第21話 情報はタダでは得られず
身体中にスパークを走らせ、デルフィニウムは杖に力を込める。
その杖は電気を放出し、雷となり、ミントに襲いかかる。
狭い路地裏の中で3本の電撃をミントは壁をつたって避けていく。
ミントは後方に着地し、近くにあったゴミ箱をデルフィニウムに向けて蹴り飛ばす。デルフィニウムは回転しそのゴミ箱を破壊し、中のゴミが宙に舞う。
「(ここに隙がある……。このまま一気に間合いに入る!)」
ミントは刀を抜き、全速力でデルフィニウムとの距離を縮める。
振り上げた一刀はデルフィニウムの生成した盾によって阻まれる。
その盾は刀を伝ってミントに流れていく。感電を恐れ、ミントは一旦距離を置く。
「(この魔法には触れちゃだめだ……。防御も意味がない。だったら集中して攻撃を全てかわすのみ!)」
そう決心したのも束の間、盾越しにデルフィニウムが光線を放つ。
その軌道を読みミントはかわしていく、かすり傷すらも命取りだ。極限の集中力で丁寧に避けていく。
「大した回避力です。でもこれは避けようがないです……。だがこれはかわせないですよ!いでよ!“イカズチ”!」
杖を天に上げ声をあげると、ミントの中心、天から大きな音を立てて雷鳴が降り注ぐ。
「!!」
一瞬の速度、目で追えないレベルの攻撃がミントの眼前に落ちる。前回盗賊に対してもこの攻撃をしていた。だがその時は威嚇射撃、今回も自分の向けて放たなかった。白煙の中で、ミントは思考を張り巡らせる。
──次で勝負を決めるつもりなのか。
その結論に至った時、すでにデルフィニウムはミントに向かい突進していた。煙がはれたころには眼前にいた。
あくまで無力化を優先しているのであろう、手には何も持っておらずその目にも止まらない速さでミントの右手首を掴む。
「はぁ!」
デルフィニウムはそのままミントの手首を捻り地面に転がそうとする。ミントは慌てて着地し、その勢いで下から刀を振り上げる。
デルフィニウムは身体を沿ってその軌道をうまくかわす。数本切れた金の毛髪をものともせず掴んでいる手首をそのまま倒し、無理矢理ミントを寝かせる。
「この状態ではかわせないです!」
デルフィニウムは杖から雷の刃を生成しそれでミントを突こうとする。だがミントはその腕を蹴り飛ばし、掴まれた手首を解放させる。
「この……!」
体勢を崩しながら放った3発の雷撃はミントを捉えることはできなかった。手をつき後方に大きくジャンプし着地するとミントは素早い突きを放つ。だがデルフィニウムは前方にまたしても盾を作りそれを迎撃。
ミントの刀が、デルフィニウムの盾を貫く。
「ぐ……!」
刀から身体へ、ミントの全身に電流が走る。痛みに堪えながらミントは刀を抜く。
と同時、地面に手をつけ前方に回転しながらデルフィニウムの背後へ向かう。
「──!!」
迎撃しようとするデルフィニウムの杖を蹴りで弾き飛ばし、首筋に刀を向ける。
寸止めだ。だが殺し合いならばこれでデルフィニウムの首は飛んでいる。
「……なるほどです。これがあなたの実力、ということですか」
デルフィニウムは冷や汗を浮かべながら笑う。ミントも一筋の汗を垂らしながらその刀を鞘に収める。
「君が本気で闘ってたら危なかったかも。でも、僕を捕まえるためにあえて手を抜いてた。いや、僕の実力を確かめようとしたんでしょ?」
「さぁ、どうでしょう。でもあなたの実力を見れて光栄です。バラドンガを倒したのは虚言ではなかったのがわかったです」
デルフィニウムは杖を拾うとミントに手を向ける。
「身体が痺れてるはずです。そこの公園で休むですよ」
ミントはデルフィニウムの手を取る。がやはり雷魔法の影響か、膝から崩れ落ちてしまう。
「大丈夫です?すみません、ちょっとだけ身体を治してから行くですよ」
「ありがとう……」
こうして2人は路地裏を後にした。
───
軽い治療を終え、公園のベンチで2人は座っていた。
「先に言っておくと、私は魔女警察です。国の治安を守る存在です。なので一般の方に自分から情報を渡したりはしません。それを悪用したり、他国に売り渡す輩がいるからです。灰の魔女と関係あるなんて言ったら尚更です」
デルフィニウムはそう言って釘を刺す。軽率な発言であることはミント自身も自覚していた。国を守る彼女たちのことを考えれば、危険な芽は摘んでおくに越したことはないのだろう。
「……まあ、少しだけなら話してあげてもいいです。あなたは信用できる目をしてるです。それに、いつかここにいる民間の方々にも話さないといけないことですし」
「ありがとう」
息を吐きながらそう告げるデルフィニウムにミントは感謝の言葉を述べる。彼女は公園で遊んでる6歳ほどの子供たちを見ながら重い口をゆっくりと開く。
「このバラッド王国に、灰の魔女が潜んでいるかもしれない。上層部はそう言っていたです」
ミントは驚きの表情でデルフィニウムの顔を見つめる。驚愕の真実が告げられ、空いた口が塞がらない。
「リーカス王国という鉱石国家がありました。バラッド王国とも良い関係が築けていた大国家です。その国が少女の軍勢によって滅ぼされたという情報がひと月前、組織に入りました」
その話題は知っている。灰の魔女の仕業というのは確実視されてはいたが、誰がどうやったのかは明言されていなかった。被害件数や生存者も不明のままだ。
「そのリーカス共和国を滅ぼしたのは、犯行方法を見るにブルグマンシアという灰の魔女ではないか。そして奴は巧みな潜入技術を駆使し、ここバラッドでも同様の犯行に及ぶのではないか。そんな情報でした」
───ブルグマンシア。
奴は小さな女児に性的嗜好を持つ異常者とされ、今まで数多くの女児を拉致しては自分の快楽のために利用してきたという。被害件数が最も多く、この国でも奴に攫われた女児が多く、その多くが死亡している。とデルフィニウムは言っていた
「そんな魔女がなんで、バラッド王国を狙うの?」
ミントの疑問にデルフィニウムは神妙な面持ちで答える。
「奴らのやる行為に目的や理由なんてないです。理由がないからこそ恐ろしいのです。失うものすらない。ただ快楽と衝動が赴くままに蹂躙する。大きな力を持った子供。それが灰の魔女です」
憎悪を込めた表情でデルフィニウムは語る。よほどの怨みがあるのか、ローブを握りしめて語る彼女にミントは少し身震いした。
「もうすでにここにいるなら早く行動起こさないといけないんじゃない?先に捜査進めて捕まえるとか」
ミントの提案にデルフィニウムは大きくため息をつく。
「奴らは神出鬼没です。捜査だけで足を掴めるなら苦労しないです」
それもそうかとミントは引き下がる。だがこのまま行動に移せないようでは、奴らのいいようにやられてしまう。
「デルフィさん、またこうやって話できる?」
「なんでです?もうこれ以上の情報は持ってないですよ」
「僕が何か情報掴んだ時にデルフィさんに知らせたいから」
その理由を聞くとデルフィニウムは静かに微笑む。
「それならいいです。私につながる通信石を渡しておくので何かあったらこれで連絡するです」
そう言ってデルフィニウムは小さな石をミントに渡す。お互いの意思の伝播を共有することで現在地が確認できたり通話ができたりする優れものらしいのだ。
「ありがとう。僕も調べておくよ。また会おうね」
ミントはそう言ってデルフィニウムの元へ立ち去るが、何かを思い出し振り返ってこう言った。
「シオンさんによろしく言っといてー!」
そう言って驚くデルフィニウムを尻目に手を振りまた去っていった。
「シオン姉さんの知り合いだったとは……ひどいことをしてしまったです……」
ミントの後ろ姿を遠目で見ながら自分の無礼をデルフィニウムは後悔する。
「でもあの戦闘スキル……。あの剣捌き、さすがは八花流と言ったところです……」
脳裏によぎるあの妙技、古来から伝わる伝説の剣技と酷似していたあの動き、彼が何者か。デルフィニウムは興味深く感じた。
「ただの偶然だと感じていたですがあれは本物の技、いつかいっしょに闘う時が来るなら、大きな戦力になりそうです」




