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青藍の勇者  作者: 無眠
第1部 2人の勇者
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第15話 勇者挫けず断罪の刃たてる右肩上げ咆哮する

「まだだ……まだ負けてないぞ……貴様のどんな攻撃も勇者の俺には効かない……」


 どんなに殴られ叩かれ焼かれ血まみれになってもルドは立ち上がった。絵に描いたような痩せ我慢。味方はいない。先程のフードの男からもらった刀は使わずに背中に背負ったままだった。


 この刀を使わずに勝つのだ。自分のこの剣『インビジブルソード』で。


「ぐおおおおおおおお!!!!!」


 ドラゴンが突進する。ルドにそれをかわす力は残っていなかった。


 大きく吹っ飛ばされ壁に激突する。傷だらけの身体がさらに全身を殴打する。


「ゴフ……いや、まだだ!」


 それでもまだ立ち上がる。力を込め雷の球を発射する。だが弱々しく浮遊するそれはドラゴンに弾き飛ばされてしまった。


「……!」


 ドラゴンが炎を吐く。ルドはよろけながらも土の魔法で防御する。


 その土の壁をドラゴンは踏み潰す。そして大きな爪でルドを切り裂く。


 布が飛び散り、鮮血が流れる。ルドは後方に尻餅をつく。ドラゴンはルドの両脚を踏み潰す。


「ぐあああ…」


 ルドはくぐもった声をあげる。関節がバラバラに砕け、もう立つことすらできない。


「ならせめて、最後まで抗ってやる…」


 ドラゴンがその手でルドの頭蓋骨を粉砕しようとしたその時、ルドはインビジブルソードをドラゴンに投げつける。


 それがドラゴンの首に突き刺さり、ドラゴンは悲鳴をあげ倒れる。痛みでのたうち回りながら剣を抜き地面に叩きつけると立ち上がって怒声をあげた。


 どうやらドラゴンの怒りを買っただけのようだ。


 もう対抗手段はない。ルドは静かに目を閉じた。ここで死ぬなら、勇者として本望。だが一つ心残りがあった。


「(勇者として…あの女を殺せなかったのだけは残念だ…)」


 あの日ルドを地獄に突き落としたあの白髪の女、奴は笑っていた。死体を踏み躙りルドを嘲笑していた。今も脳裏に焼き付いて離れない。力のなかった自分を後悔するしかなかったあの凄惨な現場。妄想の中で何度殺してきたことか。それを実行に移せずここで犬死する。あのフードの男の言っていたことは正しかったのか?もはやその答えすらわからない。


 終わりの刻を待っていた。こんな時だけ時間がスローに感じていた。


 まもなくドラゴンの振り下ろす手がルドを粉砕する。バラバラになった骨は故郷に埋めてもらおう。そう思った。


 ──だがその手はルドを潰すことはなかった。


 数秒経っても何も起こらない。ルドは目を開けた。視界に紫の瞳が飛び込んだ。少し潤っている綺麗な瞳だ。その女性に自分は横抱きに抱えられていた。あぁ助かったんだな。少し安心した。


「ルド……間に合ってよかった……」


 震えた声で女性はそう呟く。その声、その容姿、その瞳。自分にずっとついてきてくれた女性の名をルドは呼んだ。


「スミレ……」


「まだ生きてる……!安心したわ……もう試合は終わりよ。一緒に帰りましょう!」


 そう言ってスミレは立ち上がった。荒れに荒れた森の中を抜け出すため、ルドを抱いて走る。


 その姿を見たドラゴンは翼を広げ低空飛行で追いかける。


 スミレはルドをおぶるとほうきを取り出し、それに乗って地上から飛び立つ。


 そのまま木々を抜け出し、上空へと舞い上がる。


 ドラゴンも逃すまいと上空を翼で飛行する。


「(奴を地上に出すわけにはいかない……)」


 そう思ったスミレは山中を縦横無尽に駆け回りドラゴンを撹乱する。


 狭い洞窟にドラゴンを誘い込もうとする。


 ドラゴンも木々を破壊しながら迫り来る。洞窟が見えた。二人では入れない小さな洞穴。眼前まで迫るとそのまま弧を描いて再び山の外を目指す。


 まんまと誘い込まれたドラゴンは穴を囲ってる岩に頭から激突した。


「ルド、もうちょっとがんばってね!」


 ルドを気遣いながらスミレは前進する。


 激情したドラゴンは大きな岩を尻尾で掴んで投げつける。


 スミレはその岩を横回転しながらかわす。2発、3発と岩が投げ込まれる。それをかわし続ける。


 だがこの回避は無理があった。元々ほうきは二人乗りに使うものではない。負荷がかかっている上に回避困難な攻撃をかわし続けとうとう限界がきてしまった。


 ほうきが折れたのだ。


 二人はそのまま地上に真っ逆さまに落ちていく。


「いたた……。大丈夫?ルド」


 スミレはルドを気遣う。ルドはうめき声を上げて立ちあがろうとする。


「無理しなくていいわ。こうなったら私が奴を倒すだけ」


 ルドはローブの袖から杖を取り出す。眼前に迫るドラゴンにその杖を向ける。


「あなたは……私が絶対に倒す」


 ドラゴンは横なぎの一撃をスミレに入れようとした。


 スミレも魔法で迎撃しようとしたその時!


「───!!」


 その大きな手は蹴飛ばされた。


 虚をつかれたドラゴンは少しよろめく。


「あ、あなた。なんでここに……?」


 攻撃の主はフードをかぶっていた。静かな声で言い放つ。


「誰かに言われたんだよ、勇者は困った人の力になれるって、弱ってる人を救えるのは英雄だけだって。だから、ここは僕に任せて。君たちは先に行って」


「そんな、あなたは棄権したんじゃないの!?」


「これはもう勝負なんかじゃない!人の命がかかってるんだ!僕のせいで彼はそうなったんだ。僕の蒔いた種は自分で刈り取るだけだ……」


 声を張り上げて男は言い放った。スミレはこくりと頷く。


「私はルドを病院に行かせてからすぐに戻る。その時までに死なないで!」


 男は何も答えない。


 スミレはルドが背負っていた刀を男に投げ渡した。男は前を見たままその刀を受け取る。


「どうか、死なないで」


 スミレは最後にもう一度だけ、その言葉を言い残してルドを担ぎ山を後にした。


 その背中をドラゴンが追いかけようとする。だが男はドラゴンの前に立ちはだかる。


「お前の相手は僕だ」


 そう言って刀を抜く。青く輝くそれにはルドが使った形跡は一切見られなかった。


「……」


 男は──ミントはローブを投げ捨てた。そして仮面も外し、白いブラウス、黒のロングスカートだけの姿になった。


「かかってこい。お前は僕が絶対に倒す!」


 そう言って水色の双眸煌めかせながらドラゴンに斬りかかった。


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