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青藍の勇者  作者: 無眠
第1部 2人の勇者
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第17話 きっと最後は大団円

 かつてバラッド王国の海中には大きな山があったらしい。その山はホタテのような形だったのでホタテ山と名付けられた。


 ではなぜ、海の山が陸に上がったのか、言い伝えによると、邪魔だったので海の神が陸地へ移動させたかららしい。


 日々環境が変わっていくフラワー星の中でも、ホタテ山の生態系は不変だった。だからこそドラゴンに目をつけられてしまったのだ。


 ホタテ山の山頂に降り立った奴はホタテ山の魔獣たちを食らい尽くした。弱い魔獣たちは山頂には住めなくなった。食物連鎖には抗えないのだ。


 討伐隊も派遣されたが悉く全滅した。旅人や観光客に被害を出さないために山頂付近を禁止区域にした。それでも奴はたまに山を抜け出して町を襲っていた。敷いた結界すらも破ってだ。


 国は半ば諦めていた。本来竜族は温厚な種族なのに奴だけが凶暴だった。原因はわからなかった。


 ─そして今、奴は2人の勇者によって追い詰められ、ついにその正体を現した。左腕が鎌に変形した金色の竜。それが奴の真の姿だった。


 赤い双眸で威圧しながら、ドラゴンは謎の男、ミントに襲いかかる。


 大ぶりの一撃をミントはバク転でかわす。するとドラゴンの姿が視界から消える。


「なに!?」


 着地したと同時、ドラゴンがミントの後方に現れる。そして右腕の爪でミントの背中を切り裂く。


「ぐは…!」


 ミントは前のめりに膝をつく。ドラゴンはまたも姿を消し、上空に移動する。そのまま足でミントを踏み潰そうとする。


「はぁ!」


 ミントはその足目がけて刀を突き上げる。突き刺し、そのまま押し上げようとする。


「う、くうう!」


 ドラゴンが足にさらに力を込める。ミントは腕と足に力を込めるが背中の傷がさらに開く。


「はああああ!」


 ミントは足の裏を縦に切り裂いてそのまま前方に転がる。大きな地響きを鳴らしてドラゴンが着地する。


 ミントは腰を抑え立ち上がる。息を切らしながらドラゴンに向かってスタートを切る。


 正面からの突きをまたもやワープ攻撃でかわす。ミントは刀を地面に突き立てその刀に飛び乗る。ドラゴンはミントの前方に移動する。その瞬間、ミントは前方回転しながら刀を引き抜き、尻尾を横なぎで払うドラゴンに一撃を加える。


 その斬撃は骨で止まった。尻尾に刀が食い込む。


「く、くそ!」


 ミントは必死に引き抜こうとする。ドラゴンもそんなミントを必死に振り落とそうとし、ミントも尻尾にしがみついて離れない。その瞬間、ドラゴンの体が輝き出した。徐々に力を込める。


「ま、まずい!」


 ミントはサッと離れようとした。しかし───。


「───!!」


 体が発光し、無数のビームが降り注ぐ。そのビームはミントの左肩に命中してしまう。


「ぐあ……!」


 ミントは仰向けに倒れる。無情にもビームはさらに降り注ぐ。すぐさま起き上がり、木の陰に隠れるが、光線は木すらも貫通する。


 ミントは頭を抑え光線が止むのを待つ。木々が倒れる音がこだまする。轟音が鳴り止み、ミントは壊れた木の隙間から様子を見る。


 ドラゴンは自分の刀を握っていた。そしてそれをミントに見せるとなんと飲み込んでしまったのだ。


「くそ……」


 攻撃手段を奪われてしまった。ミントは歯軋りする。そもそも左肩を撃ち抜かれまともに動かせない状況だ。ミントは思考を巡らせる。


 ふと、自分の腰に挿してある鞘に目をやる。これでかなうとは到底思えないがやるしかない。


 ミントは鞘を右腕に持ちドラゴンの前に出る。片腕しか使えない状況。相手は瞬間移動を使える。ならばその気配を察知するまで。


 目を閉じて息を整える。集中して思考を整えれば相手の来る位置は察知できる。


 ドラゴンは低空飛行で突っ込む。ミントは側転で回避し、ドラゴンの背後に回り込む。攻撃を読んでいたのかドラゴンはまたもや消える。


 ミントは感覚を研ぎ澄ます。右か、左か。どちらかに攻撃が来るはずだ。息を軽く吸う。


「……ここだ!」


 ドラゴンの鎌とミントの鞘が交錯する。火花が飛び散り金属音が響き渡る。


 一撃二撃と斬り合いになだれ込む。だがミントは手負いで鞘のみ、分が悪い。押されているのは明らかだった。


 ミントは一旦距離をとる。ドラゴンは逃すまいと目からビームを発射する。ミントは鞘で受けるがそのまま押し切られ地面に激突する。なんとかビームを横に逸らし、起きあがろうとするがドラゴンの追撃の炎がそれを許さない。


 ──次の瞬間、その炎は水の魔法によってかき消される。


「なんとか間に合ったな」


 声がする方向を向く。魔法で防いだ張本人、それはルドだった。


 彼はゆっくりとミントの方へ歩き出す。


 ミントはルドの様子に戸惑いの表情を見せる。


「なんで君がここにいるの?君はスミレさんに連れていかれたはずじゃ……」


 ルドはタスケネズミが持ってきた果実を食べたこと、スミレを説得して再び山頂に登ったことを話した。


 ミントは大きくため息をつく。


「君では無理だ。さっきと比べてドラゴンは大幅にパワーアップしてる。このままだと……」


「犬死するだけ。って言いたいのだろう?」


 ルドはミントの言葉を遮りそう返した。


「確かにこのままじゃ勝ち目がないな」


「僕もさっき刀を食べられちゃって攻撃を受けるのもやっとだよ。背中が痛いし、左肩も痛い。甘く見てた……こんなに強いなんて思ってなかったから油断しちゃったんだ」


「俺も同じだ。スミレの情報だと俺だけで勝てる相手だったらしいからな。まさかここまで追い詰められるなんて思いもしなかった」


 ルドは苦笑する。もっと情報を集めておけばよかったと後悔した。だが今更悔いても仕方がない。


「今は奴を倒すのが先決だ」


 ルドはドラゴンに視線を移す。


「でも、勝算はあるの?」


「もちろんあるさ。耳を貸してくれ」


 ルドはミントの耳元でコソコソと作戦の内容を話す。


「...それでほんとに勝てる?」


「勝てるとも」


 ミントは不安に感じた。今更だが先程までいがみ合ってた相手とこうして作戦を立てるのも少し違和感があった。


「君は手柄を取られたくないんでしょ?なんで今僕に協力的なの」


「意地張って勝てる相手ではないからだ」


 ルドは毅然とした態度で返答する。


「俺もお前と組むなんてごめんだ。だが今はやつを倒さなければならない。だからこうしてお前と話し合っている。まあ、最後にやつを倒すのは俺だがな」


 根はいい人なんだろうなとミントは感じた。と同時に、一方的に見下して勝負を放棄した自分が情けなく思った。


「俺は極限まで魔力を高める。それまでお前は時間を稼いでくれ」


 ルドはミントの背後に移動し、集中力を高める。


 ミントは鞘を構え、ドラゴンの前に立つ。


 ドラゴンが待ちくたびれたと言わんばかりに咆哮をあげる。ミントはドラゴンの出方をうかがった。


 自分に向かうか、ルドに向かうか。答えは後者だった。


 ドラゴンは翼を大きく広げ、魔力を溜めてるルドに突っ込んでいく。ミントはその場にあった石を拾い上げドラゴンに投げつける。


 石がドラゴンの眼に命中し、意識はミントの方へと向く。


「お前の相手は僕だ!」


 高らかに宣言するとドラゴンはミントに襲いかかる。鎌の斬撃をギリギリで避け続け時間を稼ぎながら鞘で牽制する。


 どうに刀を奪うことが出来ればいいが防戦一方なこの状況、ルドの魔法にかけるしかない。


 ルドはまだ時間がかかりそうだ。


 ドラゴンがミントを大きなし顎で噛み砕こうとする。その攻撃を飛び越え上顎に着地すると翼の方まで移動しその翼を鞘で打つ。


「ぐおおおおおお!!!」


 ドラゴンが絶叫する。起き上がりミントを振り落とすとそのまま鷲掴みし握り潰そうと力を込める。


 振り落とされた反動でミントは鞘を手放してしまい抵抗することが出来ない状況だ。


「ぐおおおおおおお!!!!」


「ぐあ...はなせぇ!」


 骨が軋み、口から血が流れる。それでも何とか必死に振りほどこうとした。ふとルドに視線をやると大きなスパークを走らせながらドラゴンに剣を向けていた。


「(そろそろだな……)」


 剣の先から光る弾は青色に輝き、バチバチと音を立てる。


「できたぞ...」


 ルドは小さくつぶやく。


 ドラゴンがその光に反応する。だが気づいた時には遅かった。


 ルドが剣先から電撃のビームを放つ。


 そのビームは一直線に、ドラゴンの腹を貫いた。


 回避の暇すら与えない音速の一撃だった。


「ぐうう......」


 ドラゴンが大きく倒れる。手から力が抜けミントが解放される。


「いまだ!」


 ミントはドラゴンの腹に手を突っ込むと、中にある刀を引き抜く。


 血と臓物にまみれ感触の気持ち悪さに思わず顔をしかめる。


 ドラゴが起き上がり雄叫びをあげる。黒いオーラが空気を歪ませる。


 ドラゴンは魔力を消費するルドに一撃をくわらせようとする。その左腕の鎌をミントは斬り落とす。


 よろめき、怯むドラゴンに向かい、ルドは剣を持って迫り来る。


 ミントはその様子を見ると刀を捨て手をジャンプ台にして大きく跳躍させる。


 前方回転して剣を大きくふりかぶる。ドラゴンは炎で迎撃しようとするがミントが間に入って炎を弾き飛ばす。


「これで最後だ!!」


 ルドのインビジブルソードが縦一閃、ドラゴンをまっぷたつに斬り裂いた───!!!

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