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青藍の勇者  作者: 無眠
第1部 2人の勇者
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第2話 初めてのまともな生活

「あ、チロルー!チロルー!来て来てー!目を覚ましたよー!」


 アンナの呼び声にチロルが駆けつける。


「え、なにこれ、一体どういうこと……?」


 縄できつく縛られた指名手配犯……ミントは、必死に暴れながら問う。


「今からあなたには色々説明してもらいますよ。ミントさん?」


 チロルはそういうと、自分の背丈よりも大きな紙を広げた。


「あなた、前科千犯の全世界に指名手配されている凶悪犯ですよね?懸賞金までかけられてるあなたがなぜ僕たちに近づいたんですか?」


「ちょっと待って、僕はそんなこと……」


 必死に弁解しようとするミントにチロルはなおも畳み掛ける。


「刀を持っててリンゴを万引きする……。あのネックレスも僕たちのものだと分からなければそのまま奪っていましたよね」


「だから違うって!」


「この紙にあなたの罪状が書かれています。多いので全ては言えませんが、軽く読み上げると......」


 チロルはミントの罪状を読み上げる。


「窃盗罪、銃刀法違反、殺人罪、決闘罪、公然わいせつ罪、覗き見、オレオレ詐欺、威力業務妨害罪、偽計業務妨害、落し物を交番に届けなかった罪、深夜に爆音で音楽ならしていた罪、居眠り運転、タバコをポイ捨てした罪、おばあちゃんのお手伝いをしなかった罪……残り多数」


「すごーい! コンプリートだー!」


 アンナが手を叩いて称賛する。


「ちょっと待って! おばあちゃんのお手伝いをしなかったのは罪じゃないし全部でたらめだよ!」


 ミントはようやく自分は冤罪だと主張できた。


「それを証明できる人はいるの?」


 アンナがミントの痛いとこを突く。


「それは……」


︎︎︎︎ミントは口ごもる


「それに僕たちからネックレスを取り返したのも、裏を返せば、窃盗犯から力ずくて取り返したってことだし、暴行罪も入りますね」


「そんな細かく言ったらキリがないよ……」


 とても年相応とは言えない、あまりにも法律に詳しすぎる二人にミントは困惑する。


「僕は全部やってないよ! きっと誰かが僕の罪をでっち上げて悪者にしようとしてるんだよ!」


「証拠はありますか?」


「証拠は……」


「ないなら証明できませんよ」


「やってないもん……本当にやってないもん……」


 ミントは俯き、口をもごもごさせる。その姿に先程の勇ましさの欠片もなかった。


 見かねたアンナが割って入る。


「確かに今あなたが悪いことしてないって証拠は無いと思うけど、でもあなたがアンナ達を助けてくれたのは本当でしょ?」


 アンナは座り込んでミントに視線を合わせる。


「あなたが助けてくれなかったらアンナもチロルもぺしゃんこになってたもん。だからありがとね! アンナ達のことを助けてくれて!」


 笑顔で感謝を伝えるアンナ。その表情がミントには眩しく感じた。


 と同時に、腹の音が鳴る。


「う、そういえばさっきから何も食べてないんだよね……」


 その様子にアンナとチロルは顔を見合わせる。


「どうする……? ご飯だけは食べさせてあげる?」


「でも指名手配犯だし、通報した方がいいでしょ」


 しばらく2人だけでヒソヒソと会話したあと、チロルはミントの方を向く。


「ミントさん、今お金がないんですよね?」


「全然ない」


「うちの親、一週間は帰ってこないので、それまでなら泊めてあげてもいいですよ」


「いいの?君たちが困りそうだけど……」


「命の恩人だからこれくらいは恩返しさせて! でも一週間だけだからね! あと何されるかわからないし刀は預かるよ!」


「わかったよ……その代わり通報しないでね?」


「もちろん!」


 アンナは縄を解いてあげるとミントをダイニングに移動させてあげる。


「ごめんね、きつく縛りすぎちゃって」


「大丈夫」


「お水でも飲む? 持ってくるから待ってて!」


 アンナはミントに水の入ったコップを入れる。


 ミントはその水を1口飲む。


「おいしい!」


 ミントは笑顔で言った。


「そう言ってくれて嬉しい!」


 アンナも笑顔で返す。


「名前なんて呼べばいいの……? ミントさん? ミントくん? 男の子か女の子かわかんないよー」


「一応男だよ。あと呼び捨てで大丈夫だよ」


「わかった! ミントって呼ぶね!」


 商人の件といいさっきの件といい、自分はこの子に助けられてる。こんなに小さな子でも立派に行動できるなんてすごいなぁと思った。


 こうして話していたら料理がやってきた。アンナによるとハンバーグという料理名らしい。ジュージューと音と共に、とてもいい匂いがした。


 完成と共に、すぐにかぶりつこうとするミントをアンナは止める。


「だめ!ちゃんといただきますって言ってから食べないと!」


 三人は手を合わせいただきますと言ったあと食事をはじめる


 が、ミントはナイフとフォークの使い方がよくわからなかった。


「これってどうやって使えばいいの?」


 アンナは嫌な顔せずに説明する。


「ナイフは右手! フォークは左手に持って、フォークで刺してナイフで切って食べるんだよ!」


「こ、こう?」


 ぎこちないながらも実践してみる


「そう!」


 切ったハンバーグを口に運ぶ。数回咀嚼して飲み込む。


「!!」


「どうしたの?美味しくなかった?」


 アンナが心配そうにたずねる。


 ミントは涙を流していた。


「え、なんで泣いてるの?」


「美味してくて、こんなに美味しいの初めて食べたから……。嬉しくて、嬉しくて」


 あまりにもオーバーなリアクションに、アンナとチロルは少し困惑していた。


「と、とりあえず涙拭いて、ね?」


 アンナからティッシュを受け取り、涙を拭く。


「チロルくん……だよね? 美味しいよ……今まで食べたご飯の中でいちばん美味しい……ありがとう」


「そ、それはよかった……」


 チロルはこの人はどれほど過酷な人生を歩んできたんだろうと疑問を感じた。


「そういえばミントさんは、なぜこの町に来たんですか?」


 泣き止んだミントにチロルがたずねる。


「実はある人間がここにいるって聞いて、その人に会おうと思ってさ」


「その人間とは?」


「灰の魔女」


 灰の魔女、その名前を聞いた時2人の顔は青ざめた。


「灰の魔女って、今全世界の脅威になっているテロ集団のことですか?」


 チロルの問いにミントは頷いた。


 この世界には魔女警察という組織がある。各国の治安維持や災害防止、救命などを行う組織で、この星に欠かせない存在だ。その魔女組織がマークしている存在が灰の魔女。フラワー星の旧支配者によって生み出されたテロ集団。それぞれが独立して動いており、あるものは国ひとつを破壊でき、またあるものは国を乗っ取り、その力はエリートの魔女警察が百人束になってもかなわないほどだ。


「なんでそんな危険な集団に会おうとしているんですか?」


「聞きたいことがあるから」


「その聞きたいこととは……」


 チロルの問いにミントは答えようとしなかった。


 自分でもわからなかったから。


 彼の闇は深そうだなとチロルは感じた。灰の魔女のことを話す時だけ、先程の弱々しさがなく、決意がみなぎった闘うものの目をしていたのだから。


「ご馳走様でした」


 三人は食事を終えるとミントの寝る場所について相談する。


「僕とアンナの部屋だとベッド壊れちゃうから、お母さんのベッド使わせてもらおう」


「そうしよう! ミントはそれでいい?」


「うん」


 即決で済ませると、ミントを寝室に案内する。


「ここがミントの寝る場所! 逃げないように窓とか全部きつく閉めておいたよ!」


「逃げないから……」


 ミントは辺りを見渡す。鏡や化粧道具、クローゼット。それらを物珍しそうに見る。


「そのローブ暑いから脱いじゃいなよ」


「う、うん」


 ミントはローブを脱ぐとアンナに渡す。


「服ボロボロじゃん!アンナが後で縫ってあげるからお風呂入る時に渡して!」


 白い穴だらけのブラウスと黒いロングスカートを見てアンナは言った。


「お風呂入っていいの?」


「全然いいよ! 1週間は泊めてあげるんだから! 窓はきつく閉めるけど!」


「だから逃げないって……」


 最初に入っていいと言われたのでミントは一番最初に湯船に浸かる。


「あったかいなぁ」


 一言そうつぶやく。つくづく思う。優しい人で良かったと。今まで怪しいからって理由だけで爪弾きにされてきて、何をしても信じて貰えなくて、辛い人生だった。


「でも、ようやく変われそうだな」


 ミントは湯船から上がり、短時間で髪と身体を洗った。



「お風呂上がるの早いね!もうちょっと入っててよかったのに!」


 ミントの髪を乾かしながらアンナは言う。


「あまり長く入ったらのぼせちゃうから」


 少しダボダボのパジャマを着たミントは少し伸びをするとベッドにダイブした。


「ふかふかだぁ……」


「こらこら、寝るならちゃんと毛布かけないと!」


 そう言ってミントに毛布をかけてあげる。


「寝たふりしそうだからちゃんと寝るまで一緒にいてあげる!」


「警戒しすぎだよ……」


 ミントは寝返りをうつ。


「ねえアンナ……」


「ん?」


「刀はいつ返してくれるの?」


「うーん」


 アンナは椅子に腰かける。


「ミントがほんとうに悪い人じゃないってことを証明できたらいいよ」


「どうやって……?」


「それはミントが考えることだよ」


「そう……」


 相槌を打つミントは少し寂しそうだった。


「アンナ」


「ん?」


「……おやすみ」


「おやすみ」


 その会話を最後に、ミントの意識は夢の中へ沈んだ。

アンナ

職業 小学生

年齢 10歳

身長 128センチ

体重 23キロ

性別 女の子

好きな物いちご お花の冠 ブランコで遊ぶこと

嫌いなもの 痛いこと 楽しくないこと ザリガニ

容姿 茶髪で2つ結び すずらんの髪飾り オレンジ色の瞳(喜ぶとハート目になる) 白い長袖のブラウスに赤いサスペンダースカート 赤い靴を履いている。

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