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青藍の勇者  作者: 無眠
第1部 2人の勇者
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第11話 山あり谷あり!ホタテ山登山

 9時に開始されたホタテ山でのドラゴン退治は1時間を経過した。ホタテ山は2600mの険しく、そして魔獣がひしめく危険な場所だ。その山の主であるドラゴン、やつはホタテ山の近隣住民や登山家を喰らい生活していた。そこの住人からすれば脅威でしかない。討伐すればどちらかが名を残す。だからルドはこの勝負をミントに申し込んだのだ。


 ホタテ山付近の広場のベンチに腰掛け、アンナがスミレに話しかける。


「スミレお姉さん、あの2人ドラゴンに勝てるかなー?」


「わからないわ。あの山には多くの魔獣がいる。しかもみんな手強いやつばかりだわ。道も険しく山頂は気温が0度になる。敵は魔獣やドラゴンだけじゃない。地形や環境とも戦わないといけない。だから時間内に終わるのは厳しいと思うわ。」


 スミレは冷静に分析する。本音ではルドに勝ってほしい。だが片方に肩入れしすぎるのも良くない。それにルドには油断する癖があり、思わぬところで躓いてしまうことも多々ある。それに比べ、あのローブの男は常に冷静沈着。ルドの挑発にも乗らず。常に目の前の敵だけを見ている。実際に彼が戦っている姿を見たことはないがあの落ち着き様。そして精神性を見るに盗賊退治の話は決して嘘ではないのだろうとスミレは考えた


「そうなんだ。ルドさん?だっけ?あの人って勇者みたいだけどどんなことしたのー?名前しか知らないんだー」


 アンナは素直に疑問をぶつける。


「昔ルドの故郷に100体の魔物が攻め込んできたの。その魔物たちは全員メスで男を攫う性質を持っていたけれど、地元の魔女では太刀打ちできないほどの実力を持っていた。そんな相手に対してルドは単身で住処に乗り込み傷一つつかずに全滅させたわ。3分もかからなかったそうよ。」


「へー」


 聞いたはいいが大したことないとアンナは感じてしまった。すごいことなのかもしれないし本人の口から聞いていないからなのかもしれないが、盗賊相手に一人で立ち向かったミントの方がかっこいいと感じた。


 風が吹き木々が揺れる。アンナはミントの安否は特に心配しなかった。理由は特にないがなんとなく彼は死ななそうだからだ。


「負けてもいい、だから死なないでほしいな」


 アンナは空を眺めながらポツリとつぶやいた。


 ─────


 ルドは順調に山を登っていた。標高が高くなるにつれ気温が下がり風が強くなり天候が著しく変わる。だがその度にルドはその能力で身を守っていた。

 魔獣も凶暴なものばかりだ。だがルドの敵ではない。先程あの男に見せた能力とは別にもう一つとっておきがある。


「(まあそれはこいつら相手に使うまでもないがな)」


 次々に飛来する蜂の魔獣を一掃しながら山頂へ目指す。


 まだ見ぬ名誉がきっとそこにあるのだから。


 一方のミントは....。


「お腹すいちゃった…。寒い、眠たい〜」


 死にかけていた。急に変わる山の気候に耐えきれなくなったからだ。雨は降るし風で石が飛んでくるし急に寒くなるし腹が減るしで戦う前から絶体絶命だった。


 刀を杖代わりに文句を垂れながら山を登るミント。しかし現実は非情。山道を住処とする蜂の魔獣たちに行手を阻まれてしまう。


 ミントは刀を抜く。弱ってはいるが闘えないほどではない…はず。だが足がふらつき崖に転落しかける。


「おっと…」


 なんとか踏みとどまるが魔獣の一人が飛びかかってくる。それをなんなくかわすが、突如足場が崩れてしまう。


「え!?」


 そのまま谷底へ真っ逆さまに落ちるミント。落下速度が異様に速く感じる。転がりながら全身を殴打しながらもなんとか木の幹にしがみつく。


 そして近くにあった洞穴へと転がり込む。


「いてて…」


 頭を抑えながら辺りを見渡す。前を見ると子供一人分入れる小さな通路があった。四つん這いになってその穴をくぐり抜けるとその先は薄暗くひんやりとした空気を纏った洞窟へと繋がっていた。


「綺麗…」


 天井を見上げると青白く輝く鍾乳洞が洞窟を彩り、水の滴る音が心地よく感じた。


「出口は一体どこだろう。早く抜けないと先を越されちゃう」


 ミントは出口を求めて洞窟を彷徨う。


 すると一匹のネズミの魔獣がこちらに近づいてきた。


 その魔獣は体調20cmほどで耳が大きく尻尾が長く、足はお腹の中に収まっていた。


 魔獣は「チュー」と泣くとミントの足首に頬擦りをする。 


「どうしたの?」


 ミントが前屈みになり魔獣の顎を撫でる。魔獣は後ろを向いて尻尾でミントを手招きする。


「悪いけど、僕道草食べてる場合じゃないんだよ」


 ミントはその誘いを断ろうとしたが、魔獣は飛び跳ねて怒りを表現する。


「わかったよ…ついていってあげる」


 ミントは魔獣の後を追う。案内された先は彼らの仲間もいる小さな縄張りだった。その中央には黄金のリンゴが置かれており辺りには甘い匂いが充満していた。


 突然の来訪者に魔獣の仲間は驚くが案内した魔獣が説得すると受け入れたのかミントに道を開けた。


「このリンゴ、僕にくれるの?」


 ミントがたずねると魔獣たちがぴょんぴょん跳ねる。食べていいと言うことなのだろう。


 でも山に落ちてる果実を食べていいのだろうか?彼らは食べることができても自分は食中毒になるのではないか?ミントの脳裏に不安がよぎる。


 ミントはリンゴを手に取る。唾を飲んでリンゴを口に近づけ一口かじる。


「うぇ〜美味しくない」


 味はお世辞にも美味とは言えなかった。だがどんどん力がみなぎってくる。先程の空腹が嘘のように腹を満たすことができたのだ。さらに疲労も回復。眠気もなくなっていった。


「すごい…」


 多幸感に満ち溢れる。だが二口目は流石に食べてはいけないと本能が警告していたのでミントはリンゴを地面においた。


 魔獣たちが大喜びで駆け寄る。


「ありがとう、君たちのおかげで元気が出たよ」


 なんでこの魔獣たちが自分を助けたのかはわからない。だが人懐っこいし可愛い見た目をしている。この魔獣の生態は良くわからないがきっと人助けが好きなのだろうとミントは思った。


 ネズミの魔獣たちと別れるとミントは出口を求めて再び彷徨う。出口までの通路はさっきの魔獣たちが尻尾を使って教えてくれたので多少はわかる。だが極度の方向音痴なので若干の不安があった。


 とは言え先程の体調不良も回復し万全の状態だ。魔獣たちが襲ってきても撃退できる自信はあった。


 狭い通路を抜けると分かれ道があった。真ん中と右と左の三択。


「確か右の道を進むと出口に繋がるんだっけ…」


 教えられたルートを頼りに右の通路を走る。


 しばらく走っていると後方から何かが転がる音が聞こえた。


「なんだろう…」


 徐々に転がってくるものが鮮明になっていく。それは大きな岩だった。ミントを潰さんとばかりに岩が襲いかかってきたのだ。


 ミントは刀を抜く。


 右足をあげ刀をスイングし岩を叩き斬って見せる。それで終わりかと思ったが今度はさらに大きな岩が転がってきた。これはさすがに斬ることができない。


「(出口まで逃げよう!)」


 そう決心すると全速力で走り岩から逃げる。なぜ洞窟で急に岩が落ちてくるのか。疑問が湧きながらも逃げる。


「(確かこの先の橋を渡れば出口があるはず…。そこまで逃げて橋を切り落とせば大丈夫なはずだ!)」


 前方に外の光が見えた。出口はもう目の前だ。


「やった!」


 ミントは喜びの声をあげてさらにペースを上げていく。そして橋を渡る…はずだった。


「あれ…?」


 なんと橋が切り落とされていたのだ。その下には濁流。ワニと魚が融合したかのような奇妙な魔獣が水面に顔を覗かせていた。


 ミントは後ろを向く。岩は勢いを失わずミントに迫ってくる。


 ミントは前を見る。切り落とされた橋の先に出口がある。


「(こうなれば…)」


 ミントは一呼吸整えると濁流の中へ飛び込む。


 ワニと魚のキメラが口を開けてミントを出迎える。だがミントはキメラを踏み台に飛び上がる。そしてクルッと一回転をして地面に着地。そのまま洞窟を脱出した。


 ミントを潰すことができなかった岩はそのまま転落し、代わりにキメラ達を押し潰して濁流に流されていった。


 洞窟を抜けると大雨が降っていた。さらに強風が吹く。ミントはくしゃみをしながらも腕を傘がわりに山道を進む。


 あの洞窟は山頂への近道だった。安全に進みたいなら山道を進めばいいが、リスクを負ってでも早く山頂に行きたいならあの洞窟を進む方が良かったみたいだ。


 とは言え大幅に時間を失ってしまった。山頂まで後一歩だと言うことを、ドラゴンの咆哮が教えてくれた。


「あの人はもうついてるみたいだな…」


 雨風にさらされながらもミントは山頂に到着。


 その先には赤い皮膚を身に纏ったいかにも凶悪そうなドラゴンがいた。


 周辺に焦げ臭い煙の匂いが立ち込める。雨は降っているのにやつの噴いた炎は消えない。これは相当な手練れに違いない。


「君に恨みはないけど、この山を荒らすんだったら容赦はしない」


 ミントは刀を突きつけドラゴンにそう言う。


 ミントの言葉にドラゴンは咆哮をあげる。


 この出来事がミントの運命を変えるなんてこの時は誰も思っていなかった。



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