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青藍の勇者  作者: 無眠
第2部 アルティメット・エボルヴ
30/54

第30話 その時が来るまで牙を研ぐ

 アンナを連れ去って一日がたったその夜、ブルグマンシアは自室に戻り肌の手入れをしていた。


 爪を黒く染め、目の下を赤く塗る。いつだって自分の容姿には気を遣う。美しくあることが自分のこだわりだから。


 椅子の上で脚を組み、洋菓子をかじって窓越しの空を眺める。わずかに開いた窓から夜の涼しい風が透き通る。


 バスローブを脱ぎ捨てて服を着る。白とピンクのフリルが入ったブラウスと黒いスカート、黒いニーハイ。魔性の雰囲気を身にまとい、窓を開け、飛んでくるカラスを出迎える。


「調子はいかが?慈愛の使徒ブルグマンシア」


 右目を潰したカラスは流暢に話しかける。


 ブルグマンシアは椅子から立ち上がり地面に正座すると両手の中指と人差し指を交差させお辞儀する。


「絶体の令嬢ドールズアイ、ご足労いただき感謝いたします」


 この一連の作法は灰の魔女特有のもの。特に位が高い信者にはこのような畏まったものが要求される。慈愛とはブルグマンシアが入信した際に与えられた2つ名だ。奴はその名を冠するライフウェポンを持ち、灰の魔女内部ではその名で呼ばれている


 そしてブルグマンシアとやドールズアイという名前も入信し洗礼されたもののみに与えられるコードネームのようなもので本名ではない。


「既に100人以上の使徒を増やしました。3日後の夜、8の針が指す頃、作戦を決行いたします」


 ブルグマンシアはカラスにそう説明した。


「貴殿の勤勉さは目を見張るものがある。この調子で引き続き頼む。くれぐれも失敗はないように」


 カラスは淡々と褒め称え釘を刺す。


「承知しました。このブルグマンシア、与えられた任務を忠実にこなし、灰の王に尊い生贄を捧げましょう」


 ブルグマンシアの言葉を聞くとカラスは飛び去る。その姿を見送った後彼女は椅子に座り直し右腕の袖を捲り、巻かれた包帯を外す。


 机の引き出しから小さなナイフを取り出し傷跡が残った皮膚に突き立てる。


 横一文字に切り裂く、その行程を3回繰り返すと滲み出た血を左手の人差し指につけ、真っ白の紙に血文字を書く。


 文字が霞むとさらに腕を傷つけ、新たに出た血を追加する。痛みは感じない代わりに切るたびに快楽を得る。その快楽に笑みが溢れだす。


 一通り書き終えるとその紙を折りたたみ机に戻す。包帯を巻き直すと棚から大量の薬が入ったビタミンを取り出す。


 30粒ほどの量を酒で流し込むとふらつき吐き気を催しながら部屋を出る。


「今日はどの子で遊ぼうかなぁ?」


 ひっそりと呟き、壁に手をかけながら歩き出していった。





『今日、ブルグマンシアは私を食事に誘った。こっそり後をつけたら黒いカラスと話してた。あいつはそのカラスの事をドールズアイって呼んでた。3日後に私たちを使って王都に攻撃を仕掛けるみたい。アンナは何かわかった?  

 リーシャより』


 突如渡された手紙により、アンナとリーシャの交流は始まった。お互いの素性はわからない。言葉ではブルグマンシアに盗聴されるので文章のみで2人は会話していた。


 アンナはペンを取り出し白い紙に文字を書く。


『今日は特に何もなかった。アンナも少し周囲を見たけど特に何も見当たらなかった。でも中庭をでたら外の景色が見えないの。他の子が通信石で連絡取ろうとしてたけど繋がらなかったみたい。だから完全に外の世界との通信ができないんだと思う  アンナより』


 紙に文字を書き終えた後、それを折りたたみポケットに入れ、アンナはリーシャの部屋へ向かう。


 少しずつ手がかりを得る。そうすればいつかここから脱出できるはず。だが不安もあった。


 これがブルグマンシアにバレてないか。バレているならタダでは済まない。だがやらなければ意味がない。いずれみんなで脱出しなければこの国も自分達も危ない。


 大好きな人に会うためにここを抜け出す。それだけが目標だった。



 ─────話は1日前に遡る。


 アンナを救うためにミント達はデルフィニウムの家に連れてこられた。


 ほうきはではなく馬車で向かい1時間かけてたどりついた場所は家と呼ぶには程遠い大きな洞穴。


「もっと豪華な屋敷を想像してたんだけど………」


 思わず漏れ出るミントの本音をよそにデルフィニウムは洞窟のような家に入る。


 後に続いてミントとチロルも入るが中は意外にも綺麗で玄関やリビング、キッチン、個室、浴室など十分に設備が整っていた。


 外観は洞窟なのに中はちゃんと家と呼べるものであった。それにミントは内心ホッとする。


 そして2人はデルフィニウムの部屋に案内される。


 ベッドと山積みの資料が置かれた机と本棚だけがある女性にしてはかなり簡素な部屋だった。


 デルフィニウムは一枚の画用紙を取り出すとそれを地面に置く。そして淡々とした口調で説明をする。


「事態は一刻を争う状況です。仮に灰の魔女であるならば、アンナちゃん以外の被害者は必ずいる。そしてモタモタしていると少女達はいいように弄ばれ殺されてしまう。そうならないために常に最善の手を尽くし、この状況を打破するです」


 そう伝えるデルフィニウムにチロルは疑問をぶつける。


「でも相手は結界を張ってて居場所を特定できないようにしてるんでしょ?そんな相手の場所を割り出すのって難しいと思うけど」


 その問いに対してデルフィニウムはこう答える。


「私は魔女警察、誰よりも情報通で誰よりも迅速に動けるです。厳重な結界をいとも容易く解ける人間、大体目星はついたです」


 デルフィニウムはそう言うと紙を地面に置き筆を走らせる。丁寧に書かれたその文字をミントとチロルに見せるとデルフィニウムは即決する。


「世界最高の解術師(げじゅつし)ロストマンです。ジョニーさん、明日この男に会いにいくですよ」


「ロストマン?」


 名前を聞き返すミントにデルフィニウムが優しく説明する。


「メリア合衆国の機密情報を盗み出し、長年に渡り魔女警察の特殊捜査機関と戦い続けた男です。あらゆる組織に被害を与え、被害総額は1億マイルを越えるです。解術師としては3本の指に入るほどの実力を誇り、奴に依頼すればどんな結界も魔法も簡単に解くことができるです」


「そんなすごい人をどうやって捕まえたの?」


 チロルの質問にデルフィニウムは平然と答える。


「その辺を散歩してて明らかに目が泳いでたので職務質問したらそいつがロストマンだったです」


 その事実に2人は驚愕する。


「そんな簡単に捕まるの!?」


 2人が声をそろえてそう言うとデルフィニウムは「秘密は暴けても秘密を隠すことができないみたいです」と返す。


「それで、そのロストマンとはどうやって連絡取るの?」


 ミントがそうたずねるとデルフィニウムは通信石を取り出しある番号を見せる。


「ロストマンは通信石を6個持っていてそれぞれ別の名義で依頼を受けているです。そしてこの番号はロストマンが普段使いしている通信石の番号です。あいつは基本夜更かしするので連絡すればすぐ駆けつけるです」


 そう言ってデルフィニウムは通信石に電話をかける。


「あ、もしもし。ロストマンです?急ですが女の子を誘拐してる犯人について調べてほしいです。居住地も特定してほしいです。どんな人間か?灰の魔女です。え、断る?ならあなたにプレゼントする予定だった高級サバは私がもらうです。嫌なら私に従うです。0時頃にそちらに行くです。それまでに身だしなみは整えるです。それじゃ」


 そう言って電話を切るとデルフィニウムはミントの方を向く。


「今からロストマンのとこに行くです。箒で二人乗りして1時間で着くです。チロルくんはお留守番できるです?」


 あまりにも早すぎる決断力に驚きながらもミントは席をたつ。留守番を命じられたチロルは渋々首を縦に振る。


「えらいです。色々心配だと思いますがロストマンは私に手出しできないですしすぐかえってくるので大丈夫です。冷蔵庫の食べ物はショートケーキ以外は食べていいですよ」


 そう言うとデルフィニウムとミントは部屋を出る。チロルも見送るために一旦部屋を出る。


 冷蔵庫を開け何かを取り出す。凍りついた1メートルも越える大きなサバだ。


「ロストマンのために手土産くらいは持っていくです。後道中はお腹が空くと思うので団子とパフェも持っていくです」


「(甘いのばっかだな……)」


 ミントは心の中でそう突っ込む。


「あの……」


 玄関まで歩いたところでチロルが声をかける。


「この家は大丈夫ですよね……?夜だし魔獣とか襲ってこないですか……?」


「心配いらないです。ここには雷の魔力が辺り一面に張り巡らされてるです。その電力で冷蔵庫やレンジが使えるし魔獣除けにも役立てるです。この結界は私が3年かけて作ったです」


「よかった……」


 チロルはホッと胸を撫で下ろす。そんなチロルにミントが声をかける。


「すぐ帰ってくるからいい子にして待っててね」


「うん!いってらっしゃい!」


 チロルがそう言って2人を見送るとデルフィニウムがほうきを取り出しそれにまたがる。


「すぐに終わらせるです。少女達を救い出すために!」


 ミントはデルフィニウムの腰につかまる、ほうきが宙に浮き、そのまま飛び出す。


 ここから始まる激闘を余所に……高速で飛び去っていった。

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