の隙間から風が流れる。その風につられて小鳥が迷い込んでくる。その小鳥はロストマンの肩に止まる。その姿にミントは既視感があった。
「お昼の時の小鳥だ……」
ロストマンは作戦会議を忘れたのかその鳥を地面に着地させ、地べたに紙を置き文字を書く。描き終わるとその紙を鳥に巻きつけ再び野に返した。
「……ロストマン、何を考えてるです?」
「ああ、手間が省けたにゃ」
デルフィの問いを無視してロストマンは独り言を呟く。
「あの鳥を泳がせてみたんだけど、どうやら大まかな場所がわかったみたいだにゃ」
ロストマンはまた、独り言のように呟く。その言葉に2人が思わず立ち上がる。
するとロストマンが大声で叫ぶ。
「ミルモタウンの中央町から4キロ先!!林の中にポツンとある赤い建物のホテル!!それがブルグマンシアのアジトだにゃー!!」
2、3回復唱する。他の人間にも聞こえるように声を大にして言い放つ。
「ブルグマンシアという灰の魔女がいるにゃー!そいつはバラッド王国を滅ぼす気だにゃー!おいら達はそんにゃ奴には絶対負けにゃいにゃー!」
───────
街頭の少ない、寂れた空気が常に漂う夜のミルモタウンを歩く人影があった。
人影は提灯をぶら下げ夜の街を徘徊する。道には貧困者が並んでいる。自らを売って生計を立てようとする者達だ。そんな者達には目もくれず人影は路地裏へ入る。
入るとそこにはスキンヘッドの青白い男が待っていた。
「───────────」
男は何かを話すと人影はしわがれた声で説明する。
「ああ、例の宿泊者、やはり魔女様を追ってたみたいですじゃ。この目ではっきりとみましたがね〜?どうやら、魔女様の居場所を特定したみたいですじゃ。ええ?」
人影の言葉に男はうんうんと頷く。
「明日カチコミに行くみたいですじゃ、猫族と魔女警察と、あとはなんじゃろう。変な奴を連れてくるみたいじゃええ?それで、報酬の方は?」
男はスーツのポッケから札束を取り出し人影に渡そうとしたしたその瞬間、男はビームによって吹き飛ばされる。
「な、なんじゃ!」
人影はビームが放たれた方向を振り向く。するとそこには二つの影───。件の魔女警察と変な人間だった。
「あのおばあちゃん。ずっと怪しいと思ったけど、やっぱり繋がってた」
「当たりですね。宿泊代と裏切った罪。まとめて返してもらうです」
─────
「お疲れ〜。もうある程度片付いたかにゃ?あのババアだけで十分だっただけど、もう1人捕まえることができるなんて思わにゃかったにゃ」
ロストマンは上機嫌な様子でミントとデルフィニウムを称える。
デルフィニウムは浮かない顔で老婆と男に幻術をかけ結界を仕込んだことを告げる。
「気が進まないって言った割にはいうことは組んだにゃ。その方が都合はいいけど、別にやらにゃくてもよかったんだぞ?」
「いえ、この状況でそうも言ってられないです。猶予がないです。自分の気持ちよりもこの状況の打破を優先するです」
その返答に頷いたロストマンは夜道を歩きながら馬車の予約を取る。
「あの男は灰の従者で間違いにゃいだろう。灰の因子に適合できなかった奴らの成れの果て、ゾンビみたいな奴らがここにはちらほらいた。おそらくここもそろそろ頃合いだにゃ」
「正確な場所は通信石が教えてくれるだろう」と、ロストマンは手配した馬車に乗る。行き先はもちろんブルグマンシアのアジトだ。
「もうすぐだね」
「そうですね。短期間で灰の魔女の喉元に迫れた。やはりロストマン。あなたの手腕には感心するです」
「手駒が2個あったから捗ったにゃ。言っておくがここから先はおいらは干渉しない。というよりおいらは戦闘には向かにゃいからできにゃいな。お前らがなんとかするしかにゃいにゃ」
ロストマンはそう言って座席の奥に座る。
「あの霧はきっと結界だにゃ。灰の因子の有無で判断するセンサーのようにゃもんだにゃ。だけど結界ならおいらがなんとかできる。詳しいことは言った後でどうにでもにゃる。さぁ〜楽しい楽しい灰の魔女退治!行ってみよー!」




